企業法務の地平線

第8回 マイクロソフトが実践するダイバーシティ戦略 「弁護士だけの編成にしない」リーガルチーム

法務部

 企業活動がグローバル化、複雑化する中で法務部門に求められる役割にも変化が見られます。これからの時代に求められる法務部門のあるべき姿とはどのようなものなのでしょうか。各社の法務部へお話を伺い、その姿を探ります。

 今回は日本マイクロソフト株式会社の政策渉外・法務本部を取材しました。本部長を務めるのはフィンランド出身のスサンナ・マケラ氏です。マケラ氏は法務部門におけるダイバーシティの考え方について、「弁護士がたくさんいればいいというわけではない。日本の法務は弁護士が少ないということは、逆に強みではないか」と意見を述べました。

 今回はマケラ氏のほか、政策渉外・法務本部 副本部長の舟山 聡氏と、渉外・地方創生担当部長の宮崎 翔太氏の3名に、政策渉外・法務本部の仕事内容や、同社のキャリアパス、ダイバーシティに対する考え方などをお聞きしました。

(写真左から宮崎 翔太氏、スサンナ・マケラ氏、舟山 聡氏)

ビジネスとリーガルで切り離した組織構成

政策渉外・法務本部の体制や業務内容について教えてください。

マケラ氏

 マイクロソフト全体で見ると、我々はCorporate, External and Legal Affairs(CELA)という組織に属し、その中で日本の市場に焦点を絞って活動しているチームとなります。CELAには全世界54か国のチームが所属し、全体で1,400名以上の従業員を抱える組織です。CELAは、営業やマーケティングといった、いわゆるビジネス側とは異なる独立した組織を形成しており、レポートラインはこのCELAの中で完結しています。

 日本チームである政策渉外・法務本部では、私を含めて16名が在籍しています。メンバーには、弁護士など法律の専門家や、政府・省庁関係の専門家、サイバー犯罪対策の専門家など、多種多様な人員構成となっています。業務には法務業務のほかに、政府・省庁関係の渉外や社会貢献・企業市民活動があります。

政府・省庁関係の渉外を担当している方も、弁護士資格を保有しているのでしょうか。

マケラ氏
 他国では弁護士資格を持っている場合があります。ただ、メンバーの専門性は様々で、多種多様なバックグラウンドを持った部隊となっています。単に弁護士資格を持っているということだけでなく、多種多様なスキルを一緒に持ち合わせている方がほとんどです。

「政策渉外」とはどのようなことをされているのでしょうか。

宮崎氏

 日本政府や地方自治体、業界団体との信頼関係の構築だけでなく、政府の地域課題や人口減少、高齢化問題などに対して、ITを利活用したより効率的な社会づくりを提案しています。そのほかにも、実証実験の検討・実施や、課題に関連する法令や条例の適切な解釈のために弁護士と一緒に話し合いながらチームとして進めています。

 例えば、医療でクラウド技術の活用が進まないのはなぜなのかを考え、関連省庁のガイドラインなどの情報について、有識者や医師、教授、政府、政治家など様々な立場の方々と意見交換し、日本の医療現場がより良い方向に向かうためにどうすれば合意形成が取れるのかといったプロジェクトを進めています。想像をはるかに超えたスピードで進歩するテクノロジーに対して政府がどのような形で関与すべきかなど、マイクロソフトの強みである世界中の事例を共有しながら、逆に他の国に成功事例として日本の事例を紹介できるよう、政府が推進しているテーマに積極的に関与していきます。

先ほど、レポートラインはCELAの中で完結されているということでしたが、どのようなルートで上層部へレポートされていくのでしょうか。

舟山氏
 CELAの中では地域ごとにリージョンが分けられており、日本はアジア太平洋地域に属していますので、レポートする際は、マケラの上司が在籍するシンガポールを経由してシアトルに報告されていきます。日本法人に直接はレポートしていません。

マケラ氏
 リージョンはアジア太平洋地域以外に、中国・台湾、ヨーロッパ、中東・アフリカ、北米、南米、カナダに分かれています。私自身、マイクロソフトに入社した時に感心したんですが、マイクロソフトではビジネス組織とリーガル組織が別々に切り分けられているんです。CELAはリーガルの組織で、やり取りは全てビジネス組織を経由せずに行われます。なぜこういう体制になっているのかというと、ビジネスにおける法律上の課題やコンプライアンスの問題を独立した立場で捉えていく必要があるからです。

なるほど。つまりそれは、ビジネスサイドが仮に法律違反するようなことをした場合に、別の組織で監視する目的があるという考え方なのでしょうか。

マケラ氏
 法務部の基本的な役割というのはビジネスをサポートすることが大前提です。誤解のないように言うと、我々は違反を取り締まる役割ではなく、ビジネスに対して価値をもたらすための機能を果たしている組織です。

 ただ、コンプライアンスという問題を扱う時には、CELAが独自調査できるような機能を持っています。たとえば、社員の誰かがコンプライアンスの問題を抱えている時は、その社員が我々に通報することができるようになっています。通報すると、コンプライアンス委員会に送信され、チームメンバーはその内容を見ることができます。コンプライアンス委員会では内容を検証しながら調査を進めていきます。私もコンプライアンス委員会に所属していますので、何か案件が上がってきた場合は、私も直接読んで検討することができます。

日本の場合は、東芝のケースなどで見られるように、不正会計が行われていても法務部がなかなか指摘できないような、力を持っていない企業が多い印象がありますが、アメリカでは、マイクロソフトのように、リーガル部門をビジネス部門とは切り離して組織化させているスタイルがスタンダードなのでしょうか。

マケラ氏
 アメリカではおそらく、この組織構成は標準かと思います。アメリカの場合、各企業に対して必ず、「コンプライアンスの促進をサポートする仕組みをつくるように」といった規制があります。

 コンプライアンスという問題は文化的な問題がありますが、どういった場面でも守っていかないといけないものがありますので、法務部の機能としては、各ビジネス組織がコンプライアンスを均一に守ってもらうよう促進していく役割があります。

舟山氏
 マイクロソフトには様々なカルチャーの人たちがグローバルで働いていますので、越えてはならないリスク、すなわちインテグリティ(誠実)リスクとは何か、という判断が非常に難しいです。そうした中、CELAのトップが年に1回開かれるグローバルサミットで話した言葉がとても印象的でした。「ビジネスリスクとインテグリティリスクを分けて考えろ」というものです。ビジネスリスクについては、「現場が一番よくわかっているからスマートリスクを取って進め」というのに対して、インテグリティリスクについては、「きちんとNOと言って正しい方向に導け」というメッセージでした。

 さらに、インテグリティリスクへの対策について、誰もがわかるような言葉で3つの典型例をあげていました。それは、「Don’t lie(嘘つくな)」「Don’t cheat(騙すな)」「Don’t steal(盗むな)」というものです。誰にでも理解できる基準を共通認識としてベースラインに引くのがCELAという組織です。

それだけ多様な方が働いているから、シンプルなルールを徹底させていくことが重要なんですね。

舟山氏
 そうですね。価値観を共有することが大事です。

左:日本マイクロソフト株式会社 政策渉外・法務本部長 スサンナ・マケラ氏、右:政策渉外・法務本部 副本部長 舟山 聡氏

自分のキャリアは自分でつくる

法務の採用はどのような方針で進めているのでしょうか。

マケラ氏
 確固としたポリシーはなく、その時のニーズに合わせて都度考えています。とは言え、マイクロソフトはグローバルカンパニーですので、英語のスキルは一つの条件です。各国のローカルの言語については、国ごとに言語レベルの要求が異なってきます。

 また、ジョブレベルが一定以上になると、多様性が求められます。単に男女の比率を均一にするということだけでなく、採用方法についても求められます。たとえば、外の人材を採用せずに、社内ローテーションによる採用をし続けていると、指摘を受けます。ダイバーシティという観点では、外の新しい空気を持ちこんでくれる人も必要なのです。

そういった指摘は誰からされるのでしょうか。

マケラ氏
 シンガポールにいるCELAの上司からです。

舟山氏
 どういう人をどのポジションで採用し、そのために必要なスキルは何で、ダイバーシティの配慮はされているのかなどは、全てCELAのレポートラインの中で決められていきます。

日本の伝統的な企業だと人事部が人事権を握っていることが多いですが、全く違うんですね。

宮崎氏
 人事本部が主導してローテーションさせることもありますが、マイクロソフトでは基本的には自分のキャリアを自分で築いていくことが前提です。採用ホームページ(「Microsoft Careers」)には人材を募集している各国の情報が閲覧できます。各求人情報には、細かく役割や求められているジョブレベルなどが書かれていて、そこに自分で履歴書を送って応募することができます。興味のある求人情報があれば、その部署のマネージャーに連絡して、より具体的な募集内容を、公式・非公式に1対1で話をします。私はもともと新卒で入社してから営業部門に配属されていたのですが、この制度を利用して現在の政策渉外・法務本部を含め、チャレンジしてみたい役割や伸ばしたいスキルに応じて複数の部署に異動しました。

日本の場合だと、上司が部下の育成を考えて、海外転勤などの機会を与えたりしますが、自分でキャリアを形成していく風土というのは新鮮に感じます。

宮崎氏
 一つの会社で役員まで上り詰めていくキャリアパスもあるかと思いますが、マイクロソフトは社内外問わず、どこで自分が一番活躍できるのか、自分の市場価値を常に意識することが推奨される風土です。一つの部署に長く居続けると専門性を深められる一方でComfort Zoneという馴れ合いができてしまい、成長スピードが減速することもありますから、新しいポジションに挑戦していく社員が多いように思います。

そうやって異動する時に、上司から止められたりはしないのでしょうか。

宮崎氏
 異動は確かにセンシティブな問題ですから、現場のマネージャー次第なところはあります。ただ、積極的に優秀な人材輩出をしている部署は、そういう部署として高い評価を受けます。また、異動する際は後任を推薦することや適切な引継ぎも含めて、自身が一定の責任を負うことになっています。

マケラさんと舟山さんは中途入社になるのかと思いますが、どうしてマイクロソフトで働くことを選んだのでしょうか。

マケラ氏
 私は、フィンランドの携帯電話の事業会社であるノキアに所属していたのですが、マイクロソフトと事業統合したのをきっかけにマイクロソフトに入社しました。実はいつか日本で働けたらという願望は持っていましたが、実際にそのようなチャンスが来るとは思っていませんでした。願望は捨てずに持ち続けていると、いつか叶う日が来るのだなと思いました。

舟山氏
 私は法律事務所で8年ほど一般民事の仕事をしていたのですが、この先のキャリアを考えていく中で、インハウスロイヤーとしての働き方があることを知り、企業の中で修行するのもよいかなと思って、2004年にマイクロソフトへ転職しました。「今までだとできないような仕事ができるかもしれない」という好奇心でキャリアを選択しました。当時はまさかこんなに長く在籍するとは思ってもいませんでしたが(笑)。入社してからの10数年の間で、法律業務やビジネスがどんどん変わっていき、おもしろく感じています。

左:日本マイクロソフト株式会社 政策渉外・法務本部 副本部長 舟山 聡氏、右:政策渉外・法務本部 渉外・地方創生担当部長 宮崎 翔太氏

無意識の偏見をなくす

政策渉外・法務本部に弁護士は何名いるのでしょうか。

舟山氏
 4名です。

アメリカだと、企業法務はほとんどが弁護士という印象でしたが、日本法人では弁護士に限っているわけではないんですね。

マケラ氏
 弁護士資格のある方が日本の法務にあまりいないということは、逆に強みになるのではないかと思っています。今世の中で求められている人は、ただ単に法律の知識を豊かに持っていることだけでなく、ビジネスマインドも兼ね備え、テクノロジーのこともわかり、ビジネス全体のことをよく理解しているような人です。

 当然、コアとなるリーガルのアドバイスができることは重要ですが、これからの世の中はそればかりでなく、違う部分にもスキルを求めていくようにシフトしていくのではないかと私は思っています。つまり、弁護士とそうではない人と、会社としては両方の要素が必要だと思います。弁護士が多くいればよいということではなく、バランスが取れた状態が望ましいのではないでしょうか。

アメリカの会社なのに、必ずしも弁護士資格が必要というわけではなく、バランスが大事だというお話はとても興味深いです。

マケラ氏
 確かにアメリカは、リーガルのトップは弁護士、チームメンバーも弁護士やパラリーガルなどで固まっているということはよくあります。「自分が弁護士だからチームは全員弁護士がいい」というような、似たような考え方を集めるタイプと、「自分は弁護士だから違うタイプの人たちに入ってきもらおう」と思うタイプの両方がいると思いますが、私としてはどちらにも偏らせずに、両方の人材が必要だと考えています。

 マイクロソフトでは、日本に限らず、グローバルでもバランスをとった組織構成にしています。マイクロソフト全体でリーガル部門における資格保有者は60%です。全体で見ると、弁護士以外にも、エンジニアリングのバックグラウンドを持っていたり、データサイエンスのバックグラウンドを持っていたり、公共関係の分野に長けていたりなど、多種多様な方たちがバランスよく入っていると思います。

舟山氏
 「弁護士は弁護士を、そうでない人はそうでない人を」といったアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)で、自分に近い人をチームに集めてしまうと、ダイバーシティがなくなり、チーム力が落ちていきます。こういった考え方は、我々の部署だけでなく、カンパニーワイドで浸透させようとしています。

弁護士資格を持っている方に求められることも変化しているのでしょうか。

舟山氏
 弁護士も従来型のリーガルの業務だけではなく、プラスアルファのところが求められてきているような気がします。たとえば、これまでは契約書のレビューが業務の中心でしたが、クラウドサービスを提供するようになり、お客さまの情報を会社がお預かりするような事業にシフトし、お客さまは何が心配なのか、データは安全なのか、データが国境を越えるような時は何が起こるのかなど、むしろ契約交渉という次元ではない話が、商談前から発生し、契約交渉よりももう少し早い段階で直接お客さまにお話しする必要が出てきています。そうなると、複雑化する法令と対応方法についていかに簡潔に伝えられるか、いわばプレゼン能力のようなスキルがリーガルチームに求められてきています。

なるほど。そうなると、かなりプロアクティブな行動が求められそうですね。

舟山氏
 そうですね。以前、コーポレートファンクションということで、働き方改革の在宅勤務のテストパイロットを法務から実践しました。この話をお客さまに話すと、「なかなか前のめりな部署ですね」と言われます(笑)。一般的に、法務というとコンサバな印象を持たれがちですが、我々は積極的にビジネスに関わり、お客さまにも直接話をしていきます。

ありがとうございました。

(取材、構成:BUSINESS LAWYERS編集部)

会社概要
日本マイクロソフト株式会社
日本オフィス所在地:東京都港区港南 2-16-3 品川グランドセントラルタワー
設立:1986年2月
資本金:4億9950万円
代表者:代表取締役社長 平野拓也
従業員数:2,076名
※2017年4月1日現在


プロフィール
Susanna Mäkelä(スサンナ・マケラ)
日本マイクロソフト株式会社
執行役員 政策渉外・法務本部長
アシスタントジェネラルカウンセル
1995年ジャムサ地方裁判所裁判官研修プログラム(フィンランド)、サンタラ法律事務所弁護士。パーキン エルマー(ウォラック)、ダニスコ(デュポン)のリーガルカウンセルなどを経て、2002年ノキアへ入社。同シニアリーガルカウンセル(米国)などを経て、2014年にマイクロソフト モバイル フィンランド アシスタントゼネラルカウンセルに就任。2015年7月、日本マイクロソフト政策渉外・法務本部長に着任し、2016年7月より現職。

舟山 聡(ふなやま・さとし)
日本マイクロソフト株式会社
業務執行役員 政策渉外・法務本部 副本部長
弁護士
1996年弁護士登録(第二東京弁護士会)、1996年~2004年山田秀雄法律事務所(現 山田・尾﨑法律事務所)勤務を経て、2004年マイクロソフトに入社。2008年より法務本部長、2014年より現職。

宮崎 翔太(みやざき・しょうた)
日本マイクロソフト株式会社
政策渉外・法務本部 渉外・地方創生担当部長
衆議院議員事務所インターンを経て2006年マイクロソフトに新卒として入社。中堅中小企業向け営業、常務補佐、大手販売パートナー協業担当、中小規模の自治体・医療機関・社会福祉法人・公益法人向け事業開発 兼 内勤営業チーム統括を経て現職。現在はICTやクラウド活用による医療の効率化、地方経済の活性化、女性活躍等のプロジェクトを推進し、日本政府・自治体・医療機関・学術機関・業界団体に向けた政策渉外活動を担当。
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