新株予約権を用いた買収防衛策

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 新株予約権を用いた買収防衛策には、どのようなものがあるでしょうか。買収防衛策としての新株予約権に差別的行使条件を付すことは、株主平等の原則との関係で問題はないのでしょうか。
 また、新株予約権を用いた買収防衛策の導入や発動にあたり、株主総会決議は必須なのでしょうか。

 近年、新株予約権は、主に平時導入型買収防衛策として広く活用されており、その類型としては、事前警告型買収防衛策や、信託型ライツ・プランなどがあります。新株予約権を用いた買収防衛策においては、新株予約権に差別的行使条件が付されることが一般的です。買収防衛策としての必要性と相当性が認められる限り、差別的行使条件を付することは、株主平等原則の趣旨に反するものではありません。

 買収防衛策の導入・発動にあたり、株主総会決議が必須であるのかについては、議論の余地がありますが、「株主の合理的な意思に依拠すべき」との株主意思の原則からすれば、株主総会決議に基づくものであることが望ましいといえるでしょう。

解説

新株予約権を用いた買収防衛策

 近年、新株予約権は、主として、買収者が出現する前(平時)に買収防衛策を導入しておき、買収者が出現した場合に買収防衛策を発動する、平時導入型買収防衛策として広く活用されています。

 新株予約権を用いた買収防衛策には、敵対的買収者以外の株主が保有する新株予約権は行使可能だが、敵対的買収者である株主が保有する新株予約権は行使できないという内容の差別的行使条件を付したものを用いるのが一般的です。差別的行使条件の例として、「20パーセントを超える株式保有割合を有する株主以外の株主が行使できる」といったものが考えられます。

 このような差別的行使条件を新株予約権に付けることによって、敵対的買収者を除く一般株主は付与された新株予約権を行使することができる一方で、敵対的買収者は付与された新株予約権を行使することができないことから、結果的に敵対的買収者の議決権が希釈化され、買収防衛の効果が生じることになります。

 新株予約権を用いた平時導入型買収防衛策の具体的な類型としては主に以下のものがあげられます。

事前警告型買収防衛策

 買収者が従うべきルールを会社があらかじめ定め、買収者がこれに反した場合にとる防衛策を公表しておき、買収者がこのルールを守らないときには防衛策としての(取得条項付)新株予約権無償割当て(会社法277条)を行います。

信託型ライツ・プラン

 平時においてSPC(Special Purpose Company、特別目的会社)または信託銀行に対して差別的行使条件が付された新株予約権を無償または極めて低い価額で発行しておき、敵対的買収者の登場後にその時点の全ての株主に対してそれらの新株予約権が無償で分配されます。

新株予約権を用いた買収防衛策

差別的行使条件と株主平等の原則

 いわゆるブルドックソース事件(最高裁平成19年8月7日決定・民集61巻5号2215頁において裁判所は、新株予約権無償割当ての場合について、「特定の株主による経営支配権取得に伴い、・・・会社の企業価値がき損され、会社の利益ひいては株主の共同の利益が害されることになるような場合」(買収防衛策の必要性)には、「当該取扱いが衡平の理念に反し、相当性を欠くものでない限り」(買収防衛策の相当性)、株主平等原則の趣旨に反するものということはできないと判示しました。この最高裁決定の考え方によれば、買収防衛策として新株予約権に差別的行使条件を付することも、買収防衛策としての必要性と相当性が認められる限り、株主平等原則の趣旨に反するものではないといえます。

新株予約権を用いた買収防衛策の導入時・発動時における株主総会決議の要否

 新株予約権を用いた買収防衛策の導入および発動につき、株主総会の決議に基づくことが必須であるのか、それとも取締役会決議のみにより行うことが可能なのかについては、議論の余地があります1

裁判例(ブルドックソース事件)等

 一般論として、買収防衛策は株主の合理的な意思に依拠すべきといえることから株主意思の原則。経済産業省・法務省「企業価値・株主共同の利益の確保又は向上のための買収防衛策に関する指針」(平成17年5月27日)IV2(2)参照)、その導入および発動のいずれの場面においても、株主総会の決議に基づくことが、適法性確保の観点から望ましいといえます。ブルドックソース事件での最高裁決定も、買収防衛策としての必要性と相当性の判断については、最終的には、会社の利益の帰属主体である株主自身により判断されるべきものである旨を判示しています。

 もっとも、ブルドックソース事件最高裁決定は有事導入の事案における判断であり、平時導入型の買収防衛策の導入や発動について特に言及するものではありません。また、「企業価値・株主共同の利益の確保又は向上のための買収防衛策に関する指針」や、ブルドックソース事件最高裁決定の後に発表された企業価値研究会の「近時の諸環境の変化を踏まえた買収防衛策の在り方」(平成20年6月30日)も、取締役会決議のみによる買収防衛策の導入・発動の可能性を必ずしも排除するものではありません。さらに、新株予約権を用いた買収防衛策に関する近時の裁判例の動向からしても、取締役会決議のみによる買収防衛策の導入・発動が一律に否定されるわけではないといえそうです。ただし、その可否と具体的な限界については、実務上、未だ必ずしも明確な結論が出ていない状況であり、今後のさらなる事例の蓄積や議論の進展が待たれます。

近時の傾向

 なお、平成28年7月末時点での国内における買収防衛策の導入状況をみると、買収防衛策を継続した企業の9割超が継続時の手続きとして株主総会への付議を行っているほか、買収防衛策の発動時に株主総会を開催することにより株主意思の確認を行う仕組みを定める企業の割合も6割を超えています(茂木美樹ほか「敵対的買収防衛策の導入状況―2016年6月総会を踏まえて―」旬刊商事法務2120号13頁)。これは、買収防衛策を導入している企業が、株主意思の原則を重視する方針を採用していることの現れと評価できます。

おわりに

 新株予約権を用いた買収防衛策の導入・運用にあたっては、これまでの裁判例や「企業価値・株主共同の利益の確保又は向上のための買収防衛策に関する指針」・「近時の諸環境の変化を踏まえた買収防衛策の在り方」などにおける議論、さらには株主(特に、日本版スチュワードシップ・コード導入の影響もあり、議決権行使基準が厳格化する傾向にある機関投資家等)の株式保有比率、議決権行使状況等を踏まえつつ、具体的な事案ごとに慎重な検討が求められます。


  1. ただし、新株予約権の有利発行(SPCまたは信託銀行への無償発行)を伴う信託型ライツ・プランに関しては、その導入にあたり株主総会の特別決議を経ることになるため、通常、導入時の株主総会決議の要否は問題となりません。 ↩︎

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