ベトナム企業と合弁契約書や株主間契約を締結する際の留意点~マイノリティ出資の場合~

国際取引・海外進出
渡邉 純子弁護士

 自社がマイノリティ出資をする形態で、ベトナム企業と合弁契約書や株主間契約書を締結する場合に実務上留意すべきポイントを教えてください。

 マイノリティ出資者の場合には、合弁会社の経営やガバナンスに関与するための重要な権利として、一定の重要事項に関する拒否権を確保することが重要です。また、マジョリティ出資者との関係悪化や業績未達等に備えた撤退権の確保や、合弁会社の経営への実質的関与を確保するためのアレンジについても、事前に合弁契約書で規定しておくことがポイントです。

解説

はじめに

 本稿では、マイノリティ出資者としてベトナム企業と合弁契約書や株主間契約書を締結する場合の留意点について解説します。
 なお、マジョリティ出資者としてベトナム企業と合弁契約書や株主間契約書を締結する場合の留意点については、「ベトナム企業と合弁契約書や株主間契約を締結する際の留意点~マジョリティ出資の場合~」をご参照ください。

拒否権の確保について

 ベトナム企業法上、2名以上有限会社と株式会社それぞれにおける決議要件および決議事項は「ベトナム企業と合弁契約書や株主間契約を締結する際の留意点~マジョリティ出資の場合~」2.「マジョリティ出資」の意味で記載した表のとおりであり、マイノリティ出資の場合に、合弁契約や定款について特段の定めを置かない場合の帰結は次のとおりとなります。

25%以下の出資の場合 25%超の出資の場合 35%超の出資の場合
2名以上有限会社の場合 特別決議事項と普通決議事項のいずれについても否決できない 特別決議事項について否決可能 特別決議事項と普通決議事項の双方について否決可能
株式会社の場合 特別決議事項と普通決議事項のいずれについても否決できない 特別決議事項と普通決議事項のいずれについても否決できない 特別決議事項について否決可能

 もっとも、上記の表にも記載のように、法令に基づく特別決議事項の内容は、組織再編や規模の大きな契約の締結、解散等、会社運営の根本的事項に関する事項に限定されています。そのため、合弁契約や定款で拒否権を確保するための特段の定めを置かない場合、マイノリティ出資者が有する、合弁会社の事業運営に関する発言権は限定的になります。

 そこで、マイノリティ出資者の立場からは、合弁会社の重要事項についてコントロールを及ぼしたい場合、合弁契約および定款において拒否権を定めることが重要となります。
 具体的な拒否権の対象としては、次のような項目の決定が考えられます。

  • 定款変更
  • 新株発行、自己株式の処分等(自社の出資比率の希釈化を伴う行為)
  • 一定の重要な契約(事業投資、商業契約、資産処分等)の締結
  • 競業他社との契約締結
  • 株主や役員との契約締結
  • 配当の金額や役員報酬の金額
  • 事業計画
  • 一定の規模の紛争手続の開始
  • 合併等の組織再編行為
  • 解散、清算

 また、拒否権を合弁契約書のみに規定する場合と、合弁契約書のみならず定款にも規定する場合の違いは、仮にマジョリティ出資者によって、マイノリティ出資者の拒否権を無視した行為が行われた場合に、マイノリティ出資者が主張できる効果に違いがあると考えられます。具体的には、次のとおりです。

事例 効果
合弁契約書のみに規定がある場合 契約の相手方に対して契約違反に基づく損害賠償を主張できるにとどまる
合弁契約書に加えて定款にも拒否権の規定がある場合 定款違反の行為として当該行為自体の無効を主張することが可能

 したがって、合弁契約に加えて、可能な限り、定款でも拒否権を確保するための規定をしておく方が、マイノリティ出資者の権利のプロテクションの観点からは望ましいといえます。

 なお、定款において拒否権を定める場合の具体的な規定の例として、例えば、以下が考えられます。(拒否権対象事項の決議機関によって異なります。)

決議事項 規定例
株主総会決議事項(株式会社のケース)
社員総会決議事項(有限会社のケース)
決議要件の議決権比率を上方修正する(例:25%出資の場合には、拒否権対象事項につき75%超を決議要件とする)
取締役会決議事項の場合 (自社から取締役を選任していることを前提に)拒否権対象事項の決議要件を取締役の全会一致とする

合弁会社からのエグジット(撤退)

 前述のように、マイノリティ出資者が有する拒否権等のガバナンスに関する契約上の権利が、マジョリティ出資者によって侵害された場合、定款に規定がある場合を除いて、当該違反行為自体が無効になるわけではなく、損害賠償請求を行うことができるにとどまるため、マイノリティ出資者にとっては、真の救済にならないことも多く生じます(特に相手方がベトナムの現地企業の場合には、損害賠償請求が有効に働かない場面が多く想定されます)。他方で、相手方によって、拒否権等のガバナンスに関する契約上の権利の侵害が行われるに至るようなケースでは、合弁相手との信頼関係が破壊されていることも多く、そのような場合には、マイノリティ出資者が合弁会社から撤退できる権利が確保されていることが重要です。

 また、ある一定の期間を経過しても合弁会社の事業が当初の計画どおりに収益を上げない場合(たとえば出資後の一定の事業年度において、連続して事業計画に定める利益目標を達成できなかった場合等)にも、対象会社の事業から撤退することができる規定を盛り込むことを検討する必要があります。

 これらのようなケースで、マジョリティ出資者に対し、マイノリティ出資者が自らの株式や持分を強制的に売却できるプットオプション条項を設けることも考えられます。プットオプションの相手方は、合弁相手であることが通常ですが、合弁会社に買い取らせる(自己株取得させる)ことも選択できるような仕組みにしておくこともあり得ます。合弁会社による買い取りについては、企業法上、自己株取得の財源規制や価格に関する規制等が存在するため、規定の内容によっては実行ができない場合もあり得る点に留意が必要ですが、合弁会社にも買い取らせることが可能な仕組みにしておくことにより、たとえば、プットオプションの行使時に、合弁相手の手元にキャッシュがなく実際に買い取ってもらえないという事態が生じた場合の代替策として機能することも期待できます。

合弁会社の経営に関する情報アクセスや意思決定への実質的関与の確保

 日本企業がマイノリティ出資にとどまるケースでは、合弁会社の経営に関する情報アクセスや意思決定への実質的関与が不十分となってしまうケースが見受けられます。以下、具体的な事例に基づき解説します。

事例

 日本企業Aは、ベトナム現地の合弁パートナーであるBおよびCと、合弁会社X(会社形態は株式会社)を設立した。Xへの出資比率は、Aは30%、BおよびCの合計が70%である。Aは、合弁契約上、Xの取締役会における一定の人数の役員の選任権は確保したが、ベトナムの合弁パートナー側がマジョリティ出資をしているため、また、合弁会社の日常的な運営がベトナム語を中心に行われることもあり、派遣役員による経営に関する重要な情報の把握が難しく、意思決定プロセスへの関与が限定的となってしまった。

日本企業がマイノリティ出資にとどまるケースで、合弁会社の経営に関する情報アクセスや意思決定への実質的関与が不十分となってしまう具体的な事例

解説と対応策

 マイノリティ出資を行うケースでも、通常、合弁契約上、取締役等重要な役員の選解任権が盛り込まれることになります。もっとも、①ベトナムの合弁パートナー側が会社運営の主導権を握る場合(マイノリティ出資者の拒否権の範囲が限定的である場合)には、合弁会社の日常的運営に使用される言語が、(日本人にとってはなじみが薄く習得も難しい)ベトナム語のみとなってしまうこと、②取締役会に上程される情報を確認するのみでは、会社の経営や運営を十分に把握するに足る情報としては不十分である(=取締役会に上程される前に実質的な議論や検討は終了してしまっている)こと等から、情報へのアクセスや、合弁会社へのガバナンスへの関与が不十分になってしまう例も多く見受けられます。

 上記のうち、①の点の対応策としては、合弁契約書において、(i)会社の運営言語は英語とするという原則を規定すること、(ii)必ず英語で作成しなければならない書面の種類や、議論に使用される言語が英語である会議体の種類を特定すること、(iii)取締役会等の開催日の一定期間以上前に英語で自社に資料を送付すること、(iv)自社が参加する会議体への通訳の参加権を確保することなどが考えられます。

 また、②の点の対応策としては、合弁契約書において、(i)意思決定機関である取締役会への参加権のみならず、実質的議論が行われる事務レベルの会議体(たとえばSteering Committee等)を組織して、自社から当該会議体のメンバーの派遣を行うこと、(ii)取締役会に上程する前に必ず当該会議体で審議する事項を事前に取り決めておくことなどが考えられます。

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