子会社が簿価債務超過の場合に簡易吸収合併を利用できるか

コーポレート・M&A

 当社は、子会社であるX社を吸収合併することを検討しています。X社の前事業年度末の資産総額は約30億円、負債総額は約33億円であり、少なくとも簿価上は債務超過となっていますので、合併対価は低廉な金額となる予定です。当社の前事業年度末の純資産額は約50億円であるところ、合併対価が当社の純資産額の5分の1超となることはあり得ない状況ですが、この場合は「簡易合併」にあたり、当社において吸収合併契約の承認の株主総会決議を行う必要はないと考えてよいでしょうか。

 簿価上債務超過の会社を吸収合併する場合には、たとえ合併対価が貴社の純資産額の5分の1以下であり、「簡易合併」の要件を満たしていたとしても、会社法796条2項ただし書により「簡易合併」を利用することはできません。したがってX社が吸収合併の直前時点においても簿価上債務超過である場合には、貴社においては、吸収合併契約の承認の株主総会決議を行う必要があります。

解説

債務超過の会社を吸収合併することはできるか

 平成17年改正前の商法下での登記実務においては、債務超過の株式会社を消滅会社とする吸収合併はできない取扱いとなっていました(昭和56年9月26日民四5707号民事局第四課長回答)。

 しかしながら、会社法795条2項1号において、存続会社の承継債務額(簿価、会社法施行規則195条1項)が存続会社の承継資産額(簿価、会社法施行規則195条2項)を超える場合には、吸収合併契約を承認する株主総会において存続会社の取締役がその旨を説明しなければならないとされており、会社法施行後は、簿価上債務超過の会社を消滅会社とする吸収合併も制度上認められています

 なお、実質債務超過の会社を消滅会社とする吸収合併が認められるか否かについては、会社法の条文上は明確ではありませんが、これを肯定する見解が有力です。

簡易吸収合併とは

 吸収合併を行う場合、存続会社は、効力発生日の前日までに、原則として株主総会決議により吸収合併契約の承認を受ける必要がありますが(会社法795条1項)、いわゆる「簡易吸収合併」(会社法796条2項)に該当する場合には、存続会社における株主総会の承認決議は原則として不要となります。なお、不要となるのはあくまで株主総会決議であり、存続会社の種類株主を保護するための種類株主総会の決議は省略できません(会社法795条4項、322条1項7号)。

 「簡易吸収合併」の要件については、詳しくは「簡易合併の要件と存続会社の株主総会の承認の要否」に記載していますが、簡単に言えば、存続会社が吸収合併の対価として交付する存続会社の株式その他の財産の合計額が、存続会社の純資産額の5分の1以下であれば、「簡易吸収合併」に該当すると考えてよいでしょう。

簡易合併の要件

簿価債務超過の会社を吸収合併する場合の簡易吸収合併の利用の可否

 簡易吸収合併の要件を満たしていても、いわゆる「差損」が生じる場合には、例外的に簡易吸収合併を利用することはできません会社法796条2項ただし書、795条2項各号)。

 「差損」が生じる場合とは、具体的には、以下の場合をいいます。

  1. 存続会社の承継債務額(簿価)>存続会社の承継資産額(簿価) の場合(会社法795条2項1号、会社法施行規則195条1項・2項)
  2. 合併対価>承継純資産額 の場合(会社法795条2項2号)

 このような「差損」が生じる吸収合併の場合には、その結果、存続会社の分配可能額が減少することとなり、存続会社の株主への影響が少なくなく、株主の利益を保護する必要があるため、簡易吸収合併の要件を満たす場合であっても株主総会の承認決議を要するとしたものです。

 上記①の承継債務額とは、吸収合併の直後における存続会社の負債総額(合併対価として社債を交付する場合には社債の総額を減じた額)から吸収合併の直前における存続会社の負債総額を減じて得られる差額をいいます(会社法施行規則195条1項)。また、上記①の承継資産額とは、吸収合併の直後における存続会社の資産総額から吸収合併の直前における存続会社の資産総額(合併対価として交付した金銭等の総額を減じた額)を減じて得られる差額をいいます(会社法施行規則195条2項)。

 したがって、簿価上債務超過の会社を消滅会社とする吸収合併の場合には、たとえ簡易吸収合併の要件を満たしていたとしても簡易吸収合併を利用することはできず、存続会社における株主総会の承認決議が必要となります。また、この場合には、存続会社の取締役は、株主総会において、存続会社の承継債務額(簿価)が存続会社の承継資産額(簿価)を超える旨を説明する義務を負います(会社法795条2項1号)。この説明義務は、株主からの質問があった場合に説明すればよいということではなく、株主からの質問を待たずに自ら積極的に、差損が発生すること、その理由およびその処理方針等について説明する必要があることに注意が必要です。

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