ベトナム企業を対象とするM&Aにおいて上場会社株式を取得する場合の留意点

国際取引・海外進出
渡邉 純子弁護士

 ベトナム企業へのM&Aにおいて、買収対象会社が上場会社である場合の留意点について教えてください。また、いわゆるスクイーズアウトは可能でしょうか。

 ベトナムにおいて、上場会社の株式を取得する場合には、①公開会社に適用がある規制、②上場株式に適用がある規制、の2種類の規制に留意する必要があります。また、現在のところ、少数株主からの強制的な株式取得を認める制度はありませんので、買収対象会社の100%子会社化を行うためには、各株主から個別に株式を買取る以外に方法はないと考えられます。

解説

はじめに

 近時のベトナムにおける証券市場の発展を受けて、M&Aの買収対象会社が上場会社であるケースも増えています。

 上場会社の株式を取得する場合には、①公開会社(=「上場会社」を含むより広い概念)に適用がある規制、②上場株式に適用がある規制、の2種類の規制に留意する必要があります。

 いずれについても証券法上の規制に留意する必要がありますが、本年10月に開会する国会において証券法の改正法案が審議される見通しです。改正法案の成立は2019年に予定されております。もっとも、本執筆時点(2018年3月)において、証券法改正に関する法案は公開されておりませんので、今後の動向には注意が必要です。以下では、現行の証券法を前提に解説いたします。

公開会社に適用がある規制

公開会社の定義

 ベトナム証券法上、以下のいずれかに該当する場合は「公開会社」となります(証券法25条)。  

  1. 株式の公募を行った会社(公募実施会社)
  2. 証券取引所または証券取引センターに上場している会社(上場会社)
  3. 100名以上の株主(プロ投資家を除く)が存在し、かつ定款資本が100億ドン以上である会社

外資出資比率に関する規制

 買収対象会社が公開会社である場合、従前、外国投資家による公開会社への出資は一律に49%を上限とする規制が存在していましたが、2015年9月1日から施行された政令60/2015/ND-CPにより以下のとおり定められています。実務上は、②の観点が見落とされがちなので、買収対象会社の事業内容を精査のうえ、出資が認められる上限比率について事前に確認することが重要です

  1. 国際条約およびベトナム国内法令において、外資による出資比率について明確な規定がある場合には、当該出資比率が上限となる(たとえば、100%の出資可能である旨の定めがある場合には100%となる)
  2. 国際条約およびベトナム国内法令において、外資による出資比率について明確な規定がない場合、または出資比率の上限以外の他の条件が付されているときには、上限は49%となる
  3. 対象会社が営む事業に異なる外資保有割合が定められている複数の事業を営む場合には、最も低い割合が適用される(最も低い割合までしか当該会社の株式または持分を保有できない)

公開買付規制

 以下のいずれかの場合には、原則として公開買付け(TOB)が義務付けられます(証券法32条)。

  1. 保有割合が25%以上となる株式を取得をしようとする場合
  2. 保有割合が25%以上の者がさらに10%以上の株式を取得しようとする場合
  3. 保有割合が25%以上の者が、直前の公開買付けの完了から1年以内にさらに5%以上10%未満の株式を取得しようとする場合

 ただし、この公開買付規制には例外が設けられており、公開会社の議決権株式の25%以上を取得する取引であっても、当該取引が対象会社の株主総会の普通決議により承認されている場合は、公開買付けは不要とされています(証券法32条2項(b))。この規定を根拠として、実務上は、株主総会決議を経ることで公開買付けを行わない場合が多いと思われます。

インサイダー取引規制

 証券法上、「インサイダー情報」は、「公開会社または公開のファンドに関する未公開情報であり、公開された場合に当該公開会社または公開ファンドの株価に重大な影響を与え得る情報」と定義されており(証券法6条32項)、インサイダー情報を利用した自己または他人のための証券の売買が禁止されています。

 インサイダー取引規制に違反した場合、行政罰および刑事罰が科される可能性があります。日本のインサイダー取引規制と比較した場合、ベトナムにおけるインサイダー情報の定義は非常に幅広く抽象的であり、判断の基準となるガイドラインも特段存在しないため、買収前のデューデリジェンスにおいて、インサイダー情報に該当し得る情報を入手した場合は、対象会社に当該事実を公表させる等の対応策が必要になるケースもあり得ます。

上場会社に適用がある規制

 上場株式を取引する際の規制はいくつかありますが、ここでは、取引価格に関する値幅制限を取り上げます。ベトナムには、ホーチミン証券取引所、ハノイ証券取引所およびUPCoMの3つの証券市場がありますが、基準価格(=取引前日の終値)に基づき、次のような一定の取引価格の制限があります。

  • ホーチミン証券取引所上場銘柄=基準価格の±7%
  • ハノイ証券取引所上場銘柄=基準価格の±10%
  • UPCOM上場銘柄=基準価格の±15%

 ただし、国家証券管理委員会(The State Securities Commission :SSC)の個別承認を得ることにより、証券取引所外で取引を行うこともでき、その場合には上記の値幅以外の価格での取引が可能となるため、実務上、大株主と相対して上場株式の取引を行う事案では、SSCの個別承認を取得することにより、上記の値幅制限を超える価格で合意するケースもあります。

スクイーズアウトの可否

 買収対象会社の100%子会社化(スクイーズアウト)の可否については、ベトナムでは、公開買付者が既発行株式の80%以上を取得したときは、残存株主が希望する場合に、公開買付者が公開買付完了後30日以内に買い取り義務を負うという制度はありますが(政令58号51条)、残存株主が売却を望まないようなケースで、残存株主の株式を強制的に取得することが可能であることの明確な法的根拠はないため、現行のベトナム法制のもとでは、買収対象会社の100%子会社化を行うためには、各株主から個別に株式を買取る以外に方法はないと考えられます。

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