株式の消費貸借取引がなされた場合の議決権は誰が保有するのか

コーポレート・M&A

 空売りなどのために株式を借り受ける、いわゆる株式の消費貸借取引がなされた場合、株主総会での議決権を保有するのは、借主ですか、貸主ですか。
 また、借株による議決権行使には、何か問題があるのでしょうか。

 貸借された株式の議決権を誰が行使できるかは、議決権行使の基準日において、その株式の株主名簿上の名義が誰かによって決まります。貸付期間中は、株主名簿上の名義は借主に移転されるので、通常は、借主が議決権行使を行います。しかし、たとえば、貸付期間中に議決権行使に係る基準日が設定された場合には、借主は基準日前に株式を返還し、株式の名義を貸主に戻すことを取り決めておけば、貸主の議決権行使が確保されます。

 株の貸借取引を利用すると、権利付最終日においてのみ大量の株式について株主名簿上の株主となり、議決権を行使することも可能です。このようなエンプティ・ボーティング(empty voting)については、コーポレート・ガバナンス上問題があると、指摘もなされています。

解説

株式の貸借取引とはどういうものか

消費貸借取引

 株主が、所有する株式を第三者に貸し出す、いわゆる株の貸借取引(貸株)は、一般に広く行われています。借主は、借りた株式(「借株」といいます)を市場で売ることができ、返還期限までに同じ種類の株式を買い戻す等して貸主に返却します。借りたものと同じ種類の株式を返還することを約束して株式を借り受けるので、株式の消費貸借取引ということになります。
 株式市場において、株式を先に売却して、後に買い戻す行為を「空売り」といいますが、持っていない株式を売るためにはどこからか株式を借りてこなければならないので、貸株が行われるのです。
 空売りを投資手法として用いるヘッジファンドは、大量の株式を貸株によって調達しています。

【消費貸借取引の仕組み】

消費貸借取引の仕組み

信用取引の「売建」

 信用取引の「売建」も、この株式の貸借取引の一種です。信用取引とは、現金や株式を担保として証券会社に預け入れて、証券会社から資金または株式を借り入れて、市場で取引する仕組みをいいます。この信用取引のうち、保証金を担保に証券会社から買付け代金を借り入れて株式を買うことを「買建」、保証金を担保に証券会社から株式を借り入れてその株式を売ることを「売建」といいますが、「売建」はまさに株式の貸借取引に当たります。

 証券会社は、信用取引において顧客に貸し付ける株式を、さらに証券金融会社(証券会社に対し、信用取引の決済に必要な株式・資金を貸し付けることを主な業務とする会社)から借り入れています。また、個人投資家から株を借り入れる場合もあります。
 株の貸借取引においては、一般に、その対価として貸株金利が借主から貸主に支払われます。

【信用取引の「売建」の仕組み】

信用取引の「売建」の仕組み

借株の議決権は誰が行使できるのか

 このように、株式の貸借取引は広く一般的に行われていますが、貸借された株式の議決権を誰が行使できるかは、議決権行使の基準日において、その株式の株主名簿上の名義が誰かによって決まります。
 基準日の名義を借主とするか、それとも貸主とするかは、株の貸借取引において個別に決めることができます。

 貸付期間中は、株主名簿上の名義は借主に移転されるので、基準日をまたいで貸付が行われる場合には、借主が議決権行使を行います。しかし、貸付期間中に議決権行使に係る基準日が設定された場合には、借主は基準日前に株式を返還し、株式の名義を貸主に戻すことを取り決めておけば、貸主の議決権行使が確保されます。
 また、貸付期間中は株式の名義は戻さないとしても、貸主が借主に対して、議決権行使について指図できるよう取り決めることも可能です。

エンプティ・ボーティング

 株の貸借取引を利用すると、権利付最終日においてのみ大量の株式について株主名簿上の株主となり、議決権を行使することが可能となります。このような、経済的持分を保有しないのに議決権だけを持つことを、エンプティ・ボーティング(empty voting)といいます。これについては、会社の企業価値を増加させるインセンティブを持たない株主が議決権行使を行うことはコーポレート・ガバナンス上問題である、との指摘もなされています。

 他方、外部の投資家が議決権を隠しておき、委任状争奪戦などいざというときに議決権を現すことを、ヒドゥン・オーナーシップ(hidden ownership)といいます。2005年に、ライブドアがフジテレビジョン株を保有するニッポン放送の株式を取得し、フジテレビジョンをめぐる経営支配権争いが行われた時に、ニッポン放送は保有しているフジテレビジョンの株式約14%をソフトバンク・インベストメントに5年間の期限で貸出しましたが、これなどがヒドゥン・オーナーシップの一例です。  

大量保有報告制度との関係

 日本の大量保有報告制度1においては、上場会社等の発行する議決権株式等の保有割合が発行済み株式の5%を超える大量保有者は、大量保有者となった日から5営業日以内に大量保有報告書を提出しなければならないとされています(金融商品取引法27条の23)。この「保有者」には、自己または他人の名義で株式等を所有する者のほか、売買その他の契約に基づき引渡請求権を有する者も含まれます(金融商品取引法27条の23第3項)。そのため、名義上の所有者となっている借主も、貸借契約に基づき返還請求権を有する貸主も、いずれも「保有者」に該当し、貸借取引によって保有割合が5%を超えた場合の借主は、大量保有報告書を提出する必要があり、貸借取引の結果1%以上の保有割合の変化があった貸主も、変更報告書の提出が必要です。このように、大量保有報告制度では、借主も、貸主も、いずれも開示を求められることになります。

 また、株の貸借契約は、「当該株券等に関する担保契約等重要な契約」に該当すると解されており(参照:「株券等の大量保有の状況の開示に関する内閣府令」第一号様式の記載上の注意(14))、契約の相手方、貸借株式数等の当該契約の内容は報告書に記載しなければならないとされています。

 大量保有報告書制度の目的の一つとして、会社の支配権を変更したり経営に影響を及ぼす可能性を示す情報を迅速に投資者に提供するという点があるため、上記3のとおり議決権行使に影響を及ぼし得る株式の貸借取引については、このように開示の仕組みが整備されているのです。


  1. 株券等に係る大量保有の状況を投資者に迅速に開示するための制度 ↩︎

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