中国子会社における従業員の不正行為に関する内部調査

国際取引・海外進出
唐沢 晃平弁護士

 中国の子会社の営業担当者が不正行為を行っているという匿名での通報があり、調査を行おうと思っています。調査にあたって留意するべき点はどのような点でしょうか。また、これを機に中国で内部通報制度を新設しようと考えていますが、中国でも機能するものでしょうか。

 中国における従業員による不正行為は、企業自身にも重大な法的責任やレピュテーションリスクを生じさせうるほか、現地の駐在員に対する出国制限といった事態にもつながる可能性がある非常に重大な問題ですので、これに関する内部調査についても極めて慎重に進める必要があります。

 従業員の不正行為に対する内部調査は、基本的には、①初期的対応、②調査チームの編成、③調査目標・調査計画の策定、④情報の保全・収集と分析、⑤インタビュー調査、⑥調査結果の評価・対応の検討、という順序で進みますが、中国子会社という特殊性を十分に考慮に入れながら進める必要があります。

 内部通報制度は中国子会社のコンプライアンス管理においても非常に有効な対策となりうるものであり、積極的な活用を検討することが望ましいといえますが、その導入にあたっては、中国における内部通報に対する不信感等も考慮に入れる必要があります。

解説

中国における従業員の不正行為が持つリスクと内部調査の必要性

中国では依然として従業員による不正行為が生じやすい

 不正行為対応に関する考え方の基本路線は、日本における不正行為対応と同様です。中国だからといって(あるいはグループ企業の規模に照らして小規模な子会社だからといって)、従業員の不正行為について見て見ぬふりをするのは厳に避けなければなりません

 まず、中国においては、全般的にコンプライアンスの意識は以前に比べて高まっているものの、依然として従業員による不正行為が比較的生じやすい状況にあるといえます。
 従業員による不正行為は様々ですが、その内容によっては従業員個人のみならず、企業自身にも極めて大きなリスクが及ぶ可能性があります。

 たとえば、私企業間のリベートや値引き、接待等も、適切に行われていなければ、中国法の下では商業賄賂として処罰されることがあります。この点、2014年9月にグラクソ・スミスクライン社が商業賄賂を理由として約30億人民元(当時のレートで約530億円)もの制裁金を裁判所から言い渡されたのも記憶に新しいところです(この件では同時に会社幹部ら5名に対する有罪判決も下されており、それぞれ執行猶予付の懲役刑が言い渡されています)。

 日本人駐在員の関与が疑われた場合は出国制限がなされて帰国できなくなるリスクもあります。このような中国における不正行為は、中国の商慣習や中国語でのコミュニケーションに慣れていない日本人駐在員にとっては、「中国ではよくあること」などといった従業員の説明で納得してしまいがちなところでもありますので、怪しいと思ったらすぐ専門家に相談することが重要です。

ブランドイメージの悪化や企業経営に大きな混乱を生じるおそれも

 また、一見すると些細な不正行為であったとしても、特に日中関係が不安定な時期等においては、思わぬ報道のされ方をする可能性もあり、場合によっては企業グループ全体のブランドイメージを悪化させる原因となる可能性もあります。

 そして、中国では不正行為に関しては企業に対する当局の調査が徹底して行われうるという点にも注意が必要です。準備が不十分な状態において、調査が行われたような場合には、企業において終始対応が受動的にならざるを得ず、リスクのコントロールが極めて困難となり、企業経営にも大きな混乱が生じることとなります。

不正行為に関する情報を得たら専門家にすぐ依頼を

 よって、中国子会社の従業員の不正行為に関する情報が得られた場合は、まずはかかる不正行為に関するリスク評価を中国の法律に精通した専門家に依頼して迅速に行い、必要に応じて内部調査を実施することが重要です。かかる対応によって、リスクを最小限にコントロールしながら能動的に事態収拾を図り、事態の更なる拡大・悪化を防止できるほか、十分な事態把握と適切な情報開示によって、レピュテーションへの影響も最小化できます。

内部調査の各段階における留意点

 従業員の不正行為に対する内部調査は、その不正行為の内容に応じてケースバイケースではありますが、基本的には、以下の順序で進みます。
 内部調査は、不正行為に関する情報が拡散してしまった場合のリスクの大きさにも鑑みて、その全過程において、極めて高度の慎重さが求められます。

従業員の不正行為に対する内部調査

初期的対応

 まず、従業員による不正行為の事実を把握した場合の初期的対応として、弁護士に依頼するなどして、その不正行為にかかるリスクおよび影響を適切に評価し、内部調査の必要の有無を判断することになります。

 不正行為の発覚経路は様々ですが、いずれの場合でも、初期的対応における情報管理は極めて重要です。情報管理を誤ると、調査対象者に察知されて証拠の隠滅等のリスクが生じるだけでなく、調査対象者の所属部署全体から内部調査に対抗姿勢を取られたり、それに端を発して企業の経営秩序全体に混乱が生じたりする可能性も生じえます。中国は日本以上にSNS大国であり、誤解や感情的な評価が含まれた情報が即座に拡散しうるという点も無視できません。

 そこで、不正行為に関する情報が不用意に拡散しないよう、適切な担当者にのみ情報が伝達されるような体制を事前に整えておくなど、日頃の備えが重要となります。この点、制度化された経路から不正行為が発覚した場合は、情報管理や迅速なリスク評価が行いやすく、適切な初期的対応が可能となりますので、内部通報制度が導入されていればその機能が最大限に発揮される場面であるといえます。

調査チームの編成

 初期的対応を経て不正行為に関する内部調査の開始を決定した場合、まずは調査チームを編成する必要があります。
 調査に関与する人員は厳しく制限する必要があります。事案次第では、調査対象者のみならず、その同僚や上司、場合によっては経営のトップも不正行為に関与している可能性を考慮に入れる必要があります。言語の問題で日本の親会社から派遣された駐在員と現地の中国人の経営陣との間で日常のコミュニケーションが密に取られていないようなケースにおいては特に人選に注意が必要です。

 具体的な編成はケースバイケースではありますが、たとえば、日本本社のコンプライアンス・法務担当部署の人員が統括的地位に立ち、当該中国法人のコンプライアンス・法務担当部署の人員が現地での指揮を取り、外部の専門家と協力しながら調査活動を行うという体制が考えられます。
 外部の専門家としては、法的観点からのリスク評価を行うことができる弁護士を起用するのが通常ですが、会計士や税理士をチームに加える必要が生じるケースもあります。
 なお、日本の企業においては中国語が使える人員が限られることもあり、中国子会社に対する調査においては、言語の問題が大きなハードルとなることがあるため、日中両言語での対応が可能な専門家の起用が望ましいといえます。

調査目標・調査計画の策定

 調査チームの編成後は、調査目標および調査計画を明確に策定する必要があります。たとえば、問題となっている不正行為のみに絞って調査するのか、調査対象者のその他の問題行為についても調査するのか、その他の従業員による不正行為も調査対象とするのかといった点の判断や、情報の収集範囲や分析方法の検討、インタビュー調査の対象者の選定、具体的なスケジュールの作成等を綿密に行っておく必要があります。

 この調査目標・調査計画がぶれると、調査活動に収拾がつかなくなり、多方面に大混乱を招く可能性があるため、調査の過程で重大な新事実が発覚したような場合には、かかる事実に関するリスク評価を改めてしっかりと行い、当初の調査目標・調査計画を変更すべきかをチーム全体で検討し、チーム内での目線合わせを繰り返し行いつつ調査を進めることが重要であり、場当たり的に新事実を調査対象に加えるようなことは避けるべきです。特に、中国現地の調査チームのメンバーが勝手に行動することのないように注意する必要があります。

 このように調査の進行には慎重を期す必要がありますが、調査が長引けばその分調査による本業への影響も大きくなり、また、調査対象者に時間を与えることにもなるため、調査を迅速に進行させることもまた同様に重要です。

情報の保全・収集と分析

 調査目標・調査計画が定まった後は、不正行為に関する証拠の保全・収集を行う必要があります。
 どのような証拠があるかはケースバイケースですが、会計帳簿、「発票」(中国での税務処理に必須となる正式なインボイス)等の帳票類、調査対象者が業務上使用しているPCのHDD、サーバーに保存されている調査対象者のメールデータ等が保全の対象として考えられます。なお、中国では個人所有の携帯電話のチャットアプリやSNS(WeChatやQQ等)を使って業務上の連絡が行われているケースも多いのが現状です。個人所有の携帯電話の情報を保全するのは極めて難しいため、業務連絡にチャットアプリ等の使用を制限する社内規則を制定することも考えられます。

 情報保全の作業は、調査対象者およびその他の従業員に不正調査が行われていることを悟られないように、会社の休業日にPCの保守点検等の名目で行うといった工夫が必要となります。また、情報の保全後は、その中から不正行為に関連する情報を探して十分な分析を行う必要がありますが、デジタルデータについては情報量が膨大となることもあるため、作業効率を上げるために、キーワード検索等により分析対象を絞り込むといった工夫が必要になります。

 このような作業には極めて高度な専門性が必要となるため、デジタルフォレンジック調査を専門とする外部業者の利用も有効な手段といえます。なお、2017年6月に施行されたサイバーセキュリティ法による個人情報・重要データの国外持ち出し規制には別途の注意が必要です。本稿執筆時点の2017年11月現在においては、かかる規制に関する管理弁法等の細則は制定されておらず、実際の取り締まりも開始していないようですが、今後の動向次第では、中国国内でデジタルフォレンジックを完結する必要が生じてくる可能性があります。

 情報の分析結果については、法律の専門家である弁護士が法的観点からの評価を加えながら、インタビュー調査に向けて整理するのが通常です。なお、ここでも言語の問題が生じえますが、不正行為に関する情報は非常にセンシティブであるため、外部の翻訳事務所等に依頼することは避けるべきであり、翻訳を内製化できる能力とキャパシティのある専門家を選択するのが安心といえます。

インタビュー調査

 調査対象者と関係者(子会社の経営管理責任者、経理の担当者、同じ部署の他の従業員等)に対するインタビュー調査は不正調査の核心部分です。直接の聞き取りによって、不正行為の実態を詳らかにする必要があります。

 インタビュー調査においては、それまでに収集した情報を十分に検討・分析し、可能な限り客観的証拠を整えて臨む必要があるのはもちろん、調査対象者、実施順序、実施時期、実施場所等に関しても戦略的に計画を立てておくことが重要です。

 インタビュー調査は外部の専門家の主導により行うのが効率的ですが、特に中国子会社の不正調査においては、現地従業員(調査対象者や関係者)の心理やインタビューにおける発言の細かいニュアンスを理解しそれを日本人に説明できる人員と、逆に、日本企業側の考え方を正確に理解しそれを中国人に説明できる人員が必要となるため、日本語を使用できる中国人弁護士と中国語を使用できる日本人弁護士を含むチームでインタビュー調査に臨むのが理想的といえます。インタビュー調査の現場に対象者と面識のある役員や従業員が同席することは避けるのが無難です。

 インタビューは長時間に及ぶこともあるため、全過程を録音しておくことが重要です。中国では対象者に録音の事実を告げずに録音を行うことも通常の方法として用いられています。場合によっては、対象者の目に見える場所に録音機を1台置いて、話しにくそうな話題に差し掛かったらストップする一方で、見えない場所にもう1台用意した別の録音機では全過程を録音するといった手段も使われます。

 なお、インタビュー調査の実施によって、調査対象者において調査対象とされている事実が明確に認識されることになるため、インタビューの実施から最終的な処分の決定までの調査対象者の処遇(引き続き勤務を続けさせる、他の部署に一時的に移転させる、自宅待機を命じる等)についても事前に検討しておく必要があります。中国の従業員は特にメンツを重視する傾向があり、この処遇を誤るとコントロール不能の状態に陥るおそれがありますので、調査対象者の性格や傾向等も踏まえた慎重な対応が必要となります。

調査結果の評価・対応の検討

 インタビュー調査の完了後は、内部調査全体を通して判明した事実関係を踏まえて、最終的な対応方針を多面的に検討したうえで決定する必要があります。
 具体的には、法人として当局に自首すべきか、刑事告発をすべきか、社内外における情報開示の是非および内容、調査対象者に対する社内的処分(懲戒解雇、諭旨解雇、減給、戒告等)などについて検討が必要となります。

 特に、刑事告発は、全容の解明に当局の協力を要するような場合以外に、内部的・外部的に刑事告発という形で示しをつける必要がある場合や、中国法上刑事告発の義務を負うような場合等にも行われうる対応ですが、刑事告発を端緒に、調査対象者のみならず会社、会社の他の従業員、会社の顧客等において、当局からの捜査協力に応じざるを得なくなる可能性があるほか、別個の犯罪の嫌疑をかけられる可能性もあるため、特に慎重を期す必要があります。その一方で、中国の公安当局は、刑事告発を受けても新規の捜査の開始には消極的であることも多いのが実情です。そこで、たとえば、中国子会社自らが被害者であるようなケースにおいては、被害者として刑事告発は行うが当局による捜査までは望まないこと等について、正式な刑事告発を行う前に公安当局に説明を行っておくなどの工夫が、刑事告発によってさらに事態が拡大・炎上するのを避けるうえで奏功することもあります。

 なお、不正行為に対する調査結果を踏まえて、中国子会社に不正行為の温床となりうる業務運営上の構造上の欠陥がないか等、原因究明を徹底して行い、業務スキームの変更、コンプライアンス体制の適切化等、第2の類似ケースが生じないように対策を講じることも極めて重要です。

内部通報制度について

内部通報制度導入のポイント

 内部通報制度は中国子会社のコンプライアンス管理の一環として非常に有効な対策であり、日系企業の中国子会社における導入事例もよく見られます。
 内部通報制度を導入することで、通常の業務監査等では発見されにくい不正行為をあぶり出すことが可能となるだけでなく、上記2-1で記載の通り、内部通報制度を通じて従業員の不正行為に関する情報が取得できた場合は、内部調査の初期的対応も効率的かつ安全に行うことができるというメリットもありますので、積極的な利用が望ましいといえます。

 内部通報制度を導入するにあたっては、通報窓口をどこに設けるかが非常に重要です。中国子会社の社内のコンプライアンス・法務部門に窓口を設けることも考えられますが、通報があった場合にリスク評価から内部調査まで一貫して対応できる外部の弁護士事務所に内部通報制度の窓口業務を委託するのが最も効率的といえるでしょう。

 また、内部通報制度の導入と関連して、従業員が不正行為と思しきものを見かけた際に通報すべきか否かを適切に判断できるように、同時にコンプライアンスマニュアルや贈収賄防止規程等の内部規則を制定し、研修等を通して内容の周知の徹底とコンプライアンス教育を行っておくことも有効です。

中国は内部通報制度に対する不信感が日本と比べて高い

 なお、中国は告発文化であると言われていますが、同時に、中国においては内部通報制度に対する不信感が日本と比べて高いという問題を考慮する必要があります。中国では、会社内部で通報すれば、自分が通報したことが社内で広まって居場所がなくなるかもしれない、あるいは会社にとって都合の悪い告発であるとみなされて告発自体がもみ消されたうえで報復人事を受けるかもしれない、などと穿った見方をする従業員も多いのが現状です。また、告発の動機もコンプライアンスというよりは報復的な意味合いの場合が多く、また、会社の設置する内部通報窓口ではなく当局に直接告発しようとする傾向も見られます。

 そのため、中国子会社に内部通報制度を設ける場合は、日本における場合よりも丁寧に制度の内容や運用に関する説明を行い、通報者には不利益が及ばないことを強調することが重要となります。この点、2017年9月には、大手中国企業である華為(Huawei)において、内部告発をした従業員を2階級昇進させたと全社員に向けて公表されたことが大きな話題になりましたが、有用な内部告発を行った従業員には何らかのメリットを与えるというこのような方法も参考に値するといえるでしょう。

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