遠方の裁判所に訴えを提起された場合の対応

訴訟・争訟

 X県に所在する当社の支店で、顧客とのトラブルが発生し、その顧客からX県の裁判所に訴えを提起されてしまいました。当社は、東京の法律事務所に所属する弁護士を顧問としており、X県で活動する弁護士にはあてがありません。
 当社の顧問弁護士に、X県の裁判所に毎回出張してもらうとなると、コストの負担も大きくなってしまいそうなのですが、裁判所に実際に出向かなければ、訴訟活動はできないものなのでしょうか。

 口頭弁論期日の場合は、当事者または代理人弁護士が法廷に出頭する必要がありますが、第1回口頭弁論期日であれば、被告は、提出した答弁書を陳述擬制してもらうことにして、期日を欠席することも可能です。
 また、弁論準備手続期日であれば、電話会議システムの方法を利用することができ、この場合は、裁判所に出向かずとも、電話で期日に参加することで手続を行うことができます。

解説

遠方の裁判所での訴訟手続の遂行

 遠方の裁判所に訴えを提起された場合、まずはその裁判所に管轄権(民事訴訟法4条等参照)が認められるかを確認し、仮に管轄違いであったときは、そのことを理由とした移送の申立て(民事訴訟法16条1項)をすべきことになりますが、原告側が管轄違いの裁判所に訴えを提起してくるというケースは、あまり多くはないように思われます。また、訴えが提起された裁判所に管轄権が認められる場合にも、訴訟の著しい遅滞を避け、または当事者間の衡平を図るため必要があると認められるときは、他の管轄裁判所への移送を申し立てることができますし(民事訴訟法17条)、他の裁判所で審理することが原被告間で合意されたときは、原則としてその裁判所への移送が必要となりますが(民事訴訟法19条1項)、前者については、その要件の充足が認められるのはごく例外的な場合に限られますし、後者については、原告の同意取得が困難なことが多いものと思われます。

 上記のとおり、他の裁判所への移送が認められなさそうな場合は、訴えを提起された裁判所で訴訟手続を遂行するよりほかありませんが、その具体的方法については、以下に記載するとおり、期日の種類に応じて異なり得ます。

口頭弁論期日

 法廷で開かれる口頭弁論期日は、「口頭」というくらいですから、当事者が主張書面の内容等を口頭で陳述することが原則となり、当事者は実際に法廷に出頭しなくてはなりません。
 もっとも、第1回口頭弁論期日の場合は、被告は、あらかじめ裁判所に答弁書を提出しておきさえすれば、その答弁書が期日において陳述されたものとみなされますので(陳述擬制。民事訴訟法158条)、期日を欠席することも可能です

弁論準備手続期日

 裁判所は、争点および証拠の整理を行うため必要があると認めるときは、事件を弁論準備手続に付することができますが(民事訴訟法169条1項)、この弁論準備手続期日における手続については、当事者が遠隔地に居住している場合等は、電話会議システムを利用して参加することができます(民事訴訟法170条3項本文)。ただし、電話会議システムを利用するためには、当事者の一方が裁判所に出頭している必要があります(民事訴訟法170条3項ただし書)。

 たとえば、設例においては、原告側がX県の裁判所に出頭するのであれば、被告側は、電話会議システムを利用して東京から弁論準備手続期日に参加することができます。この場合、原告側が裁判所に出頭した時点で、裁判所から被告代理人弁護士のいる法律事務所等への架電がありますので、被告代理人弁護士は電話に出て、電話口の向こうの裁判官や原告(代理人弁護士)とやり取りをすることになります。

 なお、法律上は、書面による準備手続(当事者の出頭なしに準備書面の提出等により争点および証拠の整理を行う手続)という制度も用意されてはいますが(民事訴訟法175条以下)、実務上はほとんど利用されていません。 

その他(証拠調期日、和解期日等)

 証人や当事者本人の尋問を行う証拠調期日については、その性質が口頭弁論期日であるため、当事者は法廷に出頭する必要があります。証人が遠隔地に居住する場合のテレビ会議システムによる尋問(民事訴訟法204条1号)や、裁判所が相当と認め当事者に異議がない場合の書面尋問(尋問に代わる書面の提出。民事訴訟法205条)という制度もありますが、実務上、利用される例はそう多くはありません。

 また、訴訟上の和解について裁判所で話し合う場合は、弁論準備手続期日において和解協議を行うことも可能ですが、これとは別に、和解期日が指定されることもあるところ(特に、裁判所が弁論を終結した後は、弁論準備手続期日を指定することはできないため、和解協議は和解期日で行うしかありません)、この和解期日については、電話会議システムを利用することが認められていないため、当事者は裁判所に出頭しなければならないことになります。

 もっとも、たとえば期日外の当事者間の電話のやり取り等で具体的な和解条項に至るまで合意が整っているにもかかわらず、訴訟上の和解を正式に成立させるためだけに当事者が裁判所に出頭するというのは、煩瑣ではあります。
 このような場合、実務上、受諾和解(和解条項案の書面による受諾。民事訴訟法264条)という方法が用いられます。すなわち、期日外で当事者間の合意が整った和解条項を裁判所に送付しておいたうえで、遠隔地の当事者は、和解期日に先立って、「裁判所から提示された和解条項案を受諾する」との書面をあらかじめ提出し、他方当事者は、期日に出頭して、そこで裁判所から上記和解条項の提示を受け、これを受諾することで、訴訟上の和解を成立させることができます

実務的な対応

 設例のように、遠方の裁判所に訴えが提起され、被告としてはできるだけ現地に出向くことを避けたいという場合には、答弁書を裁判所に提出する際に、答弁書の末尾に、①第1回口頭弁論期日は欠席予定であり、答弁書は陳述擬制してほしい旨、および②次回以降の期日は、電話会議システムを利用して参加したいので、弁論準備手続期日として指定してほしい旨を記載することになるでしょう。②については、裁判所の裁量によって決まりますが、要望が通る可能性は高いものと思われます。そして、その後は電話会議システムを利用した弁論準備手続期日への参加を積み重ねることで、証拠調期日までの間は、裁判所に出頭しないまま訴訟手続を遂行することができます。

 もっとも、遠方の裁判所での訴訟のすべてにおいて、上記のような対応をすべきかについては、慎重な検討を要します。というのも、主張内容等について裁判所から疑問が示された場合などに適切に補足説明を行ったり、裁判所の心証を探ったりするうえでは、裁判官と面着で話すのが望ましいためです。また、弁論準備手続期日における電話会議システムの利用は、原告側が期日に出頭することが前提となりますが、電話をかける前(期日開始前)や電話を切った後(期日終了後)に、原告側が、被告の不在をいいことに、裁判官に対して一方的な情報提供をし、裁判官をミスリードしようとする懸念もあります。そのため、訴額が大きい等の重大訴訟や、紛争の内容が複雑な訴訟については、遠方の裁判所に係属した場合であっても、代理人弁護士に裁判所に出頭してもらう方がよいものと思われます。

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