ショッピングセンターにおける不動産賃貸借の注意点

第1回 賃貸借の特徴と賃貸借契約が締結されるまで

不動産

ショッピングセンターの賃貸借契約

 不動産賃貸借の中でも特にショッピングセンター(以下「SC」)内の店舗の賃貸借契約は、住居やオフィスに関する賃貸借と異なる特徴を持っており、実務的には注意が必要である。そこで、本連載は、SC内の店舗の賃貸借契約を主に念頭に置いて、実務上注意すべき点を述べる。
 第1回は、出店交渉段階における注意点のうち賃貸借の特徴と賃貸借契約が締結されるまでの流れについて解説する。

出店交渉段階における注意点

SCに出店する際の賃貸借の特徴

 SCに出店する際には、当然いずれかの段階で賃貸借契約が締結されることになる。SCに出店する場合に限らず、オフィスや住居としての使用の場合を含め、賃貸借契約においては、多くの場合、賃貸人側に賃貸借契約のひな型が存在し、賃貸借条件の交渉はかかるひな型をベースにして進められることが多い。

 賃貸人が大手不動産会社である場合には、ひな型への直接の修正を認めずに賃貸借契約書中に特記事項を設けるという形で実質的に雛型を修正するか、あるいは別途覚書を締結するという形でひな型の修正を行う場合もある。

基本方針、基本理念を定める条項

 賃貸人側が作成するひな型には、SC用の賃貸借契約において特徴的な条項がいくつかある。まず顕著にみられるのは、SC用の賃貸借契約の基本方針ないし基本理念を定める条項である。

 すなわち、SCにおいては、各賃借人(テナント)がそれぞれ独立した事業主体としてそれぞれの営業方針をもって営業を行う一方で、一定程度、SCの運営者(ディベロッパー)による統一的な営業方針の下で営業を行う必要があり(例えば、同一SC内の各出店者で営業日や営業時間が異なればSCとして不都合が生じる場合があり得る)、このような趣旨のもと、「賃借人は、賃貸人の統一的営業方針に基づき営業を行う」「他の営業者と協調し、SC全体の発展・繁栄を図る必要があることを理解する」旨の条項が設けられることがある。

 また、そのような基本理念のもと、賃貸人(ディベロッパー)側が、出店者側の営業日や営業時間を指定できる旨の条項が設けられることもある。

SCの基本方針ないし基本理念を定める条項
  • ディベロッパーは本SCの各出店者の事業全体の恒常的繁栄を図ることを目的に本SCを統一的に運営管理する。
  • テナントは、出店にあたり、本契約が本SC内の一部の営業に関する契約であり、ディベロッパーの統一的営業方針に基づき他の出店者と共に本SC全体の発展を図る必要があることを十分に理解するものとする。
賃貸人(ディベロッパー)側が、出店者側の営業日や営業時間を指定できる旨の条項
  • ディベロッパーは、本SCにおける営業日、休業日、もしくは営業時間等を定め、又はこれらを変更し、又は臨時休業日を定めることができるものとし、テナントはこれを遵守することとする。なお、テナントは、これらの変更のために被った損害の補償等をディベロッパーに請求することはできない。

賃料に関する条項

 SC用の賃貸借契約においては、賃料の定めも特徴的である。すなわち、賃料は、当該SCにおけるテナントの月間の売上高の数パーセントというように、テナントの売上に連動する形で定められることが多い(歩合賃料ないし変動賃料などと呼ばれる)。

 歩合賃料にも、①テナントの売上高に完全に比例して連動する「完全歩合賃料型」(つまり極端な場合テナントの売上高がゼロの場合、月額賃料もゼロになる)と、②毎月の最低保証賃料が定まっており(固定賃料)、歩合賃料がこれを上回った場合には売上連動型の歩合賃料が適用されるという「併用型」(この場合、出店者の売上高がゼロであってもテナントは最低保証額を賃料として支払わなければならない)がある。

 いうまでもなく、テナントの売上が上がればこれに比例して賃料も増える一方、テナントの売上が下がってもリスクは限定されている併用型の方が賃貸人には有利である。

仕組み テナントの売上高がゼロの場合
完全歩合賃料型 テナントの売上高に完全に比例して連動する 月額賃料もゼロになる
併用型 毎月の最低保証賃料が定まっており(固定賃料)、歩合賃料がこれを上回った場合には売上連動型の歩合賃料が適用される テナントは最低保証額を賃料として支払う

賃料の支払方法 売上預託方式とは

 賃料の支払方法も「売上預託方式」と呼ばれ、一般の賃貸借とは異なる方式がとられることが多い。
 すなわち、テナントは、SC内の店舗における売上金を毎日ディベロッパー(あるいはディベロッパーが指定する管理者)に預託し、ディベロッパーは、翌月の一定日に、当該売上金から、歩合賃料その他のテナントがディベロッパーに支払うべき諸経費や金銭債務に相当する額を控除し、残額をテナントに振込返還するという方法がとられる。

 このように毎日ディベロッパーに預託される売上金が、テナントの賃貸人に対する金銭債務の担保としての機能を果たしているため、ディベロッパーとテナントとの力関係あるいはテナントの信用力にもよるが、SC用の賃貸借契約においては、敷金あるいは保証金の差入れが求められないこともある。

その他特徴的な条項

 その他、SC用の賃貸借契約においては、以下のようにオフィスの賃貸借やレジデンスの賃貸借契約では見られない条項が定められる。

SC用の賃貸借契約に見られる特徴的な条項
  • 営業開始日前の出店者による開業準備行為に関する条項
  • 小売業者たるテナントの販売方法に関する条項
  • テナントが設置するレジスターに関する条項(歩合賃料という方法を採るため、ディベロッパーはテナントの売上高を正確に把握する必要がある)
  • 店舗にて販売に従事する従業員に関する条項
  • 返品に関する条項
  • クレジットカードや商品券の取扱いに関する条項
  • 顧客あるいは第三者からの営業面でのクレームに関する条項など

賃貸借契約が締結されるまでの流れ

出店合意書・基本協定書

 賃貸借契約が締結され実際に出店に至るまでの流れは、ディベロッパーである賃貸人によっても異なり得るが、まず、「出店合意書」ないし「基本協定書」といった名目で、基本的な出店条件のみが記載された書面が賃貸人・出店希望者間で交わされることが多い。

賃貸借契約書の締結

 その後、当事者間で詳細な賃貸借条件を協議のうえ、最終的な賃貸借契約書が締結されるが、SC用の建物が未だ建築途中にある場合などの理由により、賃貸借契約そのものが締結される前に、賃貸借予約契約が締結されることがある。もっとも、予約契約が締結される場合でも、かかる予約契約において賃貸借における詳細な条件を定めるのが通常であり、建物が実際に完成した際にはほぼそのまま賃貸借契約に移行することが可能なケースも多い。

 賃貸人・出店希望者間で出店合意書の交渉が始まってから、最終的に賃貸借契約書が締結されるまでの期間は個別案件ごとに異なるが、筆者の経験上、交渉開始から賃貸借契約締結まで1年間程度を要する案件も決して珍しくない。

大規模小売店舗立地法に関する注意点

 なお、特に新設のSCにおいて出店スケジュールを検討する際に注意すべきは、大規模小売店舗立地法(以下「大店立地法」)に関する手続である。

 大店立地法とは、大規模小売店舗(1,000㎡以上の小売店舗面積を有する商業施設がこれに該当する)の周辺地域の生活環境保持のため、商業施設を設置しようとする者に対し、施設開設前に一定の事項の届出を行うことや、地域住民を対象とした説明会を開催することなどを義務付ける法律であり、これらの手続によって、施設開設者に対し、商業施設開設による生活環境への影響に関する地域住民の意見に十分に配慮するよう促すことを目的としている。

 注意を要するのは、 大店立地法上、商業施設開設者が施設設置の届出を行ってから8か月が経過するまでは、施設の開設ができないという点である(大店立地法5条4項)。
 実際に届出を行うディベロッパー側は勿論、出店を検討する側も、かかる制限を考慮してスケジュールを考えておく必要があり、大店立地法に基づく手続の進捗状況を都度、ディベロッパー側に確認する必要がある。

次回以降の掲載予定

 次回以降は、実際の契約にあたって出店者側の注意点、貸主側の注意点、賃貸借期間中の問題点、賃貸借終了時の問題点などについて解説をしていきたい。

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