株式買取請求権を行使できる場合、できない場合

コーポレート・M&A

 ある上場会社(A社)が、他の上場会社(B社)との共同株式移転により持株会社化するという予定が公表されました。私はこの組織再編によりA社の企業価値が上昇すると考え、A社の株式を市場で購入しましたが、その後の公表情報によれば、B社との移転比率が不公正でありA社の株主にとって不利なようです。そこで、A社に株式買取請求を行うことも検討していますが、組織再編公表後に株式を取得したために買取請求を行使できないということはありますか。

 公表後、株式移転に係る株主総会の基準日前であれば、株式買取請求は認められる一方、買取価格は取得時の価格が上限となる可能性が高いと考えられます。

 なお、これは株式買取請求権の濫用という問題に関連しますが、会社法では、投機的目的により株式買取請求権を濫用することを防止するため、株式買取請求権行使後の撤回の禁止およびその実効性を確保するための規定(振替株式についての買取口座への振替等)が定められています。

解説

組織再編公表後の株式買取請求権の行使における問題

 組織再編公表後の株式買取請求権の行使は、主に「株式買取請求権の濫用」の問題の一つとして議論されています。組織再編が行われることを知りながらその会社の株式を取得した者は投機的目的を有していることが多く、そのような株主が組織再編手続において株式買取請求を行うことができるかという問題です。

株式買取請求の可否が問題となるケース

(1)組織再編の計画公表後に株式を取得した者は株式買取請求を行うことができるか

 組織再編の内容を知りながら株式を取得した場合、会社への反誠実行為であり投機的行為を防ぐ必要があること等から、そのような株主による株式買取請求はできないとする見解もあります。

 しかし、裁判例では組織再編の計画の公表後に株式を取得した場合でも、会社法上これを制限する要件がないことを理由に株式買取請求は可能であるとしています(東京地裁平成21年4月17日判決・金判1320号31頁等)。

 組織再編による企業価値の向上に期待して株式を取得したものの、その後公表された組織再編の条件に不満があるというケースがあり得ることも踏まえると、この見解は妥当なものと考えられます。ただ、その場合でも、これらの株主が有する株式の買取価格の算定上、取得時の価格を超えることがないとする見解が有力です(東京高裁昭和58年12月14日付判決・判タ525号285頁等)。

(2)組織再編の承認を行う株主総会の基準日後に株式を取得した者は株式買取請求を行うことができるか

 組織再編の承認を行う株主総会の基準日後に株式を取得した者は、その株主総会において議決権を行使することはできません会社法124条1項)。

 そのため、株式買取請求を行うための要件である「株主総会において議決権を行使することができない株主」(会社法785条2項1号ロ、797条2項1号ロ、806条2項2号)に形式的に該当すること等を理由に、株主による株式買取請求を認める見解もあります。

 しかし、「株主総会において議決権を行使することができない株主」との要件は株主総会における反対の議決権行使の機会がない議決権制限株式について、株式買取請求権を与えることを目的として定められたものであること等を理由に株式買取請求を認めない見解も有力であり、基準日後に株式を取得する場合にはこの点を留意する必要があります。

(3)平成26年会社法改正

 なお、平成26年会社法改正前は、株式買取請求の対象となった株式について価格決定の申立てがなされた場合、会社は、裁判所の決定した価格に対し年6分の利率により算定した利息(利息の起算日は組織再編の効力発生日から60日の期間の満了の日)を支払う必要があり、「年6分」という高利率が株式買取請求権の濫用事例を誘発しているとの指摘もありました。

 そこで、平成26年会社法改正により、株式買取請求があった場合、会社は、反対株主に対し、裁判所による価格決定がされる前に会社が公正な価格と認める額を支払うことができるようになりました(会社法786条5項、798条5項)。この支払金額について、会社は利息支払義務を負わないことになります。これにより、投機的行為を目的とする株式買取請求について抑制されることが期待されています。

会社法における株式買取請求の濫用防止のための規定について

(1)撤回の禁止

 株式買取請求の濫用は、組織再編においてとりあえず株式買取請求を行っておき、その後の株価の動向等をみながら、市場で売却した方が有利であると判断した場合には、その請求を撤回して株式を市場で売却するという行為態様も考えられます。

 そこで、会社法では、株式買取請求を行った後は原則として撤回することはできず、会社の承諾がある場合(効力発生日から60日以内に価格決定の申立てがなされないときはその期間が満了した場合)に限り撤回が認められることとされています(会社法785条7項、786条3項、797条7項、798条3項)。

(2)撤回禁止の実効性を確保するための規定

 ただ、株式買取請求の撤回には会社の承諾が必要であるとしても、株式買取請求に係る株式を市場で売却すること等により、事実上、会社の承諾を得ることなく株式買取請求を撤回することが可能となっていました。

 そこで、平成26年の会社法改正では、株式買取請求の撤回の制限を実効化するため、株式買取請求の対象である株式が振替株式である場合(すなわち上場株式である場合の買取口座の制度が創設されました。株主は、株式買取請求をしようとするときは、会社が開設した買取口座を振替先口座とする振替の申請をしなければならず社債、株式等の振替に関する法律155条3項)、振替株式を市場で自由に売却することができないようになりました。これにより、株式買取請求を行った株主は、事実上も株式会社の承諾なく株式買取請求を撤回することができなくなりました。

 また、振替株式でない場合(すなわち非上場株式である場合)についても、同様の趣旨から、以下の2点が定められています。

  1. 株券が発行されているときは、株式買取請求の対象となる株式の株券を会社に提出しなければならない(会社法785条6項、797条6項)
  2. 株式買取請求の対象となる株式については、株主名簿の名義書換を請求できない(会社法785条9項、797条9項)

 これにより、第三者による株式の取得によって株式買取請求を撤回したのと同様の効果が生じるのを防止できるようになりました。

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