株主総会において議決権電子行使プラットフォームを利用するべきか

コーポレート・M&A

 当社は上場会社ですが、現在のところ、株主総会において議決権の電子行使を行うことができる議決権電子行使プラットフォームは利用していません。議決権電子行使プラットフォームの利用会社数が増えてきていると聞きましたが、その理由を教えてください。

 日本の上場会社においては、株主総会が会社と株主の建設的な対話の場として機能してこなかったとの指摘があり、スチュワードシップ・コードおよびコーポレートガバナンス・コードには、株主総会における議決権行使に関する指針が盛り込まれています。また、経済産業省および東京証券取引所による議決権電子行使プラットフォーム推進の動きもあることから議決権電子行使プラットフォームを利用する会社が増えてきており、2017年7月末現在での利用上場会社数は800社を超えています。

解説

スチュワードシップ・コードおよびコーポレートガバナンス・コードによるコーポレートガバナンス改革

 2014年2月に公表されたスチュワードシップ・コード(2017年5月改訂)では、機関投資家がスチュワードシップ責任(投資先企業やその事業環境等に関する深い理解に基づく建設的な「目的を持った対話」(エンゲージメント)などを通じて、当該企業の企業価値の向上や持続的成長を促すことにより、「顧客・受益者」の中長期的な投資リターンの拡大を図る責任)を果たすための議決権行使について、以下のとおり定めています(指針4-2.は2017年5月の改訂により追加)。

指針4-2.
 パッシブ運用は、投資先企業の株式を売却する選択肢が限られ、中長期的な企業価値の向上を促す必要性が高いことから、機関投資家は、パッシブ運用を行うに当たって、より積極的に中長期的視点に立った対話や議決権行使に取り組むべきである。

原則5
 機関投資家は、議決権の行使と行使結果の公表について明確な方針を持つとともに、議決権行使の方針については、単に形式的な判断基準にとどまるのではなく、投資先企業の持続的成長に資するものとなるよう工夫すべきである。

指針5-4.
 機関投資家は、議決権行使助言会社のサービスを利用する場合であっても、議決権行使助言会社の助言に機械的に依拠するのではなく、投資先企業の状況や当該企業との対話の内容等を踏まえ、自らの責任と判断の下で議決権を行使すべきである。仮に、議決権行使助言会社のサービスを利用している場合には、議決権行使結果の公表に合わせ、その旨及び当該サービスをどのように活用したのかについても公表すべきである。

 また、2015年6月に施行されたコーポレートガバナンス・コードにおいては、上場会社における株主総会が会社と株主との建設的な対話の場であることを前提として、以下のとおり、議決権電子行使プラットフォームの利用が株主総会における権利行使に係る環境整備の具体例として例示されました。

補充原則1-2④
 上場会社は、自社の株主における機関投資家や海外投資家の比率等も踏まえ、議決権の電子行使を可能とするための環境作り(議決権電子行使プラットフォームの利用等)や招集通知の英訳を進めるべきである。

 以上のとおり、スチュワードシップ・コードおよびコーポレートガバナンス・コードは、機関投資家側と上場会社側の各々に対して、積極的な議決権行使とそのための議決権電子行使プラットフォームの利用を促しています。

経済産業省および東京証券取引所による議決権電子行使プラットフォーム推進の動き

経済産業省の動き

 2015年4月、経済産業省を事務局とする「持続的成長に向けた企業と投資家の対話促進研究会」は報告書を公表し、次のとおり、議決権行使の電子化の促進に係る提言を行いました。

3.6.3 議決権行使の電子化の促進

10 議決権行使プロセス全体を効率化するため、関連書類の電子化とともに以下のような議決権行使における電子化の促進についての検討が期待される。

1)我が国の議決権行使プロセスの基盤インフラの1つとして、議決権行使電子プラットフォーム(ICJ)を活用しやすくするための方策の検討。

2)グローバルな機関投資家が活用している議決権行使のための電子的プラットフォームの状況を踏まえ、議決権行使プロセス全体の電子化を促進するための課題と方策を関係団体等において検討。

 また、2015年6月、「『日本再興戦略』改訂2015」が閣議決定され、持続的な企業価値の創造に向けた企業と投資家との対話を促進するために新たに講ずべき具体的施策として、「関係団体等において議決権行使プロセス全体の電子化を促進するための課題と方策を来年中に検討することを促す」と言及されました。

 これらを受け、2015年11月、経済産業省が設置した「株主総会プロセスの電子化促進等に関する研究会」は、招集通知関連書類や議決権行使の電子化等を通じて株主総会プロセスの徹底的な合理化が図られる環境を整備するための検討を開始し、2016年4月に報告書を公表しました。報告書では、議決権行使の電子化は、郵送や集計等に要する時間を短縮できるなど、実質3日等と言われている機関投資家による議案の検討期間を拡大するうえで有用であると考えられ、議決権電子行使プラットフォームの利用効果としては、主に、以下の点があげられると指摘されました。

  1. 議案の検討期間の拡大【機関投資家】
  2. 議決権行使結果の早期把握と対話の充実【参加企業・機関投資家】
  3. 議決権行使の再指図が容易(期限内であれば何度も再指図が可能)【参加企業・機関投資家】

東京証券取引所の動き

 さらに、東京証券取引所は、2017年1月25日、上場会社宛てに「議決権電子行使プラットフォームのご案内について」と題する書面を交付し、以下のとおりに議決権電子行使プラットフォームの利点(「株主サービスの充実」、「真の実質株主とコミュニケーションを取ることができる」)をアピールし、議決権電子行使プラットフォームへの参加を検討するように求めました。

 「プラットフォーム未参加の上場会社の総会議案に対する機関投資家の検討期間は平均7.0日(2016年6月総会実績)に過ぎず、機関投資家は極めて限られた期間内に多くの上場会社の議決権行使を行っております。プラットフォームにご参加いただくと、総会前日まで議案検討が可能となる機関投資家の議案検討期間は平均20.9日(同)にまで拡大し、『株主サービスの充実を実現させる』とともに、『議案検討期間不足による反対票や棄権票が投じられるリスクを軽減すること』が可能となります。」

 「プラットフォームは名義株主の背後にいる真の実質株主とシステムでつながっており、これまで総会直前にしか分からなかった機関投資家の議決権行使結果を毎日確認することができます。そのため、日々の行使結果の状況に応じ、総会前日まで追加情報の発信・説明等、プラットフォーム上で機関投資家に対して総会議案への理解を深めていただくための様々なアクションをとることができるようになります。プラットフォームでは議決権行使の再行使が可能であることから、機関投資家は総会直前までより充実した情報に基づいて議決権行使を行うことができ、上場会社と機関投資家との対話の充実・質の向上を図ることが可能となります。」

議決権行使実質化検討フォーラムによる議決権行使白書の公表

 また、議決権電子行使プラットフォームを運営している株式会社ICJを母体とする「議決権行使実質化検討フォーラム」は、2017年5月25日、「議決権行使白書―ガバナンス改革のさらなる進展に向けた『議決権行使の実質化』の現状と課題―」(以下「議決権行使白書」といいます)を公表しました。議決権行使白書においては、株主総会における会社提案に対し、機関投資家等から想定外の反対票が集まった場合に、会社側が補足説明等を発信するに際して議決権電子行使プラットフォームが有する意義について、以下のとおり説明しています。

「機関投資家からPF上において議決権行使がなされると、上場企業側は、招集通知発送直後から1日2回、国内外の機関投資家の行使結果を株主総会前日まで把握することができる。株主総会の直前に株主名簿管理人から行使結果が送られてくる議決権行使書と異なり、PFでは、機関投資家の議決権行使結果を株主総会前の早い時期に把握することができることから、日々積み上がる行使結果を踏まえて機関投資家に対して必要に応じて補足情報を発信する等、電子化プロセスを活用して双方向での発信や対話を行うことが可能となる。

 また、議決権行使書の場合と比べて機関投資家側の検討期間が延び、機関投資家側も議決権の再行使を容易に行えることも電子化の大きなメリットである。機関投資家も、当初議決権行使によって表明された賛否の意思表示に対して、発行会社側からの補足説明等を通じて、より正確な情報に基づき議決権行使を行うことができるわけである。」

※PF=議決権電子行使プラットフォーム

まとめ

 以上のとおり、現在、日本の上場会社におけるコーポレートガバナンス改革の一環として、株主総会を会社と株主の建設的な対話の場とするべく、議決権電子行使プラットフォームの利用が強く促進されています。海外の上場会社における議決権の電子行使の状況と照らしても、日本の上場会社において、議決権の電子行使のための環境整備が強く求められていく流れは加速していくと考えられますので、現時点で議決権電子行使プラットフォームを利用していない上場会社においても、早期にその利用を検討すべき状況にあります。

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