従業員持株会制度を導入するには、どうしたらよいか

コーポレート・M&A

 当社では、従業員の働く意欲を高めるため、従業員持株制度の導入を検討しています。従業員持株会制度の導入のためには、どのような手続をとる必要があるのでしょうか。また、その際の注意点を教えてください。

 従業員持株会の導入にあたっては、まずは何のために導入するのかという導入目的を明確にすることが大切です。そのうえで、どの範囲の従業員に参加をさせるのか、持株会の運営をどうするのか、どのように株式を取得させるのかなどを決め、規約の作成や、従業員への説明会などを実施します。特に従業員のインセンティブを高めるために従業員持株会を導入するのであれば、従業員への制度趣旨のていねいな説明が重要になります。

解説

従業員持株制度とは

 従業員持株制度とは、会社がその従業員に特別の便宜を与え、自社株を長期に渡って継続的に買付け保有させることを経営方針として採用し、これを推進する制度をいいます。
 この従業員持株制度は、上場会社の約95%が導入しており、非公開会社においても、上場を目指す会社では導入例が多く、それ以外の非公開会社においても、近年は相続対策などの観点から、導入する会社が増加しているようです(三菱UFJリサーチ&コンサルティングほか『新訂版 従業員持株会導入の手引』2頁(三菱UFJリサーチ&コンサルティング、2011))。

 従業員持株制度を導入する目的としては、主に以下のものがあげられます。

  1. 従業員に業績向上に対するインセンティブを与える
  2. 従業員の経営参加意識、帰属意識を高める
  3. 従業員の福利厚生、財産形成
  4. 安定株主の形成
  5. 相続税対策(従業員持株会に株式を保有させることで、オーナーの会社支配への影響を最小限にしつつ、相続財産を減少させることができ、オーナーの相続税対策に役立ちます)

従業員持株会制度の仕組み

従業員持株会のスキーム

 従業員持株制度は、法人税が課税されず、構成員が配当金に対して一定額の控除(配当控除)が受けられる民法上の組合として設立されることが一般的です。
 民法上の組合とは、参加者がそれぞれ出資をして共同の事業を営むことを約束する契約です(民法667条)。
 組合は法人ではなく、契約に基づく個人の集合体ですので、組合財産は各組合員の共有財産となり、各組合員は組合財産に持分を持ちます。そして、法人でない組合は、自ら株式を保有できないため、また、税務上、事務処理上の便宜の観点から、従業員持株会では株式は組合の理事長(業務執行者)に管理信託(譲渡)され、理事長名義で一括管理することになります。ただし、株主名簿上は、従業員持株会名義で記載することができます。
 理事長に管理信託されている株式の議決権は、各従業員の組合持分に応じた指図に基づいて理事長が一括して行使することになり、もし従業員の意見が割れても、議決権は不統一行使をすることが可能です(会社法313条)。

 従業員持株会への参加形態としては、①参加従業員全員が組合員となる全員参加方式と、②少数のメンバーのみが組合員となる少数会員方式がありますが、①の全員参加方式が一般的です。どの範囲の従業員に参加を認めるかについては、持株会の目的のほか、従業員持株会に供給することができる株式数や、オーナーの支配権に大きな影響を与えない株式数などを見極めて決定することが大切です。

従業員持株会における株式取得の仕組み

 従業員は、一般的には、毎月の給与や賞与などから、従業員持株会に資金を積み立て、これをもとに従業員持株会は株式を購入します。会社が上場会社であれば、従業員持株会は、通常、市場から株式を買い付けます。
 これに対し、非上場会社では、従業員持株会に供給される株式の数が少ないため、第三者割当増資やオーナーからの一括譲渡によって株式を取得することが多いといえます。

従業員持株会における株式取得の仕組み

 ただし、非上場会社でも、50名以上に株式取得の勧誘を行う場合、募集・売出し規制がかかり、有価証券届出書や有価証券通知書の提出が必要になってしまいます(金融商品取引法4条1項、5条等)。これを回避するためには、株主名簿に「持株会」の名義で登録されていること、議決権の行使は「持株会」が行うことなど一定の要件を満たし、従業員持株会を1人の株主として扱えるようにする必要があります(企業内容等の開示に関する留意事項について(企業内容等開示ガイドライン)5-15)。

 また、会社は、従業員の積立金に対して一定割合の奨励金(補助金)を支給することが一般的です。ただし、奨励金が過大になると、株主に対する利益供与規制(会社法120条)や株主平等原則との関係で問題が生じるため、積立金の10%程度にとどめるのが適切です。
 なお、株式取得にあたり、会社から従業員に対する貸付けを行う場合には、贈与税発生の問題や、利益供与規制の問題、従業員持株会を用いた自己株式取得ではないかとの疑義などが生じるため、適正な利息を付けて貸し付けることが妥当です。

従業員持株会制度を導入するための手続

 従業員持株制度を導入するにあたっては、まず、何のために導入するのかという目的を明確にする必要があります。そして、その目的に沿う形で、どの範囲の従業員に参加をさせるのか、持株会の運営をどうするのか、どのように株式を取得させるのかなど従業員持株会のスキームを設計し、規約に落とし込むことが必要です。
 具体的な手続としては、以下のようなものが考えられます(前掲・三菱UFJリサーチ&コンサルティング50頁以下参照)。

  1. 担当者を選び、制度設計について検討
  2. 基本事項、規約の骨子、運営体制、スケジュールの決定
  3. 取締役会決議
  4. (必要に応じて)労働組合等への事前説明
  5. 規約、従業員持株会設立契約書(組合契約)、会社と持株会との契約、入会届出書などの作成
  6. 従業員持株会の発起人会・設立総会の開催、設立契約書の調印(=組合の成立)
  7. 給料から積立金を控除する場合には、労働組合等との間で給与控除協定を締結(労働基準法24条1項)
  8. 従業員への説明会
  9. 運用開始

おわりに

 従業員のインセンティブを高めるために従業員持株会を導入するのであれば、従業員の理解がないと効果は望めませんので、従業員への制度趣旨のていねいな説明が重要になります。また、従業員持株会は、うまく用いれば会社にもオーナーにも、さまざまなメリットのある制度ですが、会社法、税法、労働法などの論点を多く含むものでもあるため、その導入には十分な検討と準備が必要です。

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