ベンチャー法務、最前線!

第2回 金融ベンチャーだからこそ求められる「攻めと守り」の法務 – マネーフォワード

ベンチャー

 人工知能やFinTech、ブロックチェーンなど、次々と新しいイノベーションが生まれている現代において、私たちのビジネスは加速度的に変化しています。事業内容の広がりに伴い、法務部の役割は多岐にわたり、特にベンチャー企業は法整備が進んでいないような領域に直面するケースも多いでしょう。本連載では、ベンチャー企業の法務部へ取材し、「ベンチャー法務としてのあり方」についてお話を伺っていきます。

 第2回となる今回は、マネーフォワードに取材しました。同社は、個人向けに自動家計簿・資産管理サービス「マネーフォワード」を提供するPFM(Personal Financial Management)事業と、ビジネス向けに会計や確定申告、経費精算、給与計算、請求書管理、マイナンバー管理、資金調達など、中小企業のバックオフィスを効率化するクラウドサービス「MFクラウドシリーズ」を提供するMFクラウド事業の2本柱で事業展開している企業です。

 現在同社の従業員数は200名を超えており、2012年の設立から順調に成長してきましたが、「これからはいよいよ組織化していくフェーズ」と話すのは同社の執行役員で管理本部 本部長の坂 裕和(ばん ひろかず)氏です。坂氏は2016年1月に同社へ参画し、以来1人で法務・コンプライアンス業務を遂行してきたといいます。今回は弁護士でもある坂氏に、金融ベンチャーにおける法務の難しさや企業法務のやりがいなどについて、お話を聞きました。

徹底的なリスク管理の方法は「なんでもいいから相談してほしい」

坂さんの所属は管理本部となっていますが、管理本部の中に法務セクションが含まれているのでしょうか。

 はい、「法務部」ではなく、管理本部の中に法務・コンプライアンスグループを設けています。とは言え、法務コンプライアンスグループには私1人しかいませんので、実質組織としては存在していないようなものです。そろそろ1人の限界が近づいてきていて、まさにこれから組織化していこうという段階です。

管理本部全体は、どのような体制となっているのでしょうか。

 法務コンプライアンスのほかに、労務、総務、経理と全部で4つのグループがあり、人事以外のいわゆるバックオフィスと呼ばれる部門が管理本部に集約されています。各グループの人員は、労務が2人、経理が5人、総務が3人、法務・コンプライアンスが私1人、あとは総務を監督する副本部長が1人、労務と経理の両方を監督する副本部長が1人います。

 これまでは経験のある人間の知識・能力に頼る形でやってきたところがありますが、今はまさに組織対応への移行段階です。社長が全てを見る体制で始まって、各取締役が見る体制から少しずつ組織化し、本部長や部長がマネジメントする体制にはなりました。サービスや従業員がどんどん拡大していく中で、個人での対応から組織での対応に移行しようとしている今が一番しんどい時かもしれません。

法務の仕事の全体像を教えてください。

 まずは契約書の作成や審査ですね。法人を中心とした取引先との契約文書だけでなく、利用規約や申込書など、お客さまに対する文書についても作成しています。その次に取締役会や株主総会の運営などコーポレート関連の業務です。そのほかに、商標や特許の申請や、他社の特許権等を侵害していないかどうかをチェックする知財の管理があります。また、子会社がありますので、そこの管理全般も担当しています。

 特徴的なところでは、当社では広く対外的に発表、使用するドキュメントは全件チェックしています。「ばんてらチェック」という社内用語があるくらいで、私が法務やコンプライアンスの観点からチェックを行い、経営企画と管理本部を兼任する寺本という者が、対外文書全体の統一感や広報の観点からチェックしています。

「坂」さんと「寺本」さんで「ばんてら」ということですね(笑)。

 はい(笑)。社内では、「これ、ばんてらチェック通したの?」といった具合に使われています(笑)。

 全件ですから、プレスリリースもそうですし、代表の辻の登壇資料や、お客さまにお見せする営業パンフレット、当社が発行している「MFクラウド通信」の原稿、MFクラウドシリーズのブログなど、対外ドキュメントの校閲を行っています。記載されていることの正確性だけでなく、外部の方が書いたものを引用元を明示せずにそのまま転載していないかどうかなどもチェックしています。

 あと、雑多な相談は日々受けています(笑)。法務やコンプライアンスに関することはもちろんですが、それ以外のビジネス判断だったり、社内での案件の進め方だったり、細かいこともほぼ相談がきます。あえてそういう体制にしているっていうのはありますが。

これだけアウトプットされる書類のチェックを徹底されていたら、社員も何かあれば相談しないと!となるのはわかる気がします。

 新入社員が入社する際に、いつもコンプライアンス研修を行っているのですが、その際に、「とにかく事前に法務に相談してほしい」と伝えています。法務は会社のリスク管理的な立場となりますから、リスクの把握が極めて重要となります。どこにリスクがあるのかわからなければ対処できないですし、リスクが顕在化する前や顕在化した時の初期段階で対応すれば大事になりませんので。どこにリスクがあるのか自分で探し回ることもありますが、自分で探すには限界があります。自分で探すよりも、周りから集まってくる体制にしておいた方が、予防法務的には正解なところがあります。「何かあった時、この人のところに行けばなんとかなる」っていう体制を会社が小さい内に作っておいた方が、先々のことを考えると効果的でしょう。ですから、相談されなくなったら終わりだと思っています。この先どこかで全部自分で引き受けるのではなく、線を引かないといけないとは思いますが、今は「なんでもいいから相談してほしい」っていう体制にしています。

ここまで徹底されているのは、お金や機密な個人情報を扱っているということも大きそうですね。

 それはもちろんあります。コンプライアンスに関わる違反を1回でもすると、金融に携わる事業は立ち行かなくなる可能性が高いです。直接的にお金は扱っていないものの、お金にまつわることを事業としている以上、コンプライアンスに関する教育は徹底するようにしています。

株式会社マネーフォワード 執行役員 管理本部長 弁護士 坂 裕和氏

大企業の管理職からベンチャー企業へ

坂さんは弁護士でもありますよね。これまでの経歴について教えてください。

 もともとは、現在の三菱UFJモルガン・スタンレー証券、当時の国際証券で営業をやっていました。2年間、名古屋支店で営業していたのですが、弁護士になりたくて辞めたわけではなく、単純に営業が嫌になってしまって(笑)。当時の証券営業というと、「名刺を何枚配ってこい」とか「電話はいつも持っていろ」とか、そういった営業スタイルで、先輩も課長も支店長も、みんな同じことをやっているような状況でした。その時、「10年後、20年後、30年後も同じことをやっているのか…」と考えると嫌になってしまい、そこで他部署へ異動できるように、行政書士や社会保険労務士、CFP(Certified Financial Planner)などの資格を取得しましたが、結局異動は叶わず、そのうちに銀行の資本が入って、ますます本社へは異動できないなと思い、会社を辞めました。

 退職してしばらくはフラフラしていたのですが、ちょうどその頃、新司法試験がスタートするタイミングで、東京証券取引所で先物オプションのセミナーに行った帰りに本屋に寄ったら、「弁護士に7割なれる」って書いてあって(笑)。「7割ならなれるんじゃないの?」と思って、ロースクールの入試を受けて入学しました。それまで全く法律の勉強をしていなかったので、ロースクール入学当初は「六法」と言われても何もわからない状態でした(笑)。

 その後は、ロースクールを2007年に卒業し、5月の試験で受かって、12月から司法修習に入り、2009年からSBI証券で働くことになりました。

また証券会社で働くことにされたんですね。

 はい、証券は好きなので(笑)。弁護士資格を取得しましたが、法律事務所で働くというよりは、企業のバックオフィス業務をやりたいという志向が強かったので、さまざまな企業への就職を考え、最終的にはSBI証券に入社することを決めました。

 SBI証券への入社を決めるきっかけになったのが、司法試験が終わった後に、半年間、契約社員として働いたマネックス証券での経験です。その年は、証券取引法が金融商品取引法に変わる年で、法令改正対応を行うプロジェクトの一員として働いていました。そこでインターネット証券の法務コンプライアンスとして働くおもしろさを知りました。

 当時は企業内弁護士自体が少なく、特にネット証券で働いている弁護士はいなかったということもあり、弁護士として初めてインターネット証券の会社に入社するということに価値を感じました。また、SBI証券が他のインターネット証券にない強みとして、法人向けにもサービス提供しているということも魅力的でした。リテールだけでなく、ホールセールの法律にも強くなれると思い、入社を決意しました。ただ、結局法務にいたのは1年半だけで、その後は経営企画部やSBIホールディングスの社長室へと配属されました。配属先のSBIホールディングスでは、代表の北尾さん(SBIホールディングス株式会社 代表取締役 執行役員社長 北尾 吉孝氏)の秘書を1年くらい務めたことがあり、経営者の判断のプロセスや考え方などを身近に触れることができ、非常に勉強になりました。

 その後は、金融商品の仲介や銀行代理、住宅ローンの媒介などを行う企業として設立されたSBIマネープラザで、管理部門担当の取締役を任されることになりました。そこで3年ほど務め、2015年12月末に退職し、翌1月からマネーフォワードに参画しました。

ものすごいご経歴ですね。でも、取締役にまでなられて、なぜマネーフォワードへ参画しようと思われたのでしょうか。

 実は、マネーフォワードの代表である辻とはマネックス証券で一緒に働いていました。彼がマネーフォワードを創業した当初から「来てほしい」と言われていたのですが、その時にはSBIグループで携わっている業務の都合上、簡単には行くことができませんでした。そうした中、2015年8月にSBIホールディングスがマネーフォワードへ出資を始め、そこでもう1回話をもらいました。その時には、SBIマネープラザの管理部門の業務運用が固まってきているところでしたので、会社に迷惑をかけることもないかなと判断しました。

 ちょうど自分自身、印鑑の押印や各種稟議の確認や現場からの報告を受けた上での方向性の提示、進捗状況の確認、営業部門や企画部門との社内調整やグループ会社との調整、といった管理職の業務を30代半ばに経験し、その先ずっと同じ仕事をしていくことを考えると不安に感じている頃でした。その会社での地位はありつつも、いつかプレイヤーとして培ってきた資産を食いつぶすのではないかという恐怖です。法務に携わる人間は、法律の変更点などを常にウォッチして自らの知識を維持し、経験を積んでいかなければなりませんが、それが全然できなくなっていました。これでは、いずれ転職したいと思った時に、「何ができますか?」と聞かれても「部長ができます」としか答えられないなと。だから1回プレイヤーに戻りたかったんです。

 そんな時に辻に声をかけてもらい、これから伸びて行く会社であろうことと、私の素養である金融系の事業を展開しているということに興味を持ち、転職することを決めました。

取締役からプレイヤーに戻った感覚はどうでしょうか。

 楽しいです(笑)。いずれは、マネジメント業務を中心にしていくことも求められてくるのでしょうが、それでも今は楽しいです。

 また、辻や創業メンバーは、プレイヤーからマネジメントに移っても、またプレイヤーに移れるようにすることで、組織が活性化するんじゃないかという考えを持っています。現にこの間、取締役CTOがプレイヤーに戻りました。こうした考えやそれを実現する体制はおもしろいなと思っています。マネジメントの経験も必要ですし、プレイヤーとしての自分自身の力を蓄えることも必要ですので、マネジメントをやって、プレイヤーをやって、ということを繰り返していければいいなと思います。マネジメントになって手を動かさなくなればなるほど知識は落ちていきますから。

法務部員としても、ビジネスパーソンとしても、重要なのは「バランス感覚」

現在の坂さんの会社の中でのミッションはなんでしょうか。

 ミッションとしては「攻め」と「守り」の大きく2つがあります。攻めでは、例えばまだ世の中にはないようなサービスの開発を進めている時だと、法律を守りつつ、新しいことをやらないといけません。そうするには、裏付けとなる法律の解釈をしていく必要があります。

 2016年10月に、当社が提供しているビジネス向けクラウド型会計ソフト「MFクラウド会計」などのデータを活用して、「MFクラウドシリーズ」のユーザーが、金融機関からの資金調達を行うことを可能にする「MFクラウドファイナンス」というサービスをリリースしましたが、従来からこうしたサービスは法律的な問題点として、「これは銀行代理になるのではないか」「貸金業に該当するのではないか」ということが議論されてきました。この2つの問題点をクリアしながら、ユーザーが資金調達しやすくなる世の中を実現するために、顧問弁護士や金融庁と相談しながらどうすればできるのかを考え、サービスリリースに至りました。金融業界は万が一法律違反をしてしまうと、信用を失ってしまい事業継続に支障をきたす世界です。他方で、当社はユーザーにとってよりよいものを提供したいという強い想いがありますので、ユーザーのことを考えながら、法律を守ってどういう風にサービスをつくっていくのかを考えることが「攻め」のところです。

 「守り」の部分は、法令やコンプライアンス違反をしないようにリスク管理することです。私が前述のような対外的なドキュメントのチェックを行っているのもその一環です。金融業界は、信用できるかどうかが極めて重要であり、実態が法律違反かどうかだけでなく、文書やWEBサイトとの文言に対して不信感を持たれると、信用が失われてしまいます。景品表示法や不正競争防止法など、文言一つをとって「この表現おかしい」と指摘されることもありますので、指摘されて行政処分を受けたり、訴訟提起されたりするリスクを少しでも減らすことと、万が一疑義が生じた時に「問題ない」と説明できる体制を敷いておくことがミッションとしてあります。予防法務的な動きも重要です。

ベンチャー企業だと、つい攻めの方にウェイトを置いてしまうような企業も多いかと思いますが、御社では攻めと守りのバランス重視、といった具合でしょうか。

 はい、バランスは求めています。それもFinTechという金融業界だからっていうのはあると思います。企業である以上、法令遵守は当然ですが、規制業種と呼ばれる業界は、より法令遵守していかないといけない立場だと思います。また、規制があるからこそ、銀行や証券会社などは「悪いことはしないだろう」と、広く世の中に信用されているのだと思います。だから、法律違反をすると散々叩かれることになります。会社が大きければある程度守れますが、小さい段階で信用を失ってしまうと離散してしまいます。攻めはするけれども、守りを盤石にしながら攻めていく、そこのバランスをどう取るかが金融系ベンチャーでは特に求められてきます。

一方で、審議会や協会などで、法改正について積極的に意見もされていますよね。

 はい、当然法律は守らないといけませんが、ユーザーのための法律になるよう求めていきますし、関与もしています。先日FinTech協会が、先般閣議決定が行われた改正銀行法案において定めのある認定電子決済等代行事業者協会について、同協会のAPI・セキュリティ分科会のメンバーを中心に、複数の企業で設立に向けた準備を行っていくことを発表しましたが、この件についても当社は深く関与しています(参考:一般社団法人 FinTech協会「認定電子決済等代行事業者協会に向けて」)。

 FinTech業界の先頭に立っていきたい思いは当然ありますが、自分たちの事業だけが伸びればいいという感覚ではなく、業界として健全に発展していくためにどうすればよいのかを考えています。業界の発展のためにはあまり規制が厳しくならないようにしたいですが、ただそれによって金融業界の既存のプレーヤーから反発を受けてもいけませんし、業界の信用が失われるような事業者が出てきてもまずいので、そのようなことがないように、当社も積極的に関与していきたいと思います。

最後に、御社に限らず、これから法務部員はどのような姿が求められていくと思いますか。

 1つは知的欲求を失わないということ。法務部員である以上、守りの感覚が絶対に必要となりますが、それには法律を知らないといけません。法律は常に変わっていきますし、同時にビジネスも変化していきます。これらのスピードについていくためには、知的欲求があることが前提となります。

 2つ目としては、ビジネスに対する興味を持つこと。相談されるのを待って、仕事をするというスタイルではなく、自分からビジネスに関わっていかなければいけません。自分の会社が何をやっていて、どこに問題があるのか、常に理解を深めていかないと、何か相談されても説明してもらうことが多くなり、理解に時間がかかってしまい対応スピードが遅くなります。

 そして、法的知識とビジネスへの理解があった上で、攻めと守りのバランスをどう取るかが重要です。攻め一本で行った時に何かが起きたら会社としては失敗なので、法務部員はリスク管理的なところを求められています。どんなに会社がやりたいと言ってもやってはいけない瞬間には止める判断をしないといけません。「ここまでなら大丈夫」というバランス感覚をそれぞれが持っていることが重要です。

 そのためには、自分の限界を知ることも重要です。全部自分でやろうとしても無理だからです。法務部員に限らず、ビジネスパーソンとして優秀な人は何ができるかというと、自分でできることできないことを判別できることです。自分で判断できないものは社内の上司や同僚であったり、外部弁護士や同期に相談するなど、自分で抱えないことが必要となってくるでしょう。

ありがとうございました。


(取材、構成:BUSINESS LAWYERS編集部)

会社概要
株式会社マネーフォワード
本社所在地:東京都港区芝5-33-1 森永プラザビル本館17F
設立:2012年5月
資本金:22.9億円
代表者:代表取締役社長CEO 辻 庸介
従業員数:約200名(非正規雇用含む)
※2017年4月10日現在


プロフィール
坂 裕和(ばん・ひろかず)
株式会社マネーフォワード 執行役員 管理本部長 弁護士
2008年弁護士登録。SBIグループに6年間勤務した後、2016年マネーフォワード入社。2016年5月管理本部長、同年12月執行役員管理本部長。
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