全部取得条項付種類株式発行のための定款変更および取得手続

コーポレート・M&A
江口 真理恵弁護士

 全部取得条項付種類株式を発行するための定款変更は、どのような手続で行えばよいでしょうか。また、全部取得条項付種類株式を全部取得するための手続についても教えてください。

 全部取得条項付種類株式を発行するための定款変更手続は、原則として株主総会の特別決議により行えば足りますが、既発行の種類株式を全部取得条項付種類株式に変更する場合は、これに加えて①種類株主総会の特別決議、ならびに②種類株主および新株予約権者に対する通知または公告が必要です。

 また、全部取得条項付種類株式を全部取得するためには、①株主総会の特別決議、②全部取得条項付種類株式の株主に対する通知または公告、③取得価格等に関する事前開示および事後開示が必要です。

解説

全部取得条項付種類株式とは

 全部取得条項付種類株式とは、会社が株主総会の特別決議によってその全部を取得することができる種類株式です(会社法171条1項柱書、108条1項7号)。

 この制度はもともと、債務超過に陥った会社の事業再建を円滑に行うため、株主総会の特別決議により会社が発行済株式全部を無償で強制取得し、株主を全面的に入れ替えるための仕組みとして導入されました。もっとも、実務上は、特に平成26年会社法改正前においては特別支配株主の株式等売渡請求の制度(会社法179条~179条の10)や株式併合における株主保護の制度(会社法180条~182条の6)が整備されていなかったこともあり、支配株主が少数株主を締め出して当該会社を完全子会社化するため(キャッシュ・アウト)の手段として多く用いられてきました。

参照:
種類株式はどのような場面で活用できるか
株式併合を行う場合に決議すべき事項と株式併合を行うことを必要とする理由の説明・開示について

全部取得条項付種類株式の内容を定める定款変更手続

定款に定めるべき内容

 会社が全部取得条項付種類株式を発行する場合、定款において、(i)取得対価の価額の決定の方法、(ii)取得に関する株主総会の決議をすることができるか否かについての条件を定めるときは、その条件を定める必要があります(会社108条2項7号)。  

既発行の種類株式に変更を加えない場合の手続

 すでに発行されている種類株式に変更を加えない場合、前記2-1の内容を定めるための定款変更は、通常どおり、株主総会の特別決議により行えば足ります(会社法466条、309条2項11号)。

既発行の種類株式を全部取得条項付種類株式に変更する場合の手続

 すでに発行されている種類株式を全部取得条項付種類株式に変更する場合の定款変更には、前記2-2の手続に加えて、次の種類株主を構成員とする各種類株主総会の特別決議が必要です(会社法111条2項、324条2項1号)。

  1. 全部取得条項付種類株式に変更される種類株式(以下「変更対象種類株式」といいます)の種類株主
  2. 変更対象種類株式を取得の対価とする取得請求権付株式の種類株主
  3. 変更対象種類株式を取得の対価とする取得条項付株式の種類株主

 これらの種類株主総会における反対株主は、会社に対し、その有する種類株式を公正な価格で買い取るよう請求することができます(会社法116条1項2号)。また、変更対象種類株式を目的とする新株予約権の新株予約権者も、会社に対し、その有する新株予約権を公正な価格で買い取るよう請求することができます(会社法118条1項2号)。

 これらの買取請求権を行使する機会を与えるため、会社は、定款変更日の20日前までに、上記①~③の種類株主および変更対象種類株式を目的とする新株予約権の新株予約権者に対して、定款変更を行う旨を通知するか、または公告する必要があります(会社法116条3項、118条3項・4項)。

全部取得条項付種類株式の取得手続

全部取得の株主総会決議

 会社が全部取得条項付種類株式を取得するためには、株主総会の特別決議により、次の事項を定める必要があります(会社法171条1項、309条2項3号)

  1. 取得対価の内容および数額等またはその算定方法
  2. 株主に対する取得対価の割当てに関する事項
  3. 取得日

 この株主総会決議を行う際には、株主総会参考書類において上記①~③の内容、取得理由および事前開示事項(後記3-3参照)を記載するとともに(会社法施行規則85条の2)、株主総会において、取締役が取得を必要とする理由を説明しなければなりません(会社法171条3項)。

種類株主に対する通知または公告

 全部取得条項付種類株式の全部取得が法令または定款に違反する場合に、それによって株主が不利益を受けるおそれがあるときは、株主は、全部取得の差止請求を行うことができます(会社法171条の3)。また、決議された取得対価に不満がある株主は、取得日の20日前から取得日の前日までの間に、裁判所に対し、取得価格の決定の申立てをすることができます(会社法172条1項)。

 全部取得条項付種類株式の株主が必要に応じてこれらの措置をとる機会を与えるため、会社は、取得日の20日前までに、当該株主に対してその全部を取得する旨を通知するか、または公告する必要があります(会社法172条2項・3項)。

取得価格等に関する事前および事後の開示

(1)事前開示

 会社は、(i)全部取得条項付種類株式の取得決議を行う株主総会の2週間前の日、または(ii)全部取得条項付種類株式の株主に対する通知または公告の日のいずれか早い日から、取得日後6か月を経過する日までの間、次の事前開示事項を記載した書面または電磁的記録を本店に備え置き(会社法171条の2第1項、会社法施行規則33条の2)、株主の閲覧等に供しなければなりません(会社法171条の2第2項)。

  1. 取得対価の相当性に関する事項
  2. 取得対価について参考となるべき事項
  3. 計算書類等に関する事項
  4. 備置開始日後会社が全部取得条項付種類株式の全部を取得する日までの間に、上記①〜③に掲げる事項に変更が生じたときは、変更後の当該事項

(2)事後開示

 会社は、取得日後遅滞なく、次の事後開示事項を記載した書面または電磁的記録を作成し(会社法173条の2第1項、会社法施行規則33条の3)、取得日から6か月間、本店に備え置き(会社法173条の2第2項)、株主の閲覧等に供しなければなりません(会社法173条の2第3項)。

  1. 取得日
  2. 全部取得の差止請求手続の経過
  3. 会社が取得した全部取得条項付種類株式の数
  4. 上記①~③のほか、全部取得条項付種類株式の取得に関する重要な事項

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