国際仲裁と訴訟はどこが違うのか

国際取引・海外進出

 最近ニュースでも日本企業が国際仲裁事件の当事者となる事例をよく耳にするようになりました。仲裁とはそもそもどのような制度で、訴訟とはどこが違うのでしょうか。

 仲裁とは、当事者が「紛争の解決を第三者にゆだねる旨の合意およびその判断に従うという合意に基づいて紛争を解決すること」をいいます。訴訟と比べると、国際的に強制執行が容易であること、上訴がないことによる手続の迅速性、手続の柔軟性、手続の非公開といった面に特徴があります。

解説

仲裁の定義

 仲裁とは、当事者が「紛争の解決を第三者にゆだねる旨の合意およびその判断に従うという合意に基づいて紛争を解決すること」をいいます(近藤昌昭他『仲裁法コンメンタール』6頁(商事法務、2003))。

 「仲裁」という言葉を聞くと、いわゆる「喧嘩の仲裁」を連想するかもしれません。しかし、法制度としての仲裁は、仲裁人が、紛争の両当事者の言い分を聞いたうえで、どちらの言い分が正しいかを判断する手続をいいます。そして、仲裁人が下した判断を「仲裁判断」といい、この仲裁判断には裁判所が言い渡した確定判決と同一の効力があるとされています。したがって、紛争の最終的な解決を第三者の判断に委ねるという意味では、仲裁は、むしろ裁判所における訴訟手続と類似した面があります。

 仲裁を利用するためには、仲裁によって紛争を解決することについての当事者間の合意(仲裁合意)が必要です。そして、紛争が発生してからそのような合意をすることは必ずしも容易ではないため、当事者間の契約書の紛争解決条項に、あらかじめ仲裁合意をする旨の規定(仲裁合意条項)を入れておくのが通常です。たとえば、一般社団法人日本商事仲裁協会が推薦する仲裁条項は以下のとおりです。

“この契約から又はこの契約に関連して、当事者の間に生ずることがあるすべての紛争、論争又は意見の相違は、一般社団法人日本商事仲裁協会の商事仲裁規則に従って、(都市名)において仲裁により最終的に解決されるものとする。”

(英文)
“All disputes, controversies or differences which may arise between the parties hereto, out of or in relation to or in connection with this Agreement shall be finally settled by arbitration in (name of city), in accordance with the Commercial Arbitration Rules of The Japan Commercial Arbitration Association.”

仲裁と訴訟の違い

 仲裁と訴訟の具体的な相違点として、以下のような事項があげられます(公益社団法人日本仲裁人協会模擬国際仲裁プロジェクトチーム編著『国際仲裁教材』5頁(信山社、2015)より引用)。

訴訟 仲裁
判決・判断の執行力(国内) あり あり
判決・判断の執行力(国外) 国際的な承認執行のための条約が締結されていない場合が少なくない。また、相互保証が要件とされることもある。 約150の国・地域が加盟しているニューヨーク条約に基づき、外国仲裁判断の承認執行が可能。
手続実施者/手続主宰者 裁判官。
当事者は裁判官を選択できない。
仲裁人。
当事者は仲裁人の選任に関与できる。
言語 各国の訴訟法で指定された言語。 当事者が合意した言語または手続に即して決められた言語。
手続の準則 各国の訴訟法により決められている。 仲裁合意における当事者の合意内容や合意した仲裁規則が適用されるほか、事案に応じて、当事者の意思を反映して仲裁廷が決める。
手続、判決・判断の公開 訴訟手続および判決は、公開が原則。 仲裁手続および仲裁判断は、非公開が原則。
上訴の有無 上訴ができる。 仲裁判断について、訴訟における上訴のような手続は用意されていない。

 たとえば、「判決・判断の執行力」についてみると、訴訟の場合、仮に日本の裁判所で勝訴判決を得たにもかかわらず、相手方が判決に従わないときには強制執行をすることになります。もっとも、国際取引紛争の場合、相手方が所在する国によっては、日本の裁判所で得た判決をその相手方の国で執行できないこともあります。たとえば、中国は、日本の裁判所の判決について承認・執行を認めていません。その他、多くのアジア新興国においては、日本の裁判所の判決について確実な執行は期待できない状況にあります。
 したがって、相手方が日本国内に十分な資産を有しており、海外で強制執行することを考えなくてよいといった事情がない限り、日本の裁判所で紛争を解決すると定めることは執行の観点上問題がある場合が多いといえます。

 しかしながら、このような執行の問題があるからといって、契約書において、相手方が所在する国の裁判所で紛争をすべて解決すると規定することは必ずしもお勧めできません。たとえば、日本企業の立場からすると、(手続言語も含めて)外国の不慣れな訴訟手続に従うことを強制されることになりますし、国によってはそもそも公平・中立な裁判手続を期待できないこともあるからです。

 それでは、仲裁はどうでしょうか。仲裁判断の承認・執行については、「外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約」(ニューヨーク条約)が存在します。ニューヨーク条約は、仲裁合意の無効や手続上の重大な瑕疵など極めて限られた承認・執行拒絶事由に該当しない限り、締約国が外国の仲裁判断の承認・執行を約束するものであり、現在約150か国が締約国となっています。たとえば、中国、タイ、インドネシア、ベトナム、ミャンマーといった国々もすべて締約国に含まれています。

 このように、仲裁判断については、ニューヨーク条約によって執行が確保されていることから、国際取引では一般に訴訟よりも仲裁がポピュラーな紛争解決手段となっています。

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