スタートアップ起業家の「法」との向き合い方

第3回 「法」と会話をしながら民泊事業を切り開く - matsuri technologies

ベンチャー

近年、デジタルの世界にとどまっていたインターネットがリアルの世界を侵食し、UberやAirbnbといった既存産業の法規制と衝突するプロダクトが生まれている。また、ブロックチェーン技術といった既存の法制度が想定していない技術革新が起き、次々と法制度の対応が迫られている。このような環境変化のなか、スタートアップの起業家は、今まで以上に法制度と対話していくことが求められるようになった。

本連載では、弁護士であり、ベンチャーキャピタリストである株式会社ドリームインキュベータの下平 将人氏がモデレーターとなり、起業家へのインタビューを通じて、スタートアップがどのように「法」と向き合っていくべきかに迫っていく。

第3回は、matsuri technologies株式会社 CEOの吉田 圭汰氏にお話を伺った。2018年6月に住宅宿泊事業法(いわゆる「民泊新法」)が施行され、民泊が合法化される中、国内随一の管理物件数を誇り、民泊業界をリードする吉田氏は、法という「壁」にどう挑むのだろうか。

スタートアップ企業が弁護士に求めるもの 

吉田さんが民泊事業に携わろうと思ったきっかけや、matsuri technologiesの事業内容を教えてください。

「民泊」という領域にはかねてより大きな可能性を感じていたのですが、当初はカスタマーサポートや管理システムを提供するという民泊領域では明らかに適法と考えられるビジネスの形にとどめていました。そのような中で、2018年6月15日に住宅宿泊事業法(以下、「民泊新法」)が施行され、民泊が合法化されたため、本格的な参入を決意しました。

弊社は、民泊物件をホストの代わりに運用させていただく代行業と、民泊の管理システム事業を大きな柱として事業を展開しています。特にairbnbを介した24時間対応のメッセージ代行業は好評をいただいております。また、民泊の管理システムについても、導入施設は1万7000件を突破し、airbnbで約15%のシェアとなり、国内随一の管理物件数となっています。

弁護士との接点が少ない起業家にとって、創業期の弁護士選びは非常に難しい反面、事業の方向性を決めるうえでは極めて重要な判断になるかと思います。吉田さんはどのように弁護士を選ばれ、付き合いをされているのでしょうか。

スタートアップは一般企業と比べてさまざまな面で特殊ですので、杓子定規の対応では難しい部分が多々あります。そういう点で、士業の方に相談をさせていただく際には、第一にその方の柔軟性を重視します。ただ、柔軟なだけではダメで、場合によってはセカンドオピニオン、サードオピニオンというように、いろいろな先生に確認することもあります。

たとえば、シード期のファイナンスは起業家にとって判断が難しい分野だと考えています。「投資家から資金提供を受けよう」となった時に、「投資してもらう金額はどうすべきか」「どの程度の株を投資家に渡していいのか」などについても、弁護士だけでなく会計士などにもアドバイスをもらうべきだと思います。

上場を果たした起業家の方にお話を伺っても、一番失敗したのは、シード期のファイナンスだとおっしゃる方が多いですね。投資家としても、適切な情報を起業家に与えて、啓蒙していかなければならないと思います。

「本当にそれだけの投資額を受けなければいけないのか」「それによって何が起こるのか」を、起業家は冷静に判断しなければならないと思いますね。事業が始まらなければ意味はないので、法律同様に起業家はもっとファイナンスについて学ぶべきだし、専門家に意見を請い、慎重に判断すべきだと思います。

スタートアップに関わる弁護士に求める素質やスキルなど、マインドセットについてはどのようにお考えでしょうか。

「絶対に起業家を応援する」という姿勢でしょうか。起業家とVCの思惑が相反するケースは往々にしてあると思うのですが、そのときであっても、圧倒的に起業家のサイドに立っていただける方は、非常に安心感があります。ただ一方で、起業家サイドに立ちすぎてしまっては危険です。起業家サイドではあるけれども、必要な場合には客観的な意見をハッキリと言ってくれる方でなければいけないと思います。

また、法律には、「ここまでは白、ここからここまではグレー、ここから黒」といった部分がありますので、ビジネスを理解したうえで、グレーや黒などの部分を本音で話してくれる方がいいと考えています。

matsuri technologies株式会社 CEO & Founder 吉田 圭汰氏

matsuri technologies株式会社 CEO & Founder 吉田 圭汰氏

民泊新法の施行と現実

2018年6月15日に民泊新法が施行されました。今回の制定の意義をどのように見られていますか。

民泊新法が施行される前は、基本的に「民泊」と呼ばれるものは、99.99%くらいが違法で、残りの0.01%も、法的にはかなりブラックに近いものだったと思います。これは、住宅とホテル・旅館の建付けの違いで、民泊新法ができるまでは、賃貸住宅の又貸しは認められていませんでしたし、仮に転貸承諾書や大家さんの許可を得ていたとしても、そこで宿を営むことは認められていませんでした。

このような中で、オリンピックを控え、政府は観光立国をうたい、「海外から4000万人の旅行客を」という目標を掲げました。現在、それに対応すべく数多くのホテルが建設ラッシュを迎えていますが、2016年以降人口が減っている日本で、今からホテルを建てる意味はあるのかと。それであれば、今余っている住宅が宿になるという規制緩和の形を模索してはどうかという考えのもと、制定されたのが民泊新法です。  

民泊を阻止したい旅館業側と、推進したい不動産業という推進派・反対派がある中での成立でしたから、やはり施行についても賛否両論があると思うのですが、吉田さんの視点で、良くなった点、改善すべき点はどう見られていますか。

良くなった点は、「民泊」というものがきちんと合法化されたということです。多くの事業者はほっとしているのではないでしょうか。ただ一方で、ほっとしたのも束の間、多くの事業者が廃業に追い込まれているという現実もあります。

多くの事業者が廃業せざるを得ない、その原因は何でしょうか。

一つの宿泊施設につき、1年で180日しか営業ができませんので、収益が見込めないということが、第一の理由です。また、合法化で銀行がお金を貸してくれるようになるかといえば、そうではありません。資金の工面ができず、収益も見込めなければ、事業は立ち行きません。

また、民泊新法上、「届出制」が採用されているのですが、地方自治体によって対応はさまざまで、もはや「許可制」なのではと感じてしまうことも多々あります。届出はしたものの、その届出がまったく通らないというケースも少なくありません。

そうなってしまっている理由は何だとお考えでしょうか。施行直後で各自治体の審査担当者自身が不慣れであったり、知見が少ないということもあると思いますが。

担当者に知見がないということもあると思います。ただ、そもそもの原因は、国交省や厚労省が作成したガイドラインが、各地方自治体の裁量を確保するために、緩く作られていたことにあるように感じます。そこで、地方自治体が独自の判断で上乗せの規制を定めてしまったのです。

自治体としては、今現在住んでいる人に税金を納めてもらっているので、納税者の既得権を守ろうとしている側面もあると思います。それに対して一定の理解はしますが、観光に訪れる人も、その自治体にお金を落としてくれるわけです。それを締め出すような対応をしてしまうのは問題だと感じます。

株式会社ドリームインキュベータ ビジネスプロデューサー 下平 将人氏

グレーゾーンへの挑み方

民泊もそうでしたが、法的にグレーで流動性が高い領域において、どのように情報収集しているのでしょうか。

業態にもよると思いますが、僕らのビジネス領域で言えば、まずは担当の官公庁に対してヒアリングを重ねていきます。気を付けなければいけないのは、大まかなルールの収集を終えたらそれで終わりなのではなく、実際に運用する際の細かいルールを定め、誰がそのルールを動かしていくのかを把握するということです。

民泊新法で言えば、法律やガイドラインについての国交省などの考え方を押さえるだけではダメで、実際に届け出る地方自治体に上乗せ条例があるのか、あるいは担当者がどのような視点を持っているのかを把握したうえで、その場所でビジネスを行うかどうかを判断しなければいけません。ある自治体は非常に厳しい担当者がいて届け出がまったく通らなかったけれども、担当者が異動したら通りやすくなり、その担当者が異動した先の自治体では通らなくなったといったことが、実際にあるのです。

では、グレーな領域に対する意思決定についてはどうお考えでしょうか。

まず「グレー」か「ブラック」かの明確な線引きを行うためにきちんと調査をします。情報を読む限り完全にブラックであれば「Go」は出しません。グレーゾーンに挑戦してアウトと指摘を受けるのと、最初からブラックであるとわかっていたうえで法を侵すのでは、今後のビジネスへの影響が様変わりしてしまいますので、その切り分けは重要だと考えています。正確な情報収集をしたうえで、意思決定については、それぞれの企業の裁量で、取りうるリスクを勘案しながら判断していけばいいと思いますが、僕にとってグレーゾーンは、意思決定上「Go」の領域です。Goして後々「アウト」だと指摘されれば罰金などを支払わなければいけないかもしれませんが、「ホワイト」と判断されればOKになりますから。もちろん、罰則の内容を確認しての判断にはなりますが。

また、「ホワイト」な領域の事業だけを選んでいても何億もの赤字を出す企業もあります。そういう意味では、「どれが正しいか」の経営判断は非常に難しいですし、もはや「勝った者のみぞ知る」という状況なのではないでしょうか。ただ、挑戦しただけの知見は「先行者利益」として事業者に培われます。その知見をいかに蓄積し、活かしていけるのかは、成功の一つのカギになると思います。

中原氏と下平氏の対談風景

法律の「壁」に果敢に挑む

起業家にとって、法律とはどのようなものでしょうか、また、法律と付き合う際のポイントについて、吉田さんはどうお考えでしょうか。

僕もそうですが、「雑」な起業家ほど、法律とよく向き合うべきだと考えています(笑)。着実に数字を積み重ねていくことは賢くないとできないと思います。法律は、アウトかどうかのわかりやすいラインを引いてくれていて、このラインが変わると自分のビジネスの可能性が180度変わることがあります。

法律は人の動きによって変わります。もちろん非常に高い壁ではありますが、その壁に挑み続ける「先行者」の役割というのは、非常に価値があると思っています。若ければ若いほど、やり直しはききますし、先は長いので、ぜひトライしてほしいです。

最後に、今後起業を目指す方々へメッセージをお願いします。

スタートアップは、もともと大きな法的リスクを背負って新しいものを作り出すという存在ですので、そのリスクを乗り越えない限り成功はありません。僕の挑戦した民泊の分野のように、法的リスクの大きい分野に挑戦する人は少ないですが、それゆえにレバレッジは高くなります。ぜひ若い人には、一緒に挑戦してくれる人、支えてくれる仲間を増やして、果敢に挑んでいっていただきたいと思います。

プロフィール

matsuri technologies株式会社 CEO & Founder
日本インバウンドビジネス協会理事
吉田 圭汰氏
matsuri technologiesのサービス開発全般ビジネスデベロップメントを担当。中学生の頃から複数事業を営み、高校進学時にはHP作成の受託を経験。その後早稲田大学に進学し在学中にソフトウェア開発のスタートアップであるSPWTECHを創業。女性向けキュレーションサービスをKDDI∞LABOにて開発し、売却。その後複数事業を立ち上げ黒字化させながら現在の注力分野である民泊分野で国内登録数No.1の民泊運営管理システム「m2m Systems」を立ち上げる。同事業のシステム部分を核にスピンアウトしたmatsuri technologiesを創業。創業から半年で0-1の事業を単月黒字化及び新規事業の展開を行う。

株式会社ドリームインキュベータ
ビジネスプロデューサー
下平 将人氏
一橋大学法学部、慶應義塾大学法科大学院卒業。東京弁護士会所属弁護士。法律事務所、LINE株式会社の社内弁護士(リーガルカウンセル)、AI関連の新規事業開発を経て、DIに参画。DIでは、ベンチャー投資、投資先の経営支援に取り組み、投資先企業の社外取締役を務める。Arts and Lawに所属しクリエーターの無料法律相談を担当。

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