略式吸収合併の要件を判断する時期および吸収合併の差止請求

コーポレート・M&A

 当社(株式会社・非公開会社)には、当社が議決権の70%を保有している子会社X社(株式会社・非公開会社)が存在します。当社は、2017年9月1日に、X社との間でX社を消滅会社とする吸収合併契約を締結する予定です。吸収合併の効力発生日は2017年11月1日とすることを予定していますが、当社は、それ以前の2017年10月1日に、X社の議決権の25%相当のX社株式を保有するY氏から、Y氏の保有するX社株式の全部を譲り受ける予定であり、これにより当社によるX社の議決権の保有割合は95%となる予定です。この場合は、「略式合併」にあたり、X社において吸収合併契約の承認の株主総会決議を行う必要はないと考えてよいでしょうか。

 また、このような吸収合併について、X社の株主から差止請求がなされるリスクはあるのでしょうか。

 吸収合併の効力発生日である2017年11月1日の直前において、貴社はX社の議決権の95%を有している状態のため、X社の定款に特別の規定がない限り、「略式合併」に該当し、X社が非公開会社であることから、X社において吸収合併契約の承認の株主総会決議を行う必要はありません。

 また、2017年10月1日以降は貴社によるX社の議決権の保有割合が90%以上となるため、①吸収合併について法令・定款違反があり、X社の株主が不利益を受けるおそれがある場合のほか、②X社の株主が有していた株式の価値に比して合併対価の価値が著しく低いなど、合併対価の内容または割合がX社または貴社の財産状況その他の事情に照らして著しく不当であり、X社の株主が不利益を受けるおそれがある場合には、X社の株主から吸収合併の差止請求がなされるリスクがあります。

解説

略式吸収合併とは(略式吸収合併の要件)

 吸収合併を行う場合、消滅会社は、効力発生日の前日までに、原則として株主総会決議により吸収合併契約の承認を受ける必要がありますが(会社法783条1項)、いわゆる「略式吸収合併」(会社法784条1項本文)に該当する場合には、消滅会社における株主総会の承認決議は原則として不要となります。なお、不要となるのはあくまで株主総会決議であり、消滅会社の種類株主を保護するための種類株主総会の決議は省略できません(会社法783条3項、322条1項7号)。

 この略式吸収合併とは、存続会社が消滅会社の「特別支配会社」(消滅会社の総株主の議決権の90%(これを上回る割合を消滅会社の定款で定めた場合には、その割合)以上を存続会社および当該存続会社が発行済株式の全部を有する株式会社その他会社法施行規則136条で定める法人が有している場合における当該存続会社)に該当する合併をいいます(会社法784条1項本文、468条1項)。

 少し複雑ですが、簡単にいえば、存続会社が単独で、または当該存続会社が直接もしくは間接に100%支配権を有している完全子会社・法人、完全孫会社・法人と併せて、消滅会社の総株主の議決権の90%以上を有している場合には、「略式吸収合併」に該当するということになります。

 存続会社が消滅会社の「特別支配会社」に該当する場合には、消滅会社の株主総会においてその議決権の90%以上を存続会社がコントロールしているため、消滅会社において株主総会を開催しても決議の結果が明らかであること、また、このような場合には迅速かつ簡易な合併を可能とすることが望ましいと考えられたことから、消滅会社における株主総会の承認決議を省略したものです。

略式吸収合併の要件の判断時期

 略式吸収合併の要件を満たすか否か、すなわち、存続会社が消滅会社の「特別支配会社」に該当するか否かを判断すべき時期は、吸収合併の効力発生日の直前と解されています。これは、吸収合併契約の株主総会決議による承認は吸収合併の効力発生日の前日までに得ることとされている(会社法783条1項)ためです。

 したがって、たとえば吸収合併契約の締結日時点においては略式吸収合併の要件を満たしていたとしても、効力発生日の直前において略式吸収合併の要件を満たしていない場合には、略式吸収合併を利用することはできません

 設問のケースは、吸収合併契約の締結日時点においては、貴社によるX社の議決権の保有割合は70%にとどまるものの、吸収合併の効力発生日である2017年11月1日の直前においては、貴社はX社の議決権の95%を有している状態のため、X社の定款で「特別支配会社」の要件として95%を上回る割合を定めていない限り、略式吸収合併に該当します。

略式吸収合併の要件を満たしていても略式吸収合併を利用できない場合

 上記1の略式吸収合併の要件を満たしていても、①合併対価の全部または一部が譲渡制限株式または存続会社の取得条項付株式もしくは取得条項付新株予約権(いずれも取得対価が譲渡制限株式であるものに限る、会社法施行規則186条1号)であり、かつ、②消滅会社が公開会社であり、かつ、種類株式発行会社でない場合には、例外的に略式吸収合併を利用することはできません会社法784条1項ただし書)。

 上記のように、譲渡制限の付いていない株式を有する消滅会社の株主に対して、合併対価の全部または一部として譲渡制限株式等を交付するのは、消滅会社の株主が有する株式について新たに譲渡制限の定めを設けるのと類似した状況となるため、原則に戻って株主総会の承認決議を必要としたものです。

 設問のケースは、消滅会社であるX社が非公開会社であり、少なくとも上記②を満たさないため、略式吸収合併を利用できることになります。

略式吸収合併の差止請求

 消滅会社の株主は、以下の場合において、消滅会社の株主が不利益を受けるおそれがあるときは、消滅会社に対し吸収合併の差止請求をすることができます(会社法784条の2)。

  1. 吸収合併が法令または定款に違反する場合(会社法784条の2第1号)
  2. 略式吸収合併に該当する場合(会社法784条1項本文)において、合併対価の内容または割合が消滅会社または存続会社の財産状況その他の事情に照らして著しく不当である場合(会社法784条の2第2号)

 略式吸収合併においては、簡易吸収合併の場合とは異なり、少数株主による異議手続の定め(会社法796条3項)がなく、また、消滅会社において吸収合併契約の承認の株主総会決議が存在しないため株主総会決議取消しの訴えを提起することもできず、少数株主保護が不十分となるおそれがあるため、上記②のように法令・定款違反がない場合にも差止請求権が認められています。上記②の典型的な例は、消滅会社の株主が有していた株式の価値に対し、消滅会社の株主に交付される合併対価の価値が著しく低い場合です。

 上記2のとおり、略式吸収合併の要件は吸収合併の効力発生日の直前において判断するものと解されていますが、略式吸収合併の差止請求との関係では、差止めの請求時において存続会社が消滅会社の「特別支配会社」に該当すれば、差止請求を行うことができるものと解されています。

 なお、消滅会社が略式吸収合併を実行した場合、上記の差止請求権とは別に、略式吸収合併に反対する株主には株式買取請求権が認められ(会社法785条1項)、また、吸収合併の内容や手続に無効事由があるときは、無効の訴えを提起することも認められます(会社法828条2項7号等)。

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