法務キャリアの登り方

第6回 一人法務からバックオフィスの責任者へ - 法務のスキルでキャリアを拡大 サイボウズ 執行役員 事業支援本部長 中根 弓佳氏

法務部
周藤 瞳美 

昨今、企業法務におけるキャリアは多岐にわたります。企業内弁護士も年々増加し、法務部門での採用は新卒採用、中途採用、弁護士採用、修習生採用など、募集する対象は様々です。そうした環境下、以前に比べて自身のキャリアを考える人が増えているのではないでしょうか。

今回はサイボウズの執行役員で事業支援本部長を務める中根弓佳氏にお話を伺いました。2001年、同氏はサイボウズで初めての法務担当として入社しました。未経験にも関わらず一人法務からスタートし、組織を拡大。現在は事業支援本部長として、ご活躍されています。これまでに多くの苦労があったでしょうが、同氏は「携わるものは何もかもが楽しかった、訴訟もね」と明るく自身のキャリアについて語ってくれました。

大手エネルギー企業からITベンチャーへ

大学は法学部のご出身ですね。

はい、大学は法学部でしたので、周りには弁護士を目指す友人も多かったのですが、私はどちらかというと法曹界にどっぷり浸かるのではなく、一般経済界に行きたいという思いを持っていました。当時、司法試験を目指す人は民法や憲法、刑法のゼミをとることが多かったのですが、私は会社法のゼミを取っていましたね。会社法は今でも大好きです。

では、弁護士になることはまったくお考えにならなかったのでしょうか。

実は、法曹界を目指す人たちが集まるサークルには入りました。でも、それを目指す人たちの覚悟や想いを身近で感じて、自分はそこまでの覚悟を持てないと思い、弁護士の道は志しませんでした。

大学卒業後は一般企業へ就職されたのですね。

大阪ガスに入社しました。自分が関西出身だったこともあり、もともと大阪ガスという会社に親しみを感じていたことがきっかけです。そこでやりたいことが明確にあったというよりは、地元への貢献度が高くかつ事業を多角化しており、お会いする人も魅力的で、この会社だったら楽しく働けるのではないかという思いのほうが大きかったですね。

大阪ガスでは、どのような仕事をされていましたか。

家庭用ガスの営業企画を行う部署に配属されて、営業管理や債権管理などの業務を行っていました。債権管理業務では、法務部に相談しながら契約書の作成にも携わりました。今思えば、これが企業法務の仕事の第一歩だったかもしれません。「大学時代に書籍で学んだことって、こういうことだったんだ!」と、とても楽しく感じたことを覚えています。

大阪ガスを退職するきっかけは何だったのでしょうか。

大学時代から交際していた今の夫との結婚を考え始めたときに、このまま関西を中心に仕事を続けていくのは難しいかもしれないと感じたからです。夫は東京で就職しており、いわゆる遠距離恋愛の状態でしたので、私も東京で仕事に就こうと考えました。

なぜ、転職先としてサイボウズを選ばれたのでしょうか。大手企業からITベンチャーに転職されることに不安はありませんでしたか。

転職エージェントに登録し、サイボウズを紹介されたことがきっかけです。サイボウズはその当時、著作権侵害訴訟に向けて法務担当の社員を募集していました。当時は平均年齢20代の小さなITベンチャーでしたから、紹介された当初は、ギラギラしている人が多そうという自分の勝手なイメージから、私には合わないかもしれないと感じていました。でも、エージェントに背中を押されて、実際に面接を受けてみたら、「ITというと今は難しい技術だと思われているが、一般の人でも簡単・便利にITを使ってもらえるようなサービスを作りたい」と、真剣でかつ熱い想いを持ったエンジニアの話を聞いて、その印象はガラリと変わりました。こういう熱い想いを持つ人たちと働くことができたらと思うと、純粋にワクワクしたんです。

キャリアアップさせたいという気持ちではなく、万が一会社が潰れてしまったら、「専業主婦になればいいや。楽しく社会貢献できればいい」と思い、とにかくその時働きたいと思ったサイボウズへ入社しました。

サイボウズに入社されてからはどういった仕事を経験されてきましたか。

入社直後は、ITと自社製品について知るために製品マニュアルを作成する業務を行いつつ、訴訟や特許、商品の使用許諾契約書に関する仕事を進めていました。特に、使用許諾契約書の内容や表現について上司に確認を取った際、「それはあなたが担当なんだから、あなたが決めていいよ」と言われたことは非常に驚きましたし、今でもよく覚えています。

大企業では経験の浅い社員が使用許諾契約書を完結させることはありえないことですが、当時は社内に法務担当が私一人しかいなかったので、私が責任を持って判断しなければならない状況でした。しかし、私だけではなく、社内全員がリスクを取りながら初めてのことに挑戦していて、これがベンチャーなんだとワクワクを実感しましたね。ドキドキすることも多かったですが(笑)。

サイボウズ 執行役員 事業支援本部長 中根 弓佳氏

サイボウズ 執行役員 事業支援本部長 中根 弓佳氏

法務の経験はほかの仕事にも生きてくる

現在は、事業支援本部長として、法務、人事、経理の部門を統括されていますね。

第二子出産後の2009年に育児休暇から復帰したタイミングで、法務から人事部門にも業務の幅を広げ、多様な働き方を実現できる制度の整備を進めてきました。そして現在サイボウズUSAの社長を務める山田が渡米した2014年に、事業支援本部長の職を山田から引き継ぎました。現在、事業支援本部は人事部・財務経理部・法務統制部・上海事業支援部・ベトナム事業支援部・US事業支援部で構成される、総勢約60名超の組織です。

特に人事の業務においては、労働法と向き合うことが非常に多いので、法務の経験が生きています。多様な働き方を実現するうえで、労務管理や社会保険全般に関する法律がハードルになってしまうことがありますが、それらの法律が制定された目的、いわゆる立法趣旨を確認して理解できるという点は、私の強みなのかもしれません。

現在の仕事のなかで法務の経験が生きたことはほかにもありますか。

これまで株主総会の運営も担当してきましたが、もともと会社法が好きでしたから、非常に楽しみながらやっています。また株主総会は、会社と株主の理想的な関係のあり方を、法務的な視点だけではなく、チームという人事的な視点からも考えるきっかけとなるものなのでおもしろいですね。

私は今、経営的・人事的な視点から、社内のチームのあり方について考える機会が多くあります。お金だけで繋がっている関係なのにも関わらず、形式的には会社の所有者であり、経営者を決めることができる権限を持つ株主は、サイボウズというチームにおいて、一体どういう位置付けのメンバーになるのでしょうか。そういった株主との関係性や新しい会社のあり方について考えるシンポジウムを、株主総会と同じ日に企画しているところです1。これは、人事の視点からチームの幸せを考えている自分と、会社法が好きで法務の仕事を続けてきた自分の両方のキャリアが生かせている、おもしろいところなのではないかと思っています。

法務の経験は、様々な場所で役に立っているんですね。

法律は構造的にできていて、体系的に見ていかないと理解できないものなので、それが読めるということは、自信を持って良いことだと思います。法律が読める人は、物事を構造的に理解することができる人です。その能力は、法律以外の分野でもきっと生きてくると思いますよ。

サイボウズは多様な働き方を追求されている企業という印象がありますが、とはいえ仕事と家庭の両立でこれまで悩まれたことはなかったでしょうか。

今でもよく覚えているのは、第一子出産の時ですね。ちょうどたくさんのM&A案件を抱えている時に妊娠がわかり、最初は素直に喜べませんでした。ただただ「どうしよう」と。ある時上司と外出した帰り道で意を決して妊娠を報告したら、「よかったね!おめでとう!」と言われ、とても気持ちが救われました。

また、私が育児休暇を取得している際に、会社で業務を任されたメンバーは大変だったと聞きましたが、私が職場に復帰した時には皆がすごく成長していました。それまで、メンバーにお願いせずに自分でやってしまっていたような仕事も、メンバーができるようになっていて、その時に、自分で仕事を抱え込んできていたことを反省しました。

中根さんの今後のビジョンを教えてください。

人事的な視点が大きいかもしれませんが、各メンバーがどのように働いていくことが幸せなのかを考えて、成長意欲やプライベートをサポートしていくことで、チームとしても個人としても、メンバーがいきいきと働けるような会社にしていきたいと思っています。

法務、人事、経理のメンバーはエンジニアと似ていて、スキルや考え方が非常に専門的なんですよね。一方で、営業メンバーのようにどちらかというと人の心を動かしていくことに長けているメンバーもいます。さまざまな人がさまざまなスキルを持って集まり、それをチームとして機能させることで、サイボウズが実現したい世界を作っていきたいですね。

自分のキャリアについて悩んでいる法務担当に向けて、メッセージをいただけますか。

法務の書面を見るという仕事だけを続けていると、近視眼的になりがちです。しかし、契約書の確認一つとっても、「これは経営者の視点から見るとどうだろう」「長期的に達成したい事業目標は何だろう」と一段高い視点を持って行うことで、おもしろくワクワク感じることができますし、質の高い取引のサポートができるのではないかと思います。

弁護士や法曹界のバックグラウンドがある人以外で現在企業法務を担当している人は、一度違う世界を見てみるのもよいのではないでしょうか。経営企画や総務・労務を経験してもよいでしょうし、できればビジネス部門の中にある法務を担当してみるなど、ビジネスに近い部分の仕事に積極的に手をあげてみてほしいですね。また違った視点で法務という仕事を考えることができると思います。

サイボウズ執行役員で事業支援本部長を務める中根弓佳氏


  1. 2018年3月30日に開催されました。当日の模様は「会社と株主の理想的な関係を探るサイボウズの新しい株主総会」をご覧ください。 ↩︎

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