税務調査は弁護士を必要としているのか? 弁護士の眼前に広がる新たな市場

税務

税務調査と弁護士

 「税務調査に弁護士が必要である」というと多くの人は首をかしげるかもしれない。確かにこれまで、税務において弁護士が活躍する場面としては、税務争訟が主で、税務調査において弁護士が活躍するということはあまり多くなかったと言えるだろう。

 しかし、筆者はあえて、「税務調査に関する業務は、弁護士を必要としている」、いやそれどころか、「 税務調査業務こそ弁護士が活躍すべき主戦場である」と主張したい。
 以下に述べる理由をご覧いただければ、きっと大半の方にご賛同いただけるものと思う。

広大な税務調査市場

市場から見る税務調査

 まず、基本的な事実を確認しておきたい。税務調査実務の市場は、税務争訟市場よりも圧倒的に大きい。それを統計数字で明らかにする。
 まず、法人税の審査請求、税務争訟の発生件数を取り上げる。

【審査請求・税務訴訟の件数】

審査請求件数:国税不服審判所(平成27年6月) 平成26年度における審査請求の概要より
税務争訟件数:国税庁(平成27年6月) 平成26年度における訴訟の概要より

 つぎに、法人税の申告件数・税務調査件数を取り上げる。

法人税の申告件数・税務調査件数

税務調査件数:国税庁レポート2014 法人税の実地調査状況、国税庁レポート2015 法人税の実地調査状況より
申告件数:国税庁(平成26年10月) 平成 25事務年度 法人税等の申告(課税)事績の概要より

 上記の通り、審査請求及び税務訴訟による税務争訟の発生件数は、大幅に減少している。とりわけ、法人税に関する税務争訟件数は、市場と呼べるような数字とはいえないだろう。しかも、過去最低の件数から、さらに大幅に減少した件数になっている。弁護士の税務争訟という業務領域は縮小傾向が定着しているのだ

 他方、法人税の税務調査の件数は税務争訟件数と2桁も違うほど多い。

 平成23年までは、法人税の税務調査件数は約13万件あり、国税通則法改正の影響によって調査件数は大幅に減ったが、弁護士が関与できる税務調査は相当数あり、市場と呼ぶにふさわしい件数である。

 税務調査は、確定申告が適法か否か、違法な時は修正申告を勧め、あるいは、更正処分することを目的とする手続のため、本来は確定申告の作成段階で、法的思考によるチェックを受けるべきものである。その件数は、税務調査の件数を遥かに上回っている。

圧倒的に多い法人税申告件数

 法人税の申告は、申告件数に見合う数の法人の活動が基礎になっている。
 法人の活動という経済行為は、申告という税務につながっているが、申告は同時に、法律的裏付けを伴っているのだ。

 したがって、申告の段階から、相当数の法人および法人の活動に弁護士として関与できる余地があり、明らかに弁護士の市場になりえる。

 税務の専門性を高めることによって企業活動の入口に近づければ、新たな弁護士の職域開拓が可能であることを統計数字は教えてくれている。

税務調査は、弁護士にとってどういう意味を持つのか?

 以上で述べたとおり、市場としての税務調査業務は広大であるが、それ以外に税務調査を専門領域とする弁護士になれば、どういう意味があるのか、思いつくままに列挙してみる。

  • 税務調査に精通する弁護士になれば、納税者から頼りにされる。
  •  納税者およびその関係者は、税務調査を極度に恐れている人が多いからである。
    • 納税者の役に立ち、喜んでもらえることで、弁護士としての生き甲斐も出てくる。
    • 税務調査に慣れてくると、税務は本来的には法律業務なので、税務調査への対応は弁護士に向いているとわかる。
    • 税務調査の領域は、従来、弁護士業務としては認識されていない領域であるから、弁護士にとっての新しい業務分野であり、競争相手となる弁護士もほとんどいない。その意味で、弁護士にとっての無限の可能性を秘めた未開の新大陸になる。
    • 税務調査を専門領域にすれば、対象が広大なだけに、特定の領域に焦点を合わせれば、税務以外の法務領域で専門性を高めることができる。
    •  例えば、組織再編に関する税務調査に焦点を合わせれば、税務分野だけではなく、組織再編における会社法の専門性を高めることも可能である。
       この他にも知財など、多数の専門性と組み合わせることができる。税務と企業法務、両方の専門性を持てば、鬼に金棒といえよう。

 以上を総合すれば、弁護士が税務調査の専門家となれば、広い領域から専門性を高める道を自由に選択でき、専門家としての明るい未来が見えてくる。そのために、相当な努力は必要不可欠なものであるが、そこから得られるメリットを想定したとき、その努力に十分見合うものであることは明らかである。

税務調査は弁護士に向いているのか?

税務調査は法的手続である

 現状だけ見ると、税務調査に専門的に取り組んでいる弁護士は稀である。その現状だけを見れば、税務調査の専門家になることは、弁護士に向いていないように思われても仕方がない。
 ただ、結論から言えば、 税務調査に弁護士は向いているのである。

 税務調査は、国税通則法で規律される法的手続であるから、税務に関する手続法を学び、実務の経験を積めば、ある程度時間はかかるが税務調査対応は必ずできるようになる。その意味では、税務調査はまさに弁護士が行うべき業務であるといえる。
 また、税務調査の実務においては、手続面の他にも、各種税法の個別対応も必要となる。この点に習熟するには、学びかつ経験する期間の長さが必要になる。
 もっとも、これはどの法務分野にも共通しているものであり、なんらかの微分野における専門家を目指す以上、当然のことである。必要な経験と学びの期間の長さを持って、税務調査に弁護士が向いていないとはいえない。

求められる法的思考能力

 税務調査の手続面・個別税法面のいずれも、 その基礎は(課税)要件・証拠による事実認定・結論の法的思考力が基礎になっている
 その法的思考力は弁護士であれば備えているから、税務調査の専門性を高める意欲があり、積極的に取り組み、大いに学び、経験を積むことが出来れば専門家になることは難しくはない。
 税務調査実務の経験を通じて、実務特有の考え方や意味もわかってくる。チームとして専門性の高い弁護士・税理士の協力を得ることもでき、それらの専門家から学ぶことも多い。
 弁護士が税務調査の専門家となることは、向き・不向きの問題ではない。諦めなければ、立派な税務専門の弁護士になれるものと確信する。

税務調査実務は、弁護士を呼んでいる

安心というメリット

 鳥飼総合法律事務所では、税務調査実務は税務専門の弁護士と税務実務に精通した税理士によるチームで担当している。
 その結果、税務調査を担当させていただいた企業の経営者や担当者から、「安心して税務調査に対応できた」と感謝されている。この「安心して」というところが最大のメリットになっている。
 また、実際の場面では、課税庁側と納税者側との間で、見解の相違があることがほとんどであるが、当事務所が入った場合には、調査官と対立的・感情的になることはほとんどないのが実情である。

鳥飼重和先生

鳥飼総合法律事務所ではチーム一丸となって税務調査実務に対応している

コミュニケーションがポイントとなる

 税務調査実務の本質は、解釈・事実認定等の法的思考力を基礎としつつ、主張すべきものは遠慮なく主張し、課税庁の言い分が正しい時は、それを受け入れるという 双方向・相互信頼に基づく硬軟おりまぜたコミュニケーション力を発揮する場という点にある。
 その意味で、リスクや相手の強み・弱点などを考慮しつつ、硬軟を使い分けた交渉力をもつべき弁護士にふさわしい職域であるともいえる。
 このような弁護士は、顧客である納税者・担当者に頼もしいと思われ、その帰結として、税務調査に望ましい専門家だという信頼を得ることにつながる。
 以上のことから、税務調査実務は、税務専門の弁護士を必要とし、税務専門の弁護士を呼んでいるとも言える。
 以上のように、税務調査の専門家という切り口があれば、弁護士には、信じられないほどの未開にして広大な領域を開拓するチャンスがあるといえよう。

 弁護士に必要なのは、新しい職域、新しい市場ではない。それは用意されている。
 弁護士に必要なのは、新しい職域、新しい市場に乗り込む決意と実行力である

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