株式移転対価の相当性に関する質問に対する説明義務の範囲

コーポレート・M&A

 このたび、当社(A社)はB社との間で、X社を新設の完全親会社とする共同株式移転を実施します。当社は、当該株式移転の承認にかかる株主総会を開催する予定ですが、株主総会において株式移転対価の相当性に関する質問があった場合、どの程度説明すればよいのでしょうか。

 原則として、説明義務の範囲は、株式移転にかかる事前開示書類および株主総会招集通知の参考書類に記載されるべき事項の範囲内にとどまり、これ以上に詳細な説明を行う義務はないと考えられます。

解説

株主への事前開示等

 会社法は、事前開示書類において株式移転対価の相当性に関する事項を記載することを要求しています。具体的には、割当対価が完全親会社となる会社の株式の場合、株式の数または算定方法および割当の相当性に関する事項、ならびに資本金および準備金の額に関する事項の相当性に関する事項を記載する必要があります(会社法803条1項、773条1項5号、6号、会社法施行規則206条1号)。
 また、株式移転計画の承認にかかる株主総会が開催される場合には、招集通知の参考書類においても、同様に株式移転対価の相当性に関する事項が記載されます(会社法施行規則91条)。
 このように、株式移転対価の相当性に関する事項は、事前開示書類により開示され、また、株主総会の招集通知の参考書類にも記載されるため、株主は、株主総会前に事前にその内容を確認し検討することができます。

事前開示書類における記載事項

 会社法は、株式移転により完全子会社となる会社の事前開示書類において株式移転対価の相当性に関する事項を記載することを要求しています。なお、株式移転は、株式交換と異なり、株式移転により新たに完全親会社が設立されることになるため、完全親会社となる会社による事前開示は存在しません。割当対価が完全親会社となる会社の株式の場合、株式移転により完全子会社となる会社の事前開示書類における株式移転対価の相当性に関する記載事項は以下の通りです。  

事前開示書類に記載が求められる事項 根拠
  1. 株式の数または算定方法等の相当性に関する事項
  2. 株式の割当の相当性に関する事項
  3. 完全親会社の資本金および準備金の額に関する事項の相当性に関する事項
会社法803条1項、773条1項5号、6号
会社法施行規則206条1号

共同株式移転の場合

 共同株式移転の場合、完全子会社となる当事会社の株主に対してそれぞれ割り当てられる完全親会社の株式(割当対価)の比率(株式移転比率)を決定するに際しては、完全子会社となる各当事会社の株式価値を算定する必要があります。そして、株式移転比率は、完全子会社となる当事会社双方の株主の権利、財産価値に重要な影響を与えるため、その比率は、当事会社の企業価値を反映した公正なものであることが要求されます。

 そこで、①株式の数または算定方法等の相当性に関する事項および②株式の割当の相当性に関する事項については、以下の内容を記載する例が多く見られます。

  1. 完全子会社となる当事会社それぞれの企業価値
  2. 当該企業価値の算定結果が具体的にどのような手法を用いて算出されたものであるか(市場株価法等のマーケットアプローチ、DCF法等のインカムアプローチ、時価純資産法等のコストアプローチなど)
  3. 第三者算定機関の意見を取得した場合には、その第三者算定機関の名称や取得した書類の種類(算定書かフェアネス・オピニオンか)
  4. 当事会社間における交渉の状況(交渉の経緯や交渉の際に勘案した事項)

 なお、2 株式価値算定の具体的手法および 3 第三者算定機関による算定に関しては、株式交換の割当比率決定に際しての考え方が株式移転の場合にも妥当します。具体的には、「株式交換の対価の割当(比率)決定方法および対価についての定めの相当性に関する事項の記載事項」を参照ください。  

単独株式移転の場合

 一方で、ある会社が単独で行う株式移転(単独株式移転)の場合は、完全子会社の株主がそのまま完全親会社の株主となり、株式価値は基本的に変動しないため、株式移転対価が問題となることは原則としてありません。そのため、第三者算定機関の意見も取得せず、株式移転対価の相当性に関する記載も簡潔な記載となることが多いです。  

株主総会における説明義務の範囲について

裁判例の考え

 株主総会(定時株主総会)における取締役の説明義務の範囲について、旧商法下の裁判例として、「説明義務の範囲は、商法が一般的に開示を要求している事項を一応の基準と考えることができ」るとした裁判例(広島高裁平成8年9月27日判決)があります。この裁判例は、会社法(当時は商法)および計算書類規則に基づき作成される貸借対照表、損益計算書、営業報告書および附属明細書等の招集通知に添付すべき参考書類に記載されるべき事項が説明義務の範囲を画するものと考えられるとしています。
 この考え方は、会社法下における株式移転対価の相当性に関する質問に対する説明義務の考え方にも同様に妥当するものと考えられ、前記のように、事前開示書類等において、株式移転対価の相当性に関する事項の記載が要求され開示されていることからしても、事前開示書類等に記載のない細かな事項や別途調査が必要となる事項について説明する義務はないと解されます。個別具体的な会社の状況により説明義務の範囲は異なりますが、たとえば、以下のような想定問答が考えられます。

想定問答

<質問>
 当社とB社(相手方当事会社)とは、確かに業種は同じであるが、社風や社歴、株主構成等も大きく異なっている。当社は、自主独立路線でこれまでやってきたのに、経営統合というのは疑問であるし、また、B社よりも株式移転対価が低いというのも不満である。十分に納得のいく説明をお願いしたい。

<回答>
 ご質問の通り、当社は自主独立を志向して歩んできましたが、当業界においてもグローバル化の動きが加速し、国際的競争が激化してきたことから、国際競争力のあるB社と経営統合を行うとの判断に至りました。一方で、ご質問の通り、社風等も少なからず異なり、ある程度の時間をかけて効率的に経営統合することが妥当と判断したことから、両会社の法人格を維持し、その完全親会社としてホールディングカンパニーを設立する株式移転の方法を採用したものです。
 株式移転比率については、公正性および妥当性を担保するために、当社およびB社がそれぞれ、独立した第三者機関である●●社および▲▲社に算定を依頼しました。●●社および▲▲社は、それぞれ、市場株価法、DCF法、時価純資産法を用い、各社の株式価値および株式移転比率を算定しました。当社およびB社は、当該第三者機関による株式移転比率はいずれも、その方法および結果において妥当なものと判断し、その結果を参考に、各社の財務状況、将来の見通し、市場株価水準等の要因を総合的に勘案し、交渉、協議を重ねた結果、当該株式移転比率により本株式移転を行うことに合意したものです。

 上記回答については、おおむね、事前開示書類に記載されている事項を引用する形での説明ですが、原則としてこのような説明で足りると考えられます。

その他の留意点

 もっとも、事前開示書類等における株式移転対価の相当性に関する事項の記載に誤りがあったり、株主が合理的判断をするのに客観的に必要な事項を欠くような場合には、事前開示書類等に記載のない事項であっても説明義務を負う場合も考えられますので、留意が必要です。
 なお、株式交換対価の相当性に関する質問についても、説明義務の範囲は、株式移転の場合と同様に考えられます。詳細は、「株式交換対価の相当性に関する質問に対する説明義務の範囲」を参照ください。

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