強制執行を踏まえた訴訟手続の必要性

訴訟・争訟
西中 宇紘弁護士

 当社(X社)は、取引先であるY社に対してある当社商品を販売して引き渡したのですが、Y社は資金繰りが苦しいといって一向に代金1000万円を支払ってくれません。先日もY社に代金を支払うよう申し入れをしましたが、任意に支払をしてくる様子はありませんでした。いよいよ強制的に債権の回収を図る必要があると考えていますが、債務者の財産から強制的に回収するためには、前提として訴訟を提起する必要があると聞きました。訴訟提起が何故必要なのか、また、訴訟提起をするか否かを検討する際の考慮事項としてどのようなものがあるか教えて下さい。

 金銭債権について債務者が任意での支払に応じない場合、債権者としては、強制執行手続を行って強制的に債務者の財産から回収することを考えます。強制執行を行うためには、「債務名義」と呼ばれる民事執行法22条各号に掲げられている文書のいずれかが必要になります。そして、この債務名義の典型例である確定判決を取得するために、債権者としては訴訟提起を行う必要があることになります。
 また、訴訟提起をするか否かは、債権の金額、訴訟にかかるコスト、債務者の資力・資産状況、債権書類の存否、和解の可能性、消滅時効等の諸般の事情を総合考慮して個別具体的に検討し判断することになります。

解説

訴訟手続が必要になる理由

 金銭債権について債務者が任意での支払に応じない場合、債権者としては、強制執行手続を行って強制的に債務者の財産から回収することを考えます。しかしながら、金銭債権を有する債権者といえども、いきなり債務者の財産に強制執行をすることができるわけではありません。

 強制執行手続が開始されるためには、「債務名義」と呼ばれる文書を裁判所に提出する必要があります(民事執行法25条本文)。すなわち、債権者としては、強制執行手続に入る前に債務名義を取得する手続を行うことが必要になります

 債務名義とは、民事執行法22条各号に掲げられている文書であり、様々な種類の文書がこれに当たりますが、その典型例は確定判決です(民事執行法22条1号)。したがって、債権者としては、確定判決を取得するために訴訟提起をする必要があるという整理になります。

訴訟提起を検討する際の考慮事項

 金銭債権の請求を行う場面で、債務名義取得のために訴訟提起を検討する際に考慮すべき代表的な事項としては、債権の金額訴訟にかかるコスト債務者の資力・資産状況債権書類の存否和解の可能性消滅時効等が挙げられます。

訴訟提起の検討にあたって考慮するポイント
  • 債権の金額
  • 訴訟にかかるコスト
  • 債務者の資力・資産状態
  • 債権書類の存否
  • 和解の可能性
  • 消滅時効

債権の金額と訴訟にかかるコストについて

 債権の金額と訴訟にかかるコストという費用対効果の点は、第一に考慮される事項です。例えば、債権の金額が20万円しかないにも関わらず、20万円を超える弁護士費用等を支払って訴訟提起したのでは、訴訟提起に経済合理性がないことは明らかです。  

債務者の資力・資産状態

 費用対効果という意味では、債務者の資力や資産状況も考慮事項となります。訴訟提起をして最終的に勝訴判決を得たとしても、債務者が任意に支払をしない場合は、引き続き強制執行手続を行うことになります。
 しかし、債務者に資力が全く無く、債務者所有の資産も不明であるような場合には、強制執行の対象となる債務者の財産が存在せず、せっかく取得した判決(債務名義)に基づいて強制的な回収をすることができない結果に終わってしまいます。したがって、訴訟提起をする時点で強制執行段階を見据えて債務者の資力や資産状態がどのようなものかということも考慮しておく必要があります。  

債権書類の存否について

 また、訴訟においては、原告となって請求する債権者側で債権が存在することを積極的に主張・立証する必要があるところ、きちんとした債権書類が揃っていれば債権者として立証活動が容易になるため、債権書類の存否も訴訟提起を検討する際の考慮事項となります。

和解の可能性について

 当事者間で交渉をしたにもかかわらず債務者が任意に支払わないことが訴訟提起を検討する前提にはなりますが、債務者の中には第三者的な立場の裁判所がいうのであれば支払うという人もいます。訴訟を提起すれば、期日が指定されて被告となる債務者は裁判所に呼び出され、当事者が顔を合わせる機会が設定されます。
 また、訴訟の進行次第では和解期日が指定されて、訴訟上の和解(成立すれば和解調書が作成され、これは確定判決の同一の効力を有するものとして債務名義になります(民事執行法22条7号))の機会が設けられることもあります。このように、訴訟においては、裁判所が当事者の間に入って話し合う機会が設定される可能性があるため、和解で終わる可能性がどれくらいあるのかも訴訟提起を検討する際の考慮事項となります。

消滅時効について

 また、訴訟提起は裁判上の請求として、消滅時効の中断事由となります(民法147条1号、同法149条)。したがって、消滅時効の完成日が間近に迫っている場合には、時効を中断する目的で訴訟提起をする必要がある場合があります。

まとめ

 上記2で挙げた事項は、訴訟提起を検討するにあたって考慮する事項の代表的なものであり、これらの事項等を総合的に考慮して、訴訟提起を行うか否かを決定することになります。

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