スタートアップ起業家の「法」との向き合い方

第2回 ミッションを掲げ、仮想通貨業界をより良いものに - bitFlyer 加納 裕三CEO

ベンチャー

近年、デジタルの世界にとどまっていたインターネットがリアルの世界を侵食し、UberやAirbnbといった既存産業の法規制と衝突するプロダクトが生まれている。また、ブロックチェーン技術といった既存の法制度が想定していない技術革新が起き、次々と法制度の対応が迫られている。このような環境変化のなか、スタートアップの起業家は、今まで以上に法制度と対話していくことが求められるようになった。

本連載では、弁護士であり、ベンチャーキャピタリストである株式会社ドリームインキュベータの下平将人氏がモデレーターとなり、起業家へのインタビューを通じて、スタートアップがどのように「法」と向き合っていくべきかに迫っていく。

第2回目は、株式会社bitFlyer代表取締役の加納 裕三氏にお話を伺った。仮想通貨業界のパイオニアは「法」をどう捉え、ビジネスを切り拓いたのだろうか。

弁護士と議論を重ね、将来の日本の姿を共有する

下平氏
起業家にとって創業期における弁護士選びは難しいポイントです。加納さんはどのように弁護士を選ばれていますか。

加納氏
弁護士へ依頼する内容は、ドキュメント作成、既存の法律に抵触しないためのアドバイス、立法を目指していくケースの3種類に分かれると思っています。起業した当初は、投資契約書などのドキュメントレビューをスタートアップに強い法律事務所にお願いしていました。

既存の法律に関するアドバイスをもらう場合は、自社の事業に関わる業法などに精通した、専門の弁護士に依頼するべきでしょう。我々は海外でも事業をやっているので、アメリカのライセンスに詳しい弁護士にレギュレーションの解釈などを相談しました。

立法まで目指すようなケースはかなりレアだと思いますが、そこまでの相談ができ、議論もできる弁護士は業界に精通した一握りの方しかいないでしょう。各業界に数人しかいないと思います。

下平氏
ロビーイングして立法を目指すことは時間軸としても長く根気のいるプロセスです。そのようなプロセスを共にする外部の弁護士の方の力の引き出し方のコツはありますか。

加納氏
ルールメイカーになっているような弁護士の方は、新しいことに興味があって、起業家と共感できる部分が多くあります。法を変えるということはエネルギーが要りますので、大義名分、ミッションやバリューが一致していることが必要でしょう。議論を重ね、思い描く将来の日本の姿を共有することですね。

法務にはまず守り、そして提案することを求める

下平氏
スタートアップにとって創業期はキャッシュも潤沢にあるわけではなく、法律業務はアウトソーシングするのが通常だと思いますが、一定の事業ステージにおいては、固定費が増加してでも、内製化すべきタイミングがあるように思います。法務組織を内製化すべきタイミングや、内製化のメリットについて教えてください。

加納氏
我々のような今までの法規制の概念を塗り替えていく業態の事業ですと、社内弁護士は必須だと思っています。社員で言うと30人から50人くらいで社内弁護士が必要になりました。契約の量も増えるし、業法を含めた法解釈や利用規約の内容確認も重要なので。

下平氏
なるほど。現在、社内の法務はどのような組織形態になっていますか。

加納氏
日本では大手法律事務所出身の弁護士がコンプライアンス、リーガルを担当し、アメリカ、ヨーロッパの拠点にも海外の弁護士資格を保有している者がいます。

下平氏
社内の法務組織と外部の法律事務所はどのように役割分担されているのでしょうか。

加納氏
国内だけでなく、アメリカの法律事務所を含め、複数の弁護士事務所と契約しています。経験を踏まえた的確なアドバイスをしていただけるので専門分野に関しては外部弁護士にお願いしますね。とは言え、いつも聞くわけにはいかないので、ある程度業法を理解したうえで、普段の業務は社内弁護士で対応しています。

慎重な対応が求められる場面では、ファーストオピニオンは社内弁護士に聞き、セカンドオピニオン、サードオピニオンまで社外の弁護士に確認します。

下平氏
事業部門がアクセル全開で売上、利益の拡大を目指す一方、法務部門はブレーキを踏みがちな部分があります。スタートアップという新しいことをやっていく組織の中で、法務組織をどのように位置づければ良いのでしょうか。

加納氏
経営層としては、法務部門にはリスクを事前に察知し、会社を守ることをまず求めますので、法務部門と事業部門が衝突することは健全で、私も当然衝突しています。
一方で、業法の解釈や意思決定の場面では、守りだけでなく提案を求めます。

仮想通貨に関する事業を始めようとした時によく出資法違反に該当すると言われました。法の趣旨を理解し、過去のケースを踏まえたうえで、違反になる可能性がある行為や、違反と解釈されないためのアドバイスをしてほしいのに、なんとなく出資法違反と言われたのです。

法律を解釈する余地があれば、ビジネス上のアイデアを詰められますし、セカンドオピニオン、サードオピニオンを取ったり、当局と「過去の判決はこうなっているけど今はこうですよね」と調整したり、できることはいっぱいあるはずです。

株式会社bitFlyer 代表取締役 加納 裕三氏

株式会社bitFlyer 代表取締役 加納 裕三氏

グレーゾーンでの情報収集と意思決定

下平氏
いわゆる法的なグレーゾーン、まだ法的に未整備なところでの新しいビジネスが増えています。そういう未整備な状況の中で、情報収集や経営の意思決定はどのように行えばよいのでしょうか。

加納氏
まずは弁護士にグレー、ホワイト、ブラックのいずれか聞くということだと思います。3人聞いて3人がブラックというのはたぶんダメで、3人聞いて3人がホワイトだったら進める。たいていの場合はグレーで、3人中2人がグレー、1人がブラックとかになりがちですよね。その場合は、どの程度理解して意見を言っているのかを基準に判断します。

下平氏
弁護士の理解度は話をしていてわかるものですか。

加納氏
わかりますね。具体例の多さや、過去に経験した裁判に置き換えた話をされたら信頼性が高い、単に本で読んだ話や、条文の話だけをされると物足りないと感じます。
あとは弁護士同士で意見をぶつけてもらうのもよいですね。弁護士は習性としてロジックが組み立てられていれば反論します。反論できないということは、負けているんですよ。

下平氏
それは面白い試みですね。他にも情報収集の面で有効な手段はありますか。

加納氏
あとは当局に聞くのがすごく良いです。アメリカの会社って、当局に聞くと藪蛇だから、聞かないでグレーゾーンの中で事業を進めるという判断を割とするんですけど、そういう会社はそれなりにしっぺ返しを食らっているように感じます。

日本の場合、金融庁は割と親身に相談に乗ってくれて、真剣に議論してくれます。「ダメだ」って言うんだったら、何がダメなんだと議論する。そのうちに、解決方法は見えてきますね。

下平氏
電話やノーアクションレター、グレーゾーン解消制度など、当局へアプローチする方法が色々あります。どういうアプローチの仕方だとうまくアウトプットを引き出せますか。

加納氏
窓口に電話した場合、明確にダメなのものはその場で答えが出ると思いますが、新しい分野でうまくアウトプットを引き出すのは難しいかもしれないですね。当局と関係がある事業者団体を通じたり、金融庁出向経験のある弁護士を雇ったりしないと深まった議論をするのは難しい印象です。

下平氏
グレーゾーンで情報収集し、道筋が見えたとしても、明確にホワイトな状況になることは少なく、グレーの部分が残ることもあります。

加納氏
我々はグレーゾーンで事業をしないのであまり論点にならないのですが、たいていの場合は、グレーゾーンで事業をしている認識ってなくて、あまり法律に詳しくない人たちが勝手な解釈をしている。そうすると当局からお達しが来て認識することが多いですよね。

グレーな状況が把握できたら、法務部門がよりグレーなものとよりホワイトなものに分け、優先順位をつけてモニタリングするべきでしょう。よりグレーなものは、会社にとってリスクがありますから。

株式会社ドリームインキュベータ ビジネスプロデューサー 下平 将人氏

株式会社ドリームインキュベータ ビジネスプロデューサー 下平 将人氏

業界団体の立ち上げ方、運営の秘訣

下平氏
仮想通貨交換事業者の新団体も公表されました。スタートアップによる業界団体の立ち上げ方、巻き込み方、運営の秘訣はありますか。

加納氏
起業される業界に業界団体があれば、入るか入らないか、もしくは理念が違うので新たにつくるかという選択になります。同じ業界内に複数の団体があるケースも結構あります。 もし業界団体がない分野であれば、有志が集まるのでしょうが、そういう段階では誰も勝っていないから競合関係ではない(笑)。そこに利害関係はなくて、ルールがあった方が業界は盛り上がるよね、くらいの感じで立ち上がると思うんです。

運営の秘訣は大義名分に賛同してもらえるかどうかです。我々の場合はブロックチェーン界隈を良くしたいという思いがあって、これに賛同できる人たちであれば、熱量を持って、どんどん良いものにしていこうとなる。

下平氏
しっかりとミッションを掲げ、そのミッションに賛同できる人たちに入ってもらうということですね。賛同者が集まった業界団体の中ではコンセンサスをどのように取り、自主規制をどう作っていくのでしょう。

加納氏
非競争領域でのコンセンサスの取り方が重要になると思います。各社、コストになるからやりたくないということでも、顧客を守るため、将来的に業界が信頼されるためにはやった方がいいよねという同意を得る。やる場合には既存の似たような法律を見て良し悪しを議論します。

下平氏
業界団体を通じて、政府やパブリックセクターと話し合い、協業していくコツはありますか。

加納氏
政府と官公庁では協業の仕方も違いますが、彼らがやりたいことを理解しないといけないという点は共通しています。金融庁だったら方針を年に1回出していますから、齟齬がないようにする。官公庁と意見交換をする中で出てくる要望も反映して自主規制を作りますし、官公庁の方で仮想通貨について不明な点があれば、こちらからもレクチャーします。対話が非常に大事ですね。

下平氏
対話をする際に心がけていることはありますか。

加納氏
協力的な姿勢を見せることはすごく大事です。それは日本だけでなく、アメリカもヨーロッパも同じで、情報提供をし、間違ったことがあれば正直に話す。課題感を共有するということだと思います。

下平氏
仮想通貨について、世界的なルールが必要という議論もされています。

加納氏
仮想通貨には統一的な規制があるべきだと思っています。仮装通貨は国境をまたぐのが簡単で、ある国の法律が緩いと抜け穴ができてしまうので。ただ、我々はルールメイカーではないので、正確な情報を政府に提供し、議論していくのが役割なのかなと。仮想通貨は必要以上に危ないとか、詐欺的だと勘違いされることもあるので、そういう場合は実態と違う点や、将来的に問題になる可能性があることを、事前に考えられる範囲で問題提供しています。

今後、仮想通貨に関する規制はどのように変わっていくべきか

下平氏
コインチェックによるNEMの大量流出事件もありました。今後、仮想通貨に関する規制、資金決済法はどのように変わっていくべきでしょうか。

加納氏
直近は登録業者とみなし業者の扱いが課題ですが、この点は事業者や業界団体よりも金融庁の判断だと思います。今後はセキュリティ面が検討するべき点ですね。何かしら強制力のある形で、消費者保護のために実行していく必要があります。

現状は、「業法」、「府令」、「事務ガイドライン」、「自主規制」の4段階を設けていて、スピーディに動くところは事業者団体が大きな役割を担うはずで、仮想通貨、ブロックチェーンのセキュリティ強化をしていきたいと思っています。

下平氏
ICOに関する規制はどうあるべきでしょう。

加納氏
今の状態だと投資家保護は全くされていないので、ICOは何かしらの形で規制すべきです。
たとえば、広告規制、ホワイトペーパーの改ざん防止、インサイダーの防止などの規制も必要だと思いますし、技術的な説明が多いホワイトペーパーの内容を投資家にしっかりと説明するためのルールも必要です。ICO投資家と既存投資家とのバランスも問題で、残余財産分配権に関するルール整備もできていませんね。

詐欺的な投資を防止することも求められており、これはDAICOという仕組みが出てきています。

株式会社bitFlyer 代表取締役 加納 裕三氏

起業家は法律に対してどのように向き合うべきか

下平氏
起業家の方がリーガルの領域と付き合っていく秘訣があれば教えてください。

加納氏
興味がある分野は、法律に限らず自然に勉強するはずです。それを苦痛に思っているのであれば、やらなければいいし、弁護士に任せればいいでしょう。自分の場合は仮想通貨の分野でちゃんと弁護士と議論をし、法律も変えたいという明確な意志があるので熱意を持って取り組んでいます。

ゴールドマン・サックス証券はコンプライアンスに非常に厳しかったです。なので今でもベンチャーとして高いコンプライアンス意識を持って経営しております。

編集部
一般的には規制があることによって、やりたいことができなくなってしまうという考えもあります。

加納氏
もちろん規制があった方が、やりたいことができなくなる可能性は高いですよね。

でも、法に縛られて出来ない状態がリーズナブルでなければ、法を変えるなりルールを変えるなりすればいいわけです。既存の業法による参入障壁が高かったとしても、それには理由があるので、法ができた経緯を知り、抵触しない形で似たようなサービスを提供したり、新しい分野を作ったりすれば既存のライセンスを持っている人ともコンフリクトしないし、うまくやっていけるはずです。

下平氏
最後に、法律や法務との接し方がわからないと思っているスタートアップの起業家、法が整備されていないグレーゾーン領域で事業を行おうとしている起業家に向けてメッセージをお願いします。

加納氏
まずは本を読むのが良いと思います。たとえば仮想通貨業界のように盛り上がっている分野は多くの本が出版され、どんどん解釈も新しくなるので、それなりに勉強できますね。
本当に法律が変わらないといけない、法律がないとできない新しい分野で事業をやるのであれば、事業を作りたい気持ちと似たようなモチベーションで法律にも取り組めるはずです。自分がやらないにしても、リソースを投入する価値は十分にあるでしょう。

プロフィール

株式会社bitFlyer
代表取締役
加納 裕三氏
2001年に東京大学大学院工学系研究科修了後、ゴールドマン・サックス証券にてエンジニアとして自社決済システムの開発、トレーダーとしてデリバティブ・転換社債トレーディングに従事。2014 年株式会社 bitFlyer を共同設立。日本ブロックチェーン協会(JBA)代表理事として2016年の仮想通貨法の成立に尽力。オリジナルブロックチェーン「miyabi」を共同開発。2016年国際会議サイボスにおいて金融サービス分野の形成に貢献した金融イノベーターの1人に選出。

株式会社ドリームインキュベータ
ビジネスプロデューサー
下平 将人氏
一橋大学法学部、慶應義塾大学法科大学院卒業。東京弁護士会所属弁護士。法律事務所、LINE株式会社の社内弁護士(リーガルカウンセル)、AI関連の新規事業開発を経て、DIに参画。DIでは、ベンチャー投資、投資先の経営支援に取り組み、投資先企業の社外取締役を務める。Arts and Lawに所属しクリエーターの無料法律相談を担当。

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