スタートアップ起業家の「法」との向き合い方

第1回 ユーザー価値のために法制度を変える − マネーフォワード

ベンチャー

近年、デジタルの世界にとどまっていたインターネットがリアルの世界を侵食し、UberやAirbnbといった既存産業の法規制と衝突するプロダクトが生まれている。また、ブロックチェーン技術といった既存の法制度が想定していない技術革新が起き、次々と法制度の対応が迫られている。このような環境変化のなか、スタートアップの起業家は、今まで以上に法制度と対話していくことが求められるようになった。

本連載では、弁護士でありキャピタリストである株式会社ドリームインキュベータの下平将人氏がモデレーターとなり、起業家へのインタビューを通じて、スタートアップがどのように「法」と向き合っていくべきかに迫っていく。

第1回目は、株式会社マネーフォワード取締役執行役員の瀧 俊雄氏にお話を伺った。FinTech業界をリードするフロントランナーの挑戦を紐解いてみたい。

ユーザーの本質的な価値のために社会を動かす

創業期の弁護士選びや弁護士との付き合い方の秘訣があれば教えてください。

2012年の創業当初は、Webサービスの利用規約などを多く手がけ、ベンチャー支援に強みのある法律事務所を選びました。翌年には大手法律事務所にもお願いしました。金融領域でサービスをスケールさせていくことを考えると、金融法務に強い専門家を交えて法的な整理を改めて丁寧に進めていく必要があると考えたからです。

我々の強みは、さまざまな金融データを収集し、それを丁寧に整理してアプリケーションとして提供することです。そこには異なる金融機関の複数の口座情報を一元管理するというアカウントアグリゲーションの技術が伴います。インターネットバンキングのログインIDとパスワードをサーバ側で預かるプロセスが必要であるため、そこに不安を感じる方も多く、法的には合法ではあるものの、ソフトロー(法的な強制力はないが現実の経済社会において何らかの拘束力を持っている規範)の世界でビジネスを継続することが難しくなる可能性が考えられましたので、この領域に強い専門家の方の知見が必要でした。

このように、外部の専門家の方には、得意分野に応じてお願いする形をとっています。

インターネットバンキングのログインIDとパスワードを御社のサーバ側で集約的に預かるアカウントアグリゲーションサービスが提供されはじめた当初は、合法とはいえ、金融機関との個別の調整が明確についていたわけではなかったと思います。そのような軋轢を生みかねない状況のなかにおいても、会社としてサービス提供に至った意思決定の背景、大切にされてらっしゃる思いを教えてください。

マネーフォワードは、もともとユーザーのお金の課題にフォーカスするために立ち上げた会社です。誰でも自動的に家計簿をつけることができるのであれば、誰もが気軽に簡単に家計簿作りの恩恵を受けることができ、社会的に見たときに、アカウントアグリゲーションを利用することによって得られるメリット・価値はとても大きいと考えました。

また、そもそもアカウントアグリゲーションができなければ家計簿サービスは提供できませんので、それ自体を否定するわけにはいきませんでした。もともと当社は創業当時、セキュリティに強いエンジニアが何名かいたこともあり、セキュリティの仕組みをかなり作り込んでいました。

株式会社マネーフォワード 取締役執行役員 兼 Fintech研究所長 瀧 俊雄氏

株式会社マネーフォワード 取締役執行役員 兼 Fintech研究所長 瀧 俊雄氏

法改正の肝は、「志」の継続的な発信

アカウントアグリゲーションのサービスを普及させるために、銀行の理解、協力を得ることが必要だったと思います。どのように銀行を巻き込んでいったのでしょうか。

銀行の皆様の理解、協力という意味では、2014年のタイミングで三菱UFJキャピタルさんから出資いただいたことは、我々にとって大きかったですね。

資本政策は仲間づくりといわれますが、出資を通じて仲間づくりをされていったわけですね。

おっしゃるとおりです。出資をしてくださるとコミットメントが強くなりますからね。

加えて、ここ数年の銀行法の改正の流れのなかで、アカウントアグリゲーションのあり方として、ログインIDとパスワードを預かる必要のあるWebスクレイピング技術を用いた方法から、金融機関とのAPI1接続によって実現する方法へと舵が切られたことは大きいです。

金融機関によるAPIの開放と法制度の整備に向けてどのような動きをされたのでしょうか。

我々は、「APIとは何か」といった記事をさまざまな媒体に寄稿し、議員会館へ何度も説明に伺い、API化の動き自体を作ることに時間をかけました。今でもAPI化について否定的な意見を持たれている方はいらっしゃいますが、テクノロジーが今の日本の金融をアップデートしなければならないという意見を否定する人はいないんですよね。

皆がその打ち手にあぐねている状況であれば、API化は必要なアクションであるという認知を我々が率先して広めていくことで、逆に銀行の中の人たちがマネーフォワードを使い始めることもあると思うんです。ユーザーがお金に対して不安がない社会をつくることが我々のミッションであり、API化はそれを実現するための手段であるというメッセージを繰り返し発信し続けていきました。

民間企業の営利を超えた、社会としてあるべき姿やユーザーに対する価値を掲げていくことが重要なんですね。銀行や国を動かすうえでの秘訣はありますか。

その答えはシンプルで、「発信を継続する」ことです。2012年末ごろから、マネーフォワードのブログで、銀行のAPIのあり方や欧州の決済サービス指令について継続的に解説してきました。法律の言葉で説明するのではなく、いろいろな例えを用いるなどわかりやすく説明することが重要であったと感じています。量とわかりやすさの掛け算がポイントなんです。ブログだけではなく、数多くの講演も行いました。

API化の方向で事業を進めていくなか、政府や官公庁などパブリックセクターとの関係性はどのように構築していったのですか。

責任者は私であるという認識のもとで進めるしかなかったです。特にベンチャーにおいては十分なリソースがあるわけではないので、法務のレビューやガイドラインへのコメントなどは、フィンテック業界の団体へお願いするなど、業界を巻き込んで進めていきました。

一方で、実はWebスクレイピングの方法でアカウントアグリゲーションを行っているときには、他社に対して圧倒的な技術優位があったんです。API化されていくということは、自分たちが優位性を持つ技術を捨てなければいけないという話でもあるので不安はありました。

その際に、シェアリングエコノミーやクラウドファンディングの法整備で活躍されてきた弁護士の方が過去の他の業態での経験をベースにアドバイスしてくださったことは、今思うと非常に励みになりましたね。

株式会社ドリームインキュベータ ビジネスプロデューサー 下平 将人氏

株式会社ドリームインキュベータ ビジネスプロデューサー 下平 将人氏

起業家として追い続けた理想

御社では、ユーザーの同意のもと、金融機関にMFクラウドの会計データを提供することで資金調達の手間と時間を節約することができるMFクラウドファイナンスというサービスを提供されています。MFクラウドファイナンスの立ち上げの際には、「これは銀行代理になるのではないか」「貸金業に該当するのではないか」という議論があるなかで、うまくサービスをローンチされていた印象です。こういった、法的に多様な意見がある事業領域においては、どのように情報収集され、意思決定されていったのですか。

監督官庁が明確であることが金融領域の特徴だと思います。フィンテックに関しては、一元的に相談・情報交換できる窓口「FinTechサポートデスク」が金融庁内に立ち上がったことは大きかったですね。これがなければ、MFクラウドファイナンスのローンチは1年遅れていたかもしれません。

FinTechサポートデスクでは、フィンテックビジネスに関する相談を専門部署へ繋ぐなど、迅速にネクストアクションを促してくれる仕組みになっているので、フィンテック周りの企業はこの制度をきちんと使えるかが非常に大事だと思います。

またFinTechサポートデスクができる前は、その領域に詳しい弁護士の方や、過去に法案を通した議員の方へお話を聞くなどの情報収集活動も行いました。誰もが真似できることではないような気もしますが、我々はどんな制約があったとしても理想を追う、本来の「起業家」としての行動をしていったに過ぎないと考えています。

会社は、自分たちのものだけではなく、サービスを使っていただいているユーザー皆様のものでもあります。私たちとしては、ユーザーの皆様が安心して今後もサービスを利用してほしいという気持ちが一番にあります。そこを見失うと、世の中ってあまり面白くないサービスばかりになる気がしますよね。

株式会社マネーフォワード 取締役 Fintech研究所長 瀧 俊雄氏

規制改革が進む中での課題と今後の指針

フィンテック領域で規制改革が進むなか、現在の課題や今後の指針について御社のお考えをお聞かせください。

すでに金融庁の意識は変わりつつあると思いますが、フィンテックが一時的な話題ではない、という意識を広めていかなければなりません。ブロックチェーンや仮想通貨に関する有事の対応は進みつつあると思うのですが、今後はより平時として、預金や融資、決済に関するそもそもの金融規制のあり方についても議論していく必要があると思います。

テクノロジーは、本質的にそれを利用する全員にフィードバックがあるべきものなのですが、それを可能にできるような法律や技術活用の制度対応はまだ限られている印象です。たとえば高齢者向けにフィンテックを活用すると考えたときに、我々のなかでは多くのアイディアがあるのですが、他に考えている人は少ないですよね。

我々が考えるアイディアを実現するには、口座開設を簡単にできるようにするとか、マイナンバーカードをみんなが持っている状態にするといった、実務的なところがハードルになっている印象もあります。

株式会社ドリームインキュベータ ビジネスプロデューサー 下平 将人氏

起業家に求められる「共感力」

起業家にとって法律とはどのような存在でしょうか。また、法律と向き合う際のポイントがあれば教えてください。

法律は本来、誰かが社会を変えたいと思って作られたもので、社会設計のツールとして存在しているはずです。法律違反ではないけれど、時代や技術に応じて制度の趣旨が変わってきていることはたくさんあります。つまり、社会のあり方を決めているものが制度として存在していて、そのうち明文化されているものが法律であるという理解をしておいたほうがよいと思います。

人を惹きつけつづけられるような会社になるためには、制度とは何かをよく考え、もしその制度がハードルになっているのだとしたら、どう変えれば自分たちだけではなく、ユーザーにとっても長期的な価値が出るのかを意識する必要があります。

ユーザーメリットを追うときには、制度って必ず古いものなんです。制度は今の社会に適したようには作られていないので、時代に合わせて変わるべきなんです。スマートフォンを誰も持っていなかった10年前と比較して変わらなければいけないことはたくさんあるはずです。

法律を作るときに尽力した人たちの意思を想像しきちんと理解したうえで起業家としての行動をしているのであれば、応援してもらえると思います。特に実際に政治家や官公庁に働きかける際には、そういった共感力は非常に重要です。

最後に、志を持った起業家たちに向けてメッセージをお願いします。

基本的なベンチャーのあり方は、ものづくりをすることだと考えています。5年後に当たり前になっているプロダクトを作ることでファンは得られます。また、最初の数千ユーザーまでは自分たちの力だけで社会的変化を起こすことができると思うのですが、それ以上になると「共感のレバレッジ」をどう効かせていくかということが重要になってきます。

共感のレバレッジを獲得するには、まず自分のビジョンに共感してくれる仲間と出会うこと、そして、ユーザーや株主など、自分と同じ思いを持つクローンのような存在を増やしてくことが大切です。そのためにも、5年後の当たり前を生むには何をすべきか、よく考えてみてください。

マネーフォワードは、世の中の多くの人が持っているお金の不安を減らすプロダクトを作り、当たり前の存在になることでいろいろな人が応援してくれるはずだと考え、サービスを運営してきました。

我々の場合、銀行やクレジットカードのデータを身近に利用できるサービスを実現するために、法律の一部改正が必要でしたが、法改正が必要になるようなビジネスモデルはあまり多くないかもしれません。サービスがもっと便利に提供できる、安心して使ってもらえるようになるといった理由であれば、法改正も含め、手段を問わずやれば良いでしょう。私が参画するFINOVATORSでは、そういった部分で頭を悩ませている人たちにこそ起業というチャンスや法改正の糸口を提供したいと思っていますので、気軽に声をかけて欲しいですね。

プロフィール

株式会社マネーフォワード
取締役執行役員 兼 Fintech研究所長
瀧 俊雄氏
2004年 慶應義塾大学経済学部卒業後、野村證券入社。野村資本市場研究所にて、家計行動、年金制度、金融機関ビジネスモデル等の研究に従事。2011年 スタンフォード大学MBA取得。2011年より野村ホールディングスCEOオフィスに所属。2012年10月より株式会社マネーフォワード設立に参画、取締役兼Fintech研究所長として経営全般を担当。経済産業省「産業・金融・IT融合に関する研究会」、金融庁「フィンテック・ベンチャーに関する有識者会議」委員など。

株式会社ドリームインキュベータ
ビジネスプロデューサー
下平 将人氏
一橋大学法学部、慶應義塾大学法科大学院卒業。東京弁護士会所属弁護士。法律事務所、LINE株式会社の社内弁護士(リーガルカウンセル)、AI関連の新規事業開発を経て、DIに参画。DIでは、ベンチャー投資、投資先の経営支援に取り組み、投資先企業の社外取締役を務める。Arts and Lawに所属しクリエーターの無料法律相談を担当。

  1. APIとは、Application Programming Interfaceの略。ソフトウェア間でシステムの機能やデータを安全に利用するための規約のこと。 ↩︎

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