ショッピングセンターにおける不動産賃貸借の注意点

第2回 契約にあたって出店者が注意すべきことは何か

不動産

(写真:ChameleonsEye / Shutterstock.com)

ショッピングセンターの賃貸借契約

 不動産賃貸借の中でも特にショッピングセンター(以下「SC」)内の店舗の賃貸借契約は、住居やオフィスに関する賃貸借と異なる特徴を持っており、実務的には注意が必要である。そこで、本連載は、SC内の店舗の賃貸借契約を主に念頭に置いて、実務上注意すべき点を述べる。

 第2回にあたる今回は、出店交渉段階における注意点のうち賃貸借契約に際して出店者側が注意すべき点について契約条項例を交えて解説する。

 第1回はSCに出店する際の賃貸借の特徴、賃貸借契約が締結されるまでの流れについて解説した。詳しくは「第1回 賃貸借の特徴と賃貸借契約が締結されるまで」を参照されたい。

出店交渉段階における注意点 - 契約に際して出店者側は何に注意するべきか

出店合意書/基本協定書締結に際して注意すべき事項

 SCに出店する場合の契約締結に際して注意すべき事項を以下に述べる。

 まず、テナントが出店合意書を締結する段階で、社内の最終決裁や親会社等の決裁を経ていない場合がある。そのような場合、出店の是非の判断は、当然、最終的な社内決裁や親会社の決裁次第ということになる。

 したがって、出店合意書や基本協定書を締結する段階で、社内の最終決裁や親会社決裁を経ていない場合には、出店合意書等に定められた事項が法的拘束力を持つことのないような措置を講じておく必要がある。

予約契約締結に際して注意すべき事項

 予約契約が締結される際に注意すべき点としては、予約契約締結後、どのようなタイミングまたは条件で賃貸借契約に移行することが想定されているかという点である。この点、実務上は、大きく分けると、①一定の客観的事実の発生(条件成就)をもって自動的に予約契約から賃貸借契約に移行する旨が予約契約において定められているケース、②予約契約において当事者の一方あるいは双方に予約完結権が付与されているケース(この場合も、一定の客観的事実の発生後に予約完結権の行使が可能とされていることが多い)、③予約契約において「当事者は、本予約契約記載の条件に基づき、△年△月△日までに、賃貸借契約を締結するものとする。」旨が定められているのみのケース、の3パターンが見られる。

予約契約において当事者の一方あるいは双方に予約完結権が付与されているケース

 このうち、②のケースでは、ディベロッパー側にのみ予約完結権が付与され、テナント側には予約完結権が付与されていないケースがある。たとえば、SC施設用の建物が建築途中にあるためまずは予約契約が締結されるが、予約完結権は、建物が竣工した後に賃貸人側のみが行使可能とされているケースなどである。  

(条項例)
ディベロッパーはテナントに対して、本建物の竣工後、別紙の様式による書面にて通知する方法により予約完結権を行使できるものとし、ディベロッパー及びテナントは、本通知により、本予約契約の予約完結権が行使され本予約契約に定める条件に従った定期建物賃貸借契約が成立することを確認する。

 この場合、契約上は、予約完結権の行使およびタイミングがディベロッパーに委ねられていることになるので、テナント側にも予約完結権を付与させるなどの措置が必要となる。

予約契約において賃貸借契約の時期が定められているケース

 上記③の場合も、予約契約から賃貸借契約への移行が当事者間の協議に委ねられていることになるので、賃貸借契約への移行が保障されていないというリスクがある。

(条項例)
当事者は、本予約契約記載の条件に基づき、△年△月△日までに、賃貸借契約を締結するものとする。

 したがって③のケースはなるべく避けるべきであるが、やむなく③のパターンで予約契約を締結せざるを得ないとしても、ディベロッパー側が予約契約に反して予定区画を他の出店者に賃貸するに至った場合のペナルティ(違約金)などを定めておく必要がある。

出店者が注意すべき賃貸借契約条項

 前述したとおり、SCの賃貸借契約の契約交渉においてディベロッパーが提示する契約書雛型は、オフィスや住居の賃貸借契約では見られない条項が存在する。これらの条項は、出店者に不利なものも含まれるため、契約交渉においては十分に注意して臨む必要がある。以下具体的な条項を紹介する。

営業日時に関する条項

 SC用の賃貸借契約においては、ディベロッパーがSCの営業日、営業時間を定め、また随時変更でき、さらに臨時休業日も定めることができ、出店者はこれに拘束される旨の条項が定められるのが通常である。

(条項例)
ディベロッパーは、本SCにおける営業日、休業日、もしくは営業時間等を定め、又はこれらを変更し、又は臨時休業日を定めることができるものとし、テナントはこれを遵守することとする。

 契約締結交渉段階にてこの条項が問題になることはあまり多くないが、実務上、SCでの営業が開始された後になって、年末年始の営業日・営業時間や、天災が生じたときの営業の是非について、ディベロッパーとテナントとの間で方針の違いが顕在化することがある(実際、首都圏のSCにおいては東日本大震災の後に営業開始時期についてディベロッパーとテナントとの間で意見の違いが生じる例があった)。したがって、テナントによっては、ディベロッパーが定めた営業日・営業時間に拘束されない例外的なケースを契約書上設けるなどの措置をとる必要があろう。

内装工事に関する条項

 SCに出店するテナントは、その営業方針により、定期あるいは不定期的に、店舗の改装(リモデル)を行うことが多い。この改装には、単なる模様替えに留まるものから、内装工事を必要とするものまで様々であるが、ディベロッパーから提示される契約書雛型には、店舗内のすべての現状変更や修繕等について、賃貸人の事前承認を要する旨の条項になっていることがある。

(条項例)
テナントが自己の都合により本物件内の内装の改良、諸造作の新設・付加・修繕等現状を変更する工事(以下「内装工事等」という。)を行う場合で、建物の躯体に影響を及ぼす工事を伴うときは、テナントは事前に書面によりディベロッパーにその旨通知し、ディベロッパーの事前の承諾を得るものとする。

 しかし、余りに軽微な模様替えや日常的なメンテナンス作業までディベロッパーに必要書類を提出した上でその承認を要するとするのでは、店舗運営の機動性を欠くことになろう。
 そのような雛型が提示された場合は、建物躯体に影響を与えない場合や、定期的な模様替えの場合は承認を要しないとしたり、あるいは、ディベロッパーは合理的な理由なく当該承認を拒絶しない旨の条項を設けるなどの措置を検討する必要がある。

業績報告義務に関する条項

 前述したとおり、SCの賃貸借契約においては、賃料はテナントの売上に連動した売上歩合方式が採られることが多い。そうすると、ディベロッパーとしては、当該SCにおけるテナントの売上を正確に把握しておく必要がある。

 そこで、賃貸借契約においては、テナントは毎日の売上金をディベロッパーに収納すると同時に、毎日の売上実績をディベロッパーより指定貸与された端末等に記録するという条項が定められる。さらにこれに留まらず、ディベロッパーが求めた場合には、テナントは会社の業績内容や経理内容について報告する義務を定めた条項や、営業計画書の提出義務を定めた条項が設けられていることもある。

(条項例)
ディベロッパーは、テナントの店舗運営の健全性を確保するために、テナントに対し、会社の業績内容及び経理内容等について報告を求めることができる。また、テナントはディベロッパーに対し、ディベロッパーが指定する時期に営業計画書等を提出するものとする。

 しかし、当該SCでの売上実績の報告を超えて、会社全体の業績や詳細な経理内容についての報告を求められることについては抵抗感のあるテナントもあろう。その場合、かかる報告義務を定めた条項を削除するか、あるいは当該報告義務を緩和する措置(報告義務が発生する場合を一定の場合に限定したり、報告内容を一定の事項に限定するなど)を契約書上定める必要がある。

リニューアル協力条項

 SCにおける賃貸借契約においてよく見られる条項が、ディベロッパーが行うSCのリニューアルについてテナントが協力義務を負う旨の条項である。とりわけ注意を要するのは、リニューアルに際して、ディベロッパーはテナントに対してSC内の区画の移動(リロケーション)等を指示することができ、そのリロケーション等とこれに伴う内装工事等の費用はテナントの負担とする旨の条項である。  

(条項例)
ディベロッパーは、経済、社会情勢及び消費者ニーズの変化等に対応して本SCの発展を図る為、本SCの形態を変更することができ、出店区画の増改築、業種構成の変更、テナントの移動等を実施する必要が生じた場合、これらにつきテナントに変更を求めることができるものとし、テナントはディベロッパーに協力するものとする。また、かかる変更に伴う費用は、テナントが負担するものとする。

 さらに、テナントがリニューアルに協力しなかったりディベロッパーによるリロケーションの指示に従わなかったりした場合ディベロッパーは賃貸借契約を解除できる旨の条項が設けられていることもある。

リニューアル協力条項と裁判例

解除を有効とした裁判例

 このようなリニューアル協力義務条項に反したとして、賃貸人による賃貸借契約の解除を有効と認めた裁判例として、名古屋高裁平成9年6月25日判決(判例タイムズ981号147頁)がある。
 この裁判例は、賃貸人による賃貸区画あるいはその他賃貸条件の変更権を直接有効と認めたわけではないが、賃貸人によるSC全体のリニューアルに伴う賃貸条件の変更について、賃借人が誠実に協議しなかったことをもってリニューアル協力義務条項に違反したものとして解除を有効とした事案である。

解除を無効とした裁判例

 一方で、東京地裁平成16年11月2日判決は、賃貸人による一方的な区画変更権を定めた条項は借地借家法30条に反し無効であると判示し、上記のようなリニューアル条項を、特定の出店者に特別の不利益を強いる結果とならない合理的な範囲で、区画等の変更を求めることができ、その場合には出店者はできるだけ協力するという趣旨を定めたものと限定的に解釈した。

出店者側の留意点

 このようにリニューアル条項の解釈は裁判例上まだ固まっていないといえるが、名古屋高裁の判決のような解釈がなされる可能性も十分にあるため、テナントとしては、ディベロッパーから提示される賃貸借契約書雛型にリニューアル協力義務条項があれば、ディベロッパーによる一方的な変更権を削除する、出店区画の変更についてはテナントとの協議あるいは意見聴取を義務付けるなど、条項中のディベロッパーの裁量をできるだけ限定するように交渉することが望ましい。

最低売上条項

 ディベロッパーの雛型によっては、テナントにSCにおける年間最低売上という数値を設定し、これに達さない場合は、ディベロッパーの指導に従う義務をテナントに課したり、あるいはディベロッパーにおいて賃貸借契約を解除できる旨の条項が定めてあることがある。

(条項例)
ディベロッパーは、テナントの本物件での年間の売上高が要目表記載の計画売上高に達しない場合又は達しないことが明らかな場合、テナントに対しその改善を勧告し、書面による改善策の立案及び改善の進捗状況の報告を求めることができる。
(条項例)
テナントは、年間最低売上高を達成できなかった場合は、本契約の目的であるショッピングセンター全体の繁栄に対するテナントの義務の不履行となることを確認する。この場合、ディベロッパーは、本契約を解除することができる。

 このような条項(特に解除条項)の法的な有効性については議論があり得ると思われるが、出店者としてはこのような条項は削除することが望ましいことはいうまでもない。
 もっとも、ディベロッパーとテナントとの力関係によっては、条項を削除することは困難な場合もあるが、その場合でも、数年続けて年間最低売上を達成できない場合にディベロッパーに解除権が発生するものとしたり、あるいは年間最低売上に段階を設け、初年度は解除権発動の基準値となる売上目標値をなるべく低い値にするなど、交渉次第では解除権発動事由を限定することもできる。

中途解約に関する条項

 賃貸借期間中のテナントの中途解約条項についても注意が必要である。テナントとしては、当該SCでの売上が想定していたよりも伸びない等の事情により、早期に撤退するという意思決定を行う場合もある。そのような場合に、この中途解約条項が足枷となることがある。
 典型的には、賃貸借期間中のテナントからの解約の場合には残存期間の賃料に相当する額を違約金として支払う旨の条項が定められていることがある。

(条項例)
テナントが第●条に定める賃貸借期間満了前に本契約を解約する場合は、当該解約にかかる本契約終了日の翌日より第●条に定める賃貸借期間満了日までの賃料相当額を違約金として支払う。

 このような条項が設けられている場合、テナントとしては、可能な限り違約金の額を減らすべく、例えば、期間5年の契約であれば当初3年を解約制限期間とし、当該解約制限期間満了前の解約であれば、解約制限期間に達するまでの期間の賃料相当額を違約金として支払うが、解約制限期間満了後は違約金の支払いなしで解約できるようにするなどの交渉を行うべきであろう。

 なお、このような違約金条項の有効性については議論があり、いくつかの裁判例においても一部無効とされているところであるが、この点に関しては、また回を改めて論じたい。

次回以降の掲載予定

 以上、SCの賃貸借契約について出店者側からの注意点を解説した。次回以降は貸主側の注意点、賃貸借期間中の問題点、賃貸借終了時の問題点などについて解説をしていきたい。

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