ショッピングセンターにおける不動産賃貸借の注意点

第3回 契約にあたって貸主側が注意すべきことは何か

不動産

ショッピングセンターの賃貸借契約

 不動産賃貸借の中でも特にショッピングセンター(以下「SC」)内の店舗の賃貸借契約は、住居やオフィスに関する賃貸借と異なる特徴を持っており、実務的には注意が必要である。
 本連載では、SC内の店舗の賃貸借契約を主に念頭に置いて、実務上注意すべき点を述べる。

 第3回にあたる今回は、出店交渉段階のうち、賃貸借契約締結に際して貸主側が注意すべき点について解説する。

定期建物賃貸借の場合

急速に広がった定期建物賃貸借契約

 2000年に施行された借地借家法の改正により、いわゆる定期借家制度が導入された。いうまでもないが、この定期借家制度導入前は、従来、期間の定めがある建物賃貸借契約であっても、期間満了時に賃貸人において契約更新を拒絶して契約を終了させることはきわめて困難であり、賃貸人において「正当事由」が存在するとされる場合でなければ、更新を拒絶できないとされていた。ところが2000年に導入された定期借家制度では、「正当事由」がなくとも賃貸人による更新拒絶が可能とされ、定期借家制度のもと締結された定期建物賃貸借契約では、期間の満了に伴って契約が終了するものとされた。

 この定期借家制度は、導入以降、大手不動産会社によって急速に採用され、現在はSCに新規出店する際の賃貸借契約はほぼすべてが定期建物賃貸借契約といってよい状況である。定期的に出店テナントの入替えを図ってSCのリニューアルを図りトレンドにあったものとしたいSCのディベロッパーからすれば当然である。

定期建物賃貸借契約の注意点

 しかしこの定期建物賃貸借契約を締結する際には、ディベロッパーからテナントに対し事前説明書の交付を行わなければならないという点に注意が必要である。いうまでもなく、定期建物賃貸借契約が期間満了によって終了する賃貸借として有効とされるためには、契約条項中に「契約の更新がない」ことを定めなければならないほか(借地借家法38条1項)、賃貸借契約の締結の前に、契約の更新がなく期間の満了によって契約が終了することを記載した説明書面を交付して説明を行わなければならない(借地借家法38条2項)。また、この事前説明書面は、賃貸借契約書とは別個の独立した書面として作成され交付されなければならないとするのが判例である(最高裁平成24年9月13日判決・民集66巻9号3263頁)。

説明書面の交付がなされない場合の問題点

 この説明書面の交付は、賃貸人側の実務としていわば当然であり、改めて注意点として記載するまでもないことのようにも思われる。しかし、賃借人に対する事前説明書面の交付がなかったとされて定期建物賃貸借契約としての効力を否定した裁判例もいくつか公刊されているほか、筆者が後に相談を受けた案件においても、この説明書面の交付を貸主において失念したまま契約締結に至っていたケースは決して少なくない。ディベロッパーが大手不動産会社のような場合にはこのようなことはまず見受けられないが、SCを構成する不動産が流動化されており賃貸人となっているSPCからプロパティマネジメント会社が運営業務の委託を受けているような場合に、こういったことが起こり得る。

 賃借人に対して事前説明書が交付されていない場合、かかる賃貸借契約は、定期建物賃貸借契約とは認められず、契約期間が満了しても正当事由がない限り契約の更新がなされる(借地借家法38条3項)。SCにおいては、同一の機会に多くのテナントを入れ替えるために、テナントの賃貸借期間の終期を一定の時期に統一することが多いが、1つでも事前説明書の交付がなされていないテナントがあると、かかる大規模リニューアルが図れないこととなってしまう。事前説明書の交付は基本中の基本であるものの、改めて注意をする必要がある。

貸主として注意すべき条項

SCの運営に関する条項

 前回(「第2回 契約にあたって出店者が注意すべきことは何か」)、賃貸借契約締結に際して出店者側として注意すべき条項を紹介した。このうち、営業日時に関する条項、業績報告義務に関する条項、そしてテナントのリニューアル協力義務条項は、ディベロッパーにおけるSCの運営の自由度に影響を与えるものであり、テナントと対立するディベロッパー側の利益の確保という観点から、当然、ディベロッパーとしても同様に注意すべき条項である。

 また、外資系のテナント候補からは、新規に開業(あるいはリニューアル開業)するSCの場合、たとえば契約書で指定されるいくつかの主要テナントが同時期に開業しない場合は、そのテナントも開業を遅らせることができる、あるいは解約ないし賃料の減額を請求できる旨の条項を要求されることがある。さらには、そのテナント候補の競合企業をSCに出店させない旨の条項を要求されることもある。多くのSCにおいては現実的なリスクは低い条項ではあると思われるものの、SCの開業までまだ相当の期間がある段階で賃貸借契約(あるいは予約契約)を締結するなどの場合には注意が必要な条項である。

 その他、今回は、ディベロッパー側として特に注意が必要な条項として、定期建物賃貸借契約における賃料改定に関する特約について説明したい。

賃料改定に関する特約

(1) 賃料改定特約の扱い

 SCの賃貸借契約は、賃料はテナントの売上高に応じて変動する売上歩合型が採用されることが多いが、判例(最高裁昭和46年10月14日判決・集民104号51頁)によれば、売上歩合型賃料の場合でも賃貸人あるいは賃借人による賃料増減請求権(借地借家法32条)を行使できるものとされている。また、定期建物賃貸借契約以外の建物賃貸借契約においては、賃料改定特約(たとえば、賃料は3年毎に●%ずつ増額させる旨の条項)を設けたとしても、その特約が賃料を増額しない旨の特約である場合を除き、借地借家法上の賃料増減請求権の行使を排除できないとされている。

 一方で、前述したとおり、SCの賃貸借においては、新たに締結される賃貸借契約については定期建物賃貸借契約とされることがほとんどであるが、定期建物賃貸借契約においては、賃料改定特約を設けることにより、賃料増減請求権の行使を排除することが可能とされている(借地借家法38条7項)。このようなことから、SCの賃貸借契約においては、賃料改定特約を設けることが多い。

(2) 賃料改定特約条項を設ける場合の注意点

 しかし、この特約条項を設けるときには注意が必要である。この賃料改定に関する特約は、賃料増減請求権を排除するのに足りる程度の内容の合意でなければならず、この特約によって賃料が明確に定まるものでなければならないとされている。
 最も明確なものは、賃貸借期間中は賃料を一切改定しない旨の特約である。

条項例

賃貸借期間中、賃料は改定しないものとし、借地借家法32条の規定はないものとする。

 もっとも、テナントとの力関係によっては、原則として賃料増減請求権の行使は排斥しながら、一定の場合には賃料が改定されることもあり得ることを認めなければならないケースもあると思われる。このような場合は注意が必要である。
 この点、参考となる裁判例がある。東京地裁平成21年6月1日中間判決である。この判決の事案においては、賃貸借契約書中に、以下のような条項が定められていた

「賃料の改定は行わないこととし、借地借家法第32条の適用はないものとする」(以下、X条項)

「X条項にかかわらず、賃貸人及び賃借人は協議のうえ、平成19年8月1日に賃料を改定することができる。」(以下、Y条項)

 賃貸人あるいは賃借人による一方的な賃料増減請求権の行使を排斥したとしても、当事者が協議・合意すれば賃料を改定できるのは当然であるから、実務の感覚からすれば、Y条項があったとしても、X条項によって賃貸借期間を通じて賃料増減請求権の行使は排斥されるものと考えるのが一般的かと思われる。しかし、上記判決は、Y条項は改定後の賃料を客観的かつ一義的に決定するものではないとして、Y条項に定められた平成19年8月1日以降は、当事者は賃料増減請求権を行使できるものとした(なお、この判決の事案は、賃貸人が増額請求権を行使したという事案であった)。おそらく、この判決は、Y条項中の「X条項にかかわらず」という文言から、平成19年8月1日以降はX条項の適用が排斥されると考えたものと思われる。

 実務の感覚からすると違和感のある判決ではあるが、一方で賃料の不改定特約を行いながら、一方で賃料額の協議条項などを定めるような場合は、それでも賃料増減請求権を行使できないことを明確にするなどの措置を講じるなど、条項の内容に注意する必要がある
 なお、賃料増減請求権の行使が排斥されていない賃貸借契約において、賃貸借期間中に賃料増減請求権が行使される場合については、回を改めて説明したい。

次回以降の掲載予定

 以上、SCの賃貸借契約について貸主側からの注意点を解説した。次回以降は出店交渉を破棄した場合の問題点や賃貸借期間中の問題点、賃貸借終了時の問題点などについて解説をしていきたい。

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