ロシア企業との契約につき仲裁合意をする場合の確認事項

国際取引・海外進出
松嶋 希会弁護士

 ロシア企業から契約書案を受領しました。契約書案には、紛争解決方法について「Arbitration Court of Moscow」で解決すると記載されていますが、モスクワで仲裁を行うことは、一般的でしょうか。

 ロシア仲裁機関での仲裁も利用されていますが、ロシア企業と日本企業とのクロスボーダー取引では、ロシア国外での仲裁が多いといえます。また、ロシアでは「Arbitration Court」が国家裁判所を意味することがあるので、ロシアでの仲裁に合意する場合、国家裁判所での裁判ではなく仲裁機関による仲裁であることを確認してください。

解説

ロシアでの仲裁

 ロシアでの仲裁件数は、ロシアの裁判件数と比較すると少ないですが、一般的に利用されているといえます。ロシア連邦商工会議所下の仲裁機関が発表した2016年統計では、同会議所下の国際商事仲裁裁判所(ICAC)による国際仲裁は271件、同会議所の仲裁機関による国内仲裁は374件です。上記統計では、比較として他国の2016年の仲裁件数も掲載されており、国内仲裁を含めて、ロンドン国際仲裁裁判所(LCIA)では303件、ストックホルム商業会議所仲裁裁判所(SCC)では199件です。

ロシアでの仲裁に合意する際の留意点

 ロシア企業と日本企業との間の契約は、通常、英露併記で作成されます。ロシア語文ではロシアの国家裁判所に専属管轄を与えているものの、日本企業側が英文の表記からロシア企業が仲裁に合意したと理解している場合があります

 筆者はこれまでロシア企業と日本企業の契約書で「Moscow Arbitrazh Court」、「Arbitration of Moscow」、「Arbitrage Court in Moscow」、「Arbitrazh (Commercial) Court of the city of Moscow」という表記を目にしましたが、ロシア語文では、どれも国家裁判所であるモスクワ市商事裁判所での解決を定めるものでした。歴史的な事情から、企業紛争を審理する国家裁判所の名称に「Arbitration」というロシア語が含まれていることで誤解を招きやすく、英語と同様に、ドイツ語やフランス語の契約書でも問題となっているようです。ちなみに、ロシアには、上記にあげた名称の仲裁機関は存在しません(ロシアの仲裁機関については、「ロシア企業との契約における紛争解決方法の選択」を参照)。

 仲裁は、手続が法定されている国家裁判所での解決とは異なり、手続を当事者が柔軟に決めることができる点が特徴です。したがって仲裁を選択する際には、機関仲裁であってもアドホック仲裁であっても、手続について契約書で合意しておくことが推奨されます。その過程で、国家裁判所での裁判か仲裁かが明確になり、仲裁であることが確認されると思います。

ロシアビジネスで利用される外国仲裁機関

 ロシアに関する国際ビジネスでは、ロシア国外での仲裁(外国仲裁)も一般的です。外国仲裁判断がニューヨーク条約に基づきロシアで執行されている実情のほか、ロシアビジネスがキプロス企業などの外国企業を通じて行われていることにも起因すると考えられます。

 ロシアビジネスに関する外国仲裁機関としては、たとえば、LCIAやSCCが選択されています。LCIAでの仲裁案件の3分の1は、ロシア関連案件といわれています1。日本企業については、ロンドンや西欧に欧州統括会社を置いている場合にLCIAが選ばれやすいようです。ソ連邦時代からロシア(ソ連邦)とビジネスを行っている日本企業の場合、ロシアビジネスについてはSCCを選択する慣行が残っていることもあります。SCCもロシアビジネスの仲裁機関として利用されており、SCC仲裁の参加者出身国は、地元スウェーデンが一番多く(68.5%)、次にロシアが続いています(14.5%)2

 近時は、極東に所在するロシア企業や、首都モスクワの企業も、アジア企業との契約においてシンガポールでの仲裁に合意する場合があります(ロシアに対し制裁を課している西欧での仲裁の代わりにシンガポールでの仲裁を受け入れるようになっています)。多くはありませんが、日本での仲裁が合意される例もあります。

おわりに

 日本企業とロシア企業とのクロスボーダー取引では、ロシア国外の仲裁が選択されることが多いといえます。ロシア企業との関係やビジネス上の判断で、ロシアでの仲裁に合意することもあると思いますが、その際には、契約書の紛争解決条項の記載に気を付けてください。

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