中国企業との契約における準拠法と紛争解決条項のポイント

国際取引・海外進出

 当社(日本企業)は中国の企業から製品の発注を受け中国向けに販売しようとしています。中国企業との製品売買契約では、準拠法や紛争解決条項についてどのように定めればよいでしょうか。売買契約以外の契約類型も含めて教えてください。

 中国企業との間の契約では、原則として、自由に準拠法や紛争解決条項(仲裁条項または裁判管轄条項)を選択することができます。実際には、バーゲニングパワーの違い(交渉上の立場の差)により、①中国法準拠・中国の仲裁機関、②第三国/地域(香港やシンガポール等)の法準拠・第三国/地域の仲裁機関、③日本法準拠・日本の仲裁機関のいずれかの形で選択されることが比較的多いといえます。紛争解決条項に関しては、中国の裁判所での紛争解決条項を選ぶ方法もありますが、通常は仲裁条項を選択することが望ましいといえます。中外合弁契約等では、中国法を準拠法として指定することが強制されますが、この場合でも紛争解決地は中国以外の仲裁機関を選択することは可能です。

解説

準拠法の選択

日本企業と中国企業との間のクロスボーダー契約の場合

 中国において、日本企業と中国企業との間の契約で中国法を準拠法とすることが強制される契約といえば合弁契約や合作契約等に限定されており、当事者は基本的に準拠法を自由に選択できます。ただ、中国企業も、日本企業と同様に自国法を準拠法とするよう強く求めることが多く、交渉上、香港やシンガポール等の判例の蓄積のある第三国/地域を落としどころとして交渉を行うことがあります。

 参照:「中国における合弁事業のメリット・デメリットと失敗対策

 では、最終的な落としどころとして、中国法を準拠法とすることの是非はどのように考えるべきでしょうか。まず、中国の民法や契約法はそれ自体が外国企業に不利な内容を規定していることはなく(あればWTO協定違反となり得ます)、日本法であっても、第三国法であっても双方にとって通常はニュートラルです。論点ごとに結果として有利不利は生じうるとしても、どの論点が紛争となるかは契約締結時には読めないことが多いといえます。

 しかし、筆者の個人的な意見としては、それでも安易に準拠法を交渉上の捨て駒とはせず、日本企業としては第三国法や日本法にこだわった交渉をするとよいと考えています。なぜなら、中国では最近は徐々に改善しつつあるものの未だに裁判例の蓄積に乏しく、さらにそもそも論として裁判官が裁判例を尊重する姿勢に欧米日との間で決定的な違いがあるからです。そのため、中国法準拠の場合、紛争解決地を問わず、判断の指針が相対的に不足し、訴訟・仲裁になった場合の結果の予測可能性が低くなります。

 また、準拠法条項について譲歩する場合には次に述べる紛争解決地も合わせて中国とする譲歩を行うことも多いと思いますが、裁判官がどの程度裁判例を参照して判断をするのかという点においては、裁判例の蓄積のある国に比して中国は未だに発展途上にあり、結果として、裁判官による判断の安定性が現時点においても日本等に比して劣っているように感じます。この点の見解は人により異なるとは思いますが、多くの不合理と思われる判決を見てきた経験に基づけば、やはり準拠法条項は「交渉上他の条文で譲歩を引き出すための捨て駒」扱いはするべきではないと考えます。

 準拠法を最終契約において中国法にしないための手段ですが、中国企業側が準拠法に対してそれほど留意しない交渉の初期の段階のNDAの段階から日本法や第三国法を指定しておけば、その後のMOUやLOI、さらには最終契約においても日本法や第三国法を準拠法とできる理屈が立ちやすいと言えます。

【準拠法の選択のメリット・デメリット】

準拠法 メリット デメリット
中国法 相手方に受け入れやすい。交渉は進みやすい。 訴訟・仲裁になった場合の判断の予測可能性・安定性の面で日本法、第三国法と比べて相対的に劣る(紛争解決地が中国国外でも同様)。
日本法 日本企業にとっては身近で、紛争になった場合でも結論がわかりやすい。 相手方には馴染みがなく受け入れられにくい。
第三国法
(シンガポール、香港等)
公平。判例の蓄積のある国・地域であれば、訴訟・仲裁になった場合の判断の安定性が相対的に高い。 紛争解決コストが高くなる傾向にある。

日系の現地法人と中国企業との間の国内契約の場合

 日系の現地法人が中国企業と締結する国内契約では、原則として中国法を準拠法とせざるを得ません。中国では「渉外契約の当事者は・・・契約の紛争処理に適用する法律を選択できる」とされており、裏を返せば「渉外契約」でなければ外国法を準拠法とすることはできないとされています(中華人民共和国民法通則145条1項)。

 「渉外契約」の概念は曖昧ですが、最高人民法院の司法解釈では、契約の一方または双方が外国法人である場合、民事関係の目的物が外国にある場合、権利義務の発生・変更・消滅の法律事実が外国で発生した場合がこれにあたるとされており(民法通則の徹底的執行に関する若干問題意見178条)、このような場合でなければ外国法を準拠法としては選択できないものと考えられます。

紛争解決条項の選択

日本企業と中国企業との間のクロスボーダー契約の場合

 契約においては、仲裁条項/裁判管轄条項のいずれを選択するのか、紛争解決地をどこにするのかについて決めることが必要です。この点、準拠法と異なり、紛争解決地を中国にしなければならないという契約類型は基本的にありません(中外合弁契約の仲裁条項でも、国外の仲裁機関や裁判所を指定することが可能です)。ただ、何点か注意を要することがあります。

(1)日本や第三国/地域の仲裁を選択した場合の注意点

 まず、日本や第三国/地域の仲裁を選択した場合には、中国での仲裁申し立て前の保全処分の申し立てができないというデメリットがあります。そのようなデメリットがあっても、歴史があり国際的にも定評のある仲裁機関(香港のHong Kong International Arbitration Center: HKIAC、シンガポールのSingapore International Arbitration Centre :SAICなど)や日本企業にとって身近な仲裁機関(Japan Commercial Arbitration Association :JCAA)を選択することは実務上多く存在します。これにはいろいろな理由がありますが、相手方のテリトリーでの紛争解決に対する警戒、中国の仲裁機関に対する100%の信頼感がないこと等があります。

 筆者の個人的な見解として、中国でも歴史があり国際的にも定評を得ているCIETAC(China International Economic and Trade Arbitration Commission、中国国際経済貿易仲裁委員会)や、かつてのCIETAC上海分会であるSHIAC(Shanghai International Economic and Trade Arbitration Commission、上海国際経済貿易仲裁委員会)等であれば取扱件数も多く、特に国際案件では仲裁事案において一定の評価のある仲裁人(3人仲裁の場合には首席仲裁人)が選定されるため、中国の仲裁機関を用いることのデメリットはあまりないと考えています。

(2)裁判管轄条項を定める場合は日本を紛争解決地とするべきではない

 裁判所による判決を前提とする紛争解決条項を定める場合は、日本を紛争解決地とするべきではありません。これは、日本と中国では裁判所の判決が相互に承認されない状態が続いており、日本の裁判所による判決は中国では執行できないからです。第三国を紛争解決地とする場合も、同様に中国と判決が相互に承認されていない可能性があるため、注意が必要です。

(3)中国国内を紛争解決地とする場合の注意点

 中国国内を紛争解決地とする場合に、仲裁条項とするか裁判管轄条項とするかは、一概にいずれがよいとはいえません。個人的には、中国においては、仲裁人は、裁判官より弁護士その他の専門家から選任されることが多く、また、件数が多いため仲裁機関事務局によるスクリーニングがある程度機能しており常識的な判断を期待できる人物にあたる確率が相対的に高いと感じています。

 また、中国の裁判所では、地元の企業に有利な方向にバイアスがかかる(地方保護主義)こともいまだによくあり、この関係でも中国での裁判(特に中国企業の所在地を管轄する裁判所での裁判)は日本企業にとっては不利です。

【紛争解決地ごとの紛争解決条項の是非】

紛争解決地 裁判管轄条項 仲裁条項
中国
日本 ×判決が中国で承認されない。
第三国 △判決が中国で承認されない可能性があるため、要注意。

【中国での仲裁と訴訟のメリット比較】

仲裁のメリット CIETAC、SHAIC等のような著名な仲裁機関であれば相対的に常識的な判断が出やすい(筆者私見)。仲裁判断に対する不服申し立てができないため最終的解決まで早い。
訴訟のメリット 控訴が可能(二審制)であり、誤った判断が出た場合でも救われる余地がある。紛争解決コストは仲裁人の報酬その他費用がかかる仲裁と比して相対的に安価。

日系の現地法人と中国企業との間の国内契約の場合

 日系の現地法人と中国企業との間の契約でも国外の仲裁機関での仲裁を合意できるようであれば、これを望む企業もあると思われます。しかし、最高人民法院は「渉外的要素」のない紛争を国外の仲裁機関での仲裁に付す合意を無効とする考え方を明らかにしています(最高人民法院の北京朝来新生体育休閑有限公司が大韓商事仲裁院の仲裁判断の承認を求めたことに関する回答書([2013]民四他字第64号)より) 。そのため、純粋な国内契約では中国国内の仲裁機関を定める仲裁条項か、裁判管轄条項を定めるしかないのが実情です。なお、CIETACやSHIACは渉外案件のみならず純粋な国内案件も取り扱っており、その実績もあるため、筆者が相談を受けた場合は国内契約でも裁判所よりCIETACやSHIACを指定することをお勧めしています。

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