ストック・オプションの付与方法における相殺構成と無償構成

コーポレート・M&A

 ストック・オプションの付与方法の法律構成には、どのようなものがあるのでしょうか。それぞれのメリット、デメリットは何でしょうか。

 ストック・オプションの付与方法の法律構成には、相殺構成と無償構成とがあります。

 相殺構成においては、有利発行手続が不要となることから、発行手続が簡便な点がメリットとしてあげられる一方で、子会社・関連会社の役員・従業員へのストック・オプションの付与につき一定の手続きを介在させることが必要となる場合があるほか、付与対象者が労働基準法の適用のある発行会社の従業員等である場合には労働基準法24条1項との関係に注意が必要です。

 無償構成においては、子会社・関連会社の役員・従業員へのストック・オプションの付与であっても相殺構成のように一定の手続きを介在させる必要がないほか、付与対象者が労働基準法の適用のある発行会社の従業員等であっても労働基準法24条1項との関係が通常問題とならない点がメリットとしてあげられます。他方で、無償構成では、有利発行手続が必要であるか否かが必ずしも明らかとはいえず、実務上は、有利発行として株主総会の特別決議を取得しておくとする取扱いが相当程度存在するものと思われます。

解説

相殺構成と無償構成

 ストック・オプションの付与方法の法的構成による分類として、相殺構成と無償構成があります。

相殺構成

 相殺構成は、ストック・オプションとしての新株予約権を発行するにあたり、公正価格に相当する価額を払込金額とする、通常の有償発行と構成したうえで、付与対象者の発行会社に対する払込金額の払込義務と付与対象者の有する発行会社に対する債権(たとえば報酬債権等)とを対当額で相殺する(会社法246条2項)ものです。

【ストック・オプションとしての新株予約権を発行するうえでの相殺構成】

ストック・オプションとしての新株予約権を発行するうえでの相殺構成

無償構成

 無償構成は、ストック・オプションとしての新株予約権につき、金銭の払込みを要しないこととして発行するものです(会社法238条1項2号)。

相殺構成をとる場合の主なメリット、デメリット

主なメリット

 相殺構成は、労働や業務執行等の対価として公正な価額で新株予約権を発行するものであり、「特に有利な条件」(会社法238条3項1号)には該当しない、通常の有償発行と構成します。そのため、有利発行に必要とされる株主総会の特別決議は不要であり、公開会社においては、取締役会決議により発行することが可能とされます(会社法240条1項、会社法238条2項)。ただし、発行会社の取締役・監査役に付与する場合には、別途、株主総会の報酬決議(会社法361条、会社法387条)が必要となります。

主なデメリット

 相殺構成は、付与対象者が発行会社に対して何らかの債権(報酬債権等)を有することが前提となりますので、発行会社に対する報酬債権等の発生が想定されない子会社・関連会社の役員・従業員へのストック・オプションの付与については、相殺構成をそのまま採用することが難しいといえます。たとえば、子会社・関連会社がその役員・従業員に対して負っている報酬支払債務につき発行会社が債務引受けを行う等、一定の手続きを介在させることが考えられます。

 また、付与対象者が労働基準法の適用のある発行会社の従業員等である場合において、相殺構成を採用し、使用者側から一方的に当該払込義務と付与対象者が発行会社に対して有する賃金債権とを相殺することは、賃金の全額払の原則との関係から、労働基準法24条1項に違反するものと考えられます。なお、使用者が労働者の同意を得て行う相殺は、当該相殺が労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的理由が存在する場合は、賃金の全額払の原則に反するものではありません(最高裁平成2年11月26日判決・民集44巻8号1085頁)。また、労働者から行う賃金債権についての相殺も、賃金の全額払の原則には反しません。

無償構成をとる場合の主なメリット、デメリット

主なメリット

 無償構成は、相殺構成の場合と異なり、付与対象者が発行会社に対して何らかの債権(報酬債権等)を有することが前提とはなりませんので、発行会社に対する報酬債権等の発生が想定されない子会社・関連会社の役員・従業員へのストック・オプションの付与についても、債務引受け等の手続きを介在させるといった考慮は必要ありません

 また、無償構成をとる場合は、賃金の全額払の原則との関係で労働基準法24条1項が問題となることは通常ありません。

主なデメリット

 無償構成については、発行会社に対価が支払われないことから、これを新株予約権の有利発行であるとする考え方と、役員などによる職務執行が対価となっていると評価し、有利発行ではないとする考え方があります。

 前者の考え方によれば、ストック・オプションの付与にあたり株主総会の特別決議が必要となります(会社法309条2項6号・会社法238条2項)。他方、後者の考え方によれば、株主総会の特別決議は不要ということになりますが、ストック・オプションとしての報酬と実際の労働や業務執行等とが見合っているかどうかの検証は容易ではなく、また、特に子会社・関連会社の役員・従業員へのストック・オプションの付与については労働や業務執行等との対価性自体が必ずしも明確ではないこともあり、実務上は、特に付与対象者に子会社・関連会社の役員・従業員が含まれる場合には、有利発行として株主総会の特別決議を取得しておくとする取扱いが相当程度存在するものと思われます。

まとめ

 以上のように、ストック・オプションの付与方法の法律構成につき、相殺構成と無償構成のいずれを選択するかによって、それぞれ一定のメリット、デメリットがあります。

 有利発行手続を経ることの難易度や、付与対象者に労働基準法の適用のある発行会社の従業員等や子会社・関連会社の役員・従業員が含まれるのか、といった事項を勘案のうえ、いずれの法律構成によって手続きを進めるのがよいかを判断する必要があるでしょう。

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