自己株式を取得する際の留意点

コーポレート・M&A
高田 翔行弁護士

 自己株式の取得にあたっては、どのような点に留意する必要があるのでしょうか。また、取得した自己株式の取扱いについては、どのような点に留意する必要があるのでしょうか。

 自己株式を取得する場合の一部については、財源規制が及ぶため、取得の対価が取得の効力発生日における分配可能額を超えないように留意する必要があります。また、自己株式の取得にあたっては、みなし配当や株式譲渡損益が生じるか否か等の税務・会計面からの検討も不可欠です。
 なお、取得した自己株式を保有し続けることに対する法的規制は特に存在しませんが、自己株式の消却を行わない限り、発行済株式総数が減少しない点には留意する必要があります。

解説

自己株式の取得にあたっての留意点

財源規制とは

 会社が自己株式を有償で取得することは、出資の払戻しであるため、これが無制限に行われると、会社の経済的基盤が失われる結果として、会社に対する債権者が、債権を満足に回収することができないという不利益を被ってしまう可能性が生じます。
 これは、自己株式の取得に対して法的規制が課せられている理由の1つですが、会社法は、このような事態の発生を防ぐため、自己株式の対価である金銭等の帳簿価額の総額が取得の効力発生日における分配可能額を超えることはできないと定めています(会社法461条1項1号ないし7号、同法166条1項ただし書き、同法170条5項)。このような規制は、一般に「財源規制」と言われています。

財源規制

財源規制が課せられない場合

 ただし、このような財源規制は、自己株式の取得が行われるすべての場合に対して課せられるものではなく、以下の場合については、課せられません。

  1. 単元未満株式を買い取る場合
  2. 事業の全部の譲受けに伴い自己株式を取得する場合
  3. 合併により消滅する会社や法人から承継する場合
  4. 吸収分割会社から承継する場合
  5. 無償で取得する場合
  6. 剰余金の配当等に際して交付を受ける場合
  7. 強制執行など権利の実行に当たり取得する場合

違法な自己株式の取得

 財源規制に違反する自己株式の取得や、必要な手続(参照:「自己株式の取得手続とは」)を経ていない自己株式の取得は、債権者や他の株主に対して不利益を及ぼすおそれがあるため、このような自己株式の取得については刑事罰が定められています会社法963条5項1号)。

 会社法は、違法な自己株式の取得の効力について、明文の定めを有していません。通説は、違法な自己株式の取得は原則として無効であると解していますが、違法な取得であることについて善意の相手方との関係では有効であると解しています。

 違法な自己株式の取得に関与した者は、会社法に基づく民事上の責任も負うことになります。すなわち、取得の効力発生日における分配可能額を超過する自己株式の取得(すなわち、財源規制に違反する自己株式の取得)が行われた場合には、自己株式の譲渡人、当該取得を行った会社の業務執行者、株主総会および取締役会の議案提案者は、連帯して、会社に対して所定の責任を負います。

自己株式の取得に関するその他の留意点

 さらに、財源規制に違反しない場合であっても、自己株式の取得を行った日の属する事業年度末に、かかる計算書類において分配可能額がマイナスになるおそれがある場合(すなわち、期末に欠損が生じるおそれがある場合)、会社は、当該自己株式の取得を行ってはならず、もし分配可能額にマイナス(欠損)が生じた場合、当該取得を行った業務執行者は、連帯して、会社に対して所定の責任を負う可能性がある点にも留意が必要です。

 以上は、自己株式の取得を行うにあたって会社法との関係において留意すべき点ですが、自己株式の取得に際しては、みなし配当や株式譲渡損益が生じるか否か等、税務・会計面における検討も必要となります。

自己株式の保有にあたっての留意点

 かつては、会社が自己株式を保有することに対して法的規制が課せられていましたが、現在では、会社が自己株式を保有することについて、特段の規制は存在しません。もっとも、自己株式とそれ以外の株式の間には、以下のような違いが存在します。

 まず、会社は、自己株式について株主総会や種類株主総会における議決権を有しません(会社法308条2項、325条)。また、自己株式は、配当請求権の他、残余財産分配請求権、新株の引受権、合併等の場合において株式の割当てを受ける権利等の自益権も認められません。

 ただし、株式分割および株式併合の効力は、自己株式についても生じるため、これらを行った場合には、会社の保有する自己株式の数に変動が生じる点に注意する必要があります。

自己株式の消却にあたっての留意点

 自己株式の消却を行うためには、取締役会設置会社においては取締役会決議により、消却する自己株式の種類と数を定める必要があります会社法178条)。自己株式を消却した場合、それによって発行済株式総数が減少するため、その効力発生日から2週間以内に、本店所在地において、発行済株式総数の変更にかかる登記を行う必要があります(同法915条1項、911条3項9号)。

 なお、自己株式の消却により発行済株式総数は減少することになりますが、発行可能株式総数は定款変更を行わない限り減少しない点には留意が必要です。

 また、同様に、自己株式の消却によって当然に資本金の額の増減が生じるわけではなく、資本金の額を減少させるためには、別途、株主総会決議を得る必要があります。

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