親会社ができた場合の対応

コーポレート・M&A
村松 頼信弁護士

 当社(A社)は上場企業ですが、ある株主(B社)が当社株式を買い進めた結果、その株主の子会社になることになりました。新たに親会社となる会社ができ、当社が子会社になる場合、当社ではどのような対応が必要になりますか。

 新たに親会社が登場することによってA社において必要になる対応としては、以下のものがあげられます。

  1. 親会社となる会社から、以前より派遣されている社外取締役がいる場合、社外取締役に該当しなくなるため、新たに社外取締役の要件を満たす取締役候補者を探し出すなどの対応が必要になります。
  2. 親会社から派遣されている取締役の選任議案について、A社の株主総会参考書類で新たに開示が必要になります。
  3. 適時開示および臨時報告書等において、親会社との取引がある場合、その取引に関して一定の開示が必要になります。
  4. A社と親会社となるB社との間で取引がある場合、有価証券報告書、計算書類の個別注記表、事業報告、監査役会の監査報告および支配株主等に関する事項についての開示において、その取引に関して一定の開示が必要になります。
  5. 取引所規則上、A社に対して、親会社となるB社との重要な取引等にあたっての遵守事項が適用されます。

解説

親会社となる会社から、以前より派遣されている社外取締役がいる場合

 親会社の取締役は社外取締役になることができません(会社法2条15号ハ)。そのため、従前よりB社からA社に派遣されている取締役が社外取締役として扱われている場合、B社がA社の親会社になることによって、その取締役はA社の社外取締役としての要件を満たさないことになります。

 社外取締役が一人も選任されていない場合、会社法で社外取締役を置くことが相当でない理由の説明や開示が義務付けられており(会社法327条の2、会社法施行規則74条の2第1項、会社法施行規則124条2項)、コーポレートガバナンス・コードでは独立社外取締役の2名以上ないし3分の1以上の選任が要請されていることから、親会社の出現によって社外取締役が不在にならないよう、新たに社外取締役の要件を満たす取締役候補者を探し出すなどの手当が必要になります。

親会社から派遣されている取締役の選任議案について

 親会社になるB社からA社に派遣されている取締役を引き続きA社の取締役として選任する場合かつ、その取締役が親会社であるB社の業務執行者であるときには、A社の株主総会参考書類上、その取締役の選任議案に関し、B社における地位および担当を記載する必要があります(会社法施行規則74条3項2号)。

適時開示および臨時報告書等での開示について

 親会社ができた場合、適時開示および臨時報告書等で開示が必要になります。具体的には、以下の対応が必要となります。

(1)親会社の異動に関する適時開示が必要となります(有価証券上場規程402条2号g)。

(2)親会社の異動に関する臨時報告書の提出が必要となります(金融商品取引法24条の5第4項、企業内容等の開示に関する内閣府令19条2項3号)。

(3)「支配株主等に関する事項について」の開示においてB社の属性を親会社として記載する必要があります(有価証券上場規程411条)。

親会社との取引がある場合における開示について

 A社がB社との間で取引を行っている場合、B社が新たに親会社となることによって、その取引について次のような開示が必要になります。

有価証券報告書

 連結財務諸表提出会社が親会社と重要な取引を行っている場合には、有価証券報告書上の「関連当事者に関する事項」の項目において、「関連当事者との取引に関する注記」として次の事項を記載する必要があります(連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則15条の4の2)。

  • 親会社の名称、所在地、資本金、事業の内容および議決権所有割合
  • 親会社との関係
  • 取引の内容
  • 取引の種類別の取引金額
  • 取引条件および取引条件の決定方針
  • 取引の債権債務の期末残高(主な科目別)
  • 取引条件の変更、変更内容および変更による連結財務諸表への影響

 「重要な取引」の重要性判断については、企業会計基準適用指針第13号「関連当事者の開示に関する会計基準の適用指針」15項~18項、20項が適用されます。

 たとえば、以下の①~③の各科目にかかる関連当事者との取引のうち、連結損益計算書項目につき各科目ごとの基準を満たす取引が開示対象となると考えられます。

  1. 売上高、売上原価、販売費および一般管理費
    売上高または売上原価と販売費および一般管理費の合計額の10%を超える取引
  2. 営業外収益、営業外費用
    営業外収益または営業外費用の合計額の10%を超える損益にかかる取引(その取引総額を開示し、取引総額と損益が相違する場合には損益を併せて開示する)
  3. 特別利益、特別損失
    1,000 万円を超える損益にかかる取引(その取引総額を開示し、取引総額と損益が相違する場合には損益を併せて開示する)

 ただし、②および③の各項目にかかる関連当事者との取引については、上記判断基準により開示対象となる場合であっても、その取引総額が、税金等調整前当期純損益または最近 5 年間の平均の税金等調整前当期純損益(当該期間中に税金等調整前当期純利益と税金等調整前当期純損失がある場合には、原則として税金等調整前当期純利益が発生した年度の平均)の10%以下となる場合には、開示を要しないとされています。

計算書類の個別注記表における「関連当事者との取引に関する注記」

 「関連当事者との取引に関する注記」において、親会社との取引のうち重要な取引に関して以下の事項を記載する必要があります(会社計算規則112条1項)。

  • 親会社の名称
  • 親会社の議決権所有割合
  • A社と親会社の関係(取引内容、役員の兼任など)
  • 親会社との取引の内容
  • 取引の種類別の取引金額
  • 取引条件および取引条件の決定方針
  • 取引の債権・債務の当該事業年度の期末残高(主な項目別)
  • 取引条件の変更があったこと、変更内容、当該変更による計算書類への影響

 「重要な取引」の重要性判断については、上記4-1の企業会計基準適用指針第13号「関連当事者の開示に関する会計基準の適用指針」15項~18項、20項を参考に判断するものとされています(日本経済団体連合会 経済法規委員会企画部会「会社法施行規則及び会社計算規則による株式会社の各種書類のひな型(改訂版)」68頁(2016年3月9日))。

事業報告

 上記4-2により、連結計算書類の注記として記載する必要のある親会社との取引について、事業報告に以下の各事項を記載する必要があります(会社法施行規則118条5号)。事業報告上の記載箇所は、「重要な親会社および子会社の状況」の一項目として記載することも考えられます(日本経済団体連合会経済法規委員会企画部会・前掲42頁)。

記載する項目 具体的な記載内容
親会社との取引をするにあたり、A社の利益を害さないように留意した事項(当該事項がない場合は、その旨) 当該親会社との取引と類似の取引を第三者とも行っている場合には、同等の取引条件であることを確認した旨を記載することが考えられます。
他に類似の取引が存在しない場合には、独立した第三者同士の間の類似の取引と同等の取引条件であることを確認した旨、または、独立した第三者機関から取引条件が適正であるとの確認を得た旨を記載することが考えられます(坂本三郎ほか「会社法施行規則等の一部を改正する省令の解説〔Ⅲ〕」旬刊商事法務2062号39頁(2015))。
親会社との取引がA社の利益を害さないかどうかに関するA社の取締役会の判断およびその理由 取締役会の決議による判断および当該判断の理由を、当該決議の審議過程に即して記載する必要があります。
決議の方法としては、個別に取引の時点で行うことまでは求められず、取引の類型ごとに包括的に判断すること、当該内容が記載された事業報告・その事業報告書の承認をもって取締役会の判断とすることも認められています。また、上記の「A社の利益を害さないように留意した事項」を取締役会の判断の理由の一部として記載することも可能です(坂本ほか・前掲39〜40頁)。
取締役会の上記判断が社外取締役の意見と異なる場合はその意見 実務的には、通常、社外取締役は取締役や取締役会の判断に賛成しない場合は、その理由も含めて意見を述べることが多いところ、その場合には当該理由も含めた社外取締役の意見を記載することが考えられます(坂本ほか・前掲39頁)。

監査役会の監査報告

 監査報告に、上記4-3の記載事項についての監査役会の意見を記載する必要があります(会社法施行規則129条1項6号)。当該意見の内容としては、上記4-3の記載事項が適正に表示されているか(取締役会の判断およびその理由が正しく記載されているかなど)に限らず、親会社との取引条件についての意見も含まれます(坂本ほか・前掲39頁)。

支配株主等に関する事項についての開示

 上場会社は、事業年度経過後3か月以内に、支配株主等(親会社も含まれる)に関する事項を開示することが義務付けられており(有価証券上場規程411条1項)、支配株主等との取引についても記載する必要があります(有価証券上場規程施行規則412条5項)。

 具体的には、「関連当事者との取引に関する注記」(連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則15条の4の2)のうち支配株主等との取引を記載する必要がありますが、決算短信(有価証券報告書)に記載している当該注記を参照する旨を記載することでも足りるとされています(東京証券取引所上場部編『会社情報適時開示ガイドブック〔2017年3月版〕』517頁(東京証券取引所、2017))。

B社との重要な取引等にあたっての遵守事項

 上場会社が、支配株主(親会社も含まれる)が関連する「重要な取引等」を行うことを決定する場合、当該決定が少数株主にとって不利益なものでないことに関して、当該支配株主との間に利害関係を有しない者による意見の入手を行うほか、必要かつ十分な適時開示を行うことが義務付けられます(有価証券上場規程441条の2、有価証券上場規程施行規則436条の3)。

 具体的には、重要な取引等を決定する日までに、支配株主と利害関係のない社外取締役や社外監査役から、取引等の目的、交渉過程の手続、対価の公正性、上場会社の企業価値向上等の観点から総合的に検討を行ったうえで、当該決定が少数株主にとって不利益でないことに言及する内容の意見を取得することが考えられます(東京証券取引所上場部編・前掲652頁)。

 また、支配株主との重要な取引等に関する適時開示資料に、上記意見の概要を記載する必要があります。

 上記手続が必要となる「重要な取引等」には、上場会社が適時開示を行うべき一定の決定事実が該当するとされています(有価証券上場規程441条の2)。

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