インドネシア企業を買収する際の手続について

国際取引・海外進出
下瀬 隆士弁護士 松下 知輝弁護士

 当社は機械製造を行う日本企業です。昨今の東南アジアの経済発展に伴い、当社は東南アジア、特にインドネシアへの輸出を積極的に行っています。このような状況を受け、同業他社であるA社から、その子会社で、現地で機械製造を行うインドネシアの株式会社の株式を取得することで、現地の生産拠点を設けることを検討しています。

 インドネシアの株式会社の株式を取得するためにはどのような手続をとる必要があるのでしょうか。また、そのインドネシアの株式会社には、当社が親会社となることに反対している少数株主もいるようです。このような株主を株式取得後にスクイーズアウトして100%子会社とすることは可能でしょうか。

 インドネシアの株式会社の株式を取得するに先立ち、対象会社の事業が外資規制の対象となっていないかを確認し、対象となっている場合にはその規制内容を確認する必要があります。

 株式取得により会社の支配権が移転する場合は「買収」という組織再編行為の一種として扱われ、労働者に対する通知、債権者異議手続、株主総会での承認等が必要になるなど、日本の株式会社の株式取得とは大きく異なる手続をとる必要があります。そして、これらの手続を踏まえて適切にスケジューリングをすることが重要です。

 また、インドネシアにおいては、日本と違ってスクイーズアウトをするための制度はありません。したがって、少数株主の情報や動向の把握が重要になります。なお、インドネシアの株式会社の最低株主数は2名ですので、100%子会社とすることはできません。

解説

 本項では、非公開会社の発行済株式を、既存株主から直接購入することを念頭に置いて説明します。なお、以下では、株式取得の対象となるインドネシアの株式会社を「対象会社」といいます。

外資規制の確認

 インドネシアにも、他の東南アジアの多くの国と同様に外資規制が存在しており、外国投資家による投資は、主に投資法とネガティブ・リスト(2016年5月12日付大統領規程2016年第44号。以下「ネガティブ・リスト」といいます)によって規制されています。

 ネガティブ・リストにおいては、以下の規定がされており、外国投資家には、特定の業種について投資が禁止されたり、出資比率に上限が設けられるなどの規制が課せられています。

  • 禁止業種: 投資が原則として禁止される業種
  • 制限業種: 投資に一定の規制(外資比率の制限など)が設けられている業種

 したがって、対象会社の株式を取得する前に、対象会社の事業が、ネガティブ・リストによる規制の対象となっているかどうかを確認し、また、規制の対象となっている場合には、その内容(何パーセントまで出資できるのか等)を確認する必要があります

 参照:日本貿易振興機構(JETRO)「外資に関する規制

買収手続

買収

(1)買収と買収手続

 インドネシアの株式会社の株式を取得する結果として、その会社の支配権が移転することとなる場合は、株式会社法上の「買収」に該当し(株式会社法1条11項)、2-2で説明するような一定の手続(以下「買収手続」といいます)をとる必要があります。

 株式取得が買収にあたるのに買収手続を怠ると、株式取得自体が無効となる可能性があるため、株式取得が買収にあたるかどうかを検討したうえで、買収手続をとるべきか判断する必要があります。

(2)買収に該当する場合

 それでは、対象会社の株式を何パーセント取得すれば買収に該当するのでしょうか。発行済株式の過半数を取得する場合であれば、会社の支配権が移転するものとして買収に該当することは明らかです。

 しかし買収の定義は明確でなく、過半数よりも少なければ買収でないとも断言できません。たとえば過半数より少ない株式を取得する場合であっても、他の株主と資本関係があるときや、他の株主との間に共通の目的のために協力するような関係があるときなどは、他の株主の株式も考慮され、買収に該当する可能性があります。

 仮に株式取得が事後的に買収であると判断されれば、株式取得自体が無効になるという重大な危険性がありますから、それを避けるために、過半数に至らない割合の株式を取得するに過ぎない場合も買収に該当する可能性を考えて対応するのが安全です。そのため、30%以上の株式を取得する場合には念のため買収手続をとるべきであるとする現地実務家もいます。

 インドネシアの会社の株式を取得・売却する場合には、当該行為が買収に該当するか専門家と事前に相談しておくことをお勧めします。

買収手続の概要

 既存株主から株式を取得して買収する場合の大まかなスケジュールは以下のとおりです。

買収手続のスケジュール

 買収手続の概要を、①クロージング前、②クロージング時、③クロージング後の3段階に分けてご説明していきます。

(1)クロージング前の手続

① 対象会社の労働者全員に対する通知と買収概要の新聞公告

 買収をする際に労働者全員に対して通知すると共に、買収の概要を新聞で公告する必要があります(株式会社法127条2項、8項)。この通知と公告は、株主総会の招集の30日以上前に実施する必要があります(株式会社法127条2項、8項)。

② 債権者異議手続

 債権者は、公告から14日以内に、買収に対して異議を出すことができます(株式会社法127条4項)。

 債権者から異議があった場合には、取締役が債権者と交渉をして、弁済方法について合意をする必要があります。合意に至らなかった場合には、買収を行うことはできません(株式会社法127条7項)。

 したがって、買収手続を開始する前のデューデリジェンスの時点で債権者の情報を十分に把握しておくことが、買収実行の確実性を高めるために必要になります。

③ 労働者との契約関係の処理(特に退職金)

 買収の際には、会社と労働者の双方から雇用契約を解除することができます。その場合、会社は労働者に対して、次のとおり退職金を支払う必要があります。退職金には、労働者に一般的に給付される退職手当(労働法156条2項)、3年以上の勤続者に対してのみ給付される勤続功労金(労働法156条3項)および個別の権利関係を調整する権利補償金(労働法156条4項)があります。  

退職手当 勤続功労金 権利補償金
労働者からの解除
(労働法163条1項)
勤続年数に応じて賃金の
1~9か月分
勤続年数3年以上の労働者については勤続年数に応じて賃金の2~10か月分 未消化の年次有給休暇、
帰省費用、住宅補償等
会社からの解除(解雇)(労働法163条2項) 上記の2倍 同上 同上

 法律上は買収に際して退職する労働者に対してだけ退職金を支払えば足りるのですが、実務的には、退職しない労働者からも、退職しない代わりに金銭の支払が要求され、その支払をせざるを得ない場合が多いのが実情です。

 労働者に対する退職金の支払については、その扱いをどのようにするかを株式譲渡契約書に明確に規定しておくことがトラブルを避けるうえで重要です。

④ 株主総会による承認

 買収を実施するためには、対象会社の株主総会特殊決議が必要になります(株式会社法89条1項)。特殊決議の定足数と決議要件は、次のとおりです。  

定足数 発行済株式の議決権の4分の3以上(株式会社法89条1項)

※定足数を満たさない場合は、2回目の株主総会を開催でき、定足数は3分の2(株式会社法89条2項、3項)。
2回目も定足数を満たさない場合は、3回目の株主総会を開催でき、本店所在地を管轄する地方裁判所が定足数を決定(株式会社法89条4項)。

決議要件 出席株主の議決権の4分の3以上
⑤ 投資調整庁(BKPM)の承認手続

 株主の変更について投資調整庁(Badan Koordinasi Penanaman Modal、 以下「BKPM」といいます)の承認を得る必要があります(投資調整庁長官規則2016年6号25条1項)。

 承認を取得する時期は特に定められていませんが、法務人権省への届出の期間がクロージングから30日以内となっている関係上、BKPMの承認をクロージングより前に取得している必要があります。

 なお、実務的には、買収完了までの期間を短縮するために、公告および労働者に対する通知と同時に株主総会決議を実施して、BKPMへ承認申請をしておき、30日経過後に改めてその総会決議を承認する株主総会を実施するということも多く行われています。

(2)クロージング時の手続

① 株式譲渡証書の作成

 BKPMからの承認を得た後、契約書とは別に、株式譲渡証書を公証人の前で作成します(会社法128条2項)。

② 株主名簿への記録

 株式譲渡の当事者は、譲渡証書の原本または写しを会社に提出しなければなりません(株式会社法56条2項)。これを受けて対象会社の取締役会は、株主名簿に株式譲渡の事実および実行日を記録します(株式会社法56条3項)。

③ 株券の扱い

 インドネシアの株式会社においては株券の発行は必須ではなく(株式会社法51条)、株券を発行している場合でも、権利譲渡に際して交付する必要は法律上ありません。もっとも、実務的には旧株券を回収し、新株主に新しい株券を発行します。

(3)クロージング後の手続

① 法務人権省への届出

 対象会社の取締役は、株式譲渡証書の写しを添付して、クロージング日から30日以内に法務人権省に届け出る必要があります(株式会社法56条3項、131条2項)。法務人権大臣は、これを受けて買収について官報に掲載します(株式会社法132条、30条)。

② 買収結果の新聞公告

 クロージング日から30日以内に、対象会社の取締役は、買収の結果を新聞公告しなければなりません(株式会社法133条1項、2項)。

③ 商業省における登記

 法務人権省への届出受理通知を受け取った後、対象会社は商業省で登記簿を変更しなければなりません(会社登記に関する法律25条1項)。

最低株主数、スクイーズアウトについて

最低株主数について

 インドネシアの株式会社法では、最低株主数は2名と定められており(株式会社法7条1項)、株主が1名になった場合には株式譲渡等により6か月以内に株主数を増やす必要があります(株式会社法7条5項)。
 したがって、買収手続のスキームを考えるときは、買収後の株主構成についても併せて検討しておく必要があります。

スクイーズアウトについて

 最低株主数が2名とされているため、インドネシアの会社を買収する場合には原則的に少数株主もいることになります。なかには買手企業と友好的ではない少数株主がいるケースもあります。

 この点、日本においては株式併合などを用いるスクイーズアウトにより少数株主を排除する方法が会社法上認められていますが、インドネシアではスクイーズアウトを利用する方法がありません。少数の反対株主を説得できずに買収後も反対株主が残ってしまうケースや、反対株主が残ることを見越してそもそもディールが成立しないケースもよくあります。買収を検討する段階で株主の人数、大株主との関係等の情報や株主の意向等を把握しておくことが重要です。

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