中国企業から持分の譲渡を受ける場合の注意点

国際取引・海外進出
唐沢 晃平弁護士

 中国で合弁事業を行っていますが、相手方の中国企業から持分の譲渡を受けることを検討しています。持分の譲渡を受けるにあたりどのような点に注意するべきでしょうか。対価については先払いを求められていますが、応じるべきでしょうか。

 日本企業が出資している中外合弁企業について、他の出資者からその合弁会社の持分の譲渡を受ける場合、日本企業の内部手続はもちろん、合弁会社の内部手続(董事会決議や出資者全員の合意の取得等)を経る必要があり、これに加えて、商務部門における届出または審査認可と、工商部門における変更登記手続を経る必要があります。
 独禁法上の事業者結合届出の要否や、国家安全審査制度に基づく届出の要否についても検討を要するポイントです。
 対価の支払については、先払いに応じざるを得ない特段の事情がない限りは、持分譲渡に関する対抗要件となる工商登記の完了後、すなわち、新しい営業許可証の発行後に支払を行うという条件での交渉を試みるべきです。
 なお、中国側の出資者が国有企業で、譲渡を受ける中外合弁企業の持分が国有資産に該当する場合は、国有資産譲渡にかかる法定の手続に従って持分譲渡を実行する必要が生じるため、留意が必要です。

解説

中外合弁企業の持分の譲渡を受けるシチュエーション

 日本企業が合弁パートナーである中国側出資者から中外合弁企業の持分の譲渡を受ける目的として最も典型的なのは、合弁関係の解消手段として持分譲渡を受けるケース(持分の譲受による100%子会社化)であろうと思われますが、出資比率を高くしてより合弁会社への支配を強めるために持分の一部譲渡を依頼するケースや、中国側出資者から資金需要のために持分の一部の譲受を依頼されるケースなど、当然ながら合弁関係の継続を前提とするパターンもあります。

 また、譲渡人たる中国側出資者以外に他の出資者がいるか否か、合弁会社の事業内容が外商投資参入特別管理措置の対象か否か(外商投資産業指導目録2017年版の後半に記載されているネガティブリストに列挙された業種に該当するか否か)、譲渡人たる中国側出資者が民間企業か国有企業か等、様々な要素によって注意すべきポイントもそれぞれ異なってきます。

 よって、ひとえに中外合弁企業の持分の譲渡を受けるケースといっても、そのシチュエーションに応じたケースバイケースの事案分析を行うことが重要になりますが、以下では上記のような様々なケースをなるべく網羅する形で注意点を説明します。

中外合弁企業の持分譲渡の手続

会社の内部手続

 日本企業が中外合弁企業の持分譲渡を受けるためには、その取引の規模等に応じて必要となる日本企業の内部手続(取締役会決議等)を経ることが必要であるのはいうまでもありませんが、合弁会社の内部手続としても、董事会の全会一致の決議および合弁会社の他の出資者全員の同意の取得が必要となります。この点、出資者が三者以上ある合弁の場合は、他の出資者の意向を十分に確認し、譲渡に反対されデッドロック状態に陥らないよう注意する必要があります。

商務部門・工商部門における手続

 中外合弁企業の出資持分の譲渡が行われると、同企業の出資者の変更や出資持分の変更が生じるため、主に以下の2つのステップを経る必要があります。

  1. 商務部門における届出または審査認可
  2. 工商部門における変更登記

 このうち①について、外商投資企業(中外合弁企業や外商独資企業等)の出資者の変更や出資持分の変更については、必ず商務部門の審査認可を経なければ効力が生じませんでしたが、2016年10月に「外商投資企業設立及び変更届出管理暫行弁法」が公布・施行されて以降は、外商投資参入特別管理措置の対象企業以外の外商投資企業に関しては商務部門へは変更事項の届出を行うのみでよいこととされています。なお、外商投資参入特別管理措置の対象企業については引き続き商務部門の審査認可が必要とされています。

 これにより、手続自体は簡易化されましたが、その分外国企業の負担が軽くなったかというとそう単純な話ではありません。たとえば、以前は商務部門の認可を取得できさえすれば基本的に問題なく済んでいた②の手続が慎重化しており、以前より手間と時間がかかることがあります。

 また、2016年10月の法改正によって、商務部門や工商部門の外商投資企業管理実務にも混乱が生じており、地方によっては改正後の法令が予定していない独自の対応が取られている場合もあるため(たとえば、法令上は①の届出と②の登記は先後関係を問わないものとされているにもかかわらず、上海の工商部門においては、①の届出が完了していなければ②の変更登記の申請を受理しないという対応が取られています)、従来以上に商務部門および工商部門に対する慎重な確認が必要となっています。

 上記の新しい届出制への変更については、2017年7月現在においても制度改革が進行中であるため、最新の立法動向にも注意が必要です(直近では2017年5月27日から6月15日までの期間で「外商投資企業設立および変更届出管理弁法」(前述の「暫定弁法」の改訂版)に関する意見募集が行われました。)。

 なお、中外合弁企業を100%子会社化する場合は、中外合弁企業から外商独資企業への会社形態の変更が生じ、(そもそも、適用される法令が「中外合弁経営企業法」から「外資企業法」に変わり、企業の機関構成も董事会を頂点とするものから出資者を頂点とするものに変更されます)。この場合、かかる変更に関する定款変更のための上記①、②の手続も出資者・出資持分の変更の手続と同時に行うことになります。

その他の手続を要する可能性

 中外合弁企業の出資持分の譲渡を受ける場合に、上記に加えて考えうる手続としては以下のものがあります。

  1. 独禁法上の事業者結合届出
  2. 国家安全審査制度上の届出

(1)独禁法上の事業者結合届出

 中外合弁企業の持分譲渡を受ける場合、一定の売上要件を満たせば、独禁法上の事業者結合届出が必要となりえます。日本企業が少数出資者である中外合弁企業の持分を過半数まで買い増すような場合のみならず、日本企業がすでに連結子会社として扱っている中外合弁企業を100%子会社化するような場合であっても、共同支配が単独支配になるケース(いわゆる簡易案件の1類型)として事業者結合届出の対象となることがあるところ、特に後者のような場合には事業者結合届出が必要となる可能性自体が見落とされがちであるため、注意が必要です。

(2)国家安全審査制度に基づく事前届出

 また、中外合弁企業の所在地が軍事施設の近隣である場合や、事業内容が中国の国家安全に関わる重要な産業領域に及んでいる場合で、従前実質的支配権がない中外合弁企業に対して実質的支配権を取得する場合(独資とするケースのみならず、中外合弁のまま支配権を取得するケースを含む)には、国家安全審査制度(外国投資者国内企業買収合併安全審査制度)に基づく事前届出が必要とされる場合がありえます。

 実務上の例は多くありませんが、その分、審査対象となった場合には、持分譲渡の可否や審査に要する期間等を含め、見通しを立てることが難しいといわざるをえません。持分譲渡の主目的が合弁関係の解消であるようなケースで国家安全審査の対象となってしまったような場合は、逆に、中国側出資者に出資持分すべてを譲渡するというソリューションも検討するなど、柔軟な対応が必要になるものと思われます。

譲渡対価と支払時期について

譲渡対価の額に関する注意点

 譲渡対価の額については、外国企業側が中国企業に対して支払いを行うケースであれば、原則として法律上の制限は特になく、当事者間で自由に合意可能です。譲渡対価として現金以外の他社持分や債権等を用いることについても特に規制はありません。ただし、税務当局から不適切な譲渡対価が設定されていると見られないように注意する必要があります。

譲渡対価の支払時期に関する注意点

 譲渡対価の支払時期については、日本における株式譲渡とは全く異なる配慮が必要になります。まず、中国企業の持分譲渡においては、譲渡対価の支払と持分譲渡の第三者対抗要件具備の同時履行は確保できません。中国企業の持分譲渡においては、工商部門における変更登記が完了したタイミングで第三者対抗要件が具備されるところ、工商部門における変更登記完了のタイミングを当事者がコントロールすることができず、また、工商部門から新しく発行された営業許可証を受領して内容を確認するまでは第三者対抗要件が正しい内容で具備されたかを確認できないからです。

 そこで、譲受人サイドとしては、まずは
「譲渡対価は、持分譲渡の結果が正しく反映された新しい営業許可証を受領した日から●営業日以内に支払う」
というような後払いの支払条件を提示し、譲渡人サイドと交渉を行うべきと考えられます(実際の中国企業の持分の譲渡契約においても、このような後払いの条件で合意されることが多いように思われます)。

 しかし、この点は譲渡人サイドと対立することが多いポイントでもあり、交渉力のバランスによっては
「譲渡対価は、本契約の締結から●営業日以内に支払う」
といった先払いの条件で合意せざるをえない場合もありえます。

 対価の支払時期について合意できない場合、中国の銀行等が提供しているエスクローサービスの利用が検討されることもあります。ただし、中国のエスクローサービスは共同での署名があって初めて資金のリリースができるものであるなど、日本の取引決済において利用されているものとは内容が必ずしも同一ではないため、想定した効果が期待できるものか、想定外のリスクが生じ得るものではないかを十分に精査する必要があるものと思われます。

国有資産譲渡の可能性

 中外合弁企業の中国側出資者が国有企業で、譲渡を受ける中外合弁企業の持分が国有資産に該当する場合は、国有資産譲渡にかかる法定の手続に従って持分譲渡を実行する必要が生じ、この場合は上記3に記載した譲渡対価に関する考え方が当てはまらないため、注意が必要です。

資産評価会社による評価から落札まで

 まず、国有資産を譲渡する場合、国有資産監督管理部門が適切と認める資産評価会社による評価を経なければなりません。そして、原則としてその評価額の90%を下回らない範囲内で譲渡価格を決定し、管轄の財産権取引所(産権交易所)経由で募集広告がなされます。持分譲渡の譲受人は、この募集公告に応札し落札する形で、持分譲渡を受けることになりますが、複数の落札希望者が現れた場合は競売または入札が行われることになるため、落札希望者の必要条件を適切に設定することにより部外者による落札の可能性を可能な限り小さくする工夫が必要になります。

国有資産譲渡の決済の流れ

 国有資産譲渡の決済の流れは、筆者が最近取り扱ったケースにおいては、譲受人は応札時に希望譲渡価格のうち一定割合を保証金として財産権取引センターが開設した決済専用口座に支払わなければならないだけでなく、落札後は工商登記の完了を待たずに代金全額を同専用口座に入金する必要があった一方で、譲渡人の口座に代金が振り込まれるのは工商登記の完了後で、工商登記が完了できなかった場合は譲受人側に返金されるものとされており、財産権取引センターが実質的にエスクローの役割を果たすような仕組みとなっていました。

 国有資産譲渡にかかる手続の内容については地方あるいは財産権取引所ごとに異なるため、上記は必ずしも一般化できるものではありません。実際に国有資産譲渡手続によるべきとなった場合は、可能な限り自主的に国有資産譲渡手続の詳細の確認を行うと同時に、譲渡人たる中国側出資者(国有企業)からも可能な限り情報を収集して、国有資産に該当するからといって不必要に不利な条件で持分譲渡を受けることにならないよう十分な検討を行う必要があります。

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