訴えの提起に要する費用

訴訟・争訟

 当社工場に納入された機械が突如火を噴いて火災を発生させ、工場建物も、工場内の他の機械や半製品・仕掛品も、すべて焼失してしまいました。当社の損害は、総額で10億円近くになりそうです。
 出火元となった機械はA社が製造したものであり、当社はA社に対する損害賠償請求訴訟を検討中ですが、なにぶん当社は、このような巨額の訴訟の当事者となった経験がありません。そもそも、訴えを提起するに際しては、通常どのような費用がかかるのでしょうか。

 訴えを提起するに際しては、訴え提起の手数料の納付、送達費用の予納、訴訟代理人弁護士への報酬支払い等の費用が発生します。
 なお、訴え提起の手数料の額は、民事訴訟費用等に関する法律が定める方法によって算定され、たとえば10億円の損害賠償請求訴訟であれば、手数料の額は302万円となります。

解説

訴え提起の手数料

手数料の額

 裁判所に訴えを提起するには一定の手数料を納める必要があり、その手数料の額の算定方法については、民事訴訟費用等に関する法律に定めがあります。すなわち、訴え提起の手数料の額は、「訴訟の目的の価額」(以下「訴額」といいます)に応じて、民事訴訟費用等に関する法律の別表第一の下欄に規定される方法により算定された額となります(民事訴訟費用等に関する法律3条)。訴額に応じた手数料の額について、以下に一部を例示します(なお、訴額が1億円以下であれば、手数料の額は、裁判所ウェブサイトに掲載されている「手数料額早見表」を見ることですぐに確認できます)。

訴額 手数料の額
1,000,000円 10,000円
10,000,000円 50,000円
100,000,000円 320,000円
500,000,000円 1,520,000円
1,000,000,000円 3,020,000円
5,000,000,000円 11,020,000円

 ところで、訴額とは、言い換えれば、原告がその訴えで主張する利益(全部勝訴した際に得られる利益)を金銭的に評価した額ということになりますが、実務では、その算定は、最高裁判所事務総局民事局長が発出した通知に基づいて行われています。

 たとえば、金銭の支払いを求める訴えであれば、単純に、請求金額が訴額となります。他方、不動産の所有権に基づく訴えの場合、所有権移転登記請求訴訟であれば対象不動産の価格が訴額となりますが、明渡請求訴訟であれば対象不動産の価格の2分の1が訴額となります(ここでいう対象不動産の価格は、基本的には固定資産税評価額ですが、土地の場合はその2分の1とします)。なお、企業が原告となる訴訟としては少数であるとは思われますが、非財産権上の請求に係る訴訟(株主総会決議無効・取消請求訴訟等)や、財産権上の請求に係る訴訟であるが訴額の算定がきわめて困難なもの(取締役の違法行為の差止訴訟等)については、訴額は160万円とみなされます(民事訴訟費用等に関する法律4条2項)。

納付方法

 訴え提起の手数料は、原則として、手数料の額に相当する収入印紙を訴状に貼付する方法によって納付します(民事訴訟費用等に関する法律8条本文)。そのため、実務では、手数料の額は通常「印紙代」と呼ばれますし、訴状にはこの金額を「貼用印紙額」として記載するのが一般です(その算定の根拠となる訴額は、「訴訟物の価額」として記載されます)。

 参照:「別紙(訴状イメージ)

 例外的に、手数料の額が100万円を超える場合、印紙貼付ではなく現金による納付も可能とされています(民事訴訟費用等に関する法律8条ただし書、民事訴訟費用等に関する規則4条の2第1項)。具体的には、裁判所の事件係に訴状を提出する際に納付書の交付を受け、これを日本銀行の本支店、代理店または歳入代理店に持参して現金納付することになりますが(民事訴訟費用等に関する規則4条の2第2項)、詳細については、訴えを提起する予定の裁判所に事前に問い合わせるのがよいでしょう。

送達費用の予納

 訴えを提起するに際しては、裁判所が各種書類を送達するための費用を予納しなければならず(民事訴訟費用等に関する法律11条1項1号、12条1項)、基本的には郵便切手(郵券)によって概算額を予納します。予納額は裁判所によって異なりますが、東京地方裁判所の場合、当事者(原告および被告)がそれぞれ1名であれば合計6,000円分の、当事者が1名増えるごとにさらに2,144円分の郵便切手(その内訳も決まっています)の予納が必要となります。

弁護士報酬

 企業が訴えを提起する場合、通常は、弁護士に訴訟追行を依頼するものと思われるため、この弁護士に対する報酬の支払いも必要となります。訴訟事件に係る弁護士報酬の取り決め方としては、従来は着手金・報酬金方式が主流でしたが、近時は(特に企業が当事者となる訴訟においては)タイムチャージ方式も増えています

 着手金・報酬金方式とは、訴え提起時に「着手金」と呼ばれる一定の金額の報酬を支払うとともに、訴訟終結時にはその成功の度合いに応じて「報酬金」(いわゆる成功報酬)を支払うという方式です。かつては日本弁護士連合会および各単位弁護士会(東京弁護士会等)が定める着手金・報酬金の額の標準に係る規程(独占禁止法上の問題から、平成16年3月31日に廃止されました)が存在し、今もこの規程を参考にしている法律事務所は少なくありませんが、そうした法律事務所も、この規程をもとに算定される金額からある程度ディスカウントした金額を着手金・報酬金の額とする場合が多いように思われます。

 タイムチャージ方式とは、弁護士が事件処理に要した時間に、その弁護士の時間あたりの単価を乗じた金額を報酬とする方式です。弁護士の単価は、その弁護士が所属する法律事務所が独自に定めています。また、時間を使う限り報酬が増え続けていくことになりますので、あらかじめ上限額について合意することもままあります。

 いずれの方式においても、訴額が高い訴訟事件については弁護士報酬も高額となる傾向がある一方、具体的な金額は法律事務所によってまちまちになることも多いため、依頼企業の担当者としては、複数の法律事務所から相見積りをとる等して、報酬額の合理性を検証することが必要となる場合もあるでしょう。

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