最新判例による税務コンプライアンス

第3回 海外子会社の株式引受けにおいて、時価と払込価額の差額が受贈益として課税された事例 神鋼商事事件(東京高裁平成28年3月24日判決)

税務

株式を時価よりも低い払込価額で引き受けた場合の課税

 株式を時価よりも低い払込価額で引き受けた場合、引き受けた者は、時価と払込価額の差額の贈与を受けたことになります。たとえば、株式の時価が100で払込価額が10とすると、100-10=90の贈与を受けたことになります。このため、原則として、株式の取得時に90の贈与を受けたものとして課税されます(受贈益課税)。この場合、既存株式の価値はそれだけ目減りするので、他の株主に損害が及びます。

<株式を時価よりも低い払込価額で引き受けた場合のイメージ>

 もっとも、すべての株主が株式を時価よりも低い払込価額で平等に引き受けた場合は、贈与を受けたことにはなりません。たとえば、親会社が100%子会社の株式を1株保有している場合、当該親会社が、時価が100で払込価額が10の株式を1株引き受けると、90の贈与を受けたようにもみえますが、1株あたりの時価は(100+10)/2=55となり、株式価値は(100-55)×2=90だけ目減りするので、結果として差し引きゼロです。したがって、90の贈与を受けたものとして課税されることはありません。

 このようにすべての株主が平等に引き受ける場合など、他の株主に損害を及ぼすおそれがない場合は、受贈益課税は生じません。問題は、時価よりも低い払込価額で引き受けるのは株主の一部であるが、株式の内容が異なっているために、他の株主に損害を及ぼすおそれがないといえるか、はっきりしない場合です。

第三者の株主としての地位は貸付人のようなものと主張

 本件では、納税者である日本の親会社が、実質的に49%の株式を保有するタイの子会社から、時価よりも低い払込価額で株式を引き受けたため、納税者の保有割合は実質的に98%になり、第三者の保有割合は51%から2%に低下しました。

 子会社の株式の譲渡は取締役会の承認が条件とされていましたが、定款上は株式の内容について異なる定めはありませんでした。もっとも、「子会社の取締役会は納税者の意向に従うので、納税者は株式を自由に譲渡できるが、第三者は納税者が認める範囲内でしか譲渡できない」と納税者は主張しました。
 また、納税者と第三者との間の株主間契約により、子会社を清算するような場合には納税者が第三者の株式を取得価額で買い取ることを保証しており、第三者の配当受領権は子会社の業績に関係なく実質的に一定額とされていました。

 つまり、第三者の株主としての地位は、実質的には貸付人のような地位と同じで、元本の償還と一定の利息相当額を得ることは確保されているものの、譲渡益や利益配分を得ることは想定されていなかったといえます。そこで、納税者は、本件の株式の引受けにより、第三者の株主としての地位が実質的に影響を受けることはないため、他の株主に損害を及ぼすおそれはないと主張しました。

他の株主に損害を及ぼすおそれはないとはいえない

 この点、東京高裁は、「株主間契約によって第三者が有する株式には差異が設けられてはいるが、実際には株主間契約どおりに実行されない場合もあるなど、その差異は、事実上のものであって、かつ、流動的なものであり、株式の内容となっていると解することはできないから、内容の異なる株式とはいえない」と判示しました。
 そして、「本件の増資により、納税者のみが株式を引き受けた結果、納税者の保有割合が実質49%から98%を占めるに至った以上、株主が有する株式の内容及び数に応じて株式が平等に与えられたとはいえず、本件の増資が他の株主に損害を及ぼすおそれがないとはいえない」としました。

 納税者は、本件の増資においては、「全ての株主に対し、その保有する株数に比例して新株を引き受ける権利が付与されたが、納税者以外の株主がその権利を行使しなかったことにより、結果的に納税者のみが新株を取得することになったに過ぎない」と主張しました。しかし、東京高裁は、「全ての株主に等しい割合で新株を引き受ける権利が付与されても、結果として、納税者以外の株主にも株式が平等に与えられることはなかったのであり、株主間の経済的な衡平も維持されなかった」として、納税者の主張を否定しました。

受贈益課税のリスクを回避するために

 このように、東京高裁は、株式の内容に違いがあるかどうかを客観的に検討し、他の株主との間の株主間契約により差異が設けられているような場合は、その契約どおりに実行されているかどうかも勘案して、他の株主に損害を及ぼすおそれがないことを厳格に確認するアプローチを採用しました。
 また、すべての株主に株式を引き受ける権利が平等に付与されているだけでは損害を及ぼすおそれがないとはいえないとして、他の株主が損害が生じることに同意しているだけでは不十分であることを明らかにしました。

 本件のように、日系企業が海外進出するにあたり、現地の法規制の関係で、現地資本とのジョイントベンチャーとして海外子会社を設立することはよくあります。その場合、株主間契約において、それぞれが保有する株式の内容に違いがあるように規定することも少なくありません。
 もっとも、契約当事者が主観的には株式の内容に違いがあると思っていたとしても、それが客観的な形式で明らかにされていなければ、本件のような受贈益課税がなされるリスクは高いといわざるをえません。もし保有割合の変更を目的としているのであれば、たとえば他の株主から株式を買い取るなど、リスクの低い方法を検討するのが安全でしょう。

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