略式組織再編とは

コーポレート・M&A
金井 俊樹弁護士

 当社(株式会社・公開会社)はA社(株式会社・公開会社)の子会社ですが、このたびA社が当社を吸収合併することになりました。当社の総株主の議決権の90%をA社が保有しており、当社の株主総会で当該吸収合併が承認されるのは確実ですが、この場合でも当社は株主総会を開催しなければならないでしょうか。

 A社は貴社の総株主の議決権の10分の9以上を保有していますので、この点について貴社の定款に特別の規定がない限り、本件は略式吸収合併に該当します。略式吸収合併に該当する場合、貴社は、吸収合併契約を承認する旨の株主総会決議を省略することが可能です。ただし、公開会社である貴社が種類株式発行会社ではなく、合併対価として譲渡制限株式が交付される場合には、株主総会決議を省略することはできません。

解説

略式組織再編とは 

 吸収合併の場合、存続会社および消滅会社は、合併の効力発生日の前日までに、株主総会の決議によって、吸収合併契約の承認を得る必要があります(会社法783条1項、795条1項)。

 しかし、当事会社の一方が他方の当事会社の総株主の議決権の10分の9(これを上回る割合を定款で定めた場合にはその割合)以上を直接または間接に有する会社、すなわち特別支配会社に該当する場合会社法468条1項、会社法施行規則136条には、被支配会社が存続会社または消滅会社のいずれになる場合であっても、被支配会社における株主総会決議は省略することが認められています会社法784条1項、796条1項)。

 したがって、この場合、被支配会社における吸収合併契約の承認は、取締役会設置会社の場合には取締役会決議、取締役会非設置会社の場合には取締役の決定があれば足りることになります。こうした株主総会決議の省略は、特別支配関係にある場合、被支配会社の株主総会では特別支配会社の意向に沿わない決議がなされることはなく、被支配会社で株主総会を開催する実益が乏しいため、手続の簡素化の観点から認められた制度です。

 被支配会社の株主総会決議の省略は、吸収合併のほか、吸収分割および株式交換(以上、会社法784条1項、796条1項)でも認められています。このような特別支配関係にある会社間において被支配会社の株主総会決議を省略して行う組織再編を、略式組織再編といいます。

 なお、事業譲渡でも同様の制度がありますが、本稿では検討の対象外とします。

略式組織再編

略式組織再編が認められない場合

 以下の場合は略式組織再編が認められていませんので、株主総会決議の省略はできません。

新設型組織再編

 略式組織再編の制度は、新設型組織再編である新設合併、新設分割および株式移転では認められていません。

譲渡制限株式が交付される場合

(1)被支配会社が消滅会社、完全子会社になる場合+当該会社が公開会社かつ種類株式発行会社ではないとき

 ①被支配会社が消滅会社(吸収合併の場合)、完全子会社(株式交換の場合)になる場合であって、②当該会社が公開会社であり、かつ種類株式発行会社ではないときに、③対価の全部または一部として譲渡制限株式等が交付される場合には、略式組織再編は認められていません(会社法784条1項ただし書)。

 これは、株主が有する株式について新たに譲渡制限の定めを設定することと同じような状況になることを避けるためです。

(2)被支配会社が存続会社、承継会社、完全親会社になる場合+当該会社が公開会社でないとき

 また、①被支配会社が存続会社(吸収合併の場合)、承継会社(吸収分割の場合)、完全親会社(株式交換の場合)になる場合であって、②当該会社が公開会社でないときに、③消滅会社の株主(吸収合併の場合)、分割会社(吸収分割の場合)、完全子会社の株主(株式交換の場合)に対して譲渡制限株式が交付される場合にも、略式組織再編は認められていません(会社法796条1項ただし書)。

 この場合、非公開会社が募集株式の発行等(新株発行・自己株式の処分)を行う場合と同様の状況となり、非公開会社が募集株式の発行等を行う場合には持株比率の維持に対する配慮の観点から株主総会の特別決議が必要とされていること(会社法199条2項、309条2項5号)との均衡を図るためです。

その他

株式買取請求

 改正前会社法では、略式組織再編の場合でも特別支配会社を含めたすべての株主に株式買取請求権が認められていました。しかし、特別支配会社が組織再編に反対することは想定されず、特別支配会社に株式買取請求を認める合理的な理由がないことから、平成26年改正会社法では、特別支配会社には株主買取請求を認めないこととされました(会社法785条2項2号カッコ書、797条2項2号カッコ書)。

 また、これによって、特別支配会社に対しては株式買取請求権の行使の機会を事前に通知する必要もなくなったため、特別支配会社は法所定の事前通知の対象から除外されました(会社法785条3項カッコ書、797条3項カッコ書)。

差止請求

 略式組織再編では、①当該組織再編が法令または定款に違反する場合、または②当該組織再編契約に定められた対価の内容・割合が当事会社の財産の状況その他の事情に照らして著しく不当である場合であって、株主が不利益を受けるおそれがあるときに、株主による差止請求が認められています会社法784条の2796条の2)。

 この点、平成26年改正会社法では、通常の組織再編においても、従前では認められていなかった株主による差止請求制度が新設され(会社法784条の2796条の2805条の2)、差止請求が認められるかという点では略式組織再編と通常の組織再編との間に違いはなくなりました。もっとも、略式組織再編では上記①および②が差止事由にされている一方で、通常の組織再編では上記①のみが差止事由とされており、差止事由の範囲においてはなお通常の組織再編と略式組織再編との間に違いがあります

 略式組織再編において②対価の不当性が差止事由とされている理由は、株主総会決議が存在すれば、対価の不当性は特別利害関係人(特別支配会社)の議決権行使による著しく不当な決議(会社法831条1項3号)として①法令違反を理由に争い得るものの、略式組織再編ではそもそも株主総会決議が存在せず、争う方法がないため、少数株主の保護を図るという点にあります。

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