最新判例による税務コンプライアンス

第1回 恒久的施設を通じてネット通販事業を行うものとされた事例

税務

恒久的施設とは企業が事業を行う一定の場所

 恒久的施設とは、企業がその事業の全部または一部を行っている一定の場所をいい、事務所や工場などがこれに該当します。外国企業の日本における課税関係は、日本国内の恒久的施設を通じて事業を行っているか否かで大きく変わります。たとえば、米国企業がインターネットを経由して自動車用品を日本の顧客に販売する事業を行う場合その事業を日本国内の恒久的施設を通じて行っていると、その事業から生じる所得のうち恒久的施設に帰属する部分については日本で課税されます(所得税法164条1項1号、法人税法141条1号)。これに対し、その事業を日本国内の恒久的施設を通じて行っていなければ、日本では課税されません。

 ある場所が恒久的施設に該当するか否かは、その場所で行われる活動にもよります。たとえば、米国企業が日本国内の一定の場所で行った活動が準備的または補助的なものである場合は、その場所は恒久的施設に該当しません。もっとも、企業が行った活動がどのようなものかについては、納税者と税務当局との間で見解の相違が生じることが少なくありません。今回は、東京高裁が平成28年1月28日に判決を下した事案を例に、解説します。

日本国内のアパート・倉庫における活動は準備的または補助的なものか

 本件では、納税者とされた米国企業が、米国で自動車用品を仕入れ、日本に輸入して日本国内において保管していました。また、ホームページを運営し、インターネットを通じて顧客から注文を受け、日本国内の保管先から顧客に対し配送業者を介して商品を配送していました。そして、日本国内で賃借したアパート・倉庫を、①商品を保管しておき、②顧客の注文を受けて個別に商品を梱包した上で顧客向けに発送し、③顧客からの返品があった場合には、返品された商品を受け取り、代替商品を発送するなどの業務を行う場所として用いていました。

 したがって、このアパート・倉庫が、米国企業のネット通販事業の全部または一部を行っている一定の場所であることは明らかです。問題は、ここで行った活動が準備的または補助的なものか否かです。

 この点について、東京高裁は、ある場所における活動が準備的または補助的なものか否かは、当該活動が企業の全体としての活動の本質的かつ重要な部分かどうかという観点から検討すべきとしました。そして、次の理由から、日本国内のアパート・倉庫における活動は準備的または補助的なものとはいえず、米国企業は恒久的施設を通じてネット通販事業を行うものであると判示しました。

ネット通販事業においては日本国内の所在地が本質的かつ重要

 このアパート・倉庫における活動がネット通販事業の全体において果たしていた役割・機能、重要性についてみると、米国企業は、ホームページにおいて、唯一の所在地および連絡先として、アパートの住所および電話番号を表示し、商品の発送元や返品先としてもアパートを表示していました。ネット通販事業においては、企業の所在地および連絡先が日本国内にあることは、トラブルが生じた場合の交渉や責任追及の便宜を考えると、取引を行う際の重要な判断要素となります。また、米国企業が出品していた楽天市場は日本国内に事業所があることを出品の条件としており、ヤフーオークションは日本国内の事業者が出品していることを、補償制度を利用するための条件としていました。

 すなわち、アパートは、顧客にとってネット通販事業を営む企業の所在地として認識できる唯一の場所であり、それが日本国内にあることは、顧客からの信頼を得るうえでも、インターネット市場を利用した集客を行ううえでも、不可欠の条件であって、販売活動を行ううえで極めて重要な要素といえます。

 米国企業は、このように重要な意味を持つ場所であるアパートと倉庫を一体的に利用して、ネット通販事業に不可欠な商品の受取り、保管、梱包、発送、返品された商品の受取り、代替品の発送、商品写真の撮影などを行っていました。したがって、アパート・倉庫における活動がネット通販事業全体において果たす役割・機能は本質的で重要なものであり、準備的または補助的なものとはいえないとされました。

これからの税務コンプライアンス

 このように、恒久的施設の有無は、ある場所における活動が企業の全体としての活動の本質的かつ重要な部分かどうかという観点から検討することが重要です。本件は、ある場所における個別具体的な活動が商品の保管や引渡しなどの一見準備的または補助的にみえるものであったとしても、その事業全体との関係で本質的かつ重要な要素が含まれていれば、恒久的施設に該当することを示した好例といえるでしょう。特に、ネット通販事業においては、日本国内の所在地が本質的かつ重要な要素となることを示した点で、とても参考になります。

 これからは、恒久的施設の有無が問題となる事業全体との関係で不可欠の条件となるような本質的かつ重要な要素は何か、それがある場所における活動に含まれているか否かを、慎重に分析することが必要といえます。

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