株券発行会社の株式譲渡と名義書換請求

コーポレート・M&A
江口 真理恵弁護士

 知人から、株券発行会社の株式を譲り受けることになりました。この株式を譲り受ける方法と、株主名簿の名義書換請求の手続について教えてください。

 株券発行会社の株式を譲り受けるためには、当事者間の合意(株式譲渡契約)に加えて、譲渡人から、株券の交付を受ける必要があります。現に株券が発行されていない場合には、まず、譲渡人が会社に対して株券の発行を請求し、会社から株券の発行を受けたうえで、その株券を譲受人に交付するという手順をふみます。

 株券発行会社における株式の譲渡は、株券の交付をもって会社以外の第三者に対抗することができますが、会社に対抗するためには、株主名簿の名義書換を行う必要があります。株主名簿の名義書換請求は、株券を会社に提示することにより、譲受人が単独で行うことができます。

解説

株券発行会社における株式譲渡

(1)株式譲渡の方法

 株券発行会社(会社法117条7項)の株式の譲渡は、株券を交付しなければ効力を生じないため(会社法128条1項)、当事者間の合意だけでは、譲受人は譲渡人に対して株券の交付を請求する権利を有するにすぎず、譲渡人が譲受人に株券を交付して初めて、株式移転の効果が生じます。したがって、株券発行会社の株式を譲り受けるためには、当事者間の合意(株式譲渡契約)に加えて、株券の交付を受ける必要があります。

 参照:「株券不発行会社の株式譲渡と名義書換請求

 ここにいう株券の交付は、現実の引渡し(民法182条1項)に限らず、簡易の引渡し(民法182条2項)、占有改定(民法183条)、または指図による占有移転(民法184条)の方法でもかまいません(山下友信編『会社法コンメンタール3-株式(1)』311頁〔前田雅弘〕(商事法務、2013))。

(2)株券が発行されていない株式の譲渡

 株券発行会社であっても現に株券が発行されていないことが多々ありますが(会社法215条4項、217条参照)、株券発行前の株式の譲渡は、株券発行会社に対し、その効力を生じないことから(会社法128条2項)、このような場合、譲渡人は、会社に対して株券の発行を請求し、会社から株券の発行を受けたうえで、その株券を譲受人に交付する必要があります。

【株券が発行されていない場合の株式譲渡の方法】

株券が発行されていない場合の株式譲渡の方法

 もっとも、例外的に、株主が株券の発行を請求したにもかかわらず、会社が不当に株券の発行を遅滞し、信義則(信義誠実の原則)に照らしても株式譲渡の効力を否定するのを相当としない状況に至った場合には、株主は意思表示のみにより有効に株式を譲渡でき、会社は株券発行前であることを理由にその効力を否定することはできないと解されています(株主総会決議無効確認等請求事件・最高裁昭和47年11月8日判決・民集26巻9号1489頁)。

 なお、株券発行前の株式譲渡の効力を会社側が自発的に認めることができるか否かについて、会社法制定前はこれを肯定する見解も有力でした。しかし、会社法の立案担当者は、株券発行前の株式譲渡は会社のみならず当事者間においても効力が生じないという立場をとっており(相澤哲ほか編著『論点解説 新・会社法』66頁(商事法務、2006))、会社法下において当該見解を維持することは解釈論として困難になったと指摘されている(前掲・山下〔前田雅弘〕316頁)ことをふまえると、実務上、譲渡当事者および会社のいずれも株式の譲渡に異存がないとしても、株券の発行・交付というプロセスを省略すべきではありません。

株券発行会社における株主名簿の名義書換請求

 株券発行会社において、株券の交付は、株式譲渡の効力発生要件であると同時に、会社以外の第三者に対する対抗要件でもあることから、株式譲渡を会社以外の第三者に対抗するためであれば、株券の交付に加えて特段の手続は不要です。しかし、株式譲渡を会社に対抗するため、すなわち、株主としての権利行使を行うためには、株主名簿の名義書換を行う必要があります会社法130条2項)。

 譲受人は、株券不発行会社の場合と異なり、株券を会社に提示することによって、単独で株主名簿の名義書換請求を行うことができ会社法133条2項、会社法施行規則22条2項1号)、譲渡人と共同で行う必要はありません。  

まとめ

 以上のとおり、株券発行会社の株式を譲り受けるためには、当事者間の合意(株式譲渡契約)に加えて、譲渡人から、株券の交付を受ける必要があります。現に株券が発行されていない場合には、まず、譲渡人が会社に対して株券の発行を請求し、会社から株券の発行を受けたうえで、その株券を譲受人に交付するという手順を踏みます。

 株券発行会社における株式の譲渡は、株券の交付をもって会社以外の第三者に対抗することができますが、会社に対抗するためには、株主名簿の名義書換を行う必要があります。株主名簿の名義書換請求は、株券を会社に提示することにより、譲受人が単独で行うことができます。

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