トラッキング・ストックの概要および発行時の留意事項

コーポレート・M&A

 トラッキング・ストックという名称の株式が発行されたことがあると聞いたのですが、どのような内容の株式でしょうか。また、発行する際の留意事項を教えてください。

 トラッキング・ストックとは、会社が有する特定の事業部門や子会社等の業績に株価が連動するよう設計された株式をいい、剰余金の配当や残余財産の分配等に関して、普通株式とは異なる内容を定めた種類株式です。資本関係は分離しないものの、特定の事業部門や子会社の独立性が高まり、会社分割や子会社株式の上場に近い効果が得られると理解されています。

 以下、トラッキング・ストックの概要および発行時の留意事項を解説します。

解説

トラッキング・ストックとは

 トラッキング・ストックとは、種類株式の一種であり、会社の特定部門の業績や、子会社の業績のみに株式の価値・価格が連動するよう設計された株式をいいます(会社法108条1項。以下、連動の対象となる特定部門を「ターゲット部門」、子会社を「ターゲット子会社」、両者を合わせて「ターゲット」といいます)。会社法施行前となりますが、日本では、2001年にソニー株式会社が発行したことで知られています。

 会社の特定部門を会社分割や事業譲渡で切り出し、投資家には承継会社(分割設立会社)の株主となってもらう方法や、子会社株式を上場させる方法と比較すると、会社とターゲットとの資本関係が分離されないため、ターゲット部門の経営権・ターゲット子会社の支配権が維持される点に特徴があります。

トラッキング・ストック

発行時の留意事項

剰余金の配当および残余財産の分配

 トラッキング・ストックを保有する株主(以下、「TS株主」といいます)は、ターゲットの業績に連動した剰余金の配当を受ける一方で、普通株主に対する配当は受領しないよう設計されます(非参加型)。また、ターゲットの業績は好調であっても、会社全体としては業績が悪化している場合などで、分配可能額の制約からTS株主への配当を行えない場合には、未配当分を翌年に繰り越すこととなります(累積型)。

 このように、剰余金の配当について普通株式と異なる定めを設ける場合に、累積型・非参加型とするのが、トラッキング・ストックの趣旨に合致するものといえます。

 また、会社清算時の残余財産分配についても、ターゲット部門における残余財産、ターゲット子会社の株式(または子会社株式の売却代金)をTS株主へ分配し、その他の残余財産はTS株主に分配しない非参加型とするよう設計されます。

ターゲットの設定

 ターゲットが子会社である場合には、会社とは別法人であるため子会社を特定すればよく、定款上でも設定自体は容易にできると考えられます。一方、発行会社の一部門をターゲットとする場合には、会社全体の事業からの切り分けを適切に定款に定められるか、ターゲット部門のみの業績を適正に算定できるのか(いわゆる本社経費を適正に配賦できるのか)など、技術的な問題が指摘されており留意が必要です。

普通株式への一斉転換等

 発行会社における財務の自由度を確保するため、取得条項付種類株式とし会社法108条1項6号)、発行から一定期間が経過した場合やターゲット子会社が倒産する場合などに、トラッキング・ストックを強制的に会社が取得し、対価として普通株式や金銭を交付するよう設計することが考えられます。ソニー株式会社の例においても、発行から3年経過以降には普通株式に一斉転換できる内容が定款で規定され、実際に普通株式へ転換されています。

利益相反時の取締役責任

 たとえば、ターゲット子会社と競合する事業を、会社が自らまたは別の子会社を用いて行い、ターゲット子会社の業績を悪化させる、会社からターゲット子会社に対して製品を高く販売するなど、会社全体の業績には影響を与えないものの、普通株主には有利・TS株主には不利な行為を行うケースが有り得ます。このように、普通株主とTS株主の利害が対立する場面で普通株主に有利な行為を行うことに対しては、会社取締役の忠実義務違反・善管注意義務違反を構成するおそれがあり、留意が必要です。

発行事例に乏しいこと

 日本において上場会社がトラッキング・ストックを発行した例は、前述のソニー株式会社のみであると言われています。配当の方法その他制度の仕組み自体が複雑であること、前述したターゲットの業績を適正に把握できるか、利益相反の問題点などから、投資家の理解を容易に得られるものとは言い難く、広く採用されるには至っていません。このように、実例に乏しく、トラッキング・ストックの内容を定款に規定する際の技術的留意点も多岐にわたること、会計・税務上の取扱いにも留意する必要があることから、弁護士、公認会計士、税理士など専門家との十分な相談が必要です。

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