移転価格税制の内容と対応するための準備

国際取引・海外進出
大牟田 啓弁護士

 当社は、海外の子会社に当社が所有する特許権の使用許諾を与えて特許使用料を受領することを検討していますが、移転価格税制という税制が問題になることがあると聞きました。
 移転価格税制とは、どのような税制でしょうか。また、移転価格税制に対応するために、取引の準備段階でどのような準備をすることが考えられますか。

 移転価格税制とは、海外の関連企業との取引価格が第三者間の取引価格と異なると認められる場合に、それらの取引が第三者間の取引価格で行われたものとみなして課税される税制です。
 事前準備としては、設定した取引価格が第三者間の取引価格であることを合理的に説明するための文書の作成・準備を行うことが有用です。
 また、取引の規模等によっては、取引価格について事前に課税当局の承認を得る事前確認制度(APA)を利用することが考えられます。

解説

注:本Q&Aでは、日本国における移転価格税制に限定して解説しています。実際の取引では、取引の相手国における移転価格税制に相当する税制の定めにも留意しつつ、取引価格の設定等の検討を行う必要があることにご注意ください。

移転価格税制の概要

移転価格税制の目的と仕組み

 「移転価格税制」は、海外の関連企業との取引を通じた所得移転を防止し、適正な国際課税の実現を図る観点から導入された税制です。
 具体的には、法人が国外関連者と行う取引の価格が独立企業間価格と異なると認められる場合に、それらの取引が独立企業間価格で行われたものとみなして課税されるものです(租税特別措置法66条の4第1項)。

移転価格税制の対象

 移転価格税制の対象となる取引は、法人が国外関連者と行う取引です。
 「国外関連者」とは、法人との間に①持株関係、②実質的支配関係、③持株関係と実質的支配関係が連鎖する関係、のいずれかの関係がある外国法人をいいます(租税特別措置法施行令39条の12第1項各号)。
 対象となる取引の種類は、商品のような棚卸資産の譲渡に限られず、設例のような無形資産の使用許諾や役務の提供も含まれます。

独立企業間価格の算定方法

 「独立企業間価格」とは、当該取引が独立の事業者の間で通常の取引の条件に従って行われるとした場合に当該取引につき支払われるべき額として一定の方法により算定された価格をいいます(租税特別措置法66条の4第2項柱書)。
 独立企業間価格の算定方法としては、棚卸資産の販売または購入の場合に適用される以下の3つの基本的な方法が法律に定められており、一般に「基本3法」と呼ばれています。

①独立価格比準法

独立価格比準法

②再販売価格基準法

再販売価格基準法

③原価基準法

原価基準法

 設例のような無形資産の使用許諾については、基本3法と同等の方法に加えて、以下の2つの算定方法のいずれかによることも認められています。

④利益分割法

利益分割法

⑤取引単位営業利益法と同等の方法

取引単位営業利益法と同等の方法

 ④の利益分割法では、取引形態に応じて、利益の発生に寄与した程度を合理的な要因から算定して利益を分割することになりますが、国税庁の通達によれば、無形資産に関する取引については、法人または国外関連者の無形資産の形成に係る活動、機能等や貢献の程度、費用の負担およびリスクの管理等を総合的に勘案して移転価格税制上の問題の有無を検討するものとされています(国税庁「移転価格事務運営要領の制定について(事務運営指針)」2-11,2-12)。

 取引単位営業利益法については、価格またはグロス・マージン率以外の要因に影響を受ける計算方法であり、安易な適用はすべきでないとの考え方(2010年版OECD移転価格ガイドライン3.39)も示されているところであることから、他の算定方法によることが困難である場合に適用するなどの慎重な検討が必要です。

推定課税と文書化

 課税当局は、移転価格に関して、納税者が課税当局からの資料提出要求に対して独立企業間価格を算定するために必要な書類等を提示しなかった場合には、推定課税をすることができるものとされています(租税特別措置法66条の4第6項)。

 これに対して、納税者が書類等を提出した場合には、課税当局は推定課税を行うことができず、納税者が採用している移転価格算定方法や独立企業間価格が妥当でないことを立証しなければ、更正による課税を行うことができないと解されています。

 このように、課税当局からの資料提出要求に備えて独立企業間価格の算定に関する書類等を準備しておくことを、移転価格税制において一般に「文書化」といいます。文書化しておくべき書類としては、例えば以下のようなものがあります(租税特別措置法施行規則22条の10第1項、2項)。

  • 契約書または契約の内容を記載した書類
  • 取引に係る資産の明細および役務の内容を記載した書類
  • 取引における取引当事者の機能およびリスクに係る事項を記載した書類
  • 価格設定の方法および当該設定に係る交渉の内容を記載した書類
  • 法人および国外関連者の当該取引に係る損益の明細を記載した書類
  • 取引と密接に関連する他の取引の有無およびその内容を記載した書類
  • 利益分割法を選定した場合における独立企業間価格を算出するための書類

 文書化においては、契約書その他の書類等において、独立企業間価格の算定方法および独立企業間価格算定の基礎となる情報を明確化しておくことが重要です。
 特に、設例のような無形資産の使用許諾について利益分割法の採用を検討する場合には、独立企業間価格算定の基礎として、取引当事者の無形資産の形成等に関する各当事者の活動や費用の負担およびリスクの管理等が勘案されることになりますから、これらの事項を契約書の作成の段階から明確に取り決め、文書化しておくことが重要になります。

 なお、平成28年度税制改正により、連結総収入金額1,000億円以上の多国籍企業グループの構成会社等である内国法人は、平成28年4月1日以後に開始する会計年度から、一定の事項を課税当局に報告する義務を負うことがありますので、合わせて注意が必要です。

事前確認制度(APA)

 文書化を十分にしていたとしても、課税当局と独立企業間価格についての見解が食い違うことにより課税されるリスクは残ります。
 そこで、予測可能性を高める手段として、納税者が予め採用したい独立企業間価格の算定方法等を、算定根拠資料を含む資料等を添付して課税当局に申し出ることで、課税当局に相当と認められた場合には確認を受けられる制度が設けられており、「事前確認制度(Advance Pricing Agreement, APA)」と呼ばれています。
 確認を受けた場合には、確認を受けた条件で取引を行う限り、課税当局から課税を受ける恐れがほぼなくなるメリットがあります(国税庁「移転価格事務運営要領の制定について(事務運営指針)」5-16。)。

 事前確認制度には、日本の課税当局のみの確認を求める方法(ユニラテラルAPA)と、取引の相手国との二国間での相互協議を通じて両国での確認を求める方法(バイラテラルAPA)があります。
 バイラテラルAPAでは相手国における課税リスクも低減することができますが、手続が長期化する傾向があり、平均して2年程度を要します(22.2か月(平成26事務年度実績)。国税庁ホームページ「平成26事務年度の「相互協議の状況」について」より)。

 また、現実にバイラテラルAPAの相互協議を行っている国・地域の数も平成27年6月末時点で23か国・地域(前掲「平成26事務年度の「相互協議の状況」について」より)と限られているため、利用には制約があります。

まとめ

  1. 移転価格税制は国外関連者との取引を対象とする税制であり、棚卸資産の譲渡に限られず、無形資産の使用許諾等も対象となります。取引価格が独立第三者間価格と異なる場合には、移転価格税制により課税を受ける可能性があります。独立第三者価格の算定方法としては、独立価格比準法等、複数の方法があります。

  2. 法人が採用する独立企業間価格の合理性を説明することができるよう、十分な文書化を行っておく必要があります。文書化にあたっては、取引に関する活動や費用の分担、リスク管理等についても予め明確に取り決めておく必要があります。一定の場合には、文書の提出が義務付けられることがあります。

  3. 移転価格税制による課税リスクを事前に低減する方法としては、事前確認制度を利用する方法があります。事前確認制度には、日本の課税当局のみの確認を求める方法と、取引の相手国も含めた多国間での確認を求める方法があります。
コンテンツの更新情報、法改正、重要判例をもう見逃さない!メールマガジン配信中!無料会員登録はこちらから
  • facebook
  • Twitter

関連する特集