法務キャリアの登り方

第7回 企業経験を活かした「オールラウンダー」を目指すキャリア構築 C Channel株式会社 法務マネージャー 斉藤 陽一郎氏

法務部

昨今、企業法務におけるキャリアは多岐にわたります。企業内弁護士も年々増加し、法務部門での採用は新卒採用、中途採用、弁護士採用、修習生採用など、募集する対象は様々です。そうした環境下、以前に比べて自身のキャリアを考える人が増えているのではないでしょうか。

今回は、女性向け動画メディア「C CHANNEL」を運営するC Channel株式会社で法務マネージャーを務める斉藤 陽一郎氏にお話を伺いました。斉藤氏はこれまで、株式会社だいこう証券ビジネス、株式会社ネクソン、株式会社スクロールと3社の東証一部上場企業の法務部門で経験を重ね、2017年にC Channelへ入社しました。

これまで証券、オンラインゲーム、通販と異なる業界での法務キャリアを積み、C Channelで一人法務に取り組む斉藤氏に聞いた「法務キャリアの登り方」について、ご紹介します。

司法試験を断念して選んだ金融の道

司法試験を受験していたということですが、大学入学の前から法曹の道を志していたのでしょうか。

そういうことでもなく、文系学部の中で無難なところをと思い、法律系の学部を選びました。千葉大学に入学してから行政書士の試験を受けて、ステップアップさせたいという気持ちで司法試験に臨みました。

司法試験はどれくらい挑戦したのでしょうか。

3回受験しました。ちょうどロースクール制度開始の端境期で、旧司法試験で受けてだめだったら就職しようと思っていたので、3回受験した後は企業への就職を考えました。

最初に就職した会社について教えてください。

だいこう証券ビジネスに入社し、企画総務部に配属されました。だいこう証券ビジネスは証券会社でありながら、いわゆるリテールサービスを提供せず、他の証券会社や投資銀行、ファンド等を対象にサービス提供をする証券業界のインフラ的な役割の証券会社で、国内外の金融機関のバックオフィス業務や市場執行業務、また、その当時は株主名簿管理人の事業も行っており「証券インフラを支えている」という独自のポジションに興味を持ち、入社しました。

配属された部署は企画総務部ということですが、業務の内容は法務周りが中心だったのでしょうか。

同社では、独立した法務部ではなく、企画総務部とコンプライアンス主管部署で法務を分担していました。私の業務は、法務としては、いわゆる商事法務といわれる、株主総会や取締役会の会議体の運営や、会社の株式の管理などが中心でしたね。

C Channel株式会社 法務マネージャー 斉藤 陽一郎氏

C Channel株式会社 法務マネージャー 斉藤 陽一郎氏

ターニングポイントは突然の出向

法務の仕事に就いて実際に仕事をし、イメージとのギャップはありましたか。

最初はもう雑務ですよね。希望していた株式業務関連の部署とは違う部署への配属でしたし、希望のキャリア構築になっているのかもわからず、なかなかおもしろいとは思えませんでした。今考えれば、未熟な新人にあれもこれもできるはずがないのは当然なんですが、当時はそういったフラストレーションが高かったように思います。

そんな自分の様子を見かねてか、入社して3年目に、当時の部長のお計らいもあって、パートナー企業である野村総合研究所に出向に行くことになりました。ただ、出向といっても言うなれば格上の会社への出向なので、願ってもない話でした。

出向先でのミッションはどういうものだったのでしょうか。

サブプライムローン問題の余波が生じる前の時期でしたが、当時、証券市場の盛り上がりを受けて、地方銀行が独自に証券子会社を作るというビジネスモデルが金融業界で注目されていました。そこで、証券会社設立のための許認可の取得、設立手続きや基幹システムの導入など運営に必要なノウハウやサポートを、野村総合研究所とだいこう証券ビジネスでパッケージ化して銀行へ提供しようというプロジェクトが立ち上がりました。

私のミッションは、顧客登録からマーケットへの発注、決済、残高の管理、コンプライアンス管理含め業務全般に一気通貫で利用される、国内のデファクトスタンダードである証券会社向けの勘定系システムの理解を得るために、システム開発を行っている野村総合研究所に出向してプロジェクトマネジメントオフィス(組織内における個々のプロジェクトマネジメントの支援を横断的に行う機能)の立場でプロマネを補佐し、ビジネスモデル自体を学ぶというものでした。

幸いなことに、野村総合研究所の中でも若くて厳しく優秀と評判のあるプロマネの下に付けさせていただき、システム開発やシステムの新規移行などのプロジェクトマネジメントの実践に携わる経験が持てました。他にもCRM(Customer Relationship Management:顧客関係管理)システムの新メニューの開発にも参加させてもらい、マーケティング関連の知識を身に付ける機会を得ることもできました。法務とは異なる領域ながらも、後々法務としての案件対応をするうえでとても有益な経験となりました。

有益というのは、この時に経験した考え方や動き方が、その後に活かされているということでしょうか。

そうですね、ものすごく役立っていると思います。契約や社内相談等の個別案件対応をするうえで相談内容のイメージが付きやすいだけでなく、法務特有の業務自体に仕事の進め方を応用できるという利点もあります。

一般的に法務の仕事はプロジェクト的ではなかったり、そういうやり方に沿わないように見えるものが多くあるのは確かです。しかしながら、一方で、どういうふうに体制を整えるのか、どういうふうに課題を抽出して管理していくのか、どうやってそのスケジュールで進めていくのか、という目的達成や課題解決に適した手法が馴染むものもあるのではないかと考えていました。

私はそのプロジェクトマネジメント的な手法を、次に入社したネクソンで、株主総会の事務局として運営を管理する際に利用してみました。新規上場の会社であり、株主総会運営のフォーマットが整備されていないというある意味良い機会でもあったので。

そうしたところ、体制とタスクを切り分けて、担当者それぞれの役目を明確にしたうえで、場面場面の課題に対処しながら、クリティカルパスを見て回してくという事業的なやり方が、法務の仕事でも活かせるということがわかりました。タスクの抜け漏れを無くせたり、進捗を周りに見せ連携が図れるなどの良い影響があったと思います。株主総会の事務局運営を担当した時は、当時の上席から珍しく高い評価をいただきましたね(笑)。

出向先での仕事にやりがいを感じられていたように思いますが、どうしてネクソンへ転職したのでしょうか。

証券市場が冷え込み、プロジェクト自体がいったん様子見の段階に至りました。そうした状況の中、自分としてはやはり法務がメインキャリアだという意識はありましたので、転職を考えました。

C Channel株式会社 法務マネージャー 斉藤 陽一郎氏

初めての実績はストックオプション行使スキームの構築

ネクソンへ転職を決めた理由はなんでしょうか。

ネクソンは入社当時、IPOが十分視野に入っていて、かつ、ベンチャーながらグローバルに展開している点が魅力的でした。機会があれば、早いうちに外資系企業で働きたいと思っていたことも理由です。

というと、業種・業界については転職の判断基準になかったのでしょうか。

自分自身の経験値が低かったこともあり、その時はそれほど業種・業界ということを基準にはしてなかったですね。そこは法務転職の良さでもあると思いますが。

でも、同社はオンラインゲームという当時のゲーム業界では新しいプラットフォーム的なモデルを提供している会社でしたし、今では当たり前になっているオンライン課金型のビジネスモデルをゲームの世界で最初に始めた会社でもあって、事業モデルとしては革新性のある会社で、そこが魅力的でした。

ネクソンに行って前職のキャリアが活かせて大変良かったと感じるのは、国内で前例のないクロスボーダーでのストックオプションの行使スキームが構築できたことです。新規上場の会社はそうですが、同社でも上場前から、国内外の役員・従業員にストックオプションを複数回発行していて、私が入社した時点では権利行使のためのスキームの構築まではされていなかったところ、期せずして自分の経験が活かせる仕事が回ってきたんです。

それはすごい経験ですね。

もちろん私1人の力ではないでし、主幹事証券の方や株主名簿管理人である信託銀行の方の助力を得ながらではありましたが、上場までという期限があるなかで、クロスボーダーで全社に影響する専門的な業務スキームを、構築する機会を得られたことはよかったと思います。

それができたのは、ひとえに過去の経験や知識を活かせたからだろうと思います。前職において、証券決済の仕組みを認識していたことや証券業務の基幹システムを触っていたことから教科書的ではない実務を垣間見るチャンスがあったため、事業会社の法務に行っても、「ありもの」が無い状況でどうやってスキームを作ったらいいのかを、考えることができたのだろうという気がします。狙ってやれた仕事ではないですが、自分にとって過去の経験を活かすという点で本当に良い経験になり、自信につながりました。逆に、会社法や金商法等の法律的な知識だけしかない中で、業務を任されていたら、会社を辞めていたんじゃないかと思うくらいのハードルでした。

その他にはどのような業務がありましたか。

法務に関連する海外子会社の管理もありました。珍しいケースだと思いますが、ネクソンは国内企業でありながら、親会社は海外、また自社の下に大きな海外子会社があり、その下に多くの孫会社があって、さらに兄弟会社にあたる国外の会社や外国籍のファンドも複数あるというグループ体制でした。拠点は韓国、中国、ヨーロッパやアメリカなど各国にあり、そういった海外子会社とコミュニケーションを取り、関係会社管理を行う機会があったことは良い経験でした。

C Channel株式会社 法務マネージャー 斉藤 陽一郎氏

一人法務という選択

ネクソンの後はどのようなキャリアを歩んできたのでしょうか。

自分のキャリアを考えるともうちょっと幅を広げるべきだろうと考えていました。金融やオンラインサービスという業界で仕事をしてきた自分にとって、メーカーや小売という実物の商材を扱う業界を経験できたらかなり幅を広げられるかなと思い、転職したのがスクロールというカタログ通販・EC通販の会社でした。ベンチャー企業とは対照的な、社歴の長い日本の通販業の草分け的な会社です。本体の通販業だけではなく、ロジスティクス施設を保有する物流事業を子会社が行っていたり、化粧品製造子会社なども持っていて、メーカー的な部分もあり、契約業務をベースにグループ全体の法務を見る機会を得ました。

ここでも新しい経験をたくさん積まれていそうですね。

EC周りや物流関係の知識が身につきましたね。あとは、商標中心でしたが知財関係業務やM&Aなども経験しました。それ以外にも規程の改定整備、株主優待制度の新しいプランの導入や、コーポレートガバナンス・コードの新規導入など、契約法務・商事法務に限らずやらせてもらいました。

ほかにも、株主総会の運営について他のメンバーに指導したり、法定開示・適時開示関係業務をサポートしたり、インサイダー取引管理体制の整備案を作ったり、ストックオプション行使体制を再構築するなど、これまでやってきたことの復習をしつつ、自分の幅を広げるための新しい知見を加えることができたと思っています。

その後、なぜベンチャーであるC Channelへの転職を考えたのでしょうか。

必ずしも当初からベンチャーに絞っていたわけではなく、大企業含め複数面接は受けていました。当社の森川はLINEの前社長ということで知られていますが、偶然とはいえ、そのLINEの法務採用の選考も進んでいました。そうした中、ある時、転職支援サービスを介してC Channelから案内があり、森川の名前を見て「こっちかも」と興味を持ち(笑)、話を聞きにいきました。

C Channelの面談では、直属の上司であるCFOとも話をしまして、能力的な点でも人柄的な点でも、このCFOと一緒に仕事をしていきたいと思えたのが大きかったです。IPOも複数回経験されていて管理部門に関する知見の広い方であり、上司としては非常に理想的な人物でした。これまでの自身の金融、ゲーム、通販といった業界経験から、C Channelの事業に関する法務領域をカバーできるように思い、チャレンジングではありましたが、ベンチャーの一人法務を選択しました。

法務に限らないことだと思いますが、長く一定の業務をしていると、断片的に見ればスキルを蓄積できているはずなんですが、一方で、それらを整理してアップデートする機会は逃しがちだと自戒を込めて思います。そういう状況でベンチャーに入ると、自分のキャリアの棚卸と振り返りが一気にできる良さがあるのかなとは考えています。

一人法務を経験してみてどうですか。

業務を自分で構築していくというのは、非常におもしろいです。これは間違いないです。おそらく、法務で転職される大多数の方は、転職先に法務の下地がないまっさらな状態で入るケースは少ないと思うんですよね。中途半端にできあがっているものを触ったり直したりするのは、すごく労力がかかるうえに、ストレスを感じてしまうことも多いのではないでしょうか。

この点、法務部門の立ち上げからの入社からとなると、そういうことがありません。すでに他社での一定の経験があったり、あるいは、いまの職場で「本当はこういうふうにやったら効率良いのにな」とか「自分だったらこうできるのにな」といった気持ちを抱いている方は、ベンチャーの一人法務という選択肢はアリだと思います。

とはいえ、だからこそ、第三者的な基準に基づいた業務構築が求められると考えます。自分なりに考えた法務のやり方も大事だとは思いますが、「これがおそらく世間一般の法務の平均値よりは上だろう」とか、「業界トップクラスの会社ではこういうふうに回している」というような、指標となる基準があったうえで、それを導入することができるのであれば、ぜひともノウハウとして転職先の会社に提供した方が良いと思います。そういう意味では、大企業にいた人の方が、一人法務は向いているかもしれませんね。自信を持って発言できると思うので。

今後、挑戦したいことはありますか。

自分としてはまだまだ能力、経験とも底上げをしないといけないと思っています。弁護士資格を持っていない法務の人間としてスキルを高める方法を考えなければいけないのですが、どういう方向が良いか考えると、おそらく企業経験を活かしたオールラウンダーであることが求められるのではないかと思います。逆に言うと、顧問でもインハウスでも弁護士は、調査能力や専門性に優位性があると考えますし、相互に補完し合う関係が企業法務のフィールドでどんどん定着していけば良いなと思います。

その点で、私がネクソンにいた時の上席の方が、法務のキャリアビルダーとしてお手本になる方でしたね。その方も弁護士資格は持っていない方ですが、いわゆる法律系の資格を片っ端から取得し、ある法律系国家資格の試験委員も担当されたりするほど知見の深い方で、なおかつ、業界経験も広く、商社、大手通信会社、ネット系企業を経て、今は、グローバルに展開する歴史ある鉄鋼メーカーで法務の中核的な役割を担われています。オールラウンドなキャリアビルダーとして素晴らしいと思うんです。

そういうモデルが、弁護士ではない法務パーソンの歩み方かなというのがイメージの1つとしてはあります。法務とはいえ、ジョブマーケットに出て行って自分の評価を高めていくことはある意味、有効だと思います。

C Channelで挑戦したいことは何かありますか。

会社の法務体制の整備の完成度を上げていくことですね。一から作るおもしろさはありますが、同時にやらなきゃいけないことが山ほどあるので。また、ベンチャーは、大企業よりも、新規事業等に関し、やりたいことを素直に「やりたい」と言うメンバーが多いですが、リスク事項にはちゃんと「No」を言いながら、なおかつ事業促進を図るという観点での意識付けや、そのための手法の提供をしないといけないところです。

C Channel株式会社 法務マネージャー 斉藤 陽一郎氏

必ず自分の出番はやって来る

これまでお話を伺っていて、常に次への目標をきっちりと立てられているように感じますが、苦労した経験はありますか。

野村総合研究所に出向したときが非常に辛かったですね。業種的にシステム開発がメインで畑違いでしたし、事前に知識もないなかで勉強しても追いつかず、周りも優秀な方が多かったので、ひとつプロジェクトを終えるまでは、何かを身に付けた実感や自信が持てずにプレッシャーだけを感じて過ごしていました。でも、何でも最初の1回目が辛いのは間違いありません。そして1回経験すると、2回目はそんなに辛くなかったり。

こう話すと、狙ったかのようなキャリアに思われるかもしれませんが、別にそういうわけでもありません(笑)。その時々での選択の結果に過ぎないだけで。

今でも印象に残っているんですが、だいこう証券ビジネスで出向前の時期に人事課長と面談した時に、「君、もしかして焦ってる?」って言われたんですよ。その時ハッとさせられたものの、はっきりとその意味はわからないままでした。その言葉がずっと引っかかっていたのですが、最初の転職後に初めて自分の中で実績と呼べるようなものができたときに意味がわかったと思いました。確かに自分は焦っていたのかもしれないと。経験の足らなさ故の背伸びをしたかった、という感じでしょうか。

誰でも必ず自分の出番がやって来るタイミングがあると思うんですよね。経験がない時期は、自分の能力に対するアウトプットの少なさだったり、周りからの評価の低さだったり、そういった不満は絶対あると思いますが、今の私だったら昔の自分に、「必ず自分の出番が来るから、その時にホームランを打てばいい」と言うでしょうね。

まったく焦ってこなかった人よりも、焦った経験がある方が、成長につながるような気もしますね。

そうですね、思い上がりではなく、「自分はもっとできる」とか「やりたい」というマインドは必要だと思います。

ありがとうございました。


(取材、構成:BUSINESS LAWYERS編集部)

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