訴状作成時に企業担当者において留意すべきこと

訴訟・争訟

 私は、建設機械メーカーの法務部門に勤務しています。当社は、ある製品について、建設会社のA社との間で代金1億円での売買契約を締結し、これをA社に引き渡したのですが、A社が一向に代金を支払おうとしないため、顧問弁護士に訴訟提起を依頼しました。訴状をドラフトしてもらったところ、その記載内容は、「当社はA社に対して製品○○を代金1億円で販売した。よって、その代金の支払いを求める」というような、比較的シンプルなものでした。

 ところで、事前に当社営業部門がA社と交渉していた際、A社からは、「当社製品の仕様書には、使用可能な現場条件が記載されていたにもかかわらず、A社がその条件の現場で使用したところ、うまく機能しなかった。すなわち当社製品には瑕疵があるので、A社は売買契約を解除した。したがって代金を支払う必要はない」との主張がなされていたようです。しかしながら、問題の製品は他社にも多数販売しており、同じ条件の現場で使用されているところ、そのいずれにおいてもA社が主張するような事態は生じておらず、A社の主張が不当な言いがかりであることは明らかです。営業部門から聞いたこの話について、弁護士に伝えて訴状に追記してもらう必要があるでしょうか。

 A社の主張内容を訴状に記載しなければならないというわけでは必ずしもありませんが、どのみち訴訟においてA社がその主張を行うことが予想されるのであれば、これを訴状に記載するとともに、その主張に理由がないことも併せて記載することは、訴訟戦略上あり得ます。少なくとも、記載の要否につき訴訟代理人となる弁護士に判断させるために、A社の主張内容等を弁護士に伝えることは必須であると考えられます。

解説

訴状の記載事項

 訴えを提起するときは、訴状を裁判所に提出してしなければなりません(民事訴訟法133条1項)。そして、訴状に記載すべき事項は、民事訴訟法および民事訴訟規則において明定されています
 本稿は主として企業担当者を対象としているところ、企業が訴えを提起する場合、通常は、弁護士に訴訟追行を依頼し、訴状の作成も弁護士が作成するものと思われます(そして、弁護士であれば当然、訴状の記載事項は把握していてしかるべきです)。そのため、詳細な説明はここでは割愛しますが、訴状の記載事項としては、以下の各事項があげられています。

  1. 当事者および法定代理人の氏名(名称)および住所(民事訴訟法133条2項1号、民事訴訟規則2条1項1号)
  2. 請求の趣旨および原因(民事訴訟法133条2項2号)
  3. 請求を理由づける事実(主要事実)ならびに重要な間接事実および証拠(民事訴訟規則53条1項)
  4. 原告またはその代理人の郵便番号および電話番号(ファクシミリの番号を含む)(民事訴訟規則53条4項)
  5. 事件の表示(民事訴訟規則2条1項2号)
  6. 附属書類の表示(民事訴訟規則2条1項3号)
  7. 訴状の作成年月日(民事訴訟規則2条1項4号)
  8. 訴状を提出する裁判所の表示(民事訴訟規則2条1項5号)
  9. (訴えの提起前に証拠保全のための証拠調べが行われたときは)
    その証拠調べを行った裁判所および証拠保全事件の表示(民事訴訟規則54条)

 ここで、上記②の「請求の趣旨」とは、原告が裁判所に対して求める判決の内容の記載をいい、たとえば1億円の製品の売買代金請求訴訟であれば、「被告は、原告に対し、1億円を支払え」といった記載がこれにあたります。他方、「請求の原因」は、多義的な用語ではありますが、上記②においては、請求を特定するのに必要な事実(狭義の請求原因)を意味しており、上の例でいえば、「原告および被告は、平成○○年○月○日、売買代金を1億円として、製品○○の売買契約を締結した」といった記載となります。これら請求の趣旨および原因の記載を欠く訴状は不適法であり、そのような訴状をもって提起された訴えは却下されてしまいます。

 訴状のイメージは、以下のリンク先に記載するとおりです。

 参照:「別紙(訴状イメージ)

訴状の添付書類

 訴状の正本を裁判所に提出するにあたり、これに添付すべき書類(附属書類)としては、①訴状の副本(被告に送達するためのもの。民事訴訟規則58条1項参照)、②書証(甲号証)の写し(裁判所用および被告用。民事訴訟規則55条2項)、③訴訟委任状(民事訴訟規則23条1項参照)のほか、原被告が法人である場合の④資格証明書などがあります。  上記④については、法人の全部事項証明書や一部事項証明書(代表者の記載を含むもの)、代表者事項証明書がこれにあたり、原則として、発行後3か月以内のものでなければなりません

訴状作成時の企業担当者の留意点

 前記のとおり、訴状は基本的には訴訟代理人に就いた弁護士が作成するものですが、企業担当者において訴状作成を弁護士に任せきりにしてよいかといえば、必ずしもそうではありません。当然のことながら、訴状には法律論のみを記載するということではなく、まず訴えの対象となる紛争に関する事実の記載があり、その事実の法的解釈を記載して、原告の請求を基礎付けることになるわけですが、事実については、紛争の当事者である企業のみが把握しているものですので、これを弁護士に十分に提供しなければ、充実した内容の訴状を作成することは不可能です。そして、弁護士への事実説明に際しては、自社に不利な事情や相手方の言い分なども含めて、紛争に関する事実をできるだけ幅広に伝えるということが重要です。

 この点、確かに前記のとおり、訴状に記載しなければならない事項は限定的であり、たとえば原告の請求に対する被告の反論(設問の事例におけるA社の主張)の内容などは、これに含まれていません。被告が言及する前から、原告が先回りして被告の反論内容を裁判所に説明する必要はないという考え方も、もちろんあり得ます。

 他方で、訴訟においても当然被告は主張するであろうとわかっている内容について、あえて触れることを避けて訴状を作成すれば、後に被告の反論を見た裁判所が、「原告は自らに不利な事情を隠す傾向がある」とか、「被告の反論について、原告は『痛いところを突かれた』と思っているのでは」といった印象を受ける可能性もないではありません。また、請求にあたり複数の法律構成が可能な事案においては、被告の反論内容との関係で、一方の法律構成の方が他方の法律構成よりも認められやすいということもあり得ます。

 こうしたことを総合的に考慮して、訴状に何を記載し何を記載しないかを決めることは、多分に訴訟戦略的要素を含み、最終的な判断は訴訟代理人となる弁護士の裁量に委ねざるを得ないとしても、そもそも弁護士が被告の反論内容等を把握していなければ、そのような判断をしようがありません。弁護士が紛争の実態を十分に理解しないまま訴状を作成・提出すれば、その時点では記載内容に特段の問題はないように見えても、後に被告から反論を受けて再反論しようとする際に、再反論の内容と矛盾するような記載が含まれてしまっているということも考えられます。

 もちろん、訴訟経験の豊富な弁護士であれば、依頼企業側から提供された情報のみに依拠せず、想像力を駆使して、「このような事実がないか」という確認を行い、訴状作成に必要な情報を自ら収集することもある程度は可能ですが、それにも限界はあり、企業担当者からの積極的な情報提供は必須であるといえます。訴状(のみならず訴訟上の主張書面全般)の作成は、訴訟代理人弁護士と依頼企業との共同作業であるという意識を強く持つことが、企業担当者には必要であると考えられます。

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