ベトナムにおける合弁会社設立の手続および会社形態の選択

国際取引・海外進出
渡邉 純子弁護士

 ベトナム企業と合弁会社を設立する際の手続の概要を教えてください。合弁会社の会社形態やガバナンスはどのようにするのが適切でしょうか。

 ベトナムにおいて合弁会社を設立する場合の手続は、基本的には独資で会社を設立する場合と異なりませんが、合弁パートナーとの間で合弁契約書や定款の内容について協議したうえ、それらの内容を確定するプロセスが加わることになります。また、合弁会社の会社形態は、ベトナム法上、2名以上有限会社と株式会社の2つの選択肢がありますが、実務上は、2名以上有限会社が選択されることが多く見受けられます。

解説

合弁会社設立の手続

 ベトナムにおいて合弁会社を設立する場合の基本的な流れは次のとおりです。

ベトナムにおいて合弁会社を設立する場合の基本的な流れ

(※1)日本の投資家がベトナムの投資家とベトナムで合弁会社を設立する場合には、それぞれが直接の出資者になることが通常ですが、ベトナム以外の第三国の外国投資家とベトナムにおいて合弁事業を展開するケースでは、外資規制の観点から、日越投資協定を利用した方が、設立に際しての当局手続において有利に働く可能性があります。そのようなケースでは、日本において、当該第三国の外国投資家と合弁会社を設立した上で、当該合弁会社がベトナムに独資で会社を設立するというスキームを採用することが検討されることもあります。

(※2)独資で会社を設立する場合と同様、投資登録証明書および企業登録証明書の取得に向けて作業を進めることになります。独資の場合と比較して最も時間と労力を要する部分は、合弁パートナーとの間での合弁契約書や定款の内容についての交渉です。合弁契約書の留意点については、以下のQ&Aをご参照ください。

合弁会社設立のための必要書類

 ベトナムにおいて合弁会社を設立する場合の必要書類も、独資で会社を設立する場合と基本的には異なりません。もっとも、会社の出資者に関する書類については、各出資者が作成する必要があるため、提出する書類の数は独資で設立する場合よりも多くなり、また、ベトナム側の合弁パートナーが書類の作成作業に慣れていないことによって適時に必要な情報の提供を受けられないことも多くあります。よって、ベトナム側の合弁パートナーと密にコミュニケーションをとり、必要な情報をタイムリーに取得できるように進めることが肝要です。

 また、独資で会社を設立する場合と同様に、実務上、管轄当局から、法令上は必要とされている書類以外の書類の提出を求められることも頻繁にありますので、個別の案件毎に、事前に当局の担当官に必要書類を確認することが必要となります。

 一例として、合弁契約書の提出は、法令上は必要書類として定められているわけではありませんが、個別の担当官による運用によっては提出を求められる場合もありますので、事前に管轄当局(当該案件における担当官)に確認を行うことが必要となります(当局から提出が求められる場合には、合弁契約書をベトナム語に翻訳する必要があります)。

合弁会社の会社形態の選択

 ベトナムで合弁会社を設立する際の会社形態として、2名以上有限会社と株式会社の2つの選択肢があります(参考:「ベトナムへ進出する際の拠点選択」)。いずれの形態が選択されるかはケースバイケースですが、実務上は、次の3つの理由から、2名以上有限会社が選択されることが大半です。

  1. 株式会社の場合には株主総会と取締役会の設置が必須であり、ガバナンスが二層構造になり煩雑であるのに対し、2名以上有限会社は、「出資者の代表である委任代表者」により構成される社員総会のみの設置で足り、ガバナンス構造が簡便であること
  2. 株式会社の場合は最低3名の株主が必要である一方、2名以上有限会社は出資者が2名の場合でも設立可能であること
  3. 株式会社の場合、原則として監査役会の設置が必要であるところ、監査役の過半数はベトナムに常駐している者でなければならないが、適任者を探すのが難しいこと

 ベトナム企業法上の、2名以上有限会社と株式会社の機関設計は次のとおりです。

2名以上有限会社 株式会社
①社員総会(注:出資者の代表者である委任代表者からなる会議体。株式会社における株主総会に類似。)および社員総会議長
②社長
(③監査役会。ただし、11名以上の社員がいる場合または任意に設置する場合に限る。)
以下のいずれかを選択
1.
①株主総会
②取締役会
③社長
(④監査役会。ただし、株主が11名未満であり、かつ、法人株主が総株式数の50%未満を保有する場合は強制ではない。)

2.
①株主総会
②取締役会
③社長
ただし、取締役の20%以上が独立取締役でなければならず、また、取締役会が直轄する内部会計監査委員会を設置しなければならない。

2名以上有限会社形態を選択する際の留意点

 以下、2名以上有限会社形態を選択する際の実務上の留意点について解説します。

2名以上有限会社の法定の普通決議要件

 ベトナム企業法における、2名以上有限会社の普通決議の決議要件が、過半数ではなく65%である点には、留意が必要です。もっとも、この割合は定款で別途の定めをおくことで減少させることも可能で、例えば51%とすることもできます。

 したがって、2名以上有限会社の形態で合弁会社を設立するに際し、(普通決議の決議要件を満たす)支配権を取得することを意図する場合には、出資割合を65%以上とするか、定款で普通決議の決議要件を51%と修正する定めを置いたうえで、51%以上の出資を行うことが必要です。諸外国と同様に普通決議の決議要件が過半数であるとの誤解に基づき、51%の出資割合で会社を設立し、設立後に、法定の普通決議事項がコントロールできないことに気付くケースもあります。

任意の会議体としての「取締役会」の設置

 2名以上有限会社における法定の意思決定機関としての会議体は、社員総会のみです。社員総会は、出資者の代表者からなる最高意思決定機関という色彩が強く、日常的な業務執行には必ずしも適していないケースもあります。

 そこで、社員総会とは別途、実務レベルの会議体として、合弁会社への出向者や合弁会社の役職員から構成される任意の会議体としての「取締役会」や「経営会議」を設置することも多くあります。このような任意の会議体の構成員や会議体としての決定事項の内容については、特に法定の定めはありませんので、定款で定めることにより、自由に決定することができます。

出資に関する留意点

 ベトナム側の合弁パートナーの出資財産についても実務上よく問題になります。具体的には、ベトナム側の合弁パートナーから、十分なキャッシュがないものの、一定の出資比率を確保したいという理由で、その出資財産の全部または一部をキャッシュではなく現物で出資することを主張されることがよくあります(たとえば、ベトナム現地の内国資本の会社は不動産を有していることも多いため、合弁会社が設立後に本社として使用する予定の事務所の使用権を現物出資するケースや、合弁会社の事業に用いる機械などの動産を現物出資するケースなど)。

 この点、ベトナム法上は、「出資財産は、ベトナムドン、自由に交換することができる外国通貨、金、ベトナムドンにより評価することができる土地使用権、知的財産権、工業技術、技術ノウハウおよびその他の各財産である。」と定められているところ、「その他の各財産」として、出資財産の種類は、当事者間で財産的価値があると合意したものであれば、柔軟に認められると一般的に考えられています。したがって、上記の例におけるオフィスの使用権や動産であっても、ベトナム企業法35条1項の「その他の各財産」として現物出資をすることが可能と解されます。なお、出資者全員の同意があれば、専門評価機関による評価も不要です。

 特定の許認可の取得が合弁会社の事業運営において必須である場合や、合弁パートナーからの協力が合弁会社のビジネスモデル上必須な場合、当該許認可の取得や契約書の締結を、出資の前提条件として記載することもあります(ベトナム法上、出資金の払込みの履行は設立後90日以内に行えばよいとされています)。

事業目的に関する留意点

 合弁会社でいかなる事業を行うかについては、ビジネス上、合弁会社の設立に関する話が持ち上がった段階から協議が開始されていることが通常ですが、合弁契約書および定款において、事業目的(投資登録証明書に記載することになります。)の内容について、予め関連する規制を調査した上で、文言レベルで詳細に合意しておくことが望ましいといえます。前述のように、合弁会社の設立に際しては、投資登録証明書の取得を目指して各種手続を進めることになりますが、会社設立書類を当局に提出した後に、当事者が合意している事業目的について、外資規制や、内資・外資問わず一定の条件が付されている事業(いわゆる条件付投資分野)の当該条件の充足の観点から、当局から異議が出されることを避ける必要があるためです。そのため、実務上は、事業目的に関しては、早い段階から、関連する規制を調査した上で、当局との間で、登録を予定している各事業目的の細かな文言も含めて非公式に事前照会を行うことが重要です。

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