利益供与の要件と役員の責任

コーポレート・M&A

 当社に対して、外部の者から、金銭の要求があり、要求に応じない場合は、当社株式を取得したうえで少数株主権その他の株主権を行使し、当社の不正を暴くといったことを述べています。このような者に金銭を支払うことは利益供与に該当するのでしょうか。利益供与に該当する要件と、その場合の取締役の責任について教えて下さい。

 質問のような要求に応じて金銭を支払うことは、利益供与に該当します。利益供与を行った場合、利益供与に関与した取締役は連帯して供与した利益の価額に相当する額を会社に対して支払う義務を負い、利益供与を行った取締役は、3年以下の懲役または300万円以下の罰金を科せられるおそれがあります。

解説

利益供与の要件

 会社法上、「株式会社は、何人に対しても、株主の権利…の行使に関し、財産上の利益の供与…をしてはならない」(会社法120条1項)とされ、いわゆる利益供与の禁止が定められています。

 利益供与のポイントとしては、以下の点があげられます。

  1. 誰に対する利益供与が禁止されるか
  2. どのような場合に「株主の権利の行使に関し」に該当するか
  3. どのようなものが「財産上の利益」に該当するか

誰に対する利益供与が禁止されるか

 利益供与は、後述のとおり「株主の権利の行使に関し」供与するものなので、利益供与の相手方は、株主に限定されていてもよさそうですが、条文上、「何人に対しても」とされているとおり、株主に限定されていません

 元々、利益供与の禁止の規定は、総会屋対策として導入されたものですが、実際の総会屋の活動として、株式を取得しないことの対価として利益の供与を要求することが多く行われていたこと等を踏まえて、「何人に対しても」と規定されました(元木伸『改正商法逐条解説〔改訂増補版〕』(商事法務研究会、1983)220頁)。

どのような場合に「株主の権利の行使に関し」に該当するか

 「株主の権利の行使に関し」にいう「株主の権利」には、共益権・自益権問わず、株主としてのあらゆる権利が含まれます。したがって、議決権、株主提案権、代表訴訟提起権、株主総会における質問権などの共益権はもちろん、株式買取請求権などの自益権の行使に関する利益の供与も規制の対象となります。

 また、「行使に関し」とされていますが、不行使に関する場合も含まれ、上記の共益権、自益権を行使しないことに関する利益の供与(たとえば、議決権を行使しないことの対価としての利益の供与等)は規制の対象となります。

 判例(最高裁平成18年4月10日判決・民集60巻4号1273頁)では、「会社から見て好ましくないと判断される株主が議決権等の株主の権利を行使することを回避する目的で、当該株主から株式を譲り受けるための対価を何人かに供与する行為」は、「株主の権利の行使に関し」に該当するとしています。

 なお、利益供与との関係で、株主優待制度がよく問題となりますが、「社会通念上許容された範囲内で適正に行われるかぎり」(高知地裁昭和62年9月30日判決・判時1263号43頁)利益供与として規制の対象とはならないとされています。

どのようなものが「財産上の利益」に該当するか

 提供する利益の内容に関しては、贈賄罪では、人の欲望または需要を満たすに足る一切のものの提供が禁止されますが、利益供与の場面では、財産上の利益に限定されるとされています(山下友信編『会社法コンメンタール3-株式(1)』(商事法務、2013)260頁〔森田章〕など)。もっとも、情報などであっても、財産上の価値を伴う場合には、財産上の利益に該当するものと考えられます。なお、利益の提供は、当該会社の名義である必要はなく、当該会社または子会社の計算により提供されれば足ります。

役員の責任

 利益供与が行われた場合、利益供与に関与した取締役および指名委員会等設置会社の執行役は連帯して供与した利益の価額に相当する額を会社に対して支払う義務を負います(会社法120条4項)。

 具体的には、実際に利益供与を行った取締役および執行役のほか、利益供与が取締役会決議に基づき行われたときは、決議に賛成した取締役、取締役会に議案を提案した取締役および執行役が、利益供与が株主総会決議に基づき行われたときは、株主総会議案を提案した取締役、株主総会議案の提案の決定に同意した取締役(取締役会設置会社の取締役を除く)、株主総会議案の提案が取締役会決議に基づく場合の取締役会決議に賛成した取締役、株主総会で当該利益の供与に関する事項について説明した取締役および執行役が責任を負うことになります(会社法施行規則21条)。

責任を問われる場合 責任を問われる役員
- ・実際に利益供与を行った取締役および執行役
利益供与が取締役会決議に基づき行われたとき ・取締役会決議に賛成した取締役
・取締役会に議案を提案した取締役、執行役
利益供与が株主総会決議に基づき行われたとき ・株主総会議案を提案した取締役

・株主総会議案の提案の決定に同意した取締役(取締役会設置会社の取締役を除く)

・株主総会議案の提案が取締役会決議に基づく場合の取締役会決議に賛成した取締役

・株主総会で当該利益の供与に関する事項について説明した取締役、執行役

 なお、この責任は、総株主の同意があれば、免除することができ(会社法120条5項)、また、実際に利益供与を行った取締役および執行役以外は、注意を怠らなかったことを証明することで責任を免れることができますが、利益供与を行った取締役および執行役は無過失責任であり、無過失を証明しても責任を免れることはできません会社法120条4項ただし書き)。

 さらに、実際に利益供与を行った者については、3年以下の懲役または300万円以下の罰金の刑事罰が定められています(会社法970条1項)。

利益供与に関連する法改正(平成26年改正)

 なお、上記3で述べたとおり、代表訴訟提起権を行使させないことに関する利益の供与は、規制の対象となりますが、平成26年改正により、旧株主による責任追及等の訴え会社法847条の2)および最終完全親会社等の株主による特定責任追及の訴え会社法847条の3)の制度が設けられたことに伴い、これらの訴えの提起等に関する利益の供与についても規制の対象となりました(会社法120条1項)。

設例について

 設例のケースでは、金銭の要求をしている者が現在、株主であるか否かにかかわらず、その者の要求に応じて金銭を支払うことは、利益供与に該当します。そして、この場合、上記5で述べたとおり、利益供与に関与した取締役は連帯して供与した利益の価額に相当する額を会社に対して支払う義務を負い、利益供与を行った取締役は、3年以下の懲役または300万円以下の罰金を科せられるおそれがあります。

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