ベンチャー法務、最前線!

第4回 ベンチャーだからと甘えずに、社会的責任を背負って立つ覚悟 – スタディスト

ベンチャー

人工知能やFinTech、ブロックチェーンなど、次々と新しいイノベーションが生まれている現代において、私たちのビジネスは加速度的に変化しています。事業内容の広がりに伴い、法務部の役割は多岐にわたり、特にベンチャー企業は法整備が進んでいないような領域に直面するケースも多いでしょう。本連載では、ベンチャー企業の法務部へ取材し、「ベンチャー法務としてのあり方」についてお話を伺っていきます。

第4回となる今回は、パソコンやスマートフォンでマニュアルを作成・共有できるクラウドサービス「Teachme Biz」を提供する株式会社スタディストの総務部 部長 佐藤 史郎氏に取材しました。労働力不足が深刻化する日本において、全国的に外国人労働者が増加している昨今、同社のサービスでは写真や動画を組み合わせて簡単にマニュアルを作成することができ、サービス業を中心に導入が進んでいます。2018年2月には、株式会社すかいらーくのグループ内ブランド約3,000店に拡大して利用予定であることが発表されました。

まさに成長過程にあるスタディストに、初めての管理部門の担当者として入社したのが佐藤氏です。これまで同氏がどのように組織づくりを行い、そしてこれからどのようなビジョンを描いているのか、お話を聞きました。

ベンチャー企業での体制整備

総務部の体制について教えてください。

総務部では、法務・総務・労務の業務を担当しています。メンバーは私以外に2名いますが、法務の仕事は私一人で担当しています。

具体的な業務の内容について教えてください。法務にはどのような仕事があるのでしょうか。

まず契約法務関連ですと、契約書のレビューや利用規約の作成・見直しなどがあります。レビューする契約書は、当社サービスを紹介・販売いただくパートナー企業様とのパートナーシップに関する契約や、地方の企業様を紹介いただくための地方銀行とのアライアンスに関する契約などです。また、導入を検討される企業様等から、利用規約に関する問合せなどをいただくこともありますので、その場合は法務としての回答案を作成しています。

会社法務関連ですと、株主総会や取締役会の運営があります。ストック・オプションの設計や資金調達等のファイナンスまわりについては、CFOをサポートする形で連携しています。そのほかには、反社チェックや各種規程の作成などのコンプライアンス対応や知的財産関連の業務があります。

総務・労務の仕事はどうでしょうか。

総務では、オフィスの移転やISMS審査・認証維持対応、週に一度全メンバー出席のもと行う全体会議の運営などがあります。労務では、就業規則の策定や入退社の対応、衛生委員会やリモートワークといった各種制度の導入やルールの設計があります。採用や育成、評価制度に関しては総務部ではなく、人事部が担当していますが、法的な側面からの制度設計や労務関連等、両部門の連携が必要な業務については適宜連携しながら業務を行っています。

特許の取得に力を入れているということですが、今までにどれくらい特許を取得してきたのでしょうか。

5件です。明細書については社外の特許事務所と連携しつつ、適宜開発部門のエンジニアにサポートしてもらっています。社外では特許事務所の弁理士と、社内では開発部門と私とで役割分担する体制です。弁理士の方とのやりとりをはじめとする技術的な事項以外のところは私が担当しています。

事業拡大に伴って変革していったことはありますか。

私が入社したのは2016年4月ですが、当時はまだ管理部門には社員が1人もおらず、押印手続や社内決裁のフローも整備されていない状況。まずはそういったところから整備していきました。

整備していく過程での難しさはどのようなところにありますか。

ベンチャー企業では1人の社員がマルチタスクで複数の業務をこなすことが多くありますが、そのような状況の中で申請等の事務手続きを積極的にやりたいという方はなかなかいません(笑)。ワークフローを整備するにあたって、目的や背景を、代表はもちろん実際に運用してもらうことになるメンバーに対して、きちんと説明しなければうまく軌道に乗せられないと思います。

ワークフローの整備の仕方について具体的に教えてください。

契約と購買のフローについては、サイボウズさんが提供している「kintone(キントーン)」というアプリを利用しています。私が入社した時点ですでに「kintone」が社内で使われていたので、それを利用した方が社員もなじみやすいかなと思いました。

また当社はマニュアル作成・共有サービスを提供していることもあり、そのようなワークフローの運用を開始する場合には、必ず並行して自社サービスでマニュアルを作成するようにしています。このような形にすることで、過去の他社での経験上、運用開始直後に頻発する社内の問合せをほぼゼロにできています。

あとは、重要な内容については、オンラインのコミュニケーションだけで完結しないようにしています。具体的には、何か新しい取り組みをはじめるときは、全メンバーが参加している社内のチャットコミュニケーションツール上でアナウンスするようにしているのですが、場合によっては、同じ内容であっても、全体会議の場で再度アナウンスする、といった形です。

申請に関するワークフロー以外で取り組まれたことはありますか。

そうですね、就業規則まわりですと、フレックス制度の導入や給与支給日の変更、採用にも関連するところで社員紹介制度の導入等に取り組みました。これから全社的に採用に注力して組織を拡大していこうというフェーズでしたので、先々を見越して早めに着手しておいた方がよいものから順に着手していきました。

あとは細かいところで給与明細のウェブ化などもあります。それまでは紙で給与明細を出していたのですが、それをブラウザやスマートフォン上で見られるようにしました。

これは事務コストの削減という面もあるのですが、その観点だけではなく、やはりワークフローや社内制度は使ってもらわないと意味がないので、その企業の文化がどういうフローや制度を求めているか、どういう制度ならこの組織の中で根付いていくか、ということをイメージして、電子化という選択をしました。

株式会社スタディスト 総務部 部長 佐藤 史郎氏

疲れてもやっぱり働きたくなる、ベンチャーという環境

佐藤さんのこれまでの経歴について教えてください。

20代はずっと司法浪人をしていたのですが、30歳になるタイミングで、企業に勤めることにしました。人材サービス系の会社に勤務した後、2008年からは複数のベンチャー企業で経験を積んできました。

1社目から法務担当だったのでしょうか。

そうですね、1社目が「法務」で、その後は「法務」を軸にしつつ、「法務」以外にも広く何でも、まさに何でも屋という感じです(笑)。特にベンチャー企業だと「法務だけ」という形で守備範囲を決めてしまっていては仕事になりませんので、法務以外の仕事も含めていろいろやってきています。

スタディストへ入社したきっかけについて教えてください。

人づてで社員と会うことになったのですが、もともとスタディストという会社と「Teachme Biz」というサービスのことは知っていて、良いサービスだなと思っていたこともあり、代表や社員と話をしていく中で、入社の決意を固めました。私はこれまで、B向けのビジネスを行っている会社、C向けの会社どちらも経験がありますが、面談の中でスタディストのユーザー志向の価値観を聞き、法務担当としての経験はもちろん、何でも屋としての自分の経験が活かせそうだと感じました。

現在会社から求められている法務担当者である佐藤さんのミッションは何でしょうか。

法的なリスクの管理と事業推進への貢献が求められていると理解しています。

法的なリスクを想定して、評価し、管理していくというプロセスの中で、リスクの有無はもちろん、リスクがある場合の低減策や、場合によっては受容すべきリスクであればそのリスクを適切な形で受容しにいくという判断を、組織の中にいる法務担当者として行うということですね。

抽象度の高い議論や純粋な法的見解であれば、顧問弁護士等の社外の専門家を頼ることもできますので、そのような意見や見解をもとにして、目前にある「このケース」をどう解決するか、想定される「そのようなケース」にどう準備するのかについて、経営陣の判断に資するような具体案として提示すべきと考えています。

事業推進という面では、特にベンチャー企業においては、どのようにサービスを成長させ、会社として生存していくかが大前提ですので、法務の業務もそのような成長に貢献することが期待されています。

また、我々はto Bの領域でビジネスを行っていますので、to C領域とは異なる形でレピュテーションを大事にしています。取引先等に提出する書類については、書類の中身はもちろん、体裁等の形式面も気にかけています。たとえば、押印1つとってみても、万一印影が歪んでいた場合、その書面を目にした相手方の決裁者が「この会社、大丈夫かな?」と思うかもしれません。どのタイミングでそのようなことが起きるかはコントロールできませんが、会社としてのレピュテーションを毀損してしまう可能性のある要素は限りなく少なくしたいと思っています。信用を失うのはすぐですから。

スタディストでの仕事のおもしろさはどうでしょうか。

サービスが社会から必要とされていることですね。導入社数は右肩上がりに伸びていて、社員50人の会社が提供しているサービスとは思えないような数多くの企業様に導入いただいています。社会的責任を感じる面もありますが、ベンチャーだからという言い訳はできないなと気が引き締まり、やりがいを感じます。

AIに淘汰されない付加価値を

今後はどのような変革をしていきたいとお考えですか。

今期は法務担当者を1名採用する予定です。資格の有無は問いませんが、マインドとしてはフットワーク軽くかつ高いホスピタリティをもって業務に取り組んでいただける方がいいですね。また、ベンチャーでは一度決まった方針や決定が変わることもよくあることですので、そのような変化を楽しんでもらえる方かどうかも大事です。

私が所属する総務部のチームポリシーとして、「謙虚」「誠実」「プロフェッショナル」の3つを掲げていますので、そのような価値観に共感していただける方に加わってもらい、法務機能を強化していければと考えています。

今後の佐藤さんのビジョンを教えてください。

まずは、会社のステージやフェーズに見合った体制を少しずつ作っていきたいと思っています。ベンチャーだとか、小規模な会社だということに甘んじることのない組織をしっかりと作っていきたいと思っています。

あとは、より多くのお客様に当社のサービスを使っていただけるよう、サービスを広めていきたいですね。「生産性向上」を掲げるサービスは数多くありますが、当社のサービスほど「生産性向上」に貢献できるサービスはなかなかないと思っています。

「使い勝手のよいマニュアル」によって、「採用した人材の育成」、「オペレーション品質の平準化」、「既存人材のマルチタスク化」等、多くの日本企業が抱えている課題に真正面から貢献することができますので、当社のサービスを広めることで、そのような課題解決に少しでも貢献できればと考えています。

最後に、まだまだ企業経営の中でのリーガルの視点というものが醸成されていない世の中だと思いますが、そういった現状に対して、どのようにお考えでしょうか。

法務の業務については、性質上どうしても他部門からみた場合に「何をやっているのか」がわかりづらい面があるのは事実なんだろうと思います。その中で、自部門や自分の仕事の成果について、法務の側から積極的にアピールしていくことが必要だと思っています。

法務というと、ともすると受け身になりがちだと思うんです。特に、私はそれほど大きな組織の経験がありませんが、組織が大きくなればなるほど保守的になってしまうんだろうなと。たとえば契約書のやりとりをする中でも、実質的なリスクとは関係のないような修正案が先方から追記されてくることがありますが、こちらからはわからないいろいろな社内の事情があるんだろうなと考えたりします(笑)。

業務のクオリティは追及しつつも、社内の他部門の方々、中でも特に経営陣については、多くの部門がある中で、法務の業務のみに向き合ってもらえる時間はそうないと思いますので、日々の業務の成果をわかりやすく伝えていくことが重要だと思います。

ありがとうございました。

(取材、構成:BUSINESS LAWYERS編集部)

会社概要
株式会社スタディスト
所在地:東京都千代田区神田神保町3-2-3 Daiwa神保町3丁目ビル3F
設立:2010年3月
代表者:鈴木 悟史
従業員数:51名
※2018年3月1日現在


プロフィール
佐藤 史郎(さとう・しろう)
株式会社スタディスト 総務部 部長
Webサービス等を提供するベンチャー数社にて法務業務等に従事。ランサーズにて管理部門の立ち上げを行い、その後総務法務を担当。VASILYを経て2016年4月にスタディストに入社。
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