中国における環境規制の厳格化に伴うリスクと対応策

資源・エネルギー

 最近、中国の環境規制が厳しくなっていると聞きますが、行っておくべき対策があれば教えてください。

 対策としては、まず、自社の環境リスクの検証を行い、社内規程や体制の整備等を行うことが挙げられますが、自社の規制違反の防止だけでなく、サプライヤーの生産停止等の調達リスクへの備えも重要になってきています。

解説

環境規制の厳格化に伴うリスク

 中国の環境規制の厳格化(参考:「中国における環境規制の整備の動向」「中国における環境規制の執行の厳格化の動向」)に伴うリスクとしては、主に以下のようなものが存在します。

【環境規制の厳格化に伴うリスク・事業への影響】

  1. 環境法令違反による各種処罰(制裁金、生産制限・停止、行政拘留等の行政処罰、罰金・懲役等の刑事処罰)
  2. 環境汚染事故に伴う民事損害賠償(環境権利侵害訴訟、環境公益訴訟、生態環境損害賠償制度)
  3. 地域の総量制限・環境目標達成等に伴う、地方政府からの生産制限・停止要請
  4. 環境基準・規制のさらなる厳格化への対応リスク(対応可能性・コスト等)
  5. 取引先に生産停止・制限等が生じた場合の調達リスク
  6. 問題発生時のレピュテーションリスク
  7. 日本における株主代表訴訟リスク(グループ管理責任)

環境法令違反による各種処罰、環境汚染事故に伴う民事損害賠償への対応策

 ①環境法令違反による各種処罰、②環境汚染事故に伴う民事損害賠償の違反および処罰・賠償リスクについては、自社のリスクの分析・評価(現状認識)を行った上で、必要な内部規程や社内体制(担当者・部署の設置等)の整備を行い、従業員の教育やモニタリング等を定期的に実施していくという、コンプライアンスにおける基本的な対応が、まず必要と考えられます。

地方政府からの生産制限・停止要請、環境基準・規制のさらなる厳格化への対応リスクへの対応策

 ③地域の総量制限・環境目標達成等に伴う、地方政府からの生産制限・停止要請、④環境基準・規制のさらなる厳格化への対応リスクは、必ずしも自社の状況だけにかかわらず、地域の状況や法規制・実務運用の変更によって影響を受けてしまう性質のものであるため、地域や法規制の動向に関する情報収集を積極的に行い、早期に対応を講じておくことが必要となります。

 特に、③については、大気汚染に関して、各地方において、一定の汚染基準を超えた場合には、一定の業種・企業について操業の一時制限や停止が要求される等の事態が増加している点、また、④については、中国の法規制は整備・厳格化の途上であり、現状問題がないことにより、将来的にも問題が発生しないという保証はないことに留意が必要です。

取引先に生産停止・制限等が生じた場合の調達リスクへの対応策

 ⑤取引先に生産停止・制限等が生じた場合の調達リスクは、日系企業において、最も重大な問題とも言えます。自社が環境規制を遵守していたとしても、サプライヤーが環境規制違反により生産停止処分等を受けた場合には、顧客に対する供給責任を果たせず莫大な損害が生じる可能性があります。実際に、2017年9月に、ドイツ系の大手自動車部品メーカーが、中国のサプライヤーの生産停止処分により、約5兆円もの損害が見込まれるとして、処分を命じた政府当局に処分の猶予を要請し、猶予を拒絶された事案が存在します。当該事案は金額が非常に大きく注目を集めましたが、日系企業においても、取引先の生産制限・停止による問題や懸念は現実的なものとなってきています。

 対策としては、環境規制遵守の観点からサプライヤーの選定・管理を行うとともに(いわゆるグリーン・サプライチェーンの構築)、調達契約において環境規制違反の遵守・監査・報告等に関する規定を設ける等の対応が考えられます。

問題発生時のレピュテーションリスクへの対応策

 ⑥問題発生時のレピュテーションリスクは、中国においては、重大な環境汚染事故を生じさせた場合の一般的なレピュテーションの悪化だけに止まりません。中国においては、2016年7月から、重大な環境規制違反を行った企業および責任者等について、政府内で情報を共有し、その情報が政府のウェブシステムを通じて公表され、かつ、市場参入・行政許可・融資の制限・禁止、優遇政策の停止・拒絶等の各政府部門による共同懲戒措置が科される制度が設けられています。環境規制違反が結果として、制裁金等による金銭的な損害を超えて、将来的な事業運営・投資活動への制約となる可能性もある点に留意が必要です。

日本における株主代表訴訟リスクへの対応策

 最後に、⑦日本における株主代表訴訟リスクは、近時のグループガバナンスに対する関心および要求の高まりの中で、上場会社の取締役に要求されるグループ管理に関する善管注意義務の水準は高まっていると言えます。中国での環境規制違反によって、グループ全体に重大な損害が生じた場合には、親会社の取締役の善管注意義務違反の責任について、株主代表訴訟が提起される可能性も存在します。したがって、環境規制の対応を現地任せにせず、親会社においても、グループ全体の問題として取り組んでいく必要があります。

環境規制の厳格化に伴うビジネスチャンス

 環境規制の厳格化は、一方で、企業による環境保護設備等への投資を促すこととなるため、環境保護関連分野の事業者にとっては大きなビジネスチャンスと言えます。また、中国政府は、各種の経済計画や政策方針において、環境保護関連産業の生産額の増加を目指し、中国国内における環境保護関連産業の奨励方針を明確にしています。

 このような環境規制・環境保護対策の実現および環境保護産業の育成の観点から、中央・地方政府により、①企業による環境保護設備導入資金の支援(設備導入資金の税額控除、奨励金・補助金等)や、②環境保護設備の製造業者に対する支援(グリーン金融商品の奨励)等、環境保護に関連する各種の奨励・優遇措置が実施されています。さらに、環境保護関連分野への外資参入についても、新エネルギーや環境保護設備関連等の数多くの分野で奨励されており、外資企業にとっても、環境保護関連分野は魅力的な進出分野となっています。

 また、一般企業としても、競合他社に先駆けて、環境規制対応をいち早く進めれば、生産活動の安定性・継続性の確保だけでなく、顧客に対する大きなアピールポイントとなります。したがって、環境規制の厳格化は、競合他社に対する優位性を獲得する大きなチャンスであると考えられます。

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