中国に技術ライセンスを行う場合の留意点

国際取引・海外進出
横井 傑弁護士

 中国の企業から当社の技術ノウハウのライセンスを求められています。中国向けに技術のライセンス行う場合、手続が面倒で、様々な保証義務を負わなければならず、また送金も受けられないことがあると聞いています。どのような点に注意して進めればよいでしょうか。

 中国向けに技術ライセンスを行う場合、商務部門での登録手続が必要であり(対象となる技術が輸入制限技術に該当する場合は別途の手続が必要です)、送金銀行によっては、いまだに技術輸入契約の登録証を提示しなければロイヤルティの送金を受け付けてもらえないこともあります。

 また、外国企業がライセンサーとなるライセンス契約のドラフティングにおいては、自社に有利になるように、ロイヤルティの料率、ライセンサーの保証責任の内容、改良技術の取扱等を交渉することとなりますが、一方で中国の技術輸出入管理条例等の強行規定に抵触しないように留意する必要があり、場合によっては契約の許可・登録手続時において指導を受け、契約の内容の変更を余儀なくされるケースもあります。

解説

日本企業の技術力は中国におけるビジネス展開の強い推進剤

 日本企業が中国でビジネス展開するに際し、その技術力は今も変わらず強い推進剤となっています。中華人民共和国国家統計局の統計によれば、中国において日本企業との間で締結された技術輸入契約(特許、ノウハウ等の譲渡契約、ライセンス契約等)の契約本数は2005年から2014年までの国別統計で常に首位であり、全体の20%強を占めています。

 ビジネス展開のスキームとしては、現地法人を設立して技術供与を行うスキーム、中国企業と提携して原材料の提供とセットで製造技術を供与するスキームなど様々です。メーカー各社は、近年の国内市場の縮小等による厳しい競争環境の打開のため、新たな収益源のひとつとして自社の知的財産の活用に注目しています。

 一方、中国は自国産業の保護と発展のため、技術を自国に輸入する際の独特の制度を持っており、ビジネス展開をする際には注意が必要です。本稿では、技術輸入において最も割合の多い技術ノウハウのライセンスに焦点を当てて注意点を探っていきます。

技術輸入契約推移(契約本数)

出典:中華人民共和国国家統計局発表「中国科技統計年鑑2004年~2015年」

技術輸入契約にかかる規制の概要

(1)技術輸入契約の分類管理

 技術輸入における技術は、以下の3種類に分類管理されています。なお、技術とは権利化された特許権等のみならず、単なる技術ノウハウまで広く含まれます。

技術輸入における技術の分類

 輸入が禁止または制限される技術は、中国輸入禁止・輸入制限技術目録にてリスト管理されており、一方、それ以外の技術はすべて輸入自由技術に該当します。上図のとおり、各分類によって技術輸入の可否、必要となる手続に差異があるため、日本企業が技術輸入契約の締結を検討する場合は、最初に、対象となる技術がいずれに分類されるかを確認する必要があります。

 また、日本の外国為替及び外国貿易法においても、武器、大量破壊兵器関連の技術などの輸出は経済産業大臣による許可制となっているため、同様に該当性を確認しておく必要があります。

(2)必要となる手続

 輸入制限技術および輸入自由技術については、以下のとおり許可の取得または登録手続を行う必要があります(輸入禁止技術については技術輸入が一切禁止されています)。

 輸入自由技術については、法律上商務部門における登録が要求されていますが、登録はライセンス契約の効力発生要件ではなく、また登録しないこと自体に基づいて処罰が行われることはありません。従前は、外貨管理規制上のルールにおいてロイヤルティ(外貨)の送金を行う場合に送金銀行が確認すべき必要書類として「技術輸入契約登録証」が明記されていましたが、2013年9月に上記ルールが緩和修正され、すでに同登録書は必要書類として記載されていません。しかしながら、現在でもいまだに送金銀行によっては運用上この登録証がなければ海外送金を受け付けないことがあります。この点については実際に送金を担当する送金銀行に事前確認する必要がありますが、いずれにせよ、法律の要求どおりに登録を行っておくことが無難でしょう。

 輸入制限技術については、商務部門からの許可の取得が契約の効力発生要件となります。

輸入自由技術・輸入制限技術

ライセンス契約の交渉における留意点

 冒頭で触れたとおり、中国は技術輸入に関して独特の制度をもっており、外国会社のライセンサーの負担が重くなりやすいため、ライセンス契約のドラフティングや交渉にあたっては法令を十分に意識したうえで進めていく必要があります。

(1)ロイヤルティの設定

 ロイヤルティの定め方には、一般的に、(i) 固定額でのロイヤルティ(イニシャル・ロイヤルティなど)と(ii) 生産量・売上高等に応じて変動する金額を一定期間ごとに徴収するロイヤルティ(ランニング・ロイヤルティ)などがあります。

 ロイヤルティの金額については、特に法令上の制限や基準はありません。しかしながら、実務上、中国側ライセンシーにあまりに不利と判断される高額なロイヤルティが規定されている場合、ライセンス契約の許可・届出(詳細は2.(2)参照)の際に、管轄の商務部門から修正するよう指導が入ることがあります。また、親子会社間のライセンスなどの場合は、不合理なロイヤルティと判断されると移転価格の問題が生じることもあります。

 そこで、ロイヤルティを設定する際には、たとえば、他社事例等との比較によるアプローチ、ノウハウの創出コストからのアプローチ、販売への貢献度からのアプローチなどを用いながら、合理的に説明ができる金額(=管轄当局を説得できる金額)を設定することとなります。

 なお、すでに廃止されたものの、従前は対外経済貿易主管部門の内部規定において「ランニング・ロイヤルティの基準額は一般に契約製品の純販売額に基づいて計算する。…純販売額をランニング・ロイヤルティの基準とする場合、ランニング・ロイヤルティの料率は一般に5%を超えてはならない」などの規定があり、今でも料率を定める際の1つの参考になります。

(2)保証義務の軽減

 外国企業が中国企業に対して技術ノウハウをライセンスする場合、ライセンサーたる外国企業は、技術輸出入管理条例上、以下の保証責任を負います。

外国企業が中国企業に対して技術ノウハウをライセンスする場合、ライセンサー(外国企業)が技術輸出入管理条例上負う保証責任

 これら保証責任については、一般的に強行法規であると解されています。また、渉外ライセンス契約では仲裁合意がなされることが多いこともあってか、当該論点についての中国の裁判例が見当たらないため、実際に外国ライセンサーが同保証責任に基づきリスクを負わされる実際上の可能性の評価分析は難しい状況ではあります。実務的には、できる限り保証責任のリスクをミニマイズするために、ライセンススキームの検討、契約文言の調整等により対応することも多く、たとえば以下の方法が考えられます。

①間接ライセンススキームの活用

 技術輸出入契約はクロスボーダーでのライセンスにのみ適用されるため、これの適用を回避する方策として、ライセンシーの中国国外子会社にライセンスをしたうえで、同社からライセンシーにサブライセンスをしたり、ライセンサーの中国国内会社にライセンスをしたうえで、同社からライセンシーにサブライセンスをするスキームなどが考えられます。

 もっとも、中国企業同士のライセンスには別途契約法上の保証責任(第三者の権利の非侵害責任を合意で排除できるほかは、契約法にある技術輸出入管理条例の保証責任とほぼ同内容の責任)が適用されるため、後者のスキームで排除出来るのは第三者の権利の非侵害責任のみとなります。

②損害賠償責任の限定

 保証責任が過度に膨らむことを抑えるため、損害賠償の責任範囲を限定したり、受領したライセンスフィーの総額を賠償の上限額とする規定を置くことが考えられます。

 もっとも、これらの規定は裁判外では効果を発揮し得るものですが、一方で実際に生じた損害が上限額を超える場合には、契約法に基づいて紛争解決機関に損害賠償額の増額請求ができると解されるため、裁判等になる場合には留意しておく必要があります。また、損害賠償責任の限定に関しては中国法以外を準拠法とすることにより、上記の増額請求に関する規定の適用を排除できる可能性があります。

③技術目標の詳細な定義

 技術ノウハウは、場合によっては実施にあたって様々な条件(原材料、設備、インフラ環境など)が前提になることがあります。したがって、ライセンサーとしては、予想外に技術が再現されずに技術の完全性等の保証責任を負うことがないように、技術目標を可能な限り客観化・数値化し、実施の条件を詳細に定めておく必要があります。また、他の技術との組み合わせによる実施を保証の対象外とする規定を置くことも考えられます。

④保証期間の限定

 無期限で保証責任を負う技術ノウハウの譲渡とは異なり、一般的に、ライセンスの場合はライセンス期間中の実施に限って保証責任を負うと解されます。
 したがって、これを契約書に明記するのに併せて、契約の解除事由・終了事由を充実させることで、想定外の状況になった場合には契約を終了させて保証責任を負わない仕組みづくりをしておくことも考えられます。契約解除事由としては、たとえば、合弁会社に対するライセンスの場合の持分の変動や合弁契約の終了などが考えられます。

 なお、上記の方策は、商務部門での手続時に強行法規違反と判断される場合に修正するよう指導が入る可能性も否定できず、また、裁判所等において強行法規違反として無効とされるリスクも否定はできないことに留意が必要です。

(3)改良技術の取扱

 ライセンス契約の締結の際には、アサイン・バック条項(ライセンシーの改良技術についてライセンサーに権利帰属させる条項)、無償・独占的なグラント・バック条項(ライセンシーの改良技術についてライセンサーに対してライセンスさせる条項)などの規定が検討されることもありますが、これらは一般的に中国法上認められないものと解釈されています。一方、改良技術について有償で不当な制限とならないような条件であればグラント・バック条項も認められます。

(4)技術指導

 技術ライセンスに伴い、ライセンサーがライセンス技術の技術指導を行うことも一般的によく見られます。中国に技術者を派遣する場合は、技術指導の条件(指導期間、指導人数、技術指導費、滞在費・旅費等の負担、ビザの手配など)を明確に定めておく必要があり、また、技術指導を行う場合、15日未満の短期滞在の場合でもZビザの取得が必要になる点には留意が必要です。

まとめ

 以上のとおり、中国企業に対する技術ライセンスは、日本企業が中国でビジネス展開する場合に頻繁に遭遇する契約である一方、他国とは異なる独特の注意点があります。契約締結時の検討が十分ではなかったことから契約の締結後に契約の登録ができず、ライセンサーとの間で契約変更が必要となったケースや、技術ライセンスや指導は開始しているのに交渉が難航してなかなか契約の登録が完成できずロイヤルティや指導料の送金がなかなかできないといったケースもあります。

 本稿では紙幅の関係でポイントを網羅的には述べられていませんが、中国企業とのライセンス契約の締結にあたっては中国の法令および実務に留意して慎重に進める必要があります。

コンテンツの更新情報、法改正、重要判例をもう見逃さない!メールマガジン配信中!無料会員登録はこちらから
  • facebook
  • Twitter

関連する特集