ベトナム企業と合弁事業を運営するにあたってよくあるトラブルと解決策

国際取引・海外進出
渡邉 純子弁護士

 ベトナム企業と合弁事業を運営するにあたり、よくあるトラブルとその解決策にはどのようなものがありますか。

 ベトナム企業との合弁事業において頻出する、ベトナム側の合弁パートナーとの対立の原因としては、競業の開始や、無償で提供されるノウハウの範囲・関係者間の不透明な取引・利益目標のタイムスパンについての認識相違等があります。これらの対立原因は、内容や頻度によっては合弁相手との紛争に発展しかねないため、事前に契約書等で十分に手当をしておくことが肝要です。本稿では、各トラブルの類型ごとに、具体的な事例に基づき解説をします。

解説

競業禁止と営業秘密漏えい防止

事例

 日本企業Aは、ベトナムの現地パートナーであるBと、合弁会社Cを設立した。Cへの出資比率は、Aは70%、Bが30%である。ところが、合弁事業を開始して一定期間が経過した後に、Bが、かつて合弁会社に派遣していた自らの従業員を通じて、合弁会社の事業と競合する事業を行う競業他社Dを設立させた。また、当該従業員は、合弁会社の退職時に、Aが合弁会社に提供した営業秘密(技術情報や顧客名簿等)を持ち出していたことが発覚した。

競業禁止と営業秘密漏えい防止の事例

解説と対応策

 ベトナムでは、従業員が会社に蓄積した営業秘密やノウハウ(技術情報や顧客名簿等)の漏えいを行うことや、それを用いて競業事業を開始することへの抵抗感が、一般的に、日本と比べて低いと言われています。合弁会社の設立後、合弁パートナーの役員や従業員が、日本の投資家が合弁会社に提供した営業秘密やノウハウを利用して、新たに合弁会社と競業する事業を開始するケースも珍しいことではないため、合弁契約書において競業禁止に関する規定を設けることが重要です。

 競業禁止規定を設けるにあたっては、①禁止される「競業」の範囲、②場所的範囲、③競業禁止の期間、のそれぞれを明確に定めることがポイントとなります。

 もっとも、競業禁止規定については、自社が合弁相手に要求した場合、合弁相手からも、自社が競業禁止義務を負うよう要求されることが想定されますので、相手方に競業禁止条項を求める場合には、自社が同様の義務を受け入れることができるかどうかを事前に検討しておく必要があります。

 また、万が一このような競業禁止規定に違反する行為が行われた場合には、契約違反に基づく損害賠償請求をすることになりますが、当該契約違反に起因して自社が被る損害の具体的な金額について事後的に立証を行うことは難しいため、契約において、損害の推定条項や違約罰の条項等を規定しておくことも検討に値します(ベトナムにおいては、一定の法令上の制約はあるものの、基本的には、損害賠償の予定と違約罰の双方を、当事者間の合意により定めることが可能です。)。

 なお、合弁会社と従業員個人との間の雇用契約において、従業員個人に競業避止義務を課す場合には、ベトナムの労働法上の職業選択の自由の原則から、有効性に疑義が生じるという見解が支配的ですので、具体的な規定の仕方については特に注意が必要です。

無償で提供するノウハウの範囲

事例

 日本企業Aは、ベトナムの現地パートナーであるBと、合弁会社Cを設立した。合弁会社Cとのシナジーの実現のため、Aは、自社製品の購入・販売、人材の派遣、ノウハウの提供等を合弁会社に対して行うことを合弁契約書に規定した。その後、Aは、合弁パートナーBおよび合弁会社Cから、「ノウハウの提供」という名目で、経済的価値のある無形資産の提供まで無償で要求され、自社が提供する必要がある「ノウハウ」の範囲について、争いが生じることになった。

解説と対応策

 合弁事業の運営時には、出資者は合弁会社に対して何らかの価値を提供して互いに貢献することが当然想定されており、日本側の出資者には、その保有するノウハウの提供を期待されることが多いため、各当事者が合弁会社に対して果たす役割の一つとして、日本側の出資者については、合弁会社が営む事業についてのノウハウの提供が盛り込まれることが多く見受けられます。

 もっとも、文化的背景等の違いから、日本側の出資者は、ベトナム側の出資者から、(日本的な感覚からすれば過剰とも言える)様々な要求を受けるケースも多くあり、他方で、そのような要求を断ることは、関係悪化の原因に繋がることもあります。そこで、事前に無償で提供するノウハウの枠組みや外延、有償で行うライセンスの主要条件などをあらかじめ合弁契約において取り決めて定めておくことが有用です。

関係会社間(親族間)の不透明な取引

事例

 日本企業Aは、ベトナムの現地パートナーであるベトナム人の個人Bと、合弁会社Cを設立したが、Aの出資比率はマイノリティ出資にとどまることから、実際の合弁会社のオペレーションは、現地の事情に通じたBに任せていた。ところが、数年後、Bが、自らの親族が実質的に運営する会社と不透明な取引を行っていることが発覚した。

解説と対応策

 法令上、出資者またはその親族と会社との取引は、関係会社間取引として、社員総会(2名以上有限会社の場合)で承認を得る必要があります(参考:「ベトナム企業と合弁契約書や株主間契約を締結する際の留意点~マジョリティ出資の場合~」)。しかし、形式上、当該関係会社の名目上の株主が親族とは別の者となっていることにより、関係会社間取引として、必要な機関での承認が行われず、関係会社間取引と気付かれずに取引が継続しているケースもあります。

 対策としては、特に経理関係については相手方の合弁パートナーに任せきりにせず、外部の専門家の力を借りる等によって常に合弁会社の運営実態の把握に努めること等が必要です。

利益目標のタイムスパンについての認識相違

事例

 日本企業Aは、ベトナムの現地パートナーであるBと、合弁会社Cを設立した。Aは、合弁会社の事業開始から数年間は、利益の額にこだわらずにじっくりと事業を育てたいという意図を有しており、配当についても無配とする想定であったが、Bは初年度からの配当にこだわり、合弁事業開始後の方針をめぐって深刻な対立が生じた。

解説と対応策

 一般に、ベトナム企業は、日本に比べて短期的な利益を追求する傾向が強く、特に、経営計画における利益目標や配当の金額において、その傾向が如実に現れることが多くあります。
 よって、事業計画の具体的内容や利益目標、内部留保額および配当の金額等については事前に十分に協議を行い、将来の対立の可能性をできる限り回避することが望ましいといえます。

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