アラブ首長国連邦(UAE)進出の法務

第1回 外資規制と進出形態

国際取引・海外進出

 アラブ首長国連邦(UAE)は、近年、観光で注目されることが多くなっていますが、ビジネスにおいても日本との結びつきがますます強まっており、中東・アフリカ進出の重要な拠点となっています。
 筆者は本記事の執筆現在(2016年5月)、ドバイにある法律事務所Apex Juris Advocates & Legal Consultantsにおいて勤務しており、外資企業のUAE進出、仲裁、コーポレート等の案件に関与しています。種々の案件に関与する中で、文字になっている情報と実務の運用が異なっているという声をよく耳にします。
 本記事では、UAEの地理的・経済的な概要を説明したうえで、ビジネスとしてUAE進出を検討する際の手掛かりとして、その外資規制と進出形態について解説をいたします。

UAEの概要

総論

 UAEはアラビア半島に位置しており、アブダビ、ドバイを中心とする七つの首長国からなる連邦国家で、1971年に成立しました。国土は83,600㎢(北海道と同程度)で、人口は約950万人です。
 国教はイスラム教であり、主要な言語はアラビア語ですが、国の人口の約9割が外国人と言われ、実際には多様な宗教を信仰する人々で構成されており、また共通語は英語となっています。
 中東に位置することから治安面が心配されることがありますが、UAEの治安は極めてよく、現地で生活していても治安面での不安を感じることはありません。

経済面の特徴は

 UAEのGDPは約4,000億ドルで、成長率は4.57%です。貿易量は、輸出額が3,750億ドル、輸入額が2,500億ドルで、輸出超過となっています(2014年)(参考:国連貿易開発会議HP)。
 日本との関係では、輸出額が23,520百万ドル、輸入が8,697百万ドルと、やはり大幅な輸出超過となっています(2015年)(参考:ジェトロHP「ドル建て貿易概況」)。UAEから日本へは主として原油が輸出され、日本からは自動車を中心に、鉄鋼、電気製品などが多く輸入されています。

日系企業の進出状況は

 2014年10月現在、日系企業はUAE全体で305社(前年比+11.7%)(ドバイ首長国及び北部首長国に257社(前年比+14.2%)、アブダビ首長国に48社(前年比±0%))が進出をしています(参考:外務省「海外在留邦人数調査統計(平成27年要約版)」)。業種別では、製造業が108社で一番多く、次いで卸売・小売業の84社、建設業の18社となっています。
 また、同調査統計によると、UAEには現在約3500人の日本人が住んでおり、日本人コミュニティも非常に充実しています。

今後の予測

 アブダビやドバイなどの都市部においては、現在も街の至るところで開発が進んでいます。世界的な経済不況の影響もあって2009年に落ち込んだGDPも翌年から回復傾向にあり、2015年には再度若干落ち込んだものの、2016年以降のGDPは当面右肩上がりになるものと予測されています(参考:国際通貨基金「World Economic Outlook Database, October 2015」)。
 また、ドバイにおいては、2020年に万国博覧会が開催されることが決定しており、今後も更なる発展が期待されます。

UAE進出の際の視点

 では、なぜUAEに進出する企業が増えているのでしょうか。UAE進出の際の視点として、①中東・アフリカへのビジネス展開における拠点としての利用②UAE内地におけるビジネスの展開、という二点を指摘することができます。
 UAEの中でもドバイは古くから中継貿易港として発展してきた経緯があり、1980年代以降は、外国投資に対しさまざまな優遇措置を講じる「フリーゾーン」を多数設置して、中東・アフリカ進出の拠点として多くの外資企業を誘致してきました。現在UAE内のフリーゾーンの数は30を超えています。日系企業についても、中東・アフリカ進出の拠点としてUAEに拠点を設置しているケースが多くなっています。
 他方、UAE内地において商品を販売することを目的としたり、市場調査をすることを目的としたりするなど、フリーゾーン以外のエリアに現地法人・支店・駐在員事務所を設立するというケースも見られます。
 外資規制や進出形態、留意点について、以下順に説明をいたします。   

外資規制はどのような内容か

 UAEの外資規制については、フリーゾーンとそれ以外の内地で異なった規制となっています。フリーゾーンにおいては、外国資本100%の法人の設立が認められており、外資企業にとっては非常に進出がしやすくなっています。他方、UAE内地に関しては、外資企業は出資の上限が原則49%とされており、形式的には外資企業は支配権を有することができません。しかしながら、後述のとおり、外資企業が実質的に支配権を有することができる実務運用がなされています。

フリーゾーン

 フリーゾーンへの進出の場合、100%の出資が認められます。

UAE内地

 後述の商事代理店等の特定の業種以外は、外国資本の参入自体は広く認められていますが、外資企業がよく利用するLLCの形態については、上限49%の出資しか認められていません。

進出形態

フリーゾーンへの進出

3つのオプション

 業務内容、場所、施設等を勘案して、どのフリーゾーンに進出するかを選択します。フリーゾーンごとに選択できる形態の種類は異なりますが、主として、フリーゾーンエスタブリッシュメント(以下「FZE」といいます)、フリーゾーンカンパニー(以下「FZC」といいます)1および支店の3つのオプションがあります。なお、ジュベルアリフリーゾーン等いくつかのフリーゾーンにおいてはオフショアカンパニー2という選択肢もあります。

FZE/FZCの設立手続

 FZE/FZCの設立手続はフリーゾーンごとに異なりますが、おおむね以下の3つのステップが必要です。手続が完了するのに、1か月~3か月程度の期間を要します。

  1. 法人形態、ライセンスの種類、会社名の選択
  2. フリーゾーン当局への承認申請
  3. フリーゾーン当局から承認及びライセンスの取得

商事代理店法の規制

 なお、FZE/FZCの設立に関連して、商事代理店法(1981年連邦法No.18)による規制に留意する必要があります。FZE/FZCは直接UAE内地に商品の販売をすることができません
 そこで、UAE内地に商品を販売するためには、商事代理店(UAE国民/UAE国民100%保有の法人)と代理店契約をする必要があるのですが、この代理店契約は経済省に登録することが義務付けられており(同3条)、この登録によって、当該商事代理店に、独占権(同5条)や手数料請求権(同7条)等が付与されます
 いったん登録されると、正当な理由がない限り、契約の解消はできません(同8条)。また、この正当な理由に関しても、厳格な運用がなされているのが実情です。
 不要なリスクを回避するためには、まずは信頼のできる商事代理店の選択が重要です。また、代理店契約において商事代理店の義務を明確にしておいたり、首長国ごとに異なる商事代理店と契約をしてリスクを低減させたりすることも有益であると考えられます。実務的には、独占権等の発生を防ぐため、経済省への登録をしないケースも見られます。
  進出に際して、安易に代理店契約を締結すると後々予想外のトラブルに直面する可能性がありますので、慎重な対応が必要です

UAE内地における法人の設立

 現在のUAE商事会社法(2015年連邦法No.2)3上、一般組合限定組合有限責任会社(LLC)公開株式会社非公開株式会社の5つの法人形態が認められています。
 また、UAE民事取引法(1985年連邦法NO.5)上、役務会社や投資事業組合などの形態が認められています。

外資企業が利用しやすいのはLLC

 このうち、一般組合および限定組合はUAE国民のみがパートナーとなれること、公開株式会社は多数の株主が存在することを想定しているものであること、非公開株式会社は日本円にして1億円以上の資本金を必要とする(同256条)こと等から、外資企業が進出する際にはLLCが利用されることが多くなっています4。UAEに進出している日系企業のうち、30社程度がLLCの形態をとっているものと考えられます5

LLCの設立手続

 LLCの設立手続の概要は以下の通りです。手続が完了するのに3か月~6か月程度の期間を要します。

  1. 法人形態、ライセンス、会社名の種類の選択
  2. 関連当局への承認申請
  3. 関連当局から承認及びライセンスの取得

LLCの外資規制・株主間契約・利益分配

 LLCにおいては、外資企業は原則上限49%の出資しか認められていませんが(同10条)、実務的には、パートナーとなるUAE国民の選択の際に、適切なパートナーを見つけることによって6、将来の紛争のリスクを抑えることが有益です。
 これに加えて、当該パートナーとの間で株主間契約を締結し、実際には外資企業が経営権をコントロールできるような定めをする等の工夫が必要となります。たとえば、取締役の多数を少数株主である外資企業が選任できるようにする条項や拒否権に関する条項を入れることが考えられます。
 また、LLCの利益分配についても、検討が必要です。外資企業は49%が出資の上限ですが、定款によって例えば外資企業が80%の利益配分を受けるとする定めが可能であり、実際に外資企業の利益配分率を高く設定しているケースはよく見られます。
 さらに、株主間契約において、外資企業(もしくはその関連会社)に当該LLCのマネジメントを委託するとの条項を入れ、売り上げのうち大半が、マネジメント料として当該外資企業(もしくはその関連会社)に入るようにする条項を入れるというケースもあります。これにより、利益からマネジメント料が差し引かれた金額を分配することとなるため、定款に規定された利益分配比率とは無関係に、外資企業(もしくはその関連会社)に金銭が分配されることになります。

UAE内地における支店・駐在員事務所の設置

 このほか、外資企業の支店や駐在員事務所をUAE内地に設置するという選択肢もあります。

支店の設置手続

 外国会社がUAE内地に支店を設置する場合、関連当局での申請および経済省での登録が必要となります(同330条)。支店においては、外国会社の目的と同様の業務を行うことが可能ですが、実際には、当局の承認内容によって実施可能な業務は異なります。

駐在員事務所の設置手続

 駐在員事務所の場合、支店と同様、関連当局での申請および経済省での登録が必要となります(同330条)。一切の商業活動を行うことは禁止されており、可能な業務は市場調査等に限定されています(同332条)。また、ビザを発行することのできる人数も支店に比べ少なくなっています。  

その他の必要手続

 支店・駐在人事務所のいずれの場合も、ライセンスの取得が必要であり(同328条)、また、UAE国民または100%UAE国民の保有する法人をローカルサービスエージェント(スポンサー)として指名する必要があります(同329条)。このスポンサーは主に行政手続について、外国会社を代理して手続を行います。

各進出形態の比較

 上記で検討した進出形態を表にすると、以下の通りとなります。

外資規制 メリット デメリット
FZE/FZC ・100%の出資が可能 ・最低50年間は法人税の課税がない
・関税の課税がない(UAE内地に持ち込むと課税)
・UAE内地への販売が不可(商事代理店の利用が必要)
・フリーゾーンによっては、選択できる業種が限定される
LLC ・上限49%の規制 ・UAE内地への直接の商品販売が可能 ・51%以上を保有する現地パートナーとの間でトラブルになる潜在的リスク
支店・駐在員事務所 ・外資企業と同一の主体 ・手続が比較的容易 ・可能な業務範囲が限定されている
・スポンサーとの契約が必要

専門家の利用

 冒頭で述べた通り、UAEにおいては、文字になっている情報と実際の運用が異なるということがよく起こります。アラビア語でしか入手できない情報もありますし、そもそも公の文書にすらなっていない事実上のルールも存在します。そこで、進出に際しては、現地の専門家を利用することが有用です。
 ただし、現地の専門家にサポートを依頼する場合には、注意が必要です。ドバイ進出支援を行う企業と、進出企業との間でトラブルになるケース(参考:ジェトロHP)も見られるようで、大使館/領事館、ジェトロ、銀行、法律事務所等の信頼できる筋からの紹介を受ける/情報を取得する等の慎重な対応をすることが望ましいと言えます。
 なお、UAEにおいて賄賂は厳しく制限されており(腐敗認識指数は25位(参考:Corruption Perceptions Index 2014)、中東では最も公務員の腐敗が少ない国となっています。   

おわりに

 UAEはその地理的な位置、整備されたインフラ等の要因から、中東・アフリカへの進出を検討する日系企業にとって、最良の選択肢の一つであるといえます。本記事が、今後ますます発展が期待されるUAEおよび中東・アフリカへの進出を検討される企業の一助となれば幸いです。


  1. 前者は株主が一人であるのに対し、後者は株主が二人以上です。 ↩︎

  2. ライセンスを取得できず、UAE内においては商業活動をすることができません。ホールディングカンパニーなどとして利用されます。 ↩︎

  3. 2015年に施行された新法です。LLCにおける外国資本規制が緩和されることが期待されていましたが、従来通り上限49%という点に変更はありませんでした。 ↩︎

  4. LLCの最低資本金は「会社の目的を達成するため十分な資本金」とされており、個別に判断されます(UAE商事会社法76条)。 ↩︎

  5. 外務省「海外在留邦人数調査統計(平成27年要約版)」によると、UAEに進出する日系企業のうち、34社が「合弁企業」となっているところ、この大半がLLCの形態をとっていると考えられるため。 ↩︎

  6. パートナーの選択にも、後述の専門家のサポートを得ることが有益な場合があります。 ↩︎

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