企業法務の現場で活きる、リアルな英語活用術 ビジネスで活かす英語を身につけるには?

法務部

5月25日に、「BUSINESS LAWYERS」は読者を招いたトークイベント「法務トーク」の第2回を開催しました。今回のテーマは「企業法務の現場で活きる、リアルな英語活用術」。実際にビジネスの現場で英語を駆使して仕事をしてきた、Big West Brothers Consulting & Solutions 代表の大西 徳昭氏とエヌエヌ生命保険株式会社 法務コンプライアンス部の宮田 佳明氏をパネラーに迎え、来場した参加者からTwitter等で随時質問をもらいつつ(ハッシュタグは#法務トーク)、参加者と意見交換をしながらトークセッションを行いました。

今回は、第2回「法務トーク」で語られた内容をレポートします。

【パネラー】
大西 徳昭氏
Big West Brothers Consulting & Solutions 代表

慶應義塾大学法学部政治学科卒。米国Emory大学経営大学院(MBA)日本郵船株式会社フェアートレード推進グループ長(国際法務コンプライアンス・独禁法特命担当)、(株)ユニエツクス取締役執行役員等経営職を歴任後、現職。
企業経営層・法務/コンプライアンス部門に対し「コンプライアンスアドバイザー」として実践的かつ有効な企業法務・コンプライアンス活動の実現のためのコンサルティング支援・研修を実践中。7月よりSMBCコンサルティング公開講座でコンプライアンス講座を実施。2013年にNHK Eテレ「しごとの基礎英語」等で広く活躍中の大学教授であり、実弟である大西泰斗との共著で「ビジネスパーソンの英語」(日本実業出版社)を執筆。日経グローバル研修講師等、異文化対応・英語プレゼン・キャリア研修等法務分野以外の公開セミナー・企業研修・執筆活動等も幅広く行う。

詳細なプロフィールはこちら
宮田 佳明氏
エヌエヌ生命保険株式会社 法務コンプライアンス部(2018年5月25日時点)

法科大学院卒業後、司法試験合格。司法試験終了後アイエヌジー生命保険株式会社(現・エヌエヌ生命)入社。2016年には、半年間オランダにある再保険会社に出向し、英語と戦う。日本に帰国後は、英語力への期待が一層重くのしかかる。
【モデレーター】
田上 嘉一
BUSINESS LAWYERS

BUSINESS LAWYERS事業責任者。早稲田大学大学院法学研究科卒業後、アンダーソン・毛利・友常法律事務所入所、企業のM&Aや、不動産証券化などの案件に従事。 2010年Queen Mary University of Londonに留学。2012年アンダーソン・毛利・友常法律事務所に復帰、2013年グリー株式会社に入社、法務や新規事業の立ち上げに携わる。2015年7月に当社入社、2017年4月より執行役員に就任。

英語をどう学び、どう活かすか

田上
まずは実際に、これまでお二人が英語を使ってどのような仕事をしてきたのかお聞きしていきたいと思います。

大西氏
私が日本郵船へ入社した時は、全く英語がしゃべれませんでした。一方、会社はグローバルでビジネスを行っていましたので、当たり前のように仕事で英語を使うという環境で、当初は相当苦労しました。

私はずっと事業サイドで仕事をしていましたが、日本郵船に在籍していた最後の6年間は独禁法コンプライアンスを核とする国際法務に関する業務に携わり、42か国・200社・5万5千人のコンプライアンスプログラムをつくるなど、毎日、グローバル環境で「英語で仕事」を行っていました。事業サイドでも、リーガルの世界でも、34年間・36ヵ国でビジネスを行っていた私は、業務で基本的にはずっと英語を使いました。英語は好むと好まざるといつも隣にいた「相棒」というような感じです。

田上
そういった環境だと、ドキュメントだけでなく、会議などでも日常的に英語を使っていたのでしょうか。

大西氏
多くの場合、顧客やビジネスパートナーは海外の人なので、自然と公用語は英語になります。

コンプライアンス部門では、英語が苦手という部下も少なからずいましたので、海外のスタッフに数年同じ部署で働いてもらい「疑似グローバル環境」をつくるべく腐心しました。部署の中に1人でも日本語がしゃべれない人がいると、当然公用語は英語になります。敢えてそういう環境を作ることで、問答無用で(笑)英語のトレーニングをしながら一緒に仕事をして、皆に実力をつけてもらおうと工夫しました。英語力の増強だけでなく、お互いの文化の違いを乗り越えるビジネス経験をつけるという意味で、効果は絶大でした。

田上
まさにもう全て英語漬け、英語が基本ということですね。宮田さんはいかがですか。

宮田氏
僕は外資系の保険会社に勤務しているのですが、保険会社というと免許事業になるので、日本国内の日本人に対して保険を売るというのがビジネスの中心です。そうなると、通常ビジネスで使うのは基本的には全て日本語です。

じゃあ英語をどこで使うのかというと、親会社であるグループや経営陣に対して報告する際ですね。あと、保険会社は費用の大部分をシステムに使うような予算の組み方になっているのが特徴なんですが、そのシステム関係で最近は特に英語の契約書が多くなってきているように感じています。

田上
なるほど。お二人とも業務の大部分で英語を使われていますね。そこで気になるのが、一体どうやって必要な英語力を身に付けたのかという点なのですが、大西さんはどこで英語を学んだのでしょうか。

大西氏
入社後、のんびりした名古屋支店を経験した後、本社勤務になり港湾ビジネスの担当になりました。日本郵船は世界中で船舶を運行しており、海外自営ターミナルを除けば世界中の港のオペレーターと使用契約を交わします。この海外オペレーターとの契約関連業務をいきなり担当することになりました。今でも覚えているんですが、直属の上司である課長代理に、着任初日、「これやっとけ、やり方は書いてあるから読んで自分でやれ」と言われて分厚いファイルを渡されたんです。中身はほとんど全て英語!色んな意味で「カルチャーショック」でした(笑)。こんな感じで、グローバルビジネス現場で問答無用で徹底的に鍛えられながら、英語力も必然的に徐々に伸びていきました。特に力が伸びたと感じたのは、米国MBAに留学した2年間です。帰国後、3年間本社アジアビジネスの担当になりアジア中を駆け巡った後、39歳で豪州ケアンズのクルーズ会社(現地法人)のCEOになって5年間。豪州企業の経営者として死ぬほど様々な「リアルな場数」を踏んだことで、英語力・グローバルビジネス現場力が飛躍的に伸びたと思います。

田上
ありがとうございます。宮田さんはいかがですか。

宮田氏
僕は高校受験も大学受験も推薦で終わってしまいましたので、英語の勉強っていうのはまともにやってきませんでした(笑)。なので、入社した時のTOEICは500点そこそこ。今でも英語は嫌いですけど、前はもっと嫌いでした。さっき大西さんが「英語が隣にいた」っておっしゃっていましたけど、僕の場合は常に前にいます。倒してからじゃないと先に進めないような、そういう状況を過ごしていますね。

ただ、2016年にオランダに出向の機会がもらえて、現地に行ったら、ほとんどオランダ語なんですよ。これなら英語の方がよっぽど簡単だと思い、どうにかして英語でコミュニケーションをとっていくということを繰り返していくと、少しずつ自分の英語力が上がってきて、帰ってきたらTOEICが920点まで上がっていました。

田上
今のお二人のお話を聞いていると、仕事の中で学ぶということが効率としてはよいのかなと感じました。ちなみに、読み・書きは日本にいてもできるかもしれませんが、聴く・話すというところに関しては、やはり現地に行くのが1番なのでしょうか。

大西氏
日本では教育のスタイルが読み・書き中心で、「聴く・話す」チャンスが少ない分、一般的に多くの日本人は「聴く・話す」が苦手ですよね。これ、実は海外に行くと、書くのと読むのは苦手だけど、しゃべるのは楽勝だっていう人が圧倒的に多い。真逆なんです。この状況は、教育の方法論、日本人特有のメンタリティに原因があると私は考えます。

田上
確かに。僕も1年間ロンドンに留学したことがあるんですが、そこでは日本人の留学生の方が他国の留学生よりも、TOEFLやIELTSのスコアが高いんですよ。実際授業になって「ディスカッションしてみろ」となった時に、日本人はしゃべれない。同じアジアでもタイや韓国、中国、マレーシアから来ている人たちは、どんどんしゃべっていました。

宮田氏
話す機会をつくってみると、読み・書きも少しずつ磨かれていく感じがします。

田上
なるほど。ちなみに、日本の会社にいて「英語を使いたいな、できるようになりたいな」と思っていてもなかなか話す場がない場合は、どうやって機会を得ていったらよいものでしょうか。

大西氏
先ほどからお話しているとおり、基本的に全ては場数なんです。場数を踏まない限りは、絶対に英語を仕事で使えるようにはなりません。だから、「英語を話す場がない」という人は自分で機会を見つける必要があります。お薦めはこの2つ。ぜひやってみてください。1つは英語カフェ。ワンコインで開催しているところってありますよね。すごくいいと思います。もう1つは、ぜひ今日、これから帰宅する際にやっていただきたいんですが、つぶやくこと。「お腹減ったな」とか「眠い」とかなんでもいいです。それをつぶやくんです。これを毎日やっていくと、自分が「何をつぶやけないのか」わかってきます。単語なのか、言い回しなのか。自分の苦手なことがわかってきます。僕もやっているんですが、スマホのノートに「つぶやけなかったこと」を残していきます。そして後で、その英語表現をまとめてそれを何回も繰り返しつぶやきます。これ、有効です!

田上
興味深いお話です。僕がまずやったのは、英語の映画を観るということでした。DVDだと英語字幕に切り替えられるので、何を言っているのかわからない時に、その言い回しをノートにメモして、これ「格好いいな」とか「言ってみたいな」という言い回しを、つぶやいてみたりしていましたね。

Big West Brothers Consulting & Solutions 代表 大西 徳昭氏

Big West Brothers Consulting & Solutions 代表 大西 徳昭氏

英語ができると得になる

田上
来場者の方からTwitterで宮田さんへ質問がきています。宮田さんは入社時にはあまり英語が得意でなかったというお話でしたが、どうして海外出向の機会をもらえたのでしょうか。

宮田氏
たぶん、会社側が「英語を鍛えてきてほしい」とか、「外国の文化を学んできてほしい」「兄弟会社がどういうふうに運営しているのか、本国を見てきてほしい」といったような勉強の機会として出向させてもらったということが大きいように思います。英語ができるから行ったというよりは、英語ができないから行ったという感覚の方が強いかもしれません。何かのきっかけがないと、英語漬けになる機会はできないかもしれませんね。それがどういうタイミングでつくれるのかは、それぞれの人によって違うかとは思います。僕の場合は、偶然にも会社から「学んでこい」という機会だったということです。

田上
「出向に行きたい、海外に行きたい」という意向や意志は、見せていたんですか。

宮田氏
それは言っていましたね。言わないと叶えてもらえないと思います。

田上
伝えることが大事なんですね。ちなみに、大西さんがMBAに行ったのは、会社からの派遣で行ったんですよね。どうやって機会を得ることができたのでしょうか。

大西氏
米国MBA留学は社内公募制でした。ちょっと脱線しちゃうかもしれませんが、私がMBAに行ったのは34歳の時なんです。30歳くらいの時、当時世の中はちょうどバブルだったんですよね。当時私は営業だったので、夜遅く、時には早朝まで接待等で楽しくバブっていたんです(笑)。ある日の深夜、いつものように酒席の途中でトイレで用を足していると、目の前のガラス越しに東京タワーが見えたのをよく覚えています。そしてガラスに映っている自分の顔を見た時に、恥ずかしながら「本当にバカみたいな顔」をしていると思ったのです。「俺、このままこんなことやってると本当のバカになる」って、なぜかその時急に思ったんです。しかもかなり深刻に(笑)。そこで、何か始めようと思った時に、MBAの留学制度があることを思い出して、「無理かもしれないけどやってみよう」と思ったのがきっかけでした。

いつも思うんですが、今の日本だと英語ができるということはまだまだ武器になると思います。「英語ができる」「英語を使って仕事ができる」という能力は、絶対に邪魔になることがありません。私も「英語で仕事」が得意になってから、本当に色んなチャンスをもらえました。もし英語に興味があって仕事で使えそうだなと思ったら、ぜひ英語を本気で勉強してみたらいかがでしょうか。私はグローバルビジネス現場で34年働いてきましたが、場数を踏んだこともあり、同年代のビジネスパーソンの中では英語力、外国人等の協働力はある方だと自負していますし、様々な意味でそれが自分のビジネスパーソンとしての「武器」になっています。ハッキリと損得だけでも、「英語ってできた方が得」という感じがしています。

田上
損得という話が出たので聞きたいんですが、実際英語が使えると給料はどれくらい変わるのでしょうか。

宮田氏
どこの会社でもそうだと思いますが、弁護士資格を取ったので給料が上がるとか、TOEICでこれだけ点数が上がったので給料が上がるということはあまりないのかなと思います。ただ、転職をした時に提示される金額が上がる。

よく需要と供給という話がありますよね。たとえばキャビンアテンダントの人が英語をしゃべれたとしても、皆しゃべれるのが当たり前なので、たぶん給料は変わらないでしょう。一方、法務で働いている方ってどうなのかと考えると、おそらく日本語の専門家だと思うんです。1つ1つの文章の言い回しだったり、主語や助詞の位置などにすごく気を配って、それを生業にしている人たちだから、どっちかというと日本語の専門家で、英語はそんなに得意じゃない人が多い環境なのかなと個人的には思っています。だからこそ、英語ができる法律家の人って、すごく給料が上がるのではないでしょうか。

大西氏
僕が前にいた会社も、別に英語ができたからとか、MBAに行ったからといって給料が上がるわけではありませんでした。ただ、アメリカでは間違いなくMBAに行くことによって給料が上がります。次に就職する時にはたぶん、年収で2万ドルから3万ドルは上がるのではないでしょうか。上級のシニアのポジションを得るためのきっかけであるという意味では、MBAも英語もきっかけをつくる1つの材料になるように思います。

法務トークイベント

「英語ができる状態」とは

田上
また会場から質問をいただいたのですが、「英語ができる」とはどういう状態をいうのでしょうか。

大西氏
会場の皆さん、どう思いますか。皆さん1人1人にとって、自分にとって「英語ができる」って、どんなイメージですか。

参加者A
私は商社で英文契約のチェックなどを行っていて、弁護士とコミュニケーションをとることも多いのですが、テレカン(電話会議)がすごく苦手なんです。テレカンで日本語と同レベルで契約交渉ができる状態だったり、あとは弁護士の人とちゃんと話しながらしっかり対策がつくれたり、イシューに向き合える状態が英語ができる状態なのかなと。

参加者B
私の会社はグローバル企業ということもあって、海外の弁護士と話をすることが多くあります。日本語で話していても辛い部分なのですが、弁護士の方から自分が意図している回答をもらったり、自分が意図しているスケジュールで進められるかということが大事です。そこを英語でもできるようになってくると、「私に英語の案件を任せてください」と自信を持って言えるように思っています。

大西氏
今のお二方の話を聞いていて思うのは、けっこうゴールは近いなと。英語の勉強の中で1番皆さんができてないことって、ゴールのセッティングだと思うんです。当たり前ですが「英語ができる」状態って人によって違うんですよ。「自分にとって英語で仕事ができる」ということの定義をしてしまえば、そこに必要なことってわかってきますよね。ゴールまでの筋道をつけて、どれくらいの納期で、どういうリソースを使って、弱いところをどうやって克服していこうかと考えていきます。でもこれって、ビジネスと一緒じゃないですか。僕らはビジネスパーソンで、基本的に当たり前のように毎日同じように思考しているわけです。ところが、英語の勉強になると、途端にそれやらなくなるんです。

まず、日本語の環境でできることの6割、7割やれることを目指しましょう。6割打率が出てきたら、ほとんどできたに近いんです。僕はネイティブじゃないし、帰国子女でもないから、ネイティブの質の高いビジネスパーソンの英語力を100点とすると、せいぜい80点、85点くらいの英語力なんだと思います。でもこの程度で、この20年間くらい「仕事で英語」で困ったことはないです。

BUSINESS LAWYERS事業責任者 田上 嘉一、Big West Brothers Consulting & Solutions 代表 大西 徳昭氏、エヌエヌ生命保険株式会社 法務コンプライアンス部 宮田 佳明氏

左から、BUSINESS LAWYERS事業責任者 田上 嘉一、Big West Brothers Consulting & Solutions 代表 大西 徳昭氏、エヌエヌ生命保険株式会社 法務コンプライアンス部 宮田 佳明氏

英文契約書やドキュメントを扱う際に気をつけるポイント

田上
続いて、英文契約書やドキュメントの作成・修正のポイントについてお話を聞きたいと思います。

宮田氏
英文契約書でも日本語の契約書でも同じで、わかりやすく書いてあることと、ちゃんとビジネスをわかっていることがまずは重要です。そのうえで、日本語の契約書と違って気をつけなければいけない点は、常識の違いに意識を向けることでしょう。たとえば契約書の条項で「合理的」と書かれていた時に、日本人が日本語でやりとりする場合は、ここでいう「合理的」はこういう意味だろう、とある程度共通の解釈できるかもしれませんが、国籍の違う人たちの間では、おそらく国によって全員「合理的」の意味が違うはずです。生まれも育った環境も文化も違うので、考え方も違って当然なわけです。

日本人は単一民族で、同じ教育を受けてきているので、1つの文言に対して解釈に幅があったとしても、たぶんだいたい皆同じ枠に収まると思います。でも、英文契約をつくる時はこの枠がないと思った方がよいでしょう。だから詳細に書くので、長くなるし、複雑になるし、全体的な英文契約書のドラフトの量も増える。結果として長い言い回しだから、間違えてないか日本語よりもよく見ないといけず、より一層ミスもしやすくなっちゃう(笑)。

大西氏
僕自身は英文契約実務にはあまり携わってこなかったのですが、英語と日本語の違いという点で2つだけあげたいと思います。1つは、法律やビジネスのシーンにおいて英語はすごく向いている言葉だという事。日本語だと結論が最後にきますが、英語は結論が先にきますからね。交渉とか説明をする時に僕はすごく使いやすい。英語に慣れちゃうと、日本語の方がまどろっこしいなと思う瞬間もあるくらいです。

もう1つは、コンテクストの違い。ハイコンテクスト社会とローコンテクスト社会1という区分がありますが、日本はハイコンテクスト、要するに共通性がいっぱいある社会で生きています。考え方としては性善説がベースの社会、要するに物を落としても物が返ってくる社会に住んでいるわけです。ローコンテクストの社会は真逆です。僕らが相手にしているグローバルは、基本的にローコンテクストだと思った方がよく、性悪説に対応しないといけません。契約もその源流に流れるスピリットを理解しないで、ただ単に言葉尻を合わせるだけだと、大きなところを見失ってしまうのではないかと思うことが、僕が現役でやっていた時に感じていたことです。

エヌエヌ生命保険株式会社 法務コンプライアンス部 宮田 佳明氏

エヌエヌ生命保険株式会社 法務コンプライアンス部 宮田 佳明氏

グローバルでのコミュニケーション術

田上
続いて、外国人弁護士や外国の法律事務所との付き合い方についてお聞きしたいと思います。

大西氏
ローコンテクストの国ではハッキリ言わないとダメですね。英語が苦手だっていう人は、どっちかと言うと英語そのものよりも、その後ろにある心の問題でだいたい負けています。インド人と商売をするとよくわかりますが、日本の文化尺度で見れば、インド人って押しが強いし、がめついし、厚かましい。インドの方、ゴメンね(笑)。様々な理由で私たちの目にそう映る彼らのその強さって、英語だから、という言語の問題ではないんですよ。

海外の人たちとビジネスをする時は往々にして、自分のスイッチを変える必要があります。「もうちょっと遠慮した方がいいかな」と思うくらい言って、ちょうどいいですよ。対弁護士でも対ビジネスでもできるようになると、グローバルっぽく仕事ができるようになります。

宮田氏
大西さんのお話の中で本当にそうだなと思うのが、日本人の感覚だと、何か言われた時にわからないとこっちが悪いように感じてしまうんですよ。わかっていないのにわかったと言って帰ってしまう。同僚に「さっきのあれ何ですかね?」と聞くと、「いや、何言ってるのか全然わからなかったよ」みたいなことがよくある。だから、「わからないのは俺のせいでもあるけど、説明しているあなたのせいでもあるからね」という気持ちで臨んでいいのかなと思っています。

しゃべる時もそうで、確かに僕の英語は拙いかもしれないけど、でも聞く側の問題かもしれないですよね。英語力が足りなくても持てる大きな1つの武器はロジックだと思うんですよ。論理がそろっていれば、英語が拙くても通じることはすごくあるなと思います。うちの会社の社長は僕の拙い英語をだいたい理解してくれるんですよね。だから、法務の人たちは英語がそんなに上手くなくても、論理だけでちゃんと伝えられるんじゃないかと思っています。

田上
ありがとうございます。さて、最後に会場の皆さんから何か質問があればお願いします。

参加者C
最近、私は外資系の企業に転職し、1番疑問なのが、英語ネイティブの人はだいたい何を言っているかわかるんですが、まさにインド人やインドネシア人、タイ人とかとテレカンをしていていると、何を言っているかわからないんです。

大西氏
昔、わかったふりをしてアメリカ人に怒られたことがありました。「Uh huh.」なんて答えていたら、「お前どう思ってんの?」って聞かれて、「実はわかんなかった」って言ったら、そいつは顔を真っ赤にして怒ってね。「俺はお前が英語できないのはいいんだ。だけどわかんないんだったら、何でわかんないって言わないんだよ。俺の時間をお前は無駄にした」と。それから私も心を入れ替えて、わかったふりをしないようになりました。わからないふりをしないのって実は難しいことだと思いますが、ここは勇気なんです。だからテレカンでも、「俺はわかるまでお前の言うことを聞きたいんだ」と言うようにしています。たとえテレカンでわからなかったとしても、「今の件はどうしてもわからないから、メールしてくれ。書いたものだったらわかる」ということをやっていました。

宮田氏
英語はもう、ネイティブの人たちが話している時代ではないんだろうなと思っています。お互い第二言語同士だと。そういう時に、「発音がちょっと悪いな」なんてことをいちいち気にして相手に指摘したり、相手から指摘されたりするのは、たぶんものすごくナンセンスだと思うんですよね。相手が何を伝えたいのか、こっちが何を伝えたいのか、これがわかるのが言語っていうツールのもともとの意味ですから。だから、わかったふりをせず、「俺が言いたいことはこうなんだけど、あんたわかってる?」と、もうこれの確認をひたすらやっていくのが英語を使うということなのかなと思っています。

大西氏
英語力が高いということと、英語で仕事ができるということは、同じようで全然違うと思います。英語で仕事をするためには、異文化と心の問題を乗り越えなきゃいけない。これは、英語力だけの問題ではないんですよ。そこを皆、誤解しています。気持ちの強さがない人は、グローバルビジネスでは絶対立ち向かえません。「TOEIC満点」は、グローバルビジネス現場を歩くための保証にも免罪符にもならないのです。

最後に1つだけエピソードをお話したいと思います。私がMBAへ行った時の話です。周囲の留学生はだいたい27、8歳でした。私はわりと年をとった学生で、その頃はある程度日本の社会の中では経験を積み、グローバルビジネスをやってきた、英語もそれなりに出来る、というささやかな自負もありました。けれども、留学後間もないある日の授業で、アメリカ人とディベートをするとコテンパンにやられてしまいました。

日本語で議論していたら、私は絶対勝ったと思うんです。相手は別に特別頭がいいやつだとも思わなかったし、言っていることは矛盾だらけ。だけど「お前の言っていることはおかしいだろ」と相手をぐっと押していくだけの英語力が当時の私にはありませんでした。自分の情けなさにもう口を利くのも嫌になって落ち込んだんです。

そうしていたら、後に親友になったアメリカ人のクラスメートが、「どうした?」って言うから「いやぁ、もう本当俺は散々で惨めな気持ちだ」と話をしたら、「俺たちアナウンサー学校にいるわけじゃないんだ。お前の言っている英語はよくわかんないこともあるけれど、でも文章や資料を見ると、すごいなと思うことが多いよ」。「What to say is much more important than how to say. 」。「どういうふうにしゃべるかよりも、俺たちビジネススクールにいるんだから、何をしゃべるかが重要なんじゃないか」と。

その時、本当に救われたんです。「あ、それでいいんだ」と。私たちはネイティブじゃないから、もちろんハンディキャップはあるんだけど、どうやって自分が勝負すればいいかということを考えなければいけない。そういうことを考えずに、「できない」って悩んでいても、何も始まらないということがその時の気づきでした。

英語で悩んでいる方や、外国人との仕事でなんとなくうまくいかないと思った時は、まずは日本語環境で質の高い価値・コンテンツを得ること。そして、その価値あるものをどうやったら伝えられのか(最初はそこそこで十分)ということを、自分なりに考えて、足りないところを補強する。もう愚直にこれやるしかないと僕は思っています。ぜひ皆さんもリーガルの世界で、「英語で仕事」を試していただきたいです。

話をもっと聞きたくなったら、今度は私のセミナーにご参加ください。お待ちしています(笑)。

大西泰斗&徳昭のビジネスパーソンの英語

(取材、構成:BUSINESS LAWYERS編集部)


  1. 文化的背景や文脈の共通性が高いのがハイコンテクスト社会。反対に低いのがローコンテクスト社会。 ↩︎

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