国際商事仲裁とはどのような制度か

国際取引・海外進出

 日本企業が外国企業と契約を締結する場合に、契約の中に紛争解決条項が定められますが、その際にどちらかの当事者が所在する国の国内裁判所ではなく、仲裁合意という形で国際商事仲裁が利用される場合も多いようです。その国際商事仲裁のメリットや、仲裁合意を結ぶ際の注意点について教えてください。

 国際商事仲裁は、国により信頼度がまちまちな国内裁判所とは異なり、仲裁人の選択から紛争解決手続の一切を当事者が自由に選択でき、手続も多くは非公開で行われるため、公正な判断が期待できる上に紛争が公にならないというメリットがあります。また、仲裁判断はニューヨーク条約により大多数の国で承認・執行可能です。仲裁合意を結ぶ際には、信頼できる仲裁機関と仲裁地を、準拠法と併せて契約で明確に定めることが必要です。

解説

国内裁判所で国際紛争を解決することの問題点

国際裁判管轄という複雑な問題

 まず、異なる国に所在する当事者間で取引が行われ、不幸にして紛争が発生した場合には、契約中に裁判管轄条項が定められていなければ、当事者はどの国の裁判所に訴えを提起するかという、いわゆる国際裁判管轄の複雑な問題に直面します。また、複数の国で競合的に裁判管轄が発生し、両者の判断が矛盾・抵触した場合にどうするかという厄介な問題もあります。
 このように、どこの裁判所に訴訟を提起すればよいかという前提問題の争いを避けるため、通常は 契約中に裁判管轄条項が定められます 。その場合は、契約交渉における当事者間の力関係に応じて、いずれかの国の裁判所が指定されることがあります。もちろん、当事者からすれば、自国の裁判所が指定されたほうが通常は有利になります。

海外の裁判所に管轄があった場合の問題点

 しかし問題なのは、国によっては裁判制度が未熟であり、裁判官が公平な判断をするとは限らず、または裁判が非常に遅いために適時に紛争を解決できないリスクが高いということです。とりわけ、新興国では裁判所が現地企業寄りの偏った判断をすることが多く、裁判官の汚職も横行しています。
 他方で、日本の裁判所(たとえば東京地方裁判所)を合意できれば、日本企業にとっては有利ですが、手続は全て日本語で行われるため、よほど日本企業の交渉力が強くない限り、外国企業はこれを受け入れないでしょう。
 また、仮に日本の裁判所を管轄できたとしても、日本の裁判は手続が原則として公開されるため、訴訟提起の場合には紛争の内容が世間に知れることになり、日本企業としてはレピュテーションリスクにつながります。
 さらに、日本の裁判所が下した判決を外国で執行する場合には、現地の裁判所で承認・執行の手続を経る必要がありますが、この承認・執行がスムーズに進まないことがあります。  

国内裁判所に代わる紛争解決手段としての国際商事仲裁

国際商事仲裁とは

 以上のように、国際商取引において国内裁判所を用いるというのでは、様々な不便が生じるおそれがあります。
 そこで、国内裁判所に代わる紛争解決手段として、国際商事仲裁という選択肢があるのです。国際商事仲裁には、仲裁機関 の助力の下で仲裁機関があらかじめ定めた手続にのっとって行う機関仲裁と、当事者が仲裁機関を頼らずに自ら手続を合意して進めるアドホック仲裁があります。

 このうち、手続の予測可能性という観点からは、機関仲裁が選択されることが多いということもあり、ここでは主として前者の機関仲裁について解説します。

 また、仲裁を行う各国では仲裁法に相当する法令があり、仲裁手続はこれに服することになりますが、国際連合国際商取引法委員会(UNCITRAL)が定めた「UNCITRAL国際商事仲裁モデル法」におおむね準拠しているため、日本の仲裁法も含め、各国で主要な部分は平仄が取れています。

主な仲裁機関

 仲裁機関として有名なものとして、以下の様なものがああります。

国際的な仲裁機関

  • 国際商業会議所・国際仲裁裁判所(Court of International Arbitration of ICC)
  • ロンドン国際仲裁裁判所(London Court of International Arbitration, LCIA)
  • 米国仲裁協会・紛争解決国際センター(American Arbitration Association, AAA, International Center for Dispute Resolution)
  • シンガポール国際仲裁センター(Singapore International Arbitration Centre, SIAC)

日本の仲裁機関

  • 日本商事仲裁協会(Japan Commercial Arbitration Association, JCAA)

 これらは手続管理費用等に差こそあれ、一般的に有名で信頼度が高い仲裁機関と考えられており、これらのいずれかを仲裁機関として定めておけば概ね安心です。

仲裁条項の必要性と規定すべき内容

 もっとも、仲裁は訴訟と異なり、当事者がその選択により合意してはじめて管轄権が生じるため、 契約においてあらかじめ仲裁条項を規定しておく必要があります 。紛争が開始してから仲裁合意を結ぶことも制度上は不可能ではありませんが、現実的には難しい場合が多いです。

 その仲裁条項では、機関仲裁であれば仲裁機関(適用される仲裁規則)のほか、仲裁が行われる都市名を明確に特定します。その他、仲裁人の人数や手続において使用される言語まで仲裁条項の中で定める場合もあります。
 この仲裁条項は、各仲裁機関がモデル条項例を公開しており、これを容易に用いることができます。もっとも、個別具体的な事情によってはモデル条項例をそのまま用いるのは適切でない場合もあり、仲裁が行われる国によっては、仲裁条項のワーディングに工夫が必要であったりする場合もありますので、注意が必要です。  

国際商事仲裁のメリット

判断主体・手続に要する時間

 まず、国際商事仲裁では、当事者が自らの主導で仲裁人を指定できる場合が多いため、とりわけ新興国の裁判所のように偏頗な裁判を受けるリスクが格段に下がるというメリットがあります。また、紛争の内容によっては判断を下す仲裁人に専門知識を要する場合もありますが、当事者がその分野の専門家を仲裁人として選任することにより、より適切な判断を得ることができます。これに加え、仲裁手続は通常は一審限りなので、訴訟に比べて短時間で紛争解決に至ることができます。   

非公開手続・手続の柔軟性

 次に、国内裁判所での訴訟と異なり、手続は非公開で行われる場合が多いため、紛争の存在自体が公にならずに済むというメリットもあります。
 また、手続面での柔軟性というのも利点として挙げられ、たとえば関係者が世界各地に散らばっているような場合に、特定の場所に一堂に会する必要は必ずしもなく、審問(証人尋問)を異なる地で行うという柔軟な対応も可能です。

執行可能性

 そして、仲裁判断は、外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約(いわゆるニューヨーク条約)によりほとんどの国で承認・執行が可能ですので、その強制執行を行う国の法令により執行拒絶事由等に該当しない限り、勝訴当事者は仲裁判断により認められた請求権を比較的容易に実現できることになります。また、国際商事仲裁は、当事者間で自主的に選択された紛争解決手段であるため、強制執行手続を経るまでもなく、敗訴当事者は任意に仲裁判断に従うことが多いようです。   

国際商事仲裁のデメリット

費用の問題

 まず、費用の問題が挙げられます。国内裁判所の裁判官の報酬や施設使用料等は、その国の公費で賄われるのが通常でしょうが、国際商事仲裁は仲裁人そのものを当事者が選任し、当事者が選んだ場所で手続を行うため、これらに要する費用は当事者の負担となります。また、仲裁機関に手続を管理してもらうための費用もかかります。
 そのため、相当な費用を負担してもコスト倒れにならないよう、請求額が大きい事件において国際商事仲裁を利用する傾向が強いといえます。

当事者の合意を要する

 その他、そもそもの究極的な問題として、仲裁というのは前述のとおり、当事者双方が仲裁に服することを合意してはじめて利用できるものであるため、いずれかの当事者でも契約の紛争解決条項において仲裁合意を拒否すれば、国際商事仲裁は事実上利用できないという点が挙げられます。その場合は、原則どおり、当事者は国内裁判所に訴訟を提起することになります。

準拠法をめぐる問題

 これまで検討した仲裁合意というのは、どの紛争解決機関を用いるかという問題ですが、それ以前に準拠法(どの国の法令に基づいて紛争の内容である民事的な法律関係を判断するか)の定めも同時に問題となります。

原則は日本法準拠とすべき

 一般的には、日本企業が当事者となる契約では、準拠法は日本法とすることを優先的に考えたほうがよいといえるでしょう。その理由として、まず当然のことながら日本企業にとって最も馴染みのある法令であり、その効果について予測可能性が高いという点が挙げられます。また、国際商事仲裁において仲裁人を選任する場合にも、仲裁人はその契約の準拠法に通じた法律家でないと適切な判断ができないため、日本法が準拠法であれば、日本の法律家が仲裁人として選任される可能性が高くなります。  

仲裁地と準拠法における交渉戦略

 もっとも、契約の相手方となる外国企業にとっても同様のことがいえるため、交渉上の力関係によっては、日本企業側がある程度譲歩せざるを得ない場合もあるでしょう。その場合でも、たとえば仲裁地を相手方の地に譲るという譲歩のバーターとして、準拠法のほうを死守するという交渉戦略が有効な場合もあります。

第三国法を準拠法と選ぶことも

 また、折衷的な解決策として、信頼できる仲裁機関のある第三国の法を準拠法と定めることも比較的多く見られます。たとえば、日本企業とモンゴル企業の契約で、シンガポール法を準拠法とし、シンガポール国際仲裁センター(Singapore International Arbitration Centre, SIAC)を仲裁機関に指定するような場合です。

コンテンツの更新情報、法改正、重要判例をもう見逃さない!メールマガジン配信中!無料会員登録はこちらから
  • facebook
  • Twitter

関連する特集